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イタレーション・モデルの有効性の確認

ドキュメント内 製品開発における設計負荷とその低減 (ページ 49-53)

第 2 章 設計プロセスにおける問題と先行研究

2.4 イタレーション・モデルに関する先行研究

2.4.3 イタレーション・モデルの有効性の確認

イタレーションの現象は、数学的モデルで抽象化が行える。これは観察と推論である。

そしてそのモデル化に基づくシミュレーションは実現象から離れ、抽象化された閉じた世 界で動作する。これは実験による検証である。本論の第4 章と第 5 章で議論しているイタ レーションについては先行研究で取り上げているDSMを用いることから出発している。そ して数学的なモデルとして定式化させ、検証した実証研究である。しかし公理として設定 しているこのDSMモデルは、そのモデルが含有している以上の解を求めることはできない。

従ってこのDSMモデルの適用の妥当性を、実践現場の知見と照らして検証する必要がある。

つまりモデルの正当性である。本節ではこの検証の手続きをイタレーション・モデルの妥 当性確認(validation)と呼ぶ。妥当性の確認については、以下の視点で議論を進める。

i)  モデルの仮定条件

まずモデルの必要条件として、いかなるモデルも実現象に基づいて構築される必要があ る。つまり数学的モデルがその必要条件に従っていないなら有効ではない。しかしそのモ

デルは実現象に基づいて構築したとしても、単純化しすぎると必要条件から外れてしまう 可能性がある。モデルによって構築したシステムの特性が失われる可能性があるからであ る。例えば本研究で言えば、設計プロセスの規模並びに複雑性といった現象の特徴が失わ れれば、検証自身が有効と言えなくなる。

Smith (1997a)、Tyson & Eppinger (2002)及び第4章と第5章で用いた一対比較行列による 定式化は、イタレーションのモデルである。実際の設計プロセスで生じる現象を定式化さ せている点で、先の必要条件とは調和が取られている。しかし必要となる条件を完全に満 たしているとは言えない。この一対比較行列による仮定条件は、実現象に基づく必要条件 と必ずしも一致するとは言えないからである。

実際の現場においては相互依存の関係にある複数のタスクは、組織の中で同時並行的に 作業として進められることはある。しかし一対比較行列による定式化では一回のイタレー ションで、全てのタスクが同時並行的に生じることを仮定している。従ってこの仮定であ れば精度の面で、必ずしも完全に一致するとは言えない。

仮定条件によるモデルと実現象と同じ理想的モデルの不一致はそれ以外にもある。実際 の現場では、一般的に反復修正を繰り返す毎に、タスクにおける修正作業の時間は減少し ていく。つまりイタレーションが生じる時のタスクの時間量はイタレーションを繰り返す 毎に、イタレーション当たりのタスクの時間量は減少する。一対比較行列による定式化で もイタレーションが発生する毎に減少するモデルとなっている。しかしこのモデルは線形 性を仮定条件としている。従って、これも厳密に言えば精度の面で必ずしも完全に一致す るとは言えない。他に反復修正の回数は無限に行われることはありえないことも付け加え ておく。上記の仮定条件だけでまとめてみると、モデルは実現象に基づいて構築されてい るものの、必ずしも完全な精度を保有しているわけではない。

ii)  モデルによる洞察

一対比較行列の定式化によって定量的な解析が実現できる。そこではどの様なタスク群 が設計プロセス上に設計負荷を与えているのかが認識できる。第4章と第5章においては、

その一対比較行列を大規模で複雑な半導体設計のプロジェクト事例に適用し、その認識性 について確認している。そして一対比較行列はイタレーションが複雑に生じている設計工 程を表現できることが実証できている。他に一対比較行列による代替案をモデル化するこ とで、シミュレーションによる代替案の検証も行うことができる。特に実証プロジェクト のシミュレーションを通じて固有値と固有ベクトルの結果から問題自身を特定できる。そ して固有ベクトルの成分の重み付けから、イタレーションの負荷に影響を与えているタス クの特定と各タスクの影響度合いを定量的に認識することができる。

つまり本モデルを利用することで定量的な解析が可能となり、意思決定に向けた評価基 準が構築できる。本モデルは洞察力を持ち、有効な一手段と言える。

iii)  数学的モデルの動作と実現象との一致

モデルの定式化から算出された定量的な結果と実際の設計プロセスの振る舞いが、厳格 に一致していれば信頼性は保持されることとなる。しかし本モデルが含有している以上の 解を求めることはできない。従って、モデルを通じて得られる結果は、どこまで実現象に 近づけられれば適正なのかという信頼性の問題に置き換えられる。しかし今日まで設計プ ロセスの振る舞いをデータとして取得している先行研究は見あたらない。イタレーション を実測する方法がまだ確立していないからである。従って数学的モデルの動作と実現象の 比較対照は今だ実現していないのが現状である。

設計プロセスのイタレーションの実測値の取得は困難であるが、相対的評価については まだ議論がされていない。例えば、代替案を構築し同じ条件下でシミュレーションするこ とで、相対的な振る舞い評価を行う事などである。この評価方法はモデルの妥当性を確認 する上での今後の課題の一つと言える。

iv)  他モデルと比した優位性

モデルの評価基準の一つは、先行研究で提示されている他のモデルとの比較対照である。

この場合には、まず過去に最適なモデルとして認知されたモデルが存在するか否かに依存 する。先行研究で述べた通り、ネットワーク手法にはフィードバックを可能にするモデル がある。それは Q-GERT である。しかしイタレーション毎にタスク作業量を線形的に減少 させることはできない。またタスクが多くなると一覧性に欠ける。さらに実践現場で普及 していないのが現状である。従って現在まで、設計プロセスの振る舞いを定量的に表現で きる手段はマトリックス手法以外に構築されていない。現在提供されているモデルとして はDSMが唯一であり、その存在としての意義は大きい。しかし本モデルは厳格な精度で表 現することに課題が残っているので、引き続き改善を進める必要がある。

v)  モデルと利便性

モデルの妥当性の評価として、次に利便性の視点で見てみる。この利便性とは実験の作 業性である。つまり、モデル構築作業とシミュレーション作業を都合良く進められるかど うかということである。シミュレーションの作業はモデルに依存しているので、もしモデ ル自身が複雑であるならシミュレーションに向けた準備作業は困難になる可能性がある。

従ってモデルはできるだけ簡素化させた方が、利便性は高まる。しかし簡素化しすぎると 精度の確保が困難になる。例えばモデルの精度によっては、検証すべき設計プロセスの振 る舞いのばらつきが大きくなる可能性があるからである。この様にモデルを簡素化させる と利便性は高まるが、精度が確保できなくなる可能性がある。つまり利便性とモデルの妥 当性は相反関係になる可能性があるということに留意しておく必要がある。

尚、DSMを利用したモデル構築の手順については本論で詳細に述べている。そして一対

比較行列を定式化して設計プロセスの振る舞いを実証している。これらは全てイタレーシ ョンのモデル構築を経験したことがないプロジェクトの管理者であり、滞りなく作業を実 行している。

vi)  モデルの制御性

設計プロセスのモデルを適切な方向にもたらすことは、設計プロセスに対する一つの制 御である。制御はモデルを活用する上で効果的な機能の一つである。ガント・チャートや ネットワーク図は制御性という点では柔軟性に欠ける。例えばイタレーションを反映でき る機能を持っていないことは一つの限界である。一方、一対比較行列を用いたモデルでは その点で制御性が優れている。例えばイタレーションが発生しているタスク群としていな いタスク群を二分化させる分割やクラスタ化である。

ここで設計プロセスの中で相互依存関係にない、すなわち独立しているタスク群がある 場合を想定する。このタスク群は制御する必要がない。この仮定条件ではそのタスク群は イタレーションが生じないからである。従ってもしそのタスク群だけを分割して管理の対 象から外すことができるならタスク数を減少させることができるので、制御性は高まると 言える。この有効性について本論で詳細に論じる。

vii)  イタレーション・モデルの妥当性の含意

本モデルの欠点は上述で指摘した通り、厳格な精度を保有していない点である。しかし 実現象に基づいて構築されており、モデルとしての条件を満たしている。しかもプロジェ クト管理者や設計当事者に有益な情報を提供してくれる。その有益な情報とは適切な意思 決定に結びつく情報のことである。そしてその情報は直接的並びに間接的に入手されるも のである。本項ではその情報は具体的にどういった有益な情報なのか以下に述べる。

一つ目は合意形成である。例えば、モデル開発者やプロジェクト管理者がモデルを構築 する前に、タスクそれぞれの相対的な設計負荷はどの程度であるのか、そしてタスク間の 相互依存関係はどの程度であるのか、それぞれ定量的な分析結果を共有できる。従って設 計プロセスのモデル構築の上では合意形成に役立つと言える。

二つ目の有益情報としては、固有値問題を解くことにより設計負荷を引き起こしている 問題因子、そしてその因子に直接関係しているタスク群を特定できる点である。PERTの様 にイタレーションをサポートしていないモデルを利用するならば、こういった情報は得ら れない。なぜならば一対比較行列による定式化と比べて、明らかにPERTによるモデルの乖 離が大きいからである。

イタレーション・モデルを否定する立場の前提としては、イタレーションは発生しない ことを仮定条件としている。その仮定条件は、繰り返し作業は全て非生産的な活動である との認識(Warfield, 1990)から作り上げられている。しかしタスクが継続して繰り返されるプ

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