• 検索結果がありません。

設計プロセスにおける設計開発コスト・リスク

ドキュメント内 製品開発における設計負荷とその低減 (ページ 91-94)

第 3 章 設計プロセスにおける状況認識と不確実性の源泉

3.4 設計プロセスにおける設計開発コスト・リスク

3.4.1 設計開発コスト・リスクの概要 

  設計開発コスト・リスクとは、予め計画していた予算以内で設計解の導出をできるかど うかという不確実性と、予算を超過した場合に生じる経済的損失量である。ただし、この 不確実性には付帯条件がつく。それは規定の設計仕様を満足し、かつ計画納期で設計解を 実現できる前提条件である。設計開発コストは、設計開発工程の作業で消費される資源、

すなわち費用である。欧米では、NRE (Non-Recurring Engineering Cost:回収不能技術費用)と 呼ばれることがある。そして設計開発コストは変動費ではなく固定費に属する。尚、本章 の設計開発コスト・リスクには、設計開発資金の調達の不確実性、市場リスク並びにビジ ネス・リスクといった不確実性は含んでいない。

3.4.2 設計開発コストの不確実性と因果関係 

  予め計画していた設計開発コストで設計解を導出できるのかどうかという不確実性とそ れを取り巻く因果連鎖ダイアグラムを図3.9に示す。この図の中で示されている因果関係に ある因子についてそれぞれ以下で述べる。

不確実性を低減させる活動 設計開発の所要時間の変更

不知の不知 設計知の不十分な活用 製品性能の不確実性 コスト意識

スケジュールの不確実性 経営資源のゆとり コスト見積もりの精度 コスト予算枠のゆとり

図3.9  設計開発コストの不確実性の因果連鎖ダイアグラム

新考案の度合い 市場の不確実性

設計開発コストの不確実性

i)  コスト意識

  設計開発コストに一層気を配るならば、コスト増大に対する抑止効果は働く。そして設 計開発コストの不確実性を潜在的に減少させる。従って、コスト意識の増加は設計開発コ ストの不確実性を減少させる。つまりコスト意識と設計開発コストの間では因果の効果は 負となる。

コスト意識はコストが予算以内に収まりきらない時には働きやすいが、予算に余裕があ る時には逆の意識に働きやすい。現実的にはタスクに対して予算が割り当てられると、そ の予算全てを消費する傾向にある。

従ってコスト意識を高める適切な動機付けが必要となる。例えば、必要以上に経営資源 を利用しない、あるいは無駄を取り除くという動機付けが与えられるなら、コスト意識は 高まる可能性がある。

ii)  コスト予算枠のゆとり

  コスト予算枠が広がるならば、その予算枠以内で設計解を導出できるかどうかという不 確実性は減少する。その理由は予算枠が広がった資金を、まだ不完全な設計解を解決する 対処策に振り向けられることである。従ってコスト予算枠のゆとりから設計開発コストへ の因果の効果は負となる。

iii)  コスト見積もりの精度

  コスト見積もりの計画策定をするなら、それをしない場合と比べて明らかに設計開発コ ストの不確実性は減少する。計画策定を更に徹底的に進めるなら、その不確実性は一層減 少する。従ってコスト見積もりの精度と設計開発コストの不確実性間では、因果の効果は 負となる。

次に市場の不確実性との因果関係を考える。コスト見積もりは市場の不確実性を考慮す ると複雑化してしまう。それは市場の視点、すなわち顧客視点にたって製品価値を決定す るのに、どの程度の設計開発費を費やす必要があるのか判断が困難だからである。つまり 市場の不確実性が高くなれば、コスト見積もりの精度は低くなる。従ってコスト見積もり の精度から市場の不確実性への因果効果は負に働く。

  コスト見積もりの精度に影響を与える因子は他に、新考案された製品も含まれる。具体 的には新しい設計思想を含む製品、新しく工夫が施された製品がある。こういった製品は 過去に具現化したことがないので、参照する定量的データは不足している。この情報不足 が結果としてコスト見積もりの精度を悪化させる。

コスト見積もりの精度は、コスト予算枠のゆとりにも関係する。コスト見積もりの精度 が高くなれば、見積もりの不確実性は低減する。そしてその不確実性が低減する分、不確 実性によって影響を受けるコスト負荷も低くなり、コスト予算枠に余裕が生じるからであ

る。つまりコスト見積もりの精度が高くなれば、コスト予算枠のゆとりは大きくなる。従 って、コスト見積もりの精度からコスト予算枠のゆとりへの因果の効果は正となる。

iv)  経営資源のゆとり

  経営資源の余裕をもたせるかどうかという問題は、一つの企業経営上の問題である。経 営資源のゆとりを持たせすぎていると、結果として経営資源を無駄に消費していたことに つながる。そのゆとり分を別の活動作業に振り向けていた方が良かったことになるからで ある。しかし経営資源のゆとりは不確実性を低減できる利点がある。それは前述のスケジ ュールの不確実性との関係でも述べている。つまり、経営資源のゆとりからスケジュール の不確実性に対して負の因果効果があるということである。この経営資源のゆとりと設計 開発コストの不確実性の間も、それと同様の因果効果がある。経営資源にゆとりがあれば、

コスト問題が発生次第その問題解決に経営資源を振り向けられるからである。

v)  製品性能の不確実性

  要求仕様に記されている製品性能を実現できるかどうかという不確実性は、製品開発で 生じる。これが製品性能の不確実性である。この不確実性が増大するなら、製品性能上の 課題と考えられる箇所を修正し克服する努力を重ねる。この努力は結果として設計プロセ ス上の所要時間あるいは所要コストとして跳ね返ってくる。従って、製品性能の不確実性 から設計開発コストの不確実性への因果の効果は正となる。

vi)  スケジュールの不確実性

  スケジュールの不確実性が顕在化する場合、それは遅延を意味する。そして遅延が生じ ることで経済的損失を招来する。その損失は遺失利益の様な潜在的な損失だけでなく、設 計開発コストも包含することもある。例えば製品の市場投入の時期によっては、設計開発 コストに影響を及ぼす。つまりスケジュールの不確実性が大きくなると、設計開発コスト の不確実性も大きくなる。従って、その因果の効果は正となる。

vii)  設計開発の所要時間の変更

  Graves (1989)は、一般プロジェクトの所要時間と所要コストの間にどの様な関係があるか

を議論している。そこでは最適な設計解を選択する限り、所要時間と所要コストの関係は 二律背反になるというものである。つまりプロジェクトの所要時間を短縮しようとすると 所要コストが上昇する。これを複数の事例や研究報告で検証を行っている。 

この主張に従うなら、設計開発の所要時間の変更を行うと設計開発コストに影響を及ぼ す可能性が高い。言い換えると、その二つの因果の効果は正である。設計開発の所要時間

の変更は逆に、製品性能の不確実性、並びにスケジュールの不確実性によって影響を受け る。これらも全て正の因果効果である。

viii)  設計知の不十分な活用

  設計知の不十分な活用は、設計開発コストの不確実性に大きな影響を与える因子の一つ である。設計知の不十分な活用が低減するなら、すなわち設計知の再利用を含めた活用が 増加するなら、設計開発コストの不確実性は低減する。つまり設計知の不十分な活用から 設計開発コストの不確実性への因果効果は正に働く。

ix)  不知の不知

  スケジュールの不確実性で議論した因子と同等である。不知の不知が減少すれば、設計 開発コストの不確実性が減る方向に働くので、不知の不知から設計開発コストの不確実性 への因果の効果は正である。

x)  不確実性を低減させる活動

  設計開発コストの不確実性に対する管理上の重要な施策は、本章のスケジュールの不確 実性で述べた活動と同等である。つまり計画策定である。この計画策定には、設計開発コ ストに対するリスクの調査と確認、評価と分析、処理手段の選択が含まれる。そして次に 処理手段が実行される。

尚、不確実性を低減させる活動が行われれば、不確実性は低減するので、不確実性を低 減させる活動から設計開発コストの不確実性への因果効果は負に働く。

ドキュメント内 製品開発における設計負荷とその低減 (ページ 91-94)