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イタレーション発生時の現行の管理手法の限界点

ドキュメント内 製品開発における設計負荷とその低減 (ページ 53-60)

第 2 章 設計プロセスにおける問題と先行研究

2.5 イタレーション発生時の現行の管理手法の限界点

  設計プロセスのイタレーションに対処しなければならない企業は存在する。しかし本質 的な課題がイタレーションを要因としているにも係わらず、議論のすり替えが行われてい る場合がある。例えばイタレーションの起因は、個人の人為的な問題である、または要求 仕様が頻繁に変更されることによる、との誤った指摘である。この様な場合、総論の中で 議論されるイタレーションは、各論の中で議論されるイタレーションよりイタレーション の理解を遅らせる傾向にある。するとイタレーションを計画策定に反映させることは困難 になってしまう。実際の所、現行の管理手法はイタレーションを想定していない。そして そのモデル化もできない。つまり、イタレーションの視点を最優先としていないことが限 界点の一つである。

次項では引き続き、半導体設計という実践プロジェクトの観察を通じて得られた知見に 基づき、その限界点について具体的に説明を行う。次項で述べるイタレーションに対する 現行の管理手法の限界については、半導体だけでなくその他の工業製品にも共有できる可 能性がある。

2.5.1 スケジュールの心理的抑圧 

  特定顧客向けの半導体製品の設計プロセスの場合、まず顧客による製品購入の意思決定 と要求仕様の決定から始まる。設計プロセスにおける目標は、適切な製品を適切な原価で、

適切な時期に提供することである。製品を市場に投入する上で検討される適切な時期とは、

顧客との契約上の日程である。契約上の日程通りに顧客に提供することによって、そのプ ロジェクトは終了する。設計プロセスの工程中、製品提供の時期が契約上の日程から遅延 すると想定される場合には、企業は契約上の日程に見合う様に努力を行う。従って設計プ ロセスは、スケジュールという要素によって駆り立てられると言える。

適切な計画策定が実施されていないプロジェクトの場合は、スケジュールを中心として 終始、関係者が動かされる可能性がある。時には危機感という緊張感が強いられる。その 様な状況下においては、設計プロセス上のイタレーションを持つプロジェクトも存在する はずである。その場合には、適切な計画策定がされていないのであるから、イタレーショ ンを想定していない可能性は高い。こういった状況下では、イタレーションが顕在化する ことで、スケジュールのリスクが顕在化する可能性がある。

2.5.2 リソースの制約 

  適切な時期までに必要なリソースを確保することは、プロジェクトを開始する上で必要 なことである。しかしプロジェクトに向けて十分なリソースが得られているもかかわらず、

まだそのプロジェクトが開始されていないならば、リソースの無駄が発生していることを 意味する。

実体設計や概念設計に必要なリソースを確保したままの状態で、まだプロジェクトの抽 象的な上流設計である概念設計を行っているなら、経営上大変クリティカルな状況である。

それは実体設計や詳細設計の開始時期まで、不必要なリソースが消費されるからである。

  従って設計者はリソースが確実に確保される時期を考慮しながら、概念設計を行う方が 好ましいと言える。概念設計を行っている時には、新たな問題や課題の発見ができる可能 性もある。そしてその問題や課題も考慮しながら、リソース確保の再調整を可能にする効 果もあるからである。

  一般的に、リソースの必要条件は概念設計時に決定されるものであるが、逆にそのリソ ースという必要条件が最初に決定されているプロジェクトも存在する。リソースの必要条 件が最初に前提条件として決まっている場合には、そのリソースを配分する領域の優先順 位の分析を行う可能性が高い。もし仮にその分析時点においてリソースを配分する領域が 対象として上げられていないなら、そのリソースは配分されないことになる。つまり、優 先順位が決定され次第、その順位でリソースが配分される。そこにプロジェクトのリスク は存在していると言える。

なぜならば、上流の概念設計から、実体設計そして詳細設計と具現化が進むにしたがっ

て、上流設計では見過ごされていた問題が顕在化することがあるからである。本来、その 問題はリソースを配分すべき領域として予め優先順位に上げていなければならなかったと 言える。下流の実体設計そして詳細設計でこの様な事態が生じると、その問題が生じるタ スク自身を変更するか、または上流に戻り概念設計を修正するか、場合によっては要求仕 様を修正することになる。従ってリソース制約という条件によっては、イタレーションの 顕在化の可能性はあると言える。

2.5.3 タスクの所要時間と反復修正の回避思考 

  概念設計の構想には時間を要する。なぜならば、概念設計時には多様な構想概念が存在 する。そして、その構想概念の数量分の分析を行わなければならないからである。その構 想をプロジェクトの前段階として早めに着手しておけば、プロジェクトを計画通りに終了 させることはより容易になる。しかし概念設計時は、前提となる必要条件を完全に把握す ることが困難なこと、仮定に基づいて進展せざるを得ない活動が存在すること、プロジェ クトの進展過程でどういった中間結果が出るのか不明な点があること等により十分な情報 を持ち合わせていない。つまり、概念設計からスタートする設計プロセスでは反復修正の 可能性がある。

  ここでそこで発生する所要時間が短いタスクと長いタスクの二つ、そして設計者の思考 との関係を考えてみる。タスクの所要時間が短いタスクの場合、反復修正を重ねる機会は 少なくない。それはスケジュールの遅延に大きな影響を及ぼさないと設計者は考えるから である。一方、タスクの所要時間が長いタスクの場合には、その傾向は逆に少なくなる。

それは反復修正による所要時間の総量が大きくなる、又はタスク内の情報経路が長くなり 長期化する、すなわち反復修正を回避しようと考えるからである。つまりタスクの所要時 間によっては、スケジュールに影響を及ぼすと考える思考を通じて、反復修正に対する牽 制が働いていると言える。

  しかしタスクの所要時間が短いタスクは反復修正を重ね続けていくと、将来的にタスク の所要時間の長期化に順応してしまう可能性がある。するとこの順応によるタスクの所要 時間の増加が、反復修正への牽制を遅らせることにつながる。つまりタスクの所要時間が 長いタスクに対しても、抵抗感無く反復修正の行為につながる可能性がある。

技術的視点から見れば、この反復修正による設計成果は最適であるかもしれない。しか しその反面として、コスト増しの発生要因となってしまう。従って、イタレーションの視 点から見ればこの行為は問題とすべき点である。イタレーションの視点から見た設計プロ セス管理を行うならば、こういった行為を軽視せず、適切な対応につながると言える。

2.5.4 設計プロセスにおける進捗の測定 

  製品開発における設計初期の工程においては、明確な設計活動基準に基づいて計画され

ることは少ない。また、どういった設計活動が必要かという問いに基づいて計画策定され ることも少ない。設計初期の工程では、まず設計上の克服すべき課題点をできるだけ多く 集めてから、その課題の対処について検討を行う方法が一般的である。これらの課題は工 程の進捗にしたがって克服され、そして徐々に設計の収束へと導かれる。しかしこの様な 方法も設計上の問題を生じる可能性がある。その可能性をここで二つ指摘する。

  一つ目は、上述のリソースの制約によるイタレーションの顕在化と類似している。類似 点は設計上の課題を集める作業過程である。設計プロセスにおいて、設計上の課題を多く 集めるという作業は、打ち合わせといった複数の設計者の場で行われる。この場合、打ち 合わせの時点において課題対象として取り上げられるべき重要課題が見過ごされているな ら、その課題は克服されないことになる。そこにプロジェクトのリスクは存在している。

  二つ目は、設計プロセスの進捗を測定する方法に関することである。設計プロセスの進 捗を測定する一つの方法としては、設計課題の数が徐々に減少するのを観察することであ る。しかし設計課題は設計の進展過程にしたがって減少するとは限らない。むしろ課題が 減少した分だけ、新たな課題が持ち上がる可能性もある。その場合は、設計課題の数が発 振する様に上下する。つまり、設計の収束が導けないことになる。そこにもう一つのプロ ジェクトのリスクが存在している。

  この様に、設計初期の工程で設計上の克服すべき課題をできるだけ多く集め、そしてそ の課題の対処について検討を行う方法は、必ずしも効果的であるとは言えない。設計中に ある課題が克服されると同時に新たな課題が提示される場合、その新しい課題がその時点 で最優先事項になる可能性が高い。製品開発を行う設計者や組織はこの状況の存在は理解 している。そして最悪事態として手戻り修正を引き起こす可能性があることも理解してい る。しかし新たに持ち上がった課題によって、手戻り修正が生じる時の対処方法は持ち合 わせていない。

  次に製品開発における設計工程後期について述べる。製品開発における設計工程の後期 においては、設計の進展過程を測定する伝統的な方法は、図面やプログラムの完成度を測 定することである。設計関係者の多くは、この測定方法が設計成果物の品質に悪影響を及 ぼすことを認識している。設計関係者にスケジュールだけを意識させることは時間軸上の 動機付けにはなるが、設計成果物の不完全性を生む可能性があるからである。現実的には 新しい図面やプログラムが生成される毎に、大幅な修正が繰り返されることになる。そし てスケジュールの遅延をまねく。しかし修正の繰り返し、すなわちイタレーションは必ず しも全てが悪いというわけではない。イタレーションは設計の改善を目的としているから である。

  本節を簡単にまとめると、設計初期の工程において設計上の課題を集め、その課題の対 処について検討を行う方法、そして設計後期の工程において設計の進展過程を測定する伝 統的な方法について述べた。これらは一般的に利用される実践的な進展過程の測定方法で ある。これらの測定方法は反復修正、すなわちイタレーションを発生させる可能性が高い。

ドキュメント内 製品開発における設計負荷とその低減 (ページ 53-60)