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設計対象物の性能リスク

ドキュメント内 製品開発における設計負荷とその低減 (ページ 94-99)

第 3 章 設計プロセスにおける状況認識と不確実性の源泉

3.5 設計対象物の性能リスク

の変更は逆に、製品性能の不確実性、並びにスケジュールの不確実性によって影響を受け る。これらも全て正の因果効果である。

viii)  設計知の不十分な活用

  設計知の不十分な活用は、設計開発コストの不確実性に大きな影響を与える因子の一つ である。設計知の不十分な活用が低減するなら、すなわち設計知の再利用を含めた活用が 増加するなら、設計開発コストの不確実性は低減する。つまり設計知の不十分な活用から 設計開発コストの不確実性への因果効果は正に働く。

ix)  不知の不知

  スケジュールの不確実性で議論した因子と同等である。不知の不知が減少すれば、設計 開発コストの不確実性が減る方向に働くので、不知の不知から設計開発コストの不確実性 への因果の効果は正である。

x)  不確実性を低減させる活動

  設計開発コストの不確実性に対する管理上の重要な施策は、本章のスケジュールの不確 実性で述べた活動と同等である。つまり計画策定である。この計画策定には、設計開発コ ストに対するリスクの調査と確認、評価と分析、処理手段の選択が含まれる。そして次に 処理手段が実行される。

尚、不確実性を低減させる活動が行われれば、不確実性は低減するので、不確実性を低 減させる活動から設計開発コストの不確実性への因果効果は負に働く。

どうかという不確実性と、その設計解を導出できない場合の経済的損失量を意味する。

  この製品性能を構成する属性は多い。機能、能力、信頼性、価格、販売される時期、仕 様の準拠性、耐久性、利便性、審美性、品質、大きさ、重量、速度、その他数多くの特性 が考えられる。性能リスクはこういった属性とその相対的な重み付けによって算出可能で ある。

  設計プロセスをこの製品性能という一つの視点から検討するなら、それは性能リスクを 受容レベルまで低減させる設計行為と言える。

3.5.2 製品性能の不確実性の因果関係 

  本項では製品性能の不確実性の因果関係を探求する。図3.10にその因果連鎖ダイアグラ ムを示す。そしてこの図の中で示されている因子と因果効果についてそれぞれ述べる。

設計の評価 設計の活動量 −

製品性能の不確実性

図3.10  製品性能の不確実性の因果連鎖ダイアグラム

要求仕様の品質 新考案の度合い

設計開発コストの不確実性

不確実性を低減させる活動 不知の不知 設計知の不十分な活用 コミュニケーションの品質

概念設計の品質

スケジュールの不確実性 モジュール化

モデルの確認、設計検証、テスト

時間のゆとり 設計の再確認

想定外のイタレーションの回転の数 想定内のイタレーションの回転の数

製品の規模 と複雑性

挑戦意欲

i)  設計の活動量

  本項における設計の活動とは、図面やプログラムの作業、意思決定、評価、分析等設計 に関わる活動である。設計の活動量とはその活動に費やす人材の数と時間を含む。この活 動行為によって設計情報が創出される。そしてその設計情報を別の活動行為が受け取り、

更に新たな設計情報を創出する。この一連の流れが設計プロセスであり、この設計プロセ スを経て最終的に設計解が導出される。

この様な設計情報の受け渡しは、手戻り修正の必要性から逆方向に進むことがある。手 戻り修正は前述の通り製品性能の不確実性を減少させる行為であり、設計目標を実現させ る設計活動だからである。もしここで設計プロセスが大規模化し複雑化するなら、情報の 受け渡し量は大きくなり、受け渡し経路も複雑化する。つまり設計の活動量が増えること で、イタレーションが増える可能性がある。しかし一方、長所もある。手戻り修正という 設計活動は予め設定していた仕様に近づけるための行為を含んでおり、製品性能実現の不 確実性を減少させることが可能だからである。従って、設計の活動量から製品性能への因 果効果は負に働く。

  以上の通り設計の活動量が及ぼす影響について議論した。次に、逆に設計の活動量に影 響を及ぼす因子について言及する。その因子は設計情報の受け渡し、すなわちイタレーシ ョンである。このイタレーションが大きくなれば、設計の活動量は増加する。つまりイタ レーションの回転の数から設計の活動量への因果の効果は正に働く。尚、ダイアグラムで は3.3節で分類した通り、想定内のイタレーションと想定外のイタレーションに二分化して いる。

ii)  設計の評価

  本項における設計の評価とは、設計解の導出の後に実行する解析、テストである。設計 解は、図面、プログラム、試作モデルといった設計成果物である。この評価では設計成果 物が実際に仕様に準拠しているのかどうか、効能があるのかどうかといった作業が行われ る。この様に設計の評価が進めば、製品性能の不確実性は明らかに減少するので、因果効 果は負となる。

  次に設計の評価に影響を及ぼす因子について述べる。具体的には設計の評価の質並びに 量という変数を従属させる因子である。

・設計の再確認

  設計の再確認とは、設計解を導出していながらも、すぐに設計の評価を実行せずに、

設計解の再確認を行うことである。確認作業としては、設計手順通り適切に実行されて いるのか、規定通り過不足なく設計解が導出されているのか、仕様通りの設計解が導出 されているのかが含まれる。従って、再確認作業によって設計の評価の質を向上させる

ことができる。

  再確認作業は実行すればするほど、設計解に潜む問題点や誤りを発見することができ るので、設計成果物の品質を高められる。しかし反面、実行作業の時間が要するので、

設計プロセスの効率は低くなる。つまりこれは再確認作業の時間と、その時間で発見で きる問題点と誤りの数の効用問題である。求める再確認の作業時間は、その効用を最大 にする時間量である。

・概念設計の品質

  設計プロセスでは概念設計、実体設計、そして詳細設計という流れで設計解を導出す る。設計解に近づく程、実体概念に近づくので、概念設計で検討される設計情報は逆に 抽象概念に近い。設計作業はこの概念設計から出発するので、この概念設計の品質によ っては、設計の評価の質は左右される。

  概念設計は機能展開、手順、あるいはアルゴリズムの検討から始まる。つまりシステ ム思考が求められる設計段階である。この概念設計の品質に影響を及ぼす因子がある。

それはまず設計対象物である製品の規模と複雑性である。規模と複雑性が大きくなれば 概念設計の品質は低減する方向に力が働く。次に新考案の度合いである。これは新しく 考案された製品あるいは新しい機能が盛り込まれているかの度合いである。この場合、

徹底した品質保証がされているとは限らないので、概念設計の品質に影響を与える可能 性がある。そして要求仕様の品質も概念設計の品質に影響を及ぼす。要求仕様が不明瞭 である、あるいは規定されるべき値が決定していない状況であれば、高い品質の概念設 計を構築できないからである。

・モデルの確認、設計検証、テスト

  設計解を評価するということは、まず利用するモデルが正当性を持っているという条 件のもと、設計成果物の検証とテストを実行することである。例えば、チェックリスト との照合、シミュレーションによる検証、試作モデルを構築してテスト、故障モードを 設定した検証等が含まれる。

  こういった作業は、経験、ノウハウ、設備、その他経営資源に依存しており、作業品 質にばらつきが伴う。つまり、モデルの確認、設計検証、テストの質並びに量を高める ことができるならば、設計評価の質と量を同様に高めることができる。

・コミュニケーションの品質

コミュニケーションの品質とは、コミュニケーションの最適性の度合いである。最適 なコミュニケーションとは、受け渡しする情報が適切であること、その情報の受け渡し する時期が適切であること、そしてその情報を受け渡しする場所が適切であることを包

含する。こういった最適なコミュニケーションの品質が達成できるなら、設計評価の質 量とも向上できる。つまり、コミュニケーションの品質から設計評価への因果効果は正 に働く。

iii)  製品の規模と複雑性

  製品性能の不確実性は、設計対象物の規模と複雑性が大きくなるにつれて増加する。製 品を構成している部品の数、並びに部品間のインタフェースが増加するので、製品性能全 体を確実に測定することが難しくなるからである。この規模と複雑性を過小評価してしま うと、不確実性のレベルは予想以上に増加してしまう。想定していたレベル以上の不確実 性を招来するからである。従って、規模と複雑性は計画策定をする上で重要な項目の一つ である。過去のプロジェクトと対比する等して定量的数値を準備する。そして適切な評価 を実行することが一つの施策である。

  次に製品の規模と複雑性に影響を及ぼす因子について述べる。それは挑戦意欲とモジュ ール性である。

・挑戦意欲

  挑戦意欲とは自分で現在克服できる課題よりも、少し難しい課題に積極的に挑戦しよ うとする気持ちである。設計対象物の規模や複雑性が大きくなったとしても、この意欲 の高まりがあるなら対処することは可能になる。従って挑戦意欲から製品の規模と複雑 性への因果の効果は正に働く。またその効果は逆にも働く。つまり、製品の規模と複雑 性から挑戦意欲への因果の効果は正に働く。規模と複雑性は、挑戦意欲をかき立てる因 子となりえるからである。

  挑戦意欲をかき立てる因子は他にもある。それは新規性、すなわち新考案の度合いで ある。この場合何人もたどり着いたことがない目標を達成した時の達成感、困難を克服 した時の充実感が得られる可能性がある。従って、新考案の度合いから挑戦意欲に対す る因果の効果も正に働くことになる。

・モジュール化

近年の経済学・経営学研究においてモジュール化の議論が注目されるきっかけとなっ たのは、Clark & Baldwin (2004)である。しかし考え方そのものの歴史は古い。青木・安藤 (2002)のモジュール概念の定義によれば、「反自律的なサブシステムであって、他の同様 なサブシステムと一定のルールに基づいて互いに連結することにより、より複雑なシス テムまたはプロセスを構成するもの」である。そしてモジュール化とは「一つの複雑な システムまたはプロセスを一定の連結ルールに基づいて、独立に設計されうる半自律的 なサブシステムに分解すること」である。

ドキュメント内 製品開発における設計負荷とその低減 (ページ 94-99)