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価値モデルの提案

ドキュメント内 製品開発における設計負荷とその低減 (ページ 160-166)

第 6 章 無駄な工程・過剰機能・過剰品質と価値のダイナミック・モデル

6.4 価値モデルの提案

6.4.1 製品価値と価値形成 

リーン思考の出発点は価値である。製品価値はメーカが造るものであるが、価値は顧客 によって評価されるものである(Browning et al., 2002)。価値は顧客との対話を通じて解釈し 検討をしなければならない。この論点は顧客視点の価値の重要性を指摘するものである。

実際、多くの企業は価値の測定を多属性価値の評価手法を使っている。

製品価値の関係式については、現在まで研究者によって幾多も提案されてきた。そこで 価値の定義に関する議論を概観する。

価値工学では機能に着目して価値分析を行い、設計開発工程に遡った機能改善を行う。

一般的な価値工学(Miles, 1981)によれば、Vを価値(Value)、Fを機能(Function)、Cをコスト (Cost)とした以下の関係式が定義されている。

C

V= F (6.1)

Johnasson et al. (1993) が提案する価値は以下の関係式で示される(Johnasson et al., 1993)。

LT SP

S V Q

= • (6.2)

ここでVは価値(Value)、Qは品質(Quality)、Sはサービス(Service)、SPは販売価格(Sales Price)、

LTはリードタイム(Lead Time)である。

Slack (1999)は以下の関係式で表現している(Slack, 1999)。

C t f A

V= N• • ( ) (6.3)

ここでNは製品のニーズ(Needs)の重要度である。Nの値は顧客が決定する。Aは顧客満足 を満たす N の実現能力(Ability) である。A は設計開発工程がどの様に実行されるかで決定 する値である。f(t)はNが市場投入される時期である。このf(t)は顧客の期待している納期と 従属関係を持っている。CはNが持つ機能と開発工程に従属したコスト(Cost)である。

一方、Weinstein & Johnson(1999)の価値の定義は上記の絶対的な関係式とは違って、複数 の製品を対比させた相対的な価値である(Weinstein & Johnson, 1999)。

PC

V= PB (6.4)

ここでVは価値(Value)、PBはその製品から受けとる利益のイメージ(Perceived Benefits)であ

り、PCはそのコストのイメージ(Perceived Costs)である。

上記を整理集約すると、製品価値とは顧客の視点による絶対的尺度と相対的尺度の二面 性で議論されていることが認められる。また上記の関係式は全て、コストが価値に影響を 与える共通の因子である。そして製品が持つ属性と製品投入時期も影響を与える。つまり 製品価値とは顧客の評価視点で製品の属性が供与する恩恵に比例し、コストと製品投入時 期に反比例する。ここでVを価値、Pを製品の属性(Properties)、Cをコスト、LTをリードタ イムとするなら以下が成立する。

LT C V P

∝ • (6.5)

式(6.5)の製品価値は製品自身がその時に結果としてもたらす価値という意味からスタテ ィック(静的)な価値と捉えることができる。それではダイナミック(動的)な次元では どうか。

LT C V P

∝ • (6.6)

式(6.6)はP、C、LTの動的変化が、価値の動的変化に比例することを示す。これは、価値

およびP、C、LTは必ずしも一定ではなく、また、価値はこれら因子の変動に大きく影響さ

れることを表している。ダイナミックな価値として捉えることができる。すなわちこれは、

製品の価値形成がなされる設計開発工程において、製品価値がダイナミックに変化するこ とを表している。そしてこのことから、製品価値は設計開発工程の効率性に依存するので あるから、製品価値の最大化には、設計開発工程の効率化が重要と言える。これはリーン 思考で言うよどみない価値の小川である。

式(6.5)と式(6.6)双方の考え方を集約するなら、価値は製品自身で形成されるスタティック な次元だけでなく、設計開発工程におけるダイナミックな次元によって形成されると言え る。この二つの次元で製品の価値形成を表現すると図6.4となる。

一般的にメーカは図6.4におけるP、C、LTのバランス、そしてP内の具体的要素の重み 付けまで洞察できない。その為に、それらを顧客に対してコンジョイント分析や因子分析 といった経験的データに基づく多属性価値の評価手法を利用する。しかしそれだけでは不 十分と言える。それはそこに存在する価値を市場の需要だけに視点を当てて検討している からである。つまり設計開発工程というダイナミックな次元で顧客の価値は変動すること と、同次元でメーカが造る価値の形成過程が考慮されていないのである。

次節で提案する価値のダイナミック・モデルは、製品開発工程における製品価値の形成 過程を、メーカの視点だけでなく顧客の視点も考慮して、ダイナミックに表現したもので ある。これはリーン思考に従えば、顧客からのプルによって価値の流れを作り出すという ことである。

6.4.2 価値のダイナミック・モデル 

図6.5に価値のダイナミック・モデルを示す。価値を縦軸、プロセス量(所要時間・所要 コスト)を横軸とり、メーカ視点と顧客視点、更にそれらを統合した視点の効用曲線を描 く。

メーカ視点価値曲線PV1では、プロセス量が増加するに従って価値は上昇し、顧客が定義 した製品性能と言うべき製品の属性 P の目標価値に近づく。ただしプロセス量の追加が進 むほど、価値実現に対する効用は除々に薄れるのであるから価値の限界効用は逓減する。

顧客視点価値曲線PVでは、プロセス量が増加しても、ある限界時点までは、目標価値を 維持している。しかしある時点を超えると減少方向に進む。これは式(6.5)の考え方である。

ただ顧客もある限界時点までは忍耐強く待つことができよう。その為その限界時点までの 価値の限界効用の速度は速くはない。しかしその限界時点を越えると速度は速くなり、急 激にその効用が減少する。

上記の二つの視点を組み合わせることで一つの価値モデルを構築できる。つまり顧客視 点価値曲線PVのプロセス量に応じた価値の減少分をメーカ視点価値曲線PV1に反映したも のである。統合価値曲線PV1はプロセス量の増加とともに、顧客視点価値曲線PVが目標価 値を維持している間はメーカ視点価値曲線PV1と等しく上昇する。しかし、顧客視点価値曲 線PVが減少を始めると、それに従い上昇率は低下し、極大点を経て減少に向かう。統合価 値曲線PV1の極大点に対応するプロセス量P1と価値 V1が顧客の嗜好とメーカの負荷を考慮 した決定ポイントと考えることができる。つまり、これ以上プロセス量をかけても、製品

コストC

価値V

リードタイムLT 製品の属性P

図6.4  製品開発における価値形成  製品 設計開発工程

の性能と価値の効用が上昇しない上限と判断できる。

更にここで効率化された設計開発工程モデルがどういった効用曲線になるのか検討する。

まず効率化された設計開発工程モデルで得られる成果物の価値とその従前モデルで得られ る成果物の価値を対比してみる。もし双方とも同じプロセス量が与えられているなら、効 率化された設計開発工程モデルで得られる成果物の価値の方が常に上回るはずである。つ まり効率化前の設計開発工程モデルをメーカ視点価値曲線PV1とするなら、効率化されたモ デルはメーカ視点価値曲線PV2となる。先と同様に統合価値曲線PV2および、その極大点か らプロセスP2と価値V2が得られる。同じプロセス量が与えられるなら、価値V2は価値V1 より常に上回る。これら決定ポイントを比較することで設計開発工程の効率化による価値 の上昇を定量的に対比することができる。このことは製品開発における意思決定にとって 重要である。

本モデルの利点をまとめると次のようになる。

1)製品の性能と価値の効用における上限を判断できる。

2)設計開発工程の効率化による価値の上昇を定量的に対比することができる。

3)本モデルの運用によって設計開発工程における問題を解析できる。

3)は次項で詳述するが、以上の理由から本モデルは設計開発工程の効率化を検討するの に有用である。

プロセス量(所要時間・コスト) 効率化 従前

P2 P1

顧客視点価値曲線PV

図6.5  価値のダイナミック・モデルと設計開発工程の改善 

V1

V2

メーカ視点価値曲線PV2

メーカ視点価値曲線PV1

統合価値曲線PV2

統合価値曲線PV1

Value

価値

Process

6.4.3 価値のダイナミック・モデルの運用 

価値のダイナミック・モデルの運用について議論する。設計開発工程における無駄な工 程の問題と過剰機能・過剰品質の問題を挙げ、それぞれを本モデルによって解析し、改善 するべき工程のありかの検討を行う。

1) 無駄な工程の問題

図 6.6 のメーカ視点価値曲線の P3−P4間に示すように、プロセス量を増加させても効用 曲線がフラットな箇所が無駄な工程であり、改善の対象である。

しかしフラットな箇所全てが製品開発における無駄とは限らない。新製品の設計開発の 多くの事例を観察してきた von Hippel (1994)はイノベーションに関連した問題解決に向け てタスク間で知識情報のイタレーションが観測されると指摘している(von Hippel, 1994)。つ まりフラットな箇所がイノベーション創出過程と考えられる期待である。その他に、工程 内のタスク間のイタレーションの有効性は学習効果の場合もある。更に製品開発というプ

図6.6  無駄な工程の問題 

プロセス量(所要時間・コスト)

P3 P4

顧客視点価値曲線PV

メーカ視点価値曲線PV

統合価値曲線PV Value

価値

Process

ロジェクトのリスクを低減させる活動がフラットな箇所を生み出している可能性もある。

こういった必ずしも無駄とは言えない工程は奨励すべきであるが、全く無駄な工程は排除 すべきと言える。

全く無駄な工程に対する改善手法としては、例えば代替となる設計開発工程のアーキテ クチャを創造すること、ある程度の投資を行って効率化が期待できる手法に切り替えるこ と、費用対効果が期待できる道具を利用すること等が考えられる。そこには多様な代替案 が存在する。それら代替案を予見的なモデルとして価値モデルに反映し検討できるのであ れば、メーカの意思決定に利用できる。意思決定の後も途中からその修正変更案をモデル に逐次反映して価値形成をモニタすることも可能である。それら実施内容を現場のスタッ フと本モデルを通じて共有できるのであれば、組織内で意思疎通の効果も期待できる。

2) 過剰機能・過剰品質の問題

過剰機能・過剰品質とは顧客の要求しない製品の機能が付きすぎている、あるいは必要 な機能に対して構造設計・材料設計的に過剰となっている状況である。図6.7に示した通り、

メーカ視点価値曲線が顧客視点価値曲線PVを超えた時に過剰機能・過剰品質が始まる。プ ロセス量が P5の時、プロセス量によって減少した顧客視点の価値とメーカ視点の価値が一

図6.7  過剰機能・過剰品質の問題 

プロセス量(所要時間・コスト)

P5 P7

顧客視点価値曲線PV

メーカ視点価値曲線PV

統合価値曲線PV Value

価値

Process P6

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