第 7 章 意味論
7.8 ダイクシス
7.8.2 視点表現
b. [港の近くに住んでいる女の先生だとわかって]
aa aN onago=no seNsee.
ああ あの 女=GEN 先生
‘ああ,あの女の先生。’
(163) [今,新しい本を読んでいると紹介されて]
hee sogaNta hoN=ba mii-joi-jai=to=N? sogaNta hoN=naraa joN-de へえ そうした 本=ACC 見る-IPFV-HON=NLZ=Q そうした 本=COND 読む-CTX
miro gota=naa.
みる:VOL 様子:ある:NPST=SFP
‘へえ,そんな本を見ていらっしゃるの?そんな本なら読んでみたいなあ。’
(164) [(163) の会話をした翌日の談話で,(163) の発話と同一人物が]
juu-toi-jaQ-ta aN hoN=ba kas-ite kui-jar-e.
言う-CONT-HON-PST あの 本=ACC 貸す-CTX くれる-HON-IMP
‘おっしゃってたあの本を貸してください。’
(167) a. aNsaN=ga koN hoN=ba kui-ta=doo.
兄さん=NOM この 本=ACC くれる-PST=SFP
‘兄さんがこの本をくれたよ。’
b. oi=ga aNsaN=ni koN hoN=ba kui-ta=doo.
1SG=NOM 兄さん=DAT この 本=ACC くれる-PST=SFP
‘私が [兄さんに] この本をあげたよ。’
(168) a. hoN=ba kui-ta=doo.
本=ACC くれる-PST=SFP
‘[子どもが] 本をくれたよ。’
b. koN hoN=ba kuru-i=dee.
この 本=ACC くれる-NPST=SFP
‘[孫に] この本をあげるよ。’
また,一人称者が非一人称者からものを受納する時は,moraw- が用いられる。
(169) [上位者からおみやげをもらう場面。いくつか見せてもらって]
wasjaa koQci=ba morjaa-mos-u.
1SG:TOP こっち=ACC もらう-POL-NPST
‘私はこちらをもらいます。’
7.8.2.3 恩恵の視点
里方言の恩恵表現としては次の表現がある。
(170) a. -te#kure- ‘~てくれる’
b. -te#jar- ‘~てやる’
c. -te#moraw- ‘~てもらう’
d. -te#age- ‘~てあげる’
標準語に見られる「てくださる」と「ていただく」は,里方言本来の形式とは認識されていない。
「てくださる」に相当する形式としては,-te#kure-jar- ‘CTX#くれる-HON’ がある。
(171) sono omoci=mo cui-tari si-te kui-jar-ebaa その お餅=も つく-ILST する-CTX くれる-HON-COND
‘[役員さんが] そのお餅もついたりしてくだされば’
里方言の -te#kure- は,一人称者への授益や,一人称者から目下の非一人称者への授益を表す。
標準語の「てくれる」は受益者が一人称者でなければならないという意味統語上の制約があるが,
里方言の -te#kure- は,一人称者から非一人称者への授益も,その逆の授益も表すことができる。
(172) a. iQsjoo mago=ga Ndoge=N koto=ba kasee si-te kuru-i=jo.
よく 孫=NOM 1PL:家:GEN こと=ACC 加勢 する-CTX くれる-NPST=SFP
‘よく孫が私たちの家のことを手伝ってくれるよ。’
b. [掃除を手伝う場面]
oi=ga aQko=ga sigoto=ba kasee si-te kuru-i=ga.
1SG=NOM 2SG=GEN 仕事=ACC 加勢 する-CTX くれる-NPST=SFP
‘私がおまえの仕事を手伝ってやるよ。’
-te#jar- は一人称者から非一人称者への授益や,三人称者同士の授益を表す。非一人称者から一人
称者への受益は表現できない。
(173) a. waka-i hito=ga susume-te jononaka=ni das-ite jai=te
若い-NPST 人=NOM 勧める-CTX 世の中=DAT 出す-CTX やる:NPST=QUOT
ju-u=to=mo hitocu=no rihabiri=i nai.
言う-NPST=NLZ=も 1つ=GEN リハビリ=DAT なる:NPST
‘若い人が勧めて [老人を] 世の中に出してやるというのも,1つのリハビリになる’
b. saQki koo-te jaQ-ta=ga=ne.
さっき 買う-CTX やる-PST=SFP=SFP
‘さっき [孫にお菓子を] 買ってやったがね。’
(「孫が私に買ってくれる」の時には非文法的)
-te#age- は基本的には謙譲語としての機能を有しており,目上の非一人称者に対する授益を表す。
申し出の際にも用いられる。
(174) a. [先生の仕事を代わることを申し出る]
seNsee soN sigoto=ba wasi=ga kawaQ-te age-moos-oo=ka?
先生 その 仕事=ACC 1SG=NOM 代わる-CTX あげる-POL-VOL=Q
‘先生,その仕事を私が代わってあげましょうか?’
b. [Aが料理の作り方を教えてほしいと頼まれたので]
A: cuku-i+kata=ba juutekase-te.
作る-NL+方=ACC 教える-CTX
B: ee cuku-i+kata=ba juutekase-te. jai=baQteka buNrjoo=mo=naa.
ええ 作る-NL+方=ACC 教える-CTX VLZ:NPST=CONC 分量=も=SFP
A: jai=dee buNrjoo=mo kai-te age-te ategoo-te ki-ta=to.
VLZ:NPST=CSL 分量=も 書く-CTX あげる-CTX あてがう-CTX 来る-PST=NLZ
A: ‘作り方を教えてあげて’
B: ‘えー,作り方を教えて,だけど分量も’
A: ‘だから,[紙に] 分量も書いてあげて,あてがってきたの。’
ただし,女性の中には,目下の非一人称者に対する授与をage- で表す人物もいるので,話者によっ てはこれを美化語と捉えていると考えられる。
7.8.2.4 juute#kas-
一人称者に対する恩恵は -te#kure- によって表すのが普通であるが,「教えてくれる」に相当する 意味は例外的に juu-te#kas- //iw-te#kas-// のみで表す。juu-te#kas- を使う時は -te#kure- まで用いる 必要はない (juu-te#kas- は分析されることが少ないので,グロスでは全体に「教える」を付した)。
(175) a. niisaN=ga oi=ni taisoo=ba juutekai-ta=doo.
兄さん=NOM 1SG=DAT 体操=ACC 教える-PST=SFP
‘兄さんが私に体操を教えてくれたよ。’
b. oi=ga niisaN=ni taisoo=ba juutekai-ta=doo.
1SG=NOM 兄さん=DAT 体操=ACC 教える-PST=SFP
‘私が兄さんに体操を教えてあげたよ。’