第 8 章 大規模システムの設計プロセスにおける
程を減少させるための有効なアプローチとして、半導体IPの利用と、ハードIPを多用した レイアウト設計手法を提案する。本章で提案するアプローチの手順と従来技術の手法とを 比較し考察する。
8.2 半導体設計手法の変遷
8.2.1 規模的拡大と設計の抽象性レベル
今日の情報技術が進展している社会の中で、我々は多くの複雑きわまりない事に直面し、
そして簡単にそれに打ちひしがれ、途方に暮れてしまう。そういった事態を克服するには その時直面する情報の量を制限することである。「木を見て森を見ず」、すなわち一本一本 の木々を見るのでなく、森林全体を見渡すことで解決の糸口が見えてくる。今日の半導体 設計も、この例にもれない。
今日の半導体は大規模・複雑化している。Gordon Moore (1965)は、「半導体に集積される トランジスタの数は2年ごとに倍増する」というムーアの法則を打ち立てた。この間、この 予測はいつか壁にぶつかるだろうとも言われてきたが、これまでのところ法則は破られて いない(注1)。実際の所、半導体と半導体に密接に関連しているコンピュータはますます強 力かつ安価になっている。そしてトランジスタの年間製造量は現在、年間に印刷される文 字の数とほぼ同程度になっているとMooreは指摘している(Moore, 1995)。
大規模・複雑化している半導体のシステム性能を評価するなら、そして設計の具現化を 行おうとするなら、システム設計者の観測する視座のレベルが重要な要素となる(Armstrong, 1989)。半導体は一つのシステムであり、そのシステムの問題点を解決するには、適当なレ ベルの抽象性をもって作業することである。その抽象性のレベルとは、その時に必要な情 報だけをつかみ、しかも設計者に不必要な情報を与えて困惑させないレベルを意味する。
図8.1は、デジタルの世界でのシステムの抽象性レベルを示したものである(Armstrong, 1989)。抽象性の最上位レベルはアーキテクチャ(architecture)・レベルである。そして抽象性 レベルが下がる順に、チップ(chip)・レベル、レジスタ・トランスファ(register transfer)・レ ベル、ゲート(gate)・レベル、トランジスタ(transistor)・レベル、シリコン(silicon)・レベル となっている。
図8.2は、それぞれのレベルの代表的な構造例である。抽象性レベルは、構造的見地から 階層的表現で示すことができ、下層に移るほど実体概念として表現しなければならない情 報量が大きくなる。
抽象性レベルは機能的見地から階層的表現で示すこともできる。表8.1は、それぞれのレ ベルを構造的、機能的見地から整理したものである。
シリコン トランジスタ(回路) ゲート、F/F
レジスタ チップ アーキテクチャ
図8.2 抽象性レベルの表示
console cpu
cache ram
Behavioral Description UART
図8.1 デジタル・システムの抽象性レベル(Armstrong, 1989)
Architecture Chip Register
Gate Transistor
Silicon
8.2.2 設計の抽象性レベルの概略
1) シリコン・レベル
各抽象性レベルについて、設計手法の変遷と併せて、下層から上層の順に述べる(電気通 信学会, 1984; 室賀, 1984; 加藤, 1992)。
まず最下層のシリコン・レベルである。シリコン・レベルの基本的プリミティブ(primitive:
最小単位)は、シリコン表面上の拡散面、ポリシリコン(poly-silicon:多角形にエッチング された表層)、メタル(metal:金属膜)等の幾何学的形状である。これらを相互接続するこ とで半導体を構築する。
1960年代、こういった構造的な表現を積み重ねることで初期の半導体は作られた。つま り、初期の半導体設計は製造プロセス条件に従って、紙・鉛筆、手でトランジスタの設計 を行うデバイス設計、そしてそれらを組み合わせる回路設計をすることであった(室賀, 1984)。その設計成果として、マスク・パターン(mask pattern)が作成され、製造工程へ提供 される。
表8.1 各抽象性レベルの最小構成要素と機能的表現(Armstrong,1989))
レベル 最小構成要素 機能的表現
アーキテクチャ CPU、メモリー、バス等 パフォーマンス仕様 チップ マイクロプロセッサ、RAM、
ROM、UART、パラレル・ポート等
I/Oスピード、アルゴリズム、
マイクロ・オペレーション レジスタ レジスタ、カウンタ、
算術演算子、乗算器等
真理値表、状態遷移、
マイクロ・オペレーション ゲート ゲート、フリップ・フロップ ブール代数
サーキット トランジスタ、R、L、C 微分方程式 シリコン 幾何学的オブジェクト なし