第 3 章 設計プロセスにおける状況認識と不確実性の源泉
3.3 設計プロセスにおけるスケジュール・リスク
3.3.4 想定外のイタレーション
様に検討が行われる。こういったタスク分割を行う場合には、タスク間の接続数を最小化 させる様に最適化を行う方が適切である。タスク数の接続数を減らすことができれば、イ タレーションの回転の数を減少させる。そしてスケジュールの不確実性を低減させること ができるからである。
iv) イタレーションの見識を持っていない管理者の意思決定
プロジェクトの管理者は設計プロセスの進捗に応じて、製品性能や設計品質がどの程度 達成されているのか、どの程度の時間が残っているのか、どの程度の予算が残っているの かといったことを監視する。そして製品性能や設計品質が規定を満足していない場合には、
意図的にイタレーションの追加実行の意思決定を行う。しかしこの意思決定には本来、ど ういった付帯条件で、どの程度のイタレーションを実行するのかが含まれるはずである。
この様な付帯条件や定量数値を伴う意思決定は管理者のイタレーションに関する見識や経 験に依存する。例えば、スケジュールとコストとの二律背反問題とイタレーションを理解 せずに、設計プロセスの計画策定することは困難である。また設計品質の向上とイタレー ションの関係を認識せずに適切な意思決定することは難しい。この様な一般的な管理者の 元では、意図的にイタレーションを実行するという以上の意思決定は行われにくい。つま り、イタレーションの見識を持っていない管理者の意思決定から想定内のイタレーション の回転の数への因果効果は正となる。
ii) ウォーターフォール型の作業品質
設計プロセスにおいては、タスクの出力ともう一つのタスクの入力が直列に接続されて いる場合がある。この一連のタスクの流れは、ウォーターフォール(waterfall)又はシーケン シャルである。つまり作業は一方向だけに進展し、逆方向に後戻りすることはない。こう いったウォーターフォール型作業では先行順にタスクを実行し、そのタスクが終了次第、
次のタスクに情報を受け渡す。受け渡される情報は、前のタスクに後戻りさせる様な不適 切な情報ではない。
しかしウォーターフォール型作業であっても、適切な管理が行われていない場合、簡単 にイタレーションが生じてしまう。それはタスクが受け取る情報が適切でない、受け取る 情報の時期が適切でない、受け取る情報が正しい場所で行われていないという理由による ものである。従って、ウォーターフォール型の作業品質は大変重要な因子である。この作 業の質が悪ければ、想定外のイタレーションを引き起こすだけでなく、イタレーションの 回転の数、イタレーションの及ぼす範囲、イタレーションの所要時間にも大きな影響を与 えることになる。つまりウォーターフォール型の作業品質から想定外のイタレーションの 回転の数への因果の効果は負に働くことになる。
図3.4 想定外のイタレーションの因果連鎖ダイアグラム
想定外のイタレーションの回転の数 製品性能の不確実性
ウォーターフォール型の作業品質
コミュニケーションの品質 設計上の単純ミス 要求仕様の品質
−
−
−
−
+
+
スケジュールの不確実性
+
iii) コミュニケーションの品質
最適なコミュニケーションとは、受け渡しする情報が適切であること、その情報の受け 渡しする時期が適切であること、そしてその情報を受け渡しする場所が適切であることを 包含する。つまりコミュニケーションの最適性は、情報の媒体や転送手段、時間、場所等 多面的な最適性に関係している。ここでこの最適性の度合いを、コミュニケーションの品 質と定義する。こういった最適なコミュニケーション品質が達成できるなら、設計プロセ ス上で生じる想定外のイタレーションの回転の数を減少させることができる。従ってその 因果効果は負に力が働く。
iv) 要求仕様の品質
要求仕様は、プロジェクトの管理者にとっては関心の最も高い事項の一つである。それ はプロジェクト上、様々な面に影響を及ぼしうるからである。例えば、要求仕様の定義が 不明瞭であれば、製品開発というプロジェクトの遅延を招いてしまう。曖昧な要求仕様で あれば、問題を全く招来せずに設計解を導出することは困難である。この場合にはそこで 発生した新たな問題を解決するために、手戻り修正で対処することにつながる。
要求仕様が不安定な場合もある。つまり確定すべき仕様が決定されず、ゆらぎが見られ る場合である。ある範囲の領域で変動している状況とも言える。この様な状況下では、設 計上の目標が簡単に変更される。そして優先事項も変更されることがある。結果として、
その都度新しい設計情報を探求するために手戻り修正が発生する。設計上のゆらぎはその 時点では取るに足りない小さいものと感じていても、概念設計まで手戻り修正が及ぶなら 相対的に大きな問題となる。
一方、要求仕様が明瞭である、あるいは仕様上規定されるべき値が決定している状況下 であれば、上記の問題が生じる可能性は低い。つまり要求仕様の品質の度合いが、手戻り 修正の度合いに影響を与えているのである。要求仕様の品質が高まれば手戻り修正の度合 いは低くなり、逆に品質が低くなれば手戻り修正の度合いは高くなる。イタレーションの 回転の数は手戻り修正の度合いの構成要素の一つと考えられるので、要求仕様の品質から イタレーションの回転の数への因果効果は負となる。
要求仕様の品質が高まらない理由の一つは、その製品を投入する市場の不確実性による 場合もある。この場合には、顧客視点による製品価値の理解を高めれば、要求仕様の安定 性と品質を高めることができる。
v) 設計上の単純ミス
設計プロセスにおいては、人為的な単純ミスが生じる。前例のない新しい設計作業では、
学習効果が働かないため、更に単純ミスを引き起こしやすい。こういった単純ミスも、予 測していなかった手戻り修正を引き起こす。すなわち、想定外のイタレーションを引き起
こす。従って、設計上の単純ミスからイタレーションの回転の数への因果効果は正となる。
人為的な作業では単純ミスを完全に取り除くことは困難であるので、単純ミスは早期に 発見すること、そしてすぐに修正することである。この早期発見と早急な対応の施策の一 つは、組織内のコミュニケーションの品質を高めることである。