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第4章 別府ハットウ・オンパクのリーダーの発達

4.2 オンパクの概要

4.2.3 オンパクの課題

点である(大澤,2017:9-10)。民間・住民主導で地域資源を発掘・活用し、それを市場 と向き合って磨き上げて商品・サービスへと昇華させていくプロセスは、イノベーショ ンであるといえる。このイノベーションを起こす仕掛けとして、大澤(2017:11)は「分 野横断的な横のネットワーク」を挙げている。

イノベーションには異なった知識の交流が必要であり、知識は文書化やデータ化が困 難な「文脈」依存的なものであるため、時間や場所を実際に共有しなければ効果的に交 ぜることができない(大澤,2017:31)。そのため地域でイノベーションを起こすには、

多様な人々が分野を越えて時間や場所を実際に共有する機会が必要である。オンパクに は図 4.1の通り、多様な人々が関わっている。そのため、ゲストとパートナーの交流 はもちろんのこと、パートナーのチャレンジを会場提供などで支えるサポーターや協賛 金を出すスポンサー、ガイドブックを置く協力企業、事務局などがオンパクのネットワ ークにおいて交流する。しかも彼らは「民間・住民主導」で述べた通り、行政等の指示 でオンパクに関わっているのではなく、個々が主体性を持って参画している。すなわち 地域内において、分野を越えた多様な知識の交流が積極的になされる。

オンパクという協働事業を通じて、地域でイノベーションを起こすための「分野横断 的な横のネットワーク」が構築されることは、オンパク以外の方法で観光振興を図る際 のプラットフォームにもなるという点で、重要な貢献であろう。また、このようなネッ トワークは観光振興に限ったことのみならず、地域の他の社会課題を解決していくこと にも活用可能であり、観光まちづくりのもう 1 つの側面である「住民の暮らしのための 改善を求めるまちづくり」にも寄与すると考えられる。

する。

(1)持続性

大澤(2017:49)によれば、オンパクに取り組む多くの地域では、オンパクを持続さ せることに多くの困難を抱えている。前述の通り、2016年9月29日時点までで日本全国 において66のオンパク事業が開催されたが、これは開催実績であり、現在はオンパクを 実施していない地域もある。オンパクの次のステップを積極的に模索して、そちらに労 力をかけるために実施しなくなったことも考えられるが、やむを得ずオンパク中止に至 った地域もあるだろう。持続困難で実施を断念せざるを得なくなる理由として、どのよ うなことが考えられるだろうか。

継続開催を断念せざるを得なくなる理由の 1 つとしては、開催のための予算確保の難 しさが挙げられる。野上(2014:36)は財団法人日本交通公社の観光実践講座において、

「オンパクという事業は、基本的には黒字にならない」と述べている。すなわち、黒字 からの次年度予算への充当はほとんど見込めない。その結果、パートナーの参加費や広 告費、企業・団体からの協賛金・広告費を集めることに、開催事務局は毎年奔走しなけ ればならない。事業実施費を上記の形で何とか集めることができたとしても、事業をコ ーディネートする事務局スタッフの人件費捻出確保はできない場合がある(野上,2014:

36)。これではオンパクを持続させるのは難しく、何らかの収益事業が別に必要であろう。

これに対して例えば第5章で取り上げた D 地域では、オンパクを残しながらも、オンパ クの次のステップとして収益を上げながらまちを変えていく不動産活用にリーダーの H 氏は着手していく(詳細は5.2.1参照)。D 地域のような事例はあれど、多くのオンパ ク導入地域あるいは導入しようとする地域では、オンパクをいかに持続させるか、持続 させるための収益構造をいかに構築するかが課題となっていると考えられる。

オンパクを持続させることの難しさのもう 1 つの理由として、地域関係者の間でオン パクに対する理解にすれ違いが生じる点が挙げられる。例えば前述のD地域では、H氏は オンパク本来の「近隣や地元客を対象とし、地域における起業や新商品開発を促して地 域社会の活力を生み出す取り組み」という理解でオンパクを実施しようとしていたが、

商店街関係者はオンパクを「人が来てお金が落ちるイベント」とイメージしており、考 え方に食い違いが生じた。このような食い違いは、おそらく多くの地域で起こり得るで

あろう。特に観光関連事業者や商店街関係者は、D地域の商店街関係者のようなイメージ でオンパクに即時的な集客効果を期待する可能性が高い。導入時はもちろんのこと、継 続しながらオンパクを拡大し、それに伴って多様な関係者が増えていく際には、オンパ クの目的と機能を関係者間で理解・共有し、誤解から生じるすれ違いを防止することが 重要な課題であると考えられる。なおD地域では結局、H氏ら若手がガイドブックのよう な目に見える形までオンパクの企画を作り、それを周囲に見せることによってオンパク への理解を得た。

(2)革新性

次に、「革新性」について考察する。大澤(2017:48)は、「他所では真似できないよ うな固有の地域資源を出発点として(地域資源の活用)、自分たち固有の活性化策を探し ていくこと(イノベーション)が地域活性化の要件となっている」とし、オンパクがこ のようなイノベーション環境を作る上で有効であると主張している。具体的には、前述 した 4 つのオンパクの特徴(①地域資源の活用、②市場志向、③民間・住民主導、④分 野横断的な横のネットワーク)が、イノベーションを起こすということである。これは、

どこの観光地も同じようなものになってしまう「誘致型・模倣型」の観光振興方法91とは 全く異なるため、激しい地域間競争においても競争優位を獲得する可能性が高まるので ある。すなわち、各地域がイノベーションを起こして競争優位を獲得し続けるためには、

オンパクの4つの特徴を確保し続けなければならない。

この「革新性」を確保し続ける上で課題になるのが、「持続性」でも述べた「予算確保 の難しさ」と「オンパクに対する誤解」である。イノベーションを起こす、しかもそれ を継続しようとすればやはり相応に費用がかかり、民間のみで十分な資金を用意するこ とは困難かもしれない。また、「オンパクでイノベーションを起こす」と地域で標榜した 際に、地域関係者の中には前述のような即時的な集客効果、それに伴う経済効果を安易 に期待する可能性がある。オンパクは単なる集客イベントではなく、地域内に協働のネ ットワークを作ることや、地域の事業者や住民が新たなサービスや商品を生み出すこと を支援するインキュベーション機能である(大社,2013:102)。すなわちオンパクは収 益を上げることが目的ではなく、地域の事業や住民にチャレンジの機会を与える場であ

91 大澤(2017:5)は、1960年代~1980年代に日本の観光地で行われた観光施設やイベントを外部から誘致し たり、模倣したりといった観光振興を、「誘致型・模倣型」の観光振興方法としている。

る。オンパクが持つ「革新性」の意味を関係者間で共有しておかなければ、イノベーシ ョンを生み出す分野横断的なネットワークを崩してしまう恐れがあるだろう。以上の通 り、オンパクの「持続性」と「革新性」、双方において「予算確保の難しさ」と「オンパ クに対する誤解」は大きな課題であろう。

(3)革新性と持続性のバランス

最後に、「革新性と持続性のバランス」について考察する。大澤(2017:48)は、「革 新性」と「持続性」はしばしばトレードオフの関係92にあると述べている。仮にオンパク を持続的に開催していくことができた場合、毎回目新しさや独自性を失わずにどれほど

「革新性」を確保できるか、課題になるだろう。一方で「革新性」を強調しすぎると、

それに比例して費用が大きくなることや、地域関係者の過大な期待あるいは誤解が生じ、

持続的な開催が難しくなるだろう。「革新性」と「持続性」の関係性を理解し、これらの バランスを取らなければ、オンパクが地域にもたらすインパクトを継続することはでき ないのである。

では、具体的にどうすれば良いのか。野上(2014:36)は財団法人日本交通公社の「平 成 25 年度観光実践講座」で、「私はオンパクは公共投資、社会的インフラへの投資だと 考えています。インフラというのは、水道管とか道路を指すのではなく、人と人との関 係という意味です」と述べ、公共政策としてのオンパクの可能性を述べている。確かに 公共政策として行政が継続的に投資すれば、「持続性」が確保される。しかしこの場合、

「革新性と持続性のバランス」の観点から、注意しなければならないことがある。それ は、公共投資を通じて行政の関与が強くなることにより、オンパクで提供されるコンテ ンツ等の新鮮さが失われる危険性、すなわち「革新性」の低下が危惧されるということ である93。「革新性」が低くなれば、オンパクが地域にもたらすインパクトは低下するで あろう。

(4)オンパクを地域活性に向けて有効に機能させるために

以上の考察を踏まえると、オンパクを地域活性に向けて有効に機能させる方策は、次 の通りである。「持続性」を確保するために補助金など行政の支援を得ながらも、「革新

92 一方を採用すれば、もう一方が犠牲になるという二律背反の状況

93 大澤(2017:48-49)は、行政機構は本来的に「非市場志向」で「ルーティン中心=反イノベーション」であ るとし、行政が運営主体になれば「持続性」は確保されるが、「革新性」をいかに維持するかが課題になるとして いる。