第 6 章 統語論
6.2 取り立て
間に意味的な棲み分けは見られず,自由に入れ替えることができるようである (話者の内省による と,=zuiは方言形式で,=madeは標準語形式とのことである)。
(48) では,ik- ‘行く’ という事態の空間的終点がkagosima ‘鹿児島’ であることが,0 では,見る
という事態の終点が baN (晩) であることが,=zui によって示されている。前述のとおり,=zui は
=madeと交替できる。
(48) a. kagosima={ zui / made } kaimono=ni ita-te ku-i=dee.
鹿児島=TERM 買いもの=DAT 行く-CTX 来る-NPST=CSL
‘鹿児島まで買いものに行ってくるから。’
b. asa=kara baN={zui / made } mi-toQ-te=mo jo-ka=do.
朝=ABL 晩=TERM 見る-CONT-CTX=も いい-NPST=SFP
‘朝から晩まで見ていてもいいよ。’
なお,=madeと =zuiは上述の用法以外に,6.2.6節に示す取り立ての用法も有している。
(51) a. [「柴投げ」という遊びについて]
onago=mo si-joQ-ta=baQte 女子=も する-IPFV-PST=CONC
‘女子もしていたけど’
b. * onago={ ga / no }=mo si-joQ-ta=baQte
女子=NOM=も する-IPFV-PST=CONC 《主格名詞の取り立て (添加)》
(52) a. riNgo=mo koo-da=si momo=mo koo-da=doo
りんご=も 噛む-PST=PARA 桃=も 噛む-PST=SFP
‘りんごも食べたし,桃も食べたよ’
b. * riNgo=ba=mo koo-da=si momo=ba=mo koo-da=doo
りんご=ACC=も 噛む-PST=PARA 桃=ACC=も 噛む-PST=SFP
《対格名詞の取り立て (添加)》
6.2.2 取り立て助詞
当方言の取り立て助詞には,次のものがある。
(53) = wa ‘主題, 対比’, =mo ‘添加, 並列’, =saaka ‘添加’, =zui ‘添加’, =doogu ‘例示’(, =siko
‘限度’)
これらのうち,=doogu については意味・用法の詳細が掴めていない。以下,=doogu 以外の形式 に取り立て助詞についてそれぞれ記述する。
6.2.3 =wa (主題,対比)
=wa ‘TOP’ は「主題」と「対比」を表す (形態音韻的特徴については3.5.2節を参照)。=waは主題 用法と対比用法では統語的に異なるふるまいをするが,意味の面で完全に二分できるものではなく,
それぞれの典型を両極とし,互いに連続していると考えられる。なお,本稿では,=wa には一律便 宜的にTOPというグロスを当てている。
まずは主題用法について述べる。=wa は当該名詞を主題として提示する機能を持っており,たと えば,(54)aでは,kinoo ‘昨日’ が,(54)bでは,aN#ko ‘あの子’ が,(54)cでは,huzisaN ‘富士山’ が,
(54)dでは,koN#io ‘この魚’ が主題であることが =waによって示されている。
(54) a. kinoo=wa kodomo=o mukae-nja nar-aN=jaQ-ta=dee 昨日=TOP 子ども=ACC 迎える-NEG.COND なる-NEG=VLZ-PST=CSL
hajo kaeQ-ta.
早く:NL 帰る-PST
‘昨日は子どもを迎えなければならなかったので,早く帰った。’
b. aN kaa meme=N na-ka ujee seekaku=zui waika=doo.
ko=wa
あの 子=TOP 見目=GEN ない-NPST うえ:DAT 性格=TERM 悪い:NPST=SFP
‘あの子は見た目が悪いうえに,性格まで悪いよ。’
c. huzisaN=wa nihoN=de icibaN taQ-ka jama=jai=doo.
富士山=TOP 日本=LOC 一番 高い-NPST 山=VLZ:NPST=SFP
‘富士山は日本で一番高い山だよ。’
d. koN io=wa naN=cju-u io=ja-imos-u=ka?
この 魚=TOP 何=QUOT:言う-NPST 魚=VLZ-POL-NPST=Q
‘この魚は何という魚ですか?’
次に対比用法について述べる。=waは当該名詞を他の名詞と対比させる。たとえば,(55)aでは,
sakana ‘魚’ に対してniku ‘肉’ が,(55)bでは,otoko ‘男’ に対してonago ‘女’ が対比されている。
(55) a. sakana=wa mainici tabe-toQ-te=mo sogaN sjokusjoo
魚=TOP 毎日 食べる-CONT-CTX=も そんなに 食傷
se-N=baQte niku=wa=naa.
する-NEG:NPST=CONC 肉=TOP=CNF
‘魚は毎日食べていても,そんなに食傷しないけれど,肉はなあ。’
b. siN=no sjoogacu=wa otoko=dake=no mono=de onagaa anmai de-te onago=wa
新=GEN 正月=PST 男=だけ=GEN もの=INST 女=TOP あんまり 出る-CTX
dearuki si-oi-moos-aN=jaQ-ta.
出歩き する-IPFV-POL-NEG=VLZ-PST
‘新正月は男だけのもので,女子はあまり出歩きしていませんでした。’
6.2.4 =mo (添加,並列)
=moは「添加」と「並列」を表す。まずは添加用法について述べる。(56)aでは,柴投げという遊 びについて,男子だけでなく,onago ‘女’ もしていたという意味が,(56)bでは,色々見せるものが あって,さらにkazuratate ‘カズラタテ’ を見せようという意味が =moによって示されている。
(56) a. [子どもの頃の遊び「柴投げ」について]
onago=mo si-joQ-ta=baQte 女=も する-IPFV-PST=CONC
‘女の子もしていたけど’
b. oboN=ni ku-i hito=ni kazuratate=mo mise-joo.
お盆=DAT 来る-NPST 人=DAT カズラタテ=も 見せる-VOL
‘お盆に来る人にカズラタテも見せよう。’
次に並列用法について述べる。(57)a では,項を指す各名詞の並列関係が,(57)b では,並列され た節を超えて,riNgo ‘りんご’ とmomo ‘桃’ の並列関係が =moで標示されている。
(57) a. ima=koso juQkui icizicu=mo hucuka=mo miQka=mo si-mos-u=baQteka 今=こそ ゆっくり 元日=も 二日=も 三日=も する-POL-NPST=CONC
‘今でこそ,ゆっくり元日も二日も三日もしますけれども’
b. [PARA riNgo=mo koo-da=si] [S momo=mo koo-da=doo].
りんご=も 噛む-PST=PARA 桃=も 噛む-PST=SFP
‘りんごも食べたし,桃も食べたよ。’
6.2.5 =saaka (添加)
=saakaは添加を表す。調査は十分でないが,その意味は標準語の「さえ」のそれに相当すると考
えられる。たとえば,(58) では,当該の状況が満たされれば,結果が生じるという意味 (「せめて~だ けでも」の意) で,=saakaによって kuruma ‘車’ が取り立てられている。
(58) kuruma=saaka moQ-toor-eba nakagosiki=made 車=さえ 持つ-CONT-COND 中甑=TERM
ik-aru-i=cjai=baqte=na.
行く-pot-npst=nlz:vlz:npst=conc=sfp
‘車さえもっていれば,中甑まで行けるんだけどな。’
6.2.6 =zui, =made (添加)
=zui と =made は,6.1.6.7 節のとおり,格助詞としても用いられるが,本節に述べるように,取 り立て助詞としても使用される。この場合,=zui も =made も添加を表し,両者の交替は自由であ る (6.1.6.7節に述べたとおり,話者の内省によると,=zuiは伝統的な方言形式で,=madeは標準語 であるという)。
=zui, =madeの取り立ての用法では,たとえば,(59)aでは,k(u)w- ‘食べる’ という動作について,
自分の分だけでなく,さらに妹の分も食べたという意味が,(59)bでは,キビナゴだけでなく,さら に鯛まで食べたという意味が,=zuiによって示されている。
(59) a. imooto=no buN={ zui / made } ku-te simoo-ta.
妹=GEN 分=TERM 食べる-CTX しまう-PST
‘[自分の分だけでなく] 妹の分まで食べてしまった。’
b. tai=zui koo-da.
鯛=TERM 噛む-PST
‘[キビナゴだけでなく] 鯛まで食べた。’
6.2.7 動詞の取り立て
取り立て助詞は名詞以外の語にも接尾でき,次のように,動詞句内の動詞類を取り立てることも ある。それぞれの意味の詳細は分かっていないが,参考までに例を挙げておく。
(60) a. kak-jaa si-ta=baQte b. kak-i=mo si-ta=baQte kak-iØ=wa
書く-NL=TOP する-PST=CONC 書く-NL=も する-PST=CONC
‘書きはしたけど’ ‘書きもしたけど’
c. jasu-u={ wa / mo } na-ka=baQte 安く-NL={ TOP / も } ない-NPST=CONC
‘安くもないけど’
d. kak-u=saka su-rja jo-ka.
書く-NPST=さえ する-COND よい-NPST
(60)a–cのとおり,=wa, =moは -iØ形準体動詞ないし -u形準体形容詞に付く。一方,=saakaは =wa,
=moとは異なり,(60)dのように -ru形連体動詞に付く。
=wa, =moを取る動詞の構成要素と =sakaを取る動詞のそれは,次のように制限されている。
(61) -kas- -sase- -rare- -e- -tor- -ior- -ijar- -imos- -an- V={ wa / mo }: ? * * * * V=saka: *
(注) -rar- は使用語彙ではなかったため,その適格性は不明。