第 4 章 設計プロセスにおけるイタレーションの モデル理論と実践
4.6 一対比較行列によるモデルの半導体設計事例への適用
いる。他にChatelin (1988)は、機械構造力学、経済理論、海洋学での適用事例を紹介してい る。一般的なバネを用いた固有値問題は、解析力学の理論として確立されているが、実際 の土木工学において遭遇する一つ例として建築構造学の骨組みの座屈問題がある。振動と 座屈とは密接な関係にあり、これが固有値問題の範疇に属する(加藤, 1967)。一つの事例 として米国ワシントン州タコマの吊り橋の事故は、空気弾性振動効果に起因していること が構造解析の原理と固有値問題に従って結論付けされている(Smith, 1974)。また音・振動 のモード解析と制御の分野では、多自由度系における固有振動数と固有モードの行列式を 一般固有値問題と考え、固有値解析を行った(萩原et al., 1996)。臨床工学の分野では、生命 に直結した各種の生命維持管理装置の操作と保守点検といった高度先進医療が不可欠であ り、極めて高い信頼性と安定性を持ったシステムが求められている(西村, 1990)。この安定 性についても固有値問題が取り上げられ、工学的応用理論として裏付けされている。理論 的応用は基本と言えるが、工学的応用もそれに劣らず重要と言える。
人的リソースと時間の負荷かかるか明確につかみ取ることができなかったためである。
一方、各タスクのそれぞれの仕事量については正確な数字が得られなかった。もちろん 各タスクに配置される人的リソースやスケジュール管理は徹底的に行われてきたが、イタ レーションがタスク間で複雑に起きているために、それぞれのタスクの正確な仕事量の測 定が行われていなかったためである。
ここまでで得られた半導体設計工程のモデルを図4.5に示す。実際モデリングを行ってい ると、相互依存の関係にあるタスクが数多く発見された。このマトリックスのモデルに注 視しただけでは問題の本質の把握が困難である。複雑化した設計工程内のタスクの相互依 存関係を理解できるよう、タスクのセットを分割して統合することで問題解決に向けた糸 口が見つかる(von Hippel, 1990)と述べられているように、本モデルを相互依存が特に強い 関係にあるタスクをグルーピングし、シーケンシャルのタスクとコンカレントのタスクと を切り分けた。このパーティション(partition)には、三角化アルゴリズム(Triangularization Algorithm)(Kusiak at el., 1994)を利用した。相互依存が特に強い関係にあるタスクをパー ティショニングして得られたマトリックス・モデルを図4.6で示した。
4.6.2 タスク間の依存性の強度
図4.6の枠内に示したタスク・グループを抽出し、図4.7に示した。これを一対比較行列 によりモデリングし、解析を行う。モデリングにあたり、プロジェクトに参画した半導体 設計技術者やマネージャに依存性の度合いの決定付けを依頼した。依存性の度合いが強い 場合には0.3を、中間値を0.1に、そして弱い場合を0.05とした。ここで依存性の度合いの 設定が解析結果に与える影響を考察してみる。解析結果は導出される固有ベクトルから解 釈していくので、この依存性の度合いの設定の違いが与える固有ベクトルの重み付けへの 影響ついて考えてみる。
WBS タスク名 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42
1 顧客設定 X X X
2 売値水準の設定 X X
3 プロジェクトの工程計画の策定 X
4 設計手法の検討 X X X △
5 マクロ・ブロックと制約条件の検討 X △ △ △ 6 プロジェクトの売上及び原価予測 X X △ 7 各種タスクレベルのプログラムの検討 X 8 技術レベルでの必要条件の策定 X △ X X
9 要求仕様書の策定 X X X X X X △ X X △ △ X
10 動作レベル・モデリングによるパフォーマンス評価 X △ X X X X △ 11 仕様書概要の策定と確認 X X X △ X X X
12 テスト計画の策定 X X X X X
13 検証計画の策定 X △ X
14 機能レベルのモデリング X △ X X △ ○ X X △ △ X △ △ X X
15 STG2ブロックの設計 △ △ △ △ X X X X ○ △ △ △
16 VUP CPUブロックの設計 △ △ △ △ △ △ △ △ ○ ○ ○
17 1TSM IP(レイアウト・レベル)ブロック X X X
18 CM Mem IP(レイアウト・レベル)ブロック X X X
19 MCTPブロックの設計 △ △ △ X X X X ○ △ △ X
20 DFTTPの設計 X X X X X X X X X △ △ △
21 各ブロックのインテグレーション X X X X X X ○ X X X X X △ X ○ △ △ △ 22 テスト容易化設計(DFTTPの設計及びTSTSLの挿入) X X X X △ △ X X △ △ ○ △
23 バウンダリー・スキャンの設計 X X X X △ X △ X △
24 自動テスト・パターン生成 X X △ △ △ △ △ X X
25 シミュレーションの実行 X X X X X X ○ X X X X X △ X X ○ ○ △
26 ブロック・レベルの配置配線 X ○ X X △ X X
27 フロアー・プランニング X X X X △ X X
28 自動配置配線 △ △ △ △ X X X X
29 チップ・レベルのレイアウト X X △ X △ X
30 設計規定の確認(ERC/DRC/LVS) X X △ ○ X
31 パッケージ設計 △ X X X X
32 レチクル設計 X △ △
33 シリコン・ファンダリへのデータ受け渡しと製造 △
34 テスト用プログラムの作成 X
35 パッケージング X
36 テスト X X
37 チップのデバッグ X X X X X
38 サンプル製品の性能確認 X
39 顧客へのサンプル提供 △ △ X
40 品質ゴールの確認 X X
41 信頼性試験評価
42 詳細仕様書・技術書の開発 X X X X X
依存性 強 ○ 依存性 普通 △ 依存性 弱 X
図4.5 半導体設計工程
図4.6 パーティショニングによるタスク・グループの抽出
1 2 3 7 12 17 18 34 35 36 37 38 40 41 42 5 6 8 4 10 13 39 9 11 15 16 19 20 21 22 23 25 26 27 28 29 30 14 24 31 32 33 1 1
2 2
3 3
7 7
12 12
17 17
18 18
34 34
35 35
36 36
37 37
38 38
40 40
41 41
42 42
5 ・ 5・ ・
6 ・ 6
8 ・ 8
4 ・ 4
10 ・ 10・
13 ・ 13
39 ・ ・ 39
9 9 ・ ・ ・
11 ・ 11
15 ・ ・ ・ ・ 15 ・ ・ ・ ・
16 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 16 ・ ・ ・ ・ ・
19 ・ ・ ・ 19 ・ ・ ・
20 20・ ・ ・
21 ・ 21 ・ ・ ・ ・ ・
22 ・ ・ ・ ・ ・ 22 ・
23 ・ ・ 23 ・
25 ・ ・ 25 ・ ・ ・
26 ・ ・ 26
27 27 ・
28 ・ ・ ・ ・ 28
29 ・ 29・
30 1 ・ 30
14 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 14
24 ・ ・ ・ ・ ・ 24
31 ・ 31
32 ・ ・ 32
33 ・ 33
図4.7 抽出されたタスク・グループ
WBS 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
9 9 X X △ X X △ △
10X 10X X △ 11△ X 11X X 12X X 12X
13 △ X 13
14△ X X 14△ ○ X X △ △ X △ △
15△ X X X 15 X ○ △ △ △
16△ △ △ 16 △ △ ○ ○ ○
17 17 X
18 18 X
19X X X 19X ○ △ △ X
20X X X X X X 20△ △ △
21X X X ○ X X X X 21X △ X ○ △ △ △ 22X X △ △ X X △ △ ○ 22 △
23X X △ X △ X 23 △
24X X △ △ △ △ △ 24 X X
25X X X X X ○ X X X X X △ X X 25○ ○ △
26 X ○ X X △ X X 26
27 X X X X 27△ X X
28 △ △ △ △ X X 28X X
29 X X △ X 29△
30 X X △ ○ 30
依存性 強 ○ 依存性 中間 △ 依存性 弱 X
まず、依存性の度合いの相対的比率が同じ場合を考える。kを定数とすると、式(4.7)から、
kA = k(SΛS−1) = S(kΛ) S−1 (4.24)
である。この式から、固有値はk倍となるが、固有ベクトルは変化しないことが分かる。す なわち、この場合には固有ベクトルの重み付けに影響を与えない。
次に依存性の度合いの相対的比率が異なる場合を考える。ここで α =相互依存性の中間値/
相互依存性の弱の値、β =相互依存性の強の値/相互依存性の中間値とする。αとβの値を変 えながら異なる度合いの組み合わせ30組を準備した。そしてそれらの第一固有ベクトルと 第二固有ベクトルを算出し、それら 0.19以上の得点成分を持つタスクの数を観測した。そ して実設計事例の第一固有ベクトルと第二固有ベクトルの0.19以上の得点成分を持つタス クの数とそれぞれ対比を行った。タスクの数の差が大きい場合には固有ベクトルの重み付 けに大きな影響を与えるが、差がなければほとんど影響を与えないと解釈できる。図4.8は その対比結果である。0を包含した表示図内に収まったαとβであれば重み付けの誤差は許 容できる範囲と言える。この結果から、本プロジェクトのモデリングで使用する依存性の 度合いは、α =2、β =3であり、0を包含した範囲の設定であれば、固有ベクトルの重み付け に大きな影響は出ないことが分かった。
図4.8 依存性の度合いの相対的比率の違いが与える固有ベクトルへの影響
2 2 2
0 2 0 3
2
0 1 3 5
2 0 2
2 0 2
0 3 0 0 0 1
0 3 3 2 0 0 0 1 0
1 2 3 4 5
0 1 2 3 4 5
α
β