第3章 既往研究のレビューとリサーチクエスチョン
3.4 既往研究レビューのまとめと研究モデル
3.4.1 既往研究の課題とリサーチクエスチョン
ここでは、これまでのレビューをまとめて既往研究の課題を整理し、本研究のリサー チクエスチョンを提示する。また今後の研究発展を見据え、本研究後のおもな研究課題 についても述べる。
(1)観光まちづくりにおけるリーダーのリーダーシップ
観光地におけるリーダーに関する既往研究においては、各地域の事例分析によってリ ーダーの特性や求められるふるまいが整理されている。それらを参考にすると、観光地 におけるリーダーの特性として、「地域に対する誇りや情熱」「地方と都会を比較する視 点」が挙げられる。中でも複数の既往研究で指摘されていたのは、「地域に対する情熱」
(Long and Nuckolls, 1994;山口,2008)である。「情熱」については、観光産業にお けるリーダーに関する既往研究においても、その重要性が指摘されている(Weber and
Ladkin, 2012)。また求められるふるまいとして、「地域資源を把握し、それを活用する」
(山口,2008)、「戦略の提示」(捧,2011;竹田・小長谷,2010;小長谷・竹田,2011)、
「他者を動機づける」(Long and Nuckolls, 1994)が挙げられる。
しかしながら、これらの知見はある特定の地域に関する事例分析や、それらの事例を まとめて分析した文献研究に基づいており、観光地におけるリーダーの特性や求められ るふるまいとして一般化して捉えるには十分ではない。また、観光客集客のみならず、
住民の暮らしの改善も図る観光まちづくりの観点においては、リーダーの特性や求めら れるふるまいがどのようなものか、検討している研究は見当たらない。観光地あるいは 観光まちづくりにおけるリーダーに関し、特性や求められるふるまい、すなわちリーダ ーシップはどのようなものか、さらなる検討が必要である。
一方で、リーダーシップ研究は3.2のように多くの蓄積があり、さまざまな理論が構 築されてきた。その中でも変革型リーダーシップ理論は最も研究されてきた理論であり
(Mhatre and Riggio, 2014)、近年のリーダーシップ研究においても引き続き関心が払 われている。しかしながら、変革型リーダーシップ理論が研究対象としてきたリーダー は、ガンジーやジョン・F・ケネディといった著名な思想家あるいは政治家、軍隊の司令
官、企業のリーダーなどであり、観光地やまちづくりにおけるリーダーについては十分 な検討がなされていない。2.4で述べた通り、観光まちづくりではマネジメントやマー ケティングの必要性が指摘されており、地域全体を変革に導くリーダーが求められてい る。したがって、変革型リーダーシップ理論の視点から、観光まちづくりにおけるリー ダーのリーダーシップについて検討する必要性を指摘できる。
以上から、本研究における1つ目のリサーチクエスチョンとして以下を設定した。
【RQ①】観光まちづくりにおけるリーダーのリーダーシップはどのようなものか
(2)観光まちづくりにおけるリーダーの発達プロセス
観光まちづくりにおけるリーダー人材を育成する上で、リーダーシップの次に必要と なる知見が、「どのようなプロセスでリーダーになっていくのか」ということである。し かしながら、観光地におけるリーダーがどのようにして発達したかを明らかにしている ものは、国内外を含めてほとんど見られない。数少ない関連研究として、観光地におけ る住民リーダーの個人史を取り上げた岩松・岩井(2001)の研究がある。しかしこの研 究は、京都府美山町という一事例に限ったものである。観光地あるいは観光まちづくり におけるリーダーはどのようなプロセスで発達したのか、研究の蓄積は十分ではなく、
さらなる実証研究が求められる。
以上から、本研究における2つ目のリサーチクエスチョンとして以下を設定した。
【RQ②】観光まちづくりにおけるリーダーは、どのようなプロセスで発達するのか
(3) 観光まちづくりにおけるリーダーの発達影響要因
RQ②にアプローチすることによって、観光まちづくりにおけるリーダーの発達プロセ スが明らかになるが、そのプロセスにおいてどのような要因が発達を促進するのだろう か。観光地におけるリーダーに関する既往研究には、このような観点の研究は見当たら ない。一方で、米国のビジネス・リーダーをおもな対象としたリーダー発達に関する研 究は多く存在する。そこから抽出される発達に影響を与える要因は、あらゆるものに興
味を持ち、貪欲に学ぶという「積極的に学ぶ姿勢」(Bennis,2003)、新しいことに挑む
「リスクを冒す勇気」(McCall,1998;Bennis,2003)、失敗や逆境、上司など他の人と のつながりといった「経験から学ぶこと」(McCall,1998;McCauley・Moxley・Velsor,
1998;Bennis,2003;古野・リクルートワークス研究所編,2008)である。これらは観 光まちづくりにおけるリーダーの発達においても、同様に重要であろうか。これらの要 因が観光まちづくりにおけるリーダーの発達においても観測されるのか、他にはどのよ うな要因があるのか、実証する必要がある。
以上から、本研究における3つ目のリサーチクエスチョンとして以下を設定した。
【RQ③】観光まちづくりにおけるリーダーの発達には、どのような要因が影響するのか
(4)本研究後のおもな研究課題
近年の変革型リーダーシップ理論に関する研究においては、リーダーシップと成果と の関係、その影響プロセスが議論されてきている。しかしながら、観光地におけるリー ダーあるいはリーダーシップについての研究では、こういったアプローチは欠落してお り、観光まちづくり分野についても同様である。したがって、この観点からの研究が今 後必要である。
しかしこの観点の研究は、影響プロセスとしてどのような媒介変数があり、かつ個人 レベル・集団(まち)レベルでどのような成果が生まれるのか(従属変数の検討)、など 検討しなければならない事柄が非常に多い。観光まちづくりにおけるリーダーの発達を 中心テーマとする本研究で取り扱うには、範囲が広過ぎると考えられる。したがって、
この観点についての研究は本研究後の課題とし、稿をあらためて議論していきたい。
なお、近年の変革型リーダーシップ研究では、変革型リーダーシップと成果との関係 において、LMX(Leader-Member eXchange)が最も中心的な媒介変数であることが指摘さ れている(Ng,2017)。2.4.2で述べた通り、観光まちづくりには観光関連事業者や他 産業関係者、行政や一般市民など、多様な主体が関わる。観光客集客のみならず、一般 市民の暮らしの改善や地域愛着醸成を目指す観光まちづくりのリーダーは、これらの多 様なメンバーを巻き込む必要があり、そのためには彼らとどのような関係を築くかが重
要である。したがって観光まちづくりにおいても、リーダーとメンバーの関係、すなわ ち LMX が成果に及ぼす影響に注視する必要がある。それがどのようにメンバー(フォロ ワー)の満足につながり、まちが変化するのか、実証研究が期待される。今後の研究を 見据えて、これらの点は次項で後述する図 3.1の仮説モデルにも盛り込んでおく。