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取り立て

ドキュメント内 甑島里方言記述文法書 (ページ 108-112)

第 6 章 統語論

6.2 取り立て

間に意味的な棲み分けは見られず,自由に入れ替えることができるようである (話者の内省による と,=zuiは方言形式で,=madeは標準語形式とのことである)。

(48) では,ik- ‘行く’ という事態の空間的終点がkagosima ‘鹿児島’ であることが,0 では,見る

という事態の終点が baN (晩) であることが,=zui によって示されている。前述のとおり,=zui は

=madeと交替できる。

(48) a. kagosima={ zui / made } kaimono=ni ita-te ku-i=dee.

鹿児島=TERM 買いもの=DAT 行く-CTX 来る-NPST=CSL

‘鹿児島まで買いものに行ってくるから。’

b. asa=kara baN={zui / made } mi-toQ-te=mo jo-ka=do.

朝=ABL 晩=TERM 見る-CONT-CTX=も いい-NPST=SFP

‘朝から晩まで見ていてもいいよ。’

なお,=madeと =zuiは上述の用法以外に,6.2.6節に示す取り立ての用法も有している。

(51) a. [「柴投げ」という遊びについて]

onago=mo si-joQ-ta=baQte 女子=も する-IPFV-PST=CONC

‘女子もしていたけど’

b. * onago={ ga / no }=mo si-joQ-ta=baQte

女子=NOM=も する-IPFV-PST=CONC 《主格名詞の取り立て (添加)》

(52) a. riNgo=mo koo-da=si momo=mo koo-da=doo

りんご=も 噛む-PST=PARA 桃=も 噛む-PST=SFP

‘りんごも食べたし,桃も食べたよ’

b. * riNgo=ba=mo koo-da=si momo=ba=mo koo-da=doo

りんご=ACC=も 噛む-PST=PARA 桃=ACC=も 噛む-PST=SFP

《対格名詞の取り立て (添加)》

6.2.2 取り立て助詞

当方言の取り立て助詞には,次のものがある。

(53) = wa ‘主題, 対比’, =mo ‘添加, 並列’, =saaka ‘添加’, =zui ‘添加’, =doogu ‘例示’(, =siko

‘限度’)

これらのうち,=doogu については意味・用法の詳細が掴めていない。以下,=doogu 以外の形式 に取り立て助詞についてそれぞれ記述する。

6.2.3 =wa (主題,対比)

=wa ‘TOP’ は「主題」と「対比」を表す (形態音韻的特徴については3.5.2節を参照)。=waは主題 用法と対比用法では統語的に異なるふるまいをするが,意味の面で完全に二分できるものではなく,

それぞれの典型を両極とし,互いに連続していると考えられる。なお,本稿では,=wa には一律便 宜的にTOPというグロスを当てている。

まずは主題用法について述べる。=wa は当該名詞を主題として提示する機能を持っており,たと えば,(54)aでは,kinoo ‘昨日’ が,(54)bでは,aN#ko ‘あの子’ が,(54)cでは,huzisaN ‘富士山’ が,

(54)dでは,koN#io ‘この魚’ が主題であることが =waによって示されている。

(54) a. kinoo=wa kodomo=o mukae-nja nar-aN=jaQ-ta=dee 昨日=TOP 子ども=ACC 迎える-NEG.COND なる-NEG=VLZ-PST=CSL

hajo kaeQ-ta.

早く:NL 帰る-PST

‘昨日は子どもを迎えなければならなかったので,早く帰った。’

b. aN kaa meme=N na-ka ujee seekaku=zui waika=doo.

ko=wa

あの 子=TOP 見目=GEN ない-NPST うえ:DAT 性格=TERM 悪い:NPST=SFP

‘あの子は見た目が悪いうえに,性格まで悪いよ。’

c. huzisaN=wa nihoN=de icibaN taQ-ka jama=jai=doo.

富士山=TOP 日本=LOC 一番 高い-NPST 山=VLZ:NPST=SFP

‘富士山は日本で一番高い山だよ。’

d. koN io=wa naN=cju-u io=ja-imos-u=ka?

この 魚=TOP 何=QUOT:言う-NPST 魚=VLZ-POL-NPST=Q

‘この魚は何という魚ですか?’

次に対比用法について述べる。=waは当該名詞を他の名詞と対比させる。たとえば,(55)aでは,

sakana ‘魚’ に対してniku ‘肉’ が,(55)bでは,otoko ‘男’ に対してonago ‘女’ が対比されている。

(55) a. sakana=wa mainici tabe-toQ-te=mo sogaN sjokusjoo

魚=TOP 毎日 食べる-CONT-CTX=も そんなに 食傷

se-N=baQte niku=wa=naa.

する-NEG:NPST=CONC 肉=TOP=CNF

‘魚は毎日食べていても,そんなに食傷しないけれど,肉はなあ。’

b. siN=no sjoogacu=wa otoko=dake=no mono=de onagaa anmai de-te onago=wa

新=GEN 正月=PST 男=だけ=GEN もの=INST 女=TOP あんまり 出る-CTX

dearuki si-oi-moos-aN=jaQ-ta.

出歩き する-IPFV-POL-NEG=VLZ-PST

‘新正月は男だけのもので,女子はあまり出歩きしていませんでした。’

6.2.4 =mo (添加,並列)

=moは「添加」と「並列」を表す。まずは添加用法について述べる。(56)aでは,柴投げという遊 びについて,男子だけでなく,onago ‘女’ もしていたという意味が,(56)bでは,色々見せるものが あって,さらにkazuratate ‘カズラタテ’ を見せようという意味が =moによって示されている。

(56) a. [子どもの頃の遊び「柴投げ」について]

onago=mo si-joQ-ta=baQte 女=も する-IPFV-PST=CONC

‘女の子もしていたけど’

b. oboN=ni ku-i hito=ni kazuratate=mo mise-joo.

お盆=DAT 来る-NPST 人=DAT カズラタテ=も 見せる-VOL

‘お盆に来る人にカズラタテも見せよう。’

次に並列用法について述べる。(57)a では,項を指す各名詞の並列関係が,(57)b では,並列され た節を超えて,riNgo ‘りんご’ とmomo ‘桃’ の並列関係が =moで標示されている。

(57) a. ima=koso juQkui icizicu=mo hucuka=mo miQka=mo si-mos-u=baQteka 今=こそ ゆっくり 元日=も 二日=も 三日=も する-POL-NPST=CONC

‘今でこそ,ゆっくり元日も二日も三日もしますけれども’

b. [PARA riNgo=mo koo-da=si] [S momo=mo koo-da=doo].

りんご=も 噛む-PST=PARA 桃=も 噛む-PST=SFP

‘りんごも食べたし,桃も食べたよ。’

6.2.5 =saaka (添加)

=saakaは添加を表す。調査は十分でないが,その意味は標準語の「さえ」のそれに相当すると考

えられる。たとえば,(58) では,当該の状況が満たされれば,結果が生じるという意味 (「せめて~だ けでも」の意) で,=saakaによって kuruma ‘車’ が取り立てられている。

(58) kuruma=saaka moQ-toor-eba nakagosiki=made 車=さえ 持つ-CONT-COND 中甑=TERM

ik-aru-i=cjai=baqte=na.

行く-pot-npst=nlz:vlz:npst=conc=sfp

‘車さえもっていれば,中甑まで行けるんだけどな。’

6.2.6 =zui, =made (添加)

=zui と =made は,6.1.6.7 節のとおり,格助詞としても用いられるが,本節に述べるように,取 り立て助詞としても使用される。この場合,=zui も =made も添加を表し,両者の交替は自由であ る (6.1.6.7節に述べたとおり,話者の内省によると,=zuiは伝統的な方言形式で,=madeは標準語 であるという)。

=zui, =madeの取り立ての用法では,たとえば,(59)aでは,k(u)w- ‘食べる’ という動作について,

自分の分だけでなく,さらに妹の分も食べたという意味が,(59)bでは,キビナゴだけでなく,さら に鯛まで食べたという意味が,=zuiによって示されている。

(59) a. imooto=no buN={ zui / made } ku-te simoo-ta.

妹=GEN 分=TERM 食べる-CTX しまう-PST

‘[自分の分だけでなく] 妹の分まで食べてしまった。’

b. tai=zui koo-da.

鯛=TERM 噛む-PST

‘[キビナゴだけでなく] 鯛まで食べた。’

6.2.7 動詞の取り立て

取り立て助詞は名詞以外の語にも接尾でき,次のように,動詞句内の動詞類を取り立てることも ある。それぞれの意味の詳細は分かっていないが,参考までに例を挙げておく。

(60) a. kak-jaa si-ta=baQte b. kak-i=mo si-ta=baQte kak-iØ=wa

書く-NL=TOP する-PST=CONC 書く-NL=も する-PST=CONC

‘書きはしたけど’ ‘書きもしたけど’

c. jasu-u={ wa / mo } na-ka=baQte 安く-NL={ TOP / も } ない-NPST=CONC

‘安くもないけど’

d. kak-u=saka su-rja jo-ka.

書く-NPST=さえ する-COND よい-NPST

(60)a–cのとおり,=wa, =moは -iØ形準体動詞ないし -u形準体形容詞に付く。一方,=saakaは =wa,

=moとは異なり,(60)dのように -ru形連体動詞に付く。

=wa, =moを取る動詞の構成要素と =sakaを取る動詞のそれは,次のように制限されている。

(61) -kas- -sase- -rare- -e- -tor- -ior- -ijar- -imos- -an- V={ wa / mo }: ? * * * * V=saka: *

(注) -rar- は使用語彙ではなかったため,その適格性は不明。

ドキュメント内 甑島里方言記述文法書 (ページ 108-112)