• 検索結果がありません。

想定内のイタレーション

ドキュメント内 製品開発における設計負荷とその低減 (ページ 77-80)

第 3 章 設計プロセスにおける状況認識と不確実性の源泉

3.3 設計プロセスにおけるスケジュール・リスク

3.3.3 想定内のイタレーション

  設計プロセス内の各タスクが複雑な従属関係にある場合には、イタレーションが発生す る。このイタレーションが大きくなれば所要期間は長期化し、スケジュールを予定納期以 内に着地、すなわち設計を収束させることは困難になる。このイタレーションの大きさの 変数について議論を行う前に、設計者の視点でイタレーションを二つに分類する。それは 設計を行う前に予め想定していたものなのか、あるいは想定していなかったものかという

ことである。本章ではそれらを想定内のイタレーションと想定外のイタレーションと呼ぶ。

想定内のイタレーションとは予測していた範囲にあるイタレーションである。このイタ レーションには製品性能や設計品質といった目標を達成させるために有効な設計情報の交 換が含まれる。一方、想定外のイタレーションとは予測がつかなかったイタレーションで ある。イタレーションは想定外にあるので、計画策定は困難である。例えば、設計プロセ スの中で予期せぬ時に新しい情報が入り込む場合に、想定外のイタレーションが発生する 可能性が高い。この中には設計上の必要条件や目標が流動的であること、あるいは単純な 誤りによって起因することが含まれる。

  スケジュールの不確実性を引き起こすイタレーションの変数は、前項で述べた通り、三 つ存在する。イタレーションの回転の数、イタレーションがタスクに影響を及ぼす範囲、

イタレーションの所要時間の三つである。本項ではまず、想定内のイタレーションの回転 の数に影響を与える因子について述べる。図3.3にその因果連鎖ダイアグラムを示す。

図3.3  想定内のイタレーションの因果連鎖ダイアグラム

スケジュールの不確実性 想定内のイタレーションの回転の数 イタレーションの見識を持たない

管理者の意思決定 設計品質 製品性能の不確実性 タスク間の接続数

i)  製品性能の不確実性

イタレーションを意図して連続的に実行する場合、設計上の目標を達成させるための努 力が行われていることが多い。これは製品性能を向上させる活動も含まれる。その活動は 製品性能を向上させるための有効な設計情報の交換活動、あるいは製品性能の向上につな がる新しい情報を取り込もうとする獲得活動である。概念設計といった抽象性の高い設計 活動領域で、その活動を行うほど製品性能が向上できる可能性は高い。そしてその設計領 域で、設計の確認作業を頻繁に行うほど有効である。

上述の通り、要求仕様で規定した製品性能を、設計解として導出できるかどうかという 不確実性が存在しているから、イタレーションを意図的に引き起こしている。そして問題 解決を行おうとしている。これは相反的な作業でもある。製品性能の問題を解決できる可 能性は高くなるが、その解決に向けた活動がイタレーションを増加させるからである。結 果としてスケジュールの不確実性を招来する。従って製品性能の不確実性からイタレーシ ョンの回転の数への因果の効果は正に働くことになる。

ii)  設計品質

  設計プロセス上のイタレーションによる有効性は設計品質の向上である。設計成果物が 規定仕様通りに仕上がっているのかという繰り返し検査と修正活動は、設計品質の向上に つながるからである。従って、想定内のイタレーションの回転の数から設計品質への因果 効果は正に働く。しかし一方、設計品質が高まれば、イタレーションは減少する。従って、

設計品質から想定内のイタレーションの回転の数への因果効果は負に働く。

iii)  タスク間の接続数

  設計プロセスは、タスクを要素とした集合である。タスク同士はシーケンシャル (sequential:設計活動は一方向に進展)、コンカレント(concurrent:複数の設計活動が並行に進 展)、又は相互依存的(interdependent:設計活動は双方向に移動)に接続されている。設計プ ロセス上のタスク数が多くなれば、タスク間の接続数は多くなる。設計プロセス上のタス ク間で複雑に相互依存関係が構築されている場合も、タスク間の接続数は多くなる。つま り、設計プロセス上のタスクが多くなるか、あるいは設計プロセスが複雑になるなら、タ スク間の接続数は多くなる。タスク間の接続数が多くなれば潜在的にイタレーションを引 き起こす経路が増えることにつながるので、イタレーションの回転の数も増える可能性が ある。従って、タスク間の接続数から想定内のイタレーションの回転の数への因果効果は 正となる。

  昨今では設計プロセスの大規模化と複雑化が進んでいる。こういった設計プロセスの計 画策定を行う場合にはタスク分割を行うのが一般的である。設計対象物の構造部品毎に合 わせてタスク編成するか、あるいは設計組織のチーム毎に合わせてタスク編成するか等多

様に検討が行われる。こういったタスク分割を行う場合には、タスク間の接続数を最小化 させる様に最適化を行う方が適切である。タスク数の接続数を減らすことができれば、イ タレーションの回転の数を減少させる。そしてスケジュールの不確実性を低減させること ができるからである。

iv)  イタレーションの見識を持っていない管理者の意思決定

  プロジェクトの管理者は設計プロセスの進捗に応じて、製品性能や設計品質がどの程度 達成されているのか、どの程度の時間が残っているのか、どの程度の予算が残っているの かといったことを監視する。そして製品性能や設計品質が規定を満足していない場合には、

意図的にイタレーションの追加実行の意思決定を行う。しかしこの意思決定には本来、ど ういった付帯条件で、どの程度のイタレーションを実行するのかが含まれるはずである。

この様な付帯条件や定量数値を伴う意思決定は管理者のイタレーションに関する見識や経 験に依存する。例えば、スケジュールとコストとの二律背反問題とイタレーションを理解 せずに、設計プロセスの計画策定することは困難である。また設計品質の向上とイタレー ションの関係を認識せずに適切な意思決定することは難しい。この様な一般的な管理者の 元では、意図的にイタレーションを実行するという以上の意思決定は行われにくい。つま り、イタレーションの見識を持っていない管理者の意思決定から想定内のイタレーション の回転の数への因果効果は正となる。

 

ドキュメント内 製品開発における設計負荷とその低減 (ページ 77-80)