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製品開発のリスクと設計プロセス

ドキュメント内 製品開発における設計負荷とその低減 (ページ 72-75)

第 3 章 設計プロセスにおける状況認識と不確実性の源泉

3.2 製品開発のリスクと設計プロセス

3.2.1 製品開発におけるリスクの基本要素 

ここでリスクの分類について述べる。製品開発におけるリスクの分類については様々な 研究者によって行われている(Boehm, 1989; Brekka, 1994; Hall, 1998; Hoy, 1996; Justice, 1996;

Michaels, 1996; Reinertsen, 1997; Roberts, 1996; Sage, 1992; Sarbacker, 1997; Shishko, 1996;

Smith, 1991; Souder, 1993)。これらの共通事項を整理してまとめると、スケジュール・リス ク(schedule risk)、コスト・リスク(cost risk)、性能リスク(performance risk)、技術リスク (technology risk)、市場リスク(market risk)、ビジネス・リスク(business risk)に分類される。

現実の世界では、この六つのリスクの中から幾つかのリスクが顕在化したとしても、残 りのリスクの顕在化を防ぐことはできる。しかしこれらリスク全ての顕在化を同時に防ぐ ことは困難な取り組みである。つまり、これらリスク全ては明らかに独立ではない。従っ て他のリスクとの従属性についての付帯条件がなければ、リスクの低減自身は意味をなさ なくなる可能性がある。そこでその付帯条件を踏まえて、本章の製品開発におけるリスク について以下に定義しておく。

i) 計画納期リスク

計画納期リスクは、他のリスク要因からの影響を受けない条件のもと(すなわち、仕様 で規定した製品能力を間違いなく実現でき、かつ設計開発コストを予算以内に実現できる 前提条件のもと)、設定した納期以内に設計解を導出できるかどうかという不確実性を包含 する。そして、この確率的な不確実性度合いだけでなく、納期以内に設計解が導出できな い場合の経済的損失量も包含する。例えば、計画納期からの誤差による遅延が大きくなれ ば、遺失利益は大きくなる。この遺失利益額はリスクの一情報成分である。

ii) 計画コスト・リスク

本章の計画コスト・リスクは製品開発の所要コストのリスクである。このコスト・リス クは、他のリスク要因からの影響を受けない条件のもと(すなわち、仕様で規定した製品 能力を間違いなく実現でき、かつ計画納期以内に実現できる前提条件のもと)、設定したコ スト予算以内で設計解が導出できるかどうかという不確実性と、コスト予算以内に設計解 が導出できない場合の経済的損失量を包含する。計画コストが上回れば、その増加分だけ 確実に経済的負担は大きくなる。その経済的負担額がリスクの経済的損失量である。

iii) 計画性能リスク

計画性能リスクは、他のリスク要因から影響を受けない条件のもと(すなわち、目標設

定した納期以内に間違いなく実現し、かつ設計開発コストを予算以内に実現できる前提条 件のもと)、仕様で規定した製品能力を実現した設計解を導出できるかどうかという不確実 性と、その設計解を導出できない場合の経済的損失量を包含する。規定仕様に満たない製 品能力が製品の競争力を低下させるなら、遺失利益が生じてしまう可能性がある。この遺 失利益額が経済的損失量である。

本章における分類に従えば、計画性能リスクの計画性能とは仕様で規定された製品能力 を意味する。付帯条件を加味すると、その製品が投入される時期が適切であり、そして製 品の売値が適切であるという前提にたっている。なぜならばそれらは性能リスクに影響を 与えるからである。

iv) 技術リスク

技術リスクは、仕様で規定した性能以外の技術に関するリスクである。提供される技術 は前もって入手していた技術情報通り一致しているのかどうか、提供される技術は本当に 実現可能な設計解を選択しているのかどうか、あるいは技術的な仮定が急速に変化する市 況のもとでその設計解は現在でも正しいのかどうかという不確実性である。技術リスクは それが顕在化したときの経済的損失量も包含する。急速に技術が進展する環境に置かれる 製品の場合に、この不確実性は高くなる。技術リスクの顕在化が製品の競争力を低下させ るなら、遺失利益が生じてしまう可能性がある。

v) 市場リスク

本章の製品開発における市場リスクは、顧客視点の製品価値と企業視点による製品価値 が一致するのかどうかという不確実性と、一致しない場合に生じる経済的損失量である。

製品価値は企業の視点と顧客の視点で異なる。その理由は、製品の価値は企業が造り出す ものであるが、製品の価値は顧客によって評価されるからである。例えば、企業の視点で 規定した製品の投入時期並びに製品の売値を実現し、かつ仕様で規定した性能を実現する ことができたとしても、その企業視点による製品価値は顧客視点と一致するとは限らない。

むしろ一致することはまれである。従って、顧客視点の製品価値と企業視点による製品価 値の間では、ばらつきを持っていると考えられるから、市場リスクは存在すると言える。

市場リスクの顕在化によって製品販売の低下をまねくなら、遺失利益が生じる可能性があ る。

vi) ビジネス・リスク

ビジネスの環境においては、政治的要因、経済情勢、雇用情勢、社会情勢といった様々な 要因が、企業が計画策定していたビジネスに影響を及ぼす。こういった要因で想定される リスクがビジネス・リスクである。ビジネスに与える影響度合いは常に不定であるので、

ビジネス自身は不確実性を持っている。ビジネス・リスクはこの確率的な不確実性度合い だけでなく、先の要因が顕在化した時の経済的損失量も包含する。ビジネス・リスクの顕 在化が製品販売の低下をまねくなら遺失利益が生じる。この遺失利益がビジネス・リスク 上の経済的損失量である。

3.2.2 スケジュール、コスト、製品性能 

これら六つのリスクは二つの領域に分けることができる。それは企業を取り巻く外乱要 因によるか否かという区分である。上述の説明から、技術リスク、市場リスク、そしてビ ジネス・リスクは、企業の外部から直接的に企業に影響を及ぼしていることが認識できる ので、外乱要因によるものと言える。その外乱要因は企業が制御することは容易ではない。

一方、計画納期リスク、計画コスト・リスク、計画性能リスクは、企業が内包する因子に よってもたらされており、企業の設計プロセス上の問題である。つまり企業が制御、管理 可能な対象である。従って本章ではこの三つのリスクに焦点を当てて引き続き議論を進め る。尚、以下計画納期をスケジュールと読み替える。

  スケジュール、所要コスト、そして製品性能という三つの要素の中で、表層的に企業の 外部から容易に認識できるのは製品性能である。しかし企業は製品性能だけに基づいて競 争するとは考えにくい。製品を発売する適切な時期、製品の売値設定という次元もバラン ス良く検討することが求められるからである。従って、製品性能だけでなく、製品の売値 に影響を及ぼす設計プロセスの所要コスト、並びに市場への投入時期に影響を及ぼす設計 プロセスの所要時間を、同時に効率化・改善させることが、企業経営における重要事項の 一つである。

しかし昨今では、製品開発上の設計プロセスは大規模化し、複雑性も増している。そし て競争が激しく製品開発では、コストに対する感度も高くならざるをえない。更に前述の 通り、リスクは全て独立関係にはない。つまり、リスクに対して直感的な管理や付け焼き 刃的な対処の仕方では困難になってきていると言える。

  上記で議論した設計プロセスにおけるスケジュール、所要コスト、そして製品性能に関 する関係図をまとめると図3.1の通りとなる。前述の説明の通り、製品性能は市場への投入 時期や製品の売値と直接的に関係を持つ。つまり、製品性能は単なる技術的属性だけで定 義付けされていない。製品性能で位置付けられている製品の市場への投入時期は、設計プ ロセスの所要時間だけでなく、生産製造の所要時間、物流時間、在庫期間の関数で示すこ とができる。そして製品の売値の方は、設計プロセスの所要コスト、生産製造コスト、限 界利益、その他指標で構成された関数で示すと判りやすい。これらの関数は実践的である。

しかしこれらの関数はまだ完全に洗練されたものとは言い難い。なぜならば、双方の関数 とも実践的に反映しにくい需給、競合といった製品市場の要因を含み入れていないからで ある。

  一般的に製品の技術的な性能を向上させるためには、設計開発に対する時間と資金が必

要となる。しかしながら、予め設定していた以上の経営資源を消費しないことを前提とし ている。従って、企業の設計開発者にとって製品開発時の目標は、適切な時間と資金で、

顧客視点の製品価値から逆算した技術的な性能を実現することである。

3.2.3 設計プロセスにおける不確実性の因果連鎖 

  本章では製品開発における設計プロセスを対象として、三つのリスクそれぞれの不確実 性の因果関係を議論する。まず不確実性を引き起こす因子を特定することが本章で重要な 事項の一つである。さらに不確実性を起因している因子同士の関係について因果連鎖ダイ アグラムによって解明することも不可欠である。この因果連鎖ダイアグラムについては、

先行研究や半導体設計の実プロジェクトの観察を通じて得られた知見に基づき構築する。

因果連鎖ダイアグラムは、実践の設計開発プロジェクトに携わる管理者、設計技術者に対 してリスク管理に向けた意思決定を側面から支援するものである。 

 

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