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第3章 既往研究のレビューとリサーチクエスチョン

3.2 リーダーシップ研究

3.2.2 変革型リーダーシップ理論

変革型リーダーシップ理論は、すべてのリーダーシップ理論の中で最も研究されてき た(Mhatre and Riggio, 2014)。そのため蓄積されてきた知見は多く、観光まちづくり におけるリーダーの実態を理解することにも役立つと考えられる。したがって本研究は、

変革型リーダーシップ理論を援用することにより、観光まちづくりにおけるリーダーの リーダーシップはどのようなものか、検討していく。そのために、変革型リーダーシッ プに関する研究をさらに概観する。

(1)変革型リーダーシップと交換型リーダーシップ

表 3.1の通り、Bass and Avolio(1995, 2000, 2004)は変革型リーダーシップと交換 型リーダーシップからなるアプローチを、「フルレンジ・リーダーシップ(Full Range

Leadership)」として体系化した。変革型リーダーシップは、リーダーがフォロワーの意

識を変えるプロセスであり、リーダーは期待通りのパフォーマンスを達成するのみなら ず、個人やグループ、組織全体の発展と革新を最大限に行おうとする。また変革型のリ ーダーは、フォロワーのポテンシャルを高めるだけでなく、道徳や倫理といった価値観 も高めようとする(Bass and Avolio,1995, 2000, 2004:103-104)。具体的に「理想的 な属性」「理想的な行動」の得点が高いリーダーは、称賛され、尊敬され、信頼される。

フォロワーはリーダーに対して一体感を感じ、彼らを模倣しようとする。「鼓舞する動機 づけ」の得点が高いリーダーは、フォロワーの仕事に意味と課題を与えて動機づける。「知 的刺激」の得点が高いリーダーは、フォロワーの気づきや新たな取り組みを促すことに より、フォロワーの革新的かつ創造的な努力を刺激する。「個別的配慮」の得点が高いリ ーダーは、コーチやメンターとして行動することによって、各個人の達成欲求や成長欲 求に注意を払う。

交換型リーダーシップは、建設的および是正的な関わりと関連した行動を示す(Bass and Avolio,1995, 2000, 2004:104-105)。建設的な行動は「条件付き報酬」と呼ばれ、

是正的な行動は「例外による管理(能動的)」と呼ばれる。交換型リーダーシップは、期 待を明確に定め、これらのレベルを達成するための実行を促進する。「条件付き報酬」と

「例外による管理(能動的)」は、組織の管理機能と関連する2つの中核的な行動である。

「条件付き報酬」のリーダーシップは、期待を明確にし、目標が達成されたときに承認 するというものである。「例外による管理(能動的)」のリーダーシップは、コンプライ アンスに関する基準を明らかにし、フォロワーがそれらの基準に達していない場合は処 罰するというものである。

受動的・回避的行動は、フォロワーにネガティブな影響を与える(Bass and Avolio,

1995, 2000, 2004:105)。「例外による管理(受動的)」は、状況や問題に系統的に対応 しない。受動的なリーダーは、期待の明確化や、フォロワーが達成すべき目標や基準の 提示を避ける。これは、「自由放任主義」あるいは「リーダーシップなし」と類似する。

フルレンジ・リーダーシップは、さまざまな研究者によって実証研究が積み重ねられ てきた。Bass(1985)は、変革型リーダーシップと交換型リーダーシップが、フォロワ ーの満足や組織の目標達成への効果とどのように関連するか調査した。その結果、両リ ーダーシップはフォロワーの満足や組織の目標達成への効果と正の関連があることが明 らかとなり、特に変革型リーダーシップの方がその関連性は高いことが明らかとなった

(Bass,1985:218-219)。

また、Lowe, Kroeck, and Sivasubramaniam(1996)はMLQ を用いた39の研究成果に 対してメタ分析を行い、変革型リーダーシップと交換型リーダーシップがリーダーの有 効性とどのように関連しているかを分析した。その結果、Bass(1985)と同様に、変革 型リーダーシップの方が交換型リーダーシップよりも高い有効性を示すことが明らかに なった(Lowe, Kroeck, and Sivasubramaniam,1996:399)。

さらに、Judge and Piccolo(2004)は 87 の研究をデータベースに、メタ分析を用い て変革型リーダーシップと交換型リーダーシップの妥当性を確認し、「フォロワーの職務 満足」「フォロワーのリーダーに対する満足」「フォロワーの動機」「リーダーのパフォー マンス」「集団もしくは組織のパフォーマンス」「リーダーの有効性」との関連性を検証 した。変革型リーダーシップは、「フォロワーの職務満足」「フォロワーのリーダーに対 する満足」「フォロワーの動機」「集団もしくは組織のパフォーマンス」「リーダーの有効 性」と、正の相関が確認された(Judge and Piccolo,2004:759-760)。また、交換型リ ーダーシップの「条件付き報酬」は、「フォロワーの職務満足」「フォロワーのリーダー に対する満足」「フォロワーの動機」「リーダーのパフォーマンス」「リーダーの有効性」

と正の相関が見られた(Judge and Piccolo,2004:759-760)。また、交換型リーダーシ ップの「例外による管理(能動的)」は、「フォロワーの動機」と「リーダーのパフォー マンス」に弱い正の相関が見られた(Judge and Piccolo,2004:760)。一方で受動的・

回避的行動の「自由放任主義」は、「フォロワーの職務満足」「フォロワーのリーダーに 対する満足」「リーダーの有効性」と負の相関が確認された(Judge and Piccolo,2004:

760-761)。また「例外による管理(受動的)」は、「フォロワーの動機」「集団もしくは組 織のパフォーマンス」「リーダーの有効性」と弱い負の相関が見られた(Judge and Piccolo,

2004:760-761)。

Judge and Piccolo(2004)の研究から、変革型リーダーシップはパフォーマンス全般 と正の関係にあり、特にフォロワーの意識に正の影響をもたらすことが明らかになった。

その一方で、受動的・回避的行動の「自由放任主義」と「例外による管理(受動的)」は、

パフォーマンス全般と負の関係にあるということが明らかになった。

その後Bass and Riggio(2006)は、変革型リーダーシップに関する理論や研究をレビ

ューした。そしてすべてのリーダーは、変革型リーダーシップ、交換型リーダーシップ、

受動的・回避的行動をそれぞれある程度示すと述べ、最適なリーダーシップは変革型リ ーダーシップを最も高頻度に示し、かつ交換型リーダーシップも高頻度に示すことであ るとした(Bass and Riggio,2006:9)。一方で、有効ではないリーダーは変革型リーダ ーシップをほとんど示さず、「自由放任主義」を高頻度で示し、非活動的な傾向があると 述べている(Bass and Riggio,2006:9)。またBass and Riggio(2006:10)は、変革 型リーダーシップに関するさまざまな研究成果から、次のような階層が提示されるとし た。変革型リーダーシップが最上位にあり、続いて「条件付き報酬」、その次に能動的・

受動的「例外による管理」が続く。そして、一般的に効果がないとされているリーダー シップとして「自由放任主義」が最下位に位置する、という階層である(Bass and Riggio,

2006:10)。

以上の研究成果を整理すると、変革型リーダーシップと交換型リーダーシップの得点 が高いほど、フォロワーに対して効果的なリーダーシップとなりえる。特に、変革型リ ーダーシップの有効性が明らかにされている。一方、受動的・回避的行動の得点が高い ほど、フォロワーのパフォーマンスは低下する可能性が高い。

有効性の高さから、その後の研究の多くは変革型リーダーシップを中心に進められて きている。例えばWang, Oh, and Colbert(2011)は、変革型リーダーシップは個人・チ ーム・組織レベルのパフォーマンスに正の相関があることを見出した。彼らは、変革型 リーダーシップは個人レベルの実績とチームレベルの実績を予測する上で、交換型リー ダーシップよりも大きな効果があるとした。また、Purvanova, Bono, and Dzieweczynski

(2006)は、従業員の態度や職務成績に及ぼす影響に加えて、変革型リーダーシップは フォロワーが自分の職務の範囲外の仕事をするといった組織市民行動を促すとした。

このように、変革型リーダーシップとフォロワーあるいは組織の成果との関係が研究 されてきた一方で Yukl(2006:272)は、変革型およびカリスマ的リーダーシップの大部 分の理論は、その根底にある影響プロセスが十分に明らかにされていないと指摘した。

その後、影響プロセスを明らかにする研究がなされている。

(2)変革型リーダーシップの成果への影響プロセス

Piccolo and Colquitt(2006)は、変革型リーダーシップと職務実績・組織市民行動 との関係について、フォロワーが捉える職務特性の役割を研究した。Piccolo and Colquitt(2006:328-331)は、変革型リーダーシップはフォロワーが捉える職務特性に 影響し、そこから内発的動機づけと目標コミットメントが喚起され、職務実績と組織市 民行動に影響を及ぼすというモデルを提示し、それを検証した。その結果、目標コミッ トメントが組織市民行動に影響を及ぼすというパスを除き、他のパスは有意性が確認さ れた(Piccolo and Colquitt, 2006:334)。また、リーダーとフォロワーの間でLMXが高 い場合、変革型リーダーシップと他の変数との関係はいずれも強かった。すなわち、変 革型リーダーシップとパフォーマンスとの関係に、LMXの介在が指摘された(Piccolo and Colquitt, 2006:336)。

Cho and Dansereau(2010)は、変革的リーダーシップと個人レベルおよび集団レベル の組織市民行動(Organizational Citizenship Behavior)との関係について、その基礎 となる心理的プロセスを検討した。彼らは、変革型リーダーシップのプロセスにおける 潜在的な媒介変数として、フォロワーの個人レベル・集団レベルの公正知覚に焦点を当 てた。具体的には、次の通りである。個人レベルでは、リーダーの個別的配慮が対人関 係の公正さを通じて、リーダー指向の組織市民行動に関連するという仮説を立てた(Cho and Dansereau, 2010:411)。集団レベルでは、リーダーのカリスマが手続き的公正風土 を通じて、集団指向の組織市民行動に関連するという仮説を立てた(Cho and Dansereau,

2010:412)。これらの仮説は、韓国における大規模多国籍銀行の25支店の従業員 159人

(40人の監督者とその直属の従業員)を対象に検証され、支持された(Cho and Dansereau,

2010:417)。すなわち、個人レベルおよび集団レベルの公正知覚が、変革的リーダーシッ