第 7 章 タイム・マネジメントによる設計開発期間の短縮
7.2 タイム・マネジメントに関する先行研究
7.2.1 製品の市場投入時期の重要性
エレクトロニクス製品のライフ・サイクルは短縮化しており、製品開発から市場投入ま での期間を短縮化することが重要になっている。競争の激しい製品市場において、タイム・
マネジメントによるスケジュール管理は企業の競争力維持に欠かせない領域の一つである。
他企業に先行して早く製品投入できるなら競争優位に立ちことができるからである。
時間の概念は企業にとって製品開発力につながる重要な管理要素となっている。実際、
次の10年間において国際的競争力を持つメーカは、製品開発力に依存する(Seering et al., 1996)と言われている。製品開発力とは製品の品質、性能、価格の他に、市場投入の時期で ある。製品開発者は製品の品質や性能、製品価格を犠牲にせずに、適切な時期に製品を市 場に投入できるのであれば、四つのメリットを企業は享受できる(Cook, 1998 )。一つ目とし ては、市場投入時期に遅れた場合と比較して、製品の販売期間を延長できることである。
製品の投入時期を一日早めることができるなら、販売期間が一日延長できる。二つ目とし ては、開発サイクルを短縮化することができ、貴重な設計開発時間を削減できることであ る。つまり開発を終了させた設計技術者は他の設計開発に従事することが可能になる。三 つ目としては、製品を最初に市場投入した企業は、一時的に独占的支配力を持つことがで き、そして高い限界利益率を確保できることである。四つ目のメリットは市場の占有上、
優位に立てることである。その製品が市場で真に最初のものであるなら、市場占有率100%
を得たことになる。これは後発企業が、時間と労力をかけて100%の市場占有率を得るより 容易なことである。
グローバルに展開し、激動するダイナミックな競争市場では、新製品とその開発過程が 一層競争の焦点となっている(Clark & Wheelright, 1993)。製品の市場投入を早く効率的に実 行できる企業が、顧客期待とニーズを製品に反映させることができるなら、一層強い競争 力を作り上げることができる。スピーディーな市場投入は顧客反応を敏感に捉え、市場調 査を最新の状況にしておくことができる。そして、製品がより早く紹介されるほど、市場 を占有する確率は高い。この状況は標準化が働く新興市場ほど、その命題は真と言える
(Huthwaite, 1994)。自動車業界では、競合に先駆けて4ヶ月から5ヵ月早く市場投入すれば、
それが市場占有率に影響を与え、そしてそれが自動車企業の財務状況にも影響を与えると され、重要な戦略となっている。例えば、10,000ドルで売られる車の場合、一日の市場投入 の遅れが約100万ドル相当の損失を与えるとの研究報告がある(Clark, 1989)。図7.1に
Time-to-market の代表的モデルを示す。3ヶ月分市場投入を早めることで、追加の売上げ期
待ができる。
製品開発は、製品性能、製品原価、設計開発費用、開発スピードという四つの要素のト レードオフ選択である(Smith, 1988)。Smith (1988)はこれら四つの要素の変数を変えることで、
これらが製品サイクルにおける収益に与える影響をシミュレーションしている。そのシミ ュレーション結果を図7.2に示す。二つの異なる製品について、企業のキャッシュ・フロー 収益をベースに算出されたものである。一つは伝統的な機械系の特定部品であり、他方は ライフ・サイクルが短い特定のエレクトロニクス部品である。どちらも収益に影響を与え る要素は製品投入時期と製品性能であった。それに比べて製品原価は双方とも唯一の決定 的要因とは言えない。そして設計開発費を含む研究開発費用が仮に50%予算を上回ったとし ても、収益には直接大きな影響を与えないとのことである。つまりこの実証例は一般論と して昇華できていないとしつつも、製品投入時期と製品性能という要素は、他の要素を多 少犠牲にしたとしても製品開発の優先事項とすべきであるというのがSmithの主張である。
Reinertsen(1983)も市場投入までの期間が収益上最も重要な因子であると指摘しており、製
売上
時間
製品のライフ サイクルの終了 製品のライフ
サイクルの開始
3ヶ月
図7.1 製品投入の前倒しと売上増加(Cook, 1998)
早期の製品投入実現 製品投入(計画時)
売上増加分
成熟期
品開発におけるタイム・マネジメントは無視できないというのが一般的論調である。
7.2.2 CCM の事例研究
クリティカル・チェーンの管理(Critical Chain Management:以下CCMと称す)手法の適用は、
軍事カメラ(Cook, 1998)、船舶(Fujimoto et al., 2003)、軍事用フライト・シミュレータ(Pitts, 2000)、米国の建設業事業(Yeo & Ning, 2002)、ソフトウエア(建部 et al., 2004)などの分野にお ける事例研究で見られる。そしてこれらの事例によれば、CCMはプロジェクトの遅延を削 減させるのに効果があるとされている。建部ら(2004)によれば、ソフトウエア開発において、
0 2 4 6 8 10 12
Reduction in lifetime profit (%)
Lateness (1 year late)
Product performance (10% low volume) Product cost (10% higher cost) R&D expense (50% over budget)
Development factor
0 20 40 60 80 100
Reduction in lifetime profit (%)
Lateness (1 year late)
Product performance (10% price discount) Product cost (10% higher cost) R&D expense (50% over budget)
Development factor
Mechanical product
Electrical product
図7.2 製品開発における優先事項と収益(Smith, 1988)
CCMはプロジェクトの工期を短縮させるだけでなく、スケジュール・リスクを低減させ、
作業の実践者の志気と効率性を高める潜在能力を持ち合わせていることも検証されている。
しかし現在まで、半導体設計開発の領域ではCCMの適用事例の積み重ねが行われていな い。本章で提案する統合アプローチとは、スケジュール管理、CCMそしてアウトソース化 の統合したものである。7.6節ではこの統合アプローチを半導体設計開発プロジェクトに適 用して、工期短縮を検証する。従ってこの検証は、半導体設計開発におけるCCM の事例研 究として意義あるものと言える。