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接尾語

ドキュメント内 甑島里方言記述文法書 (ページ 88-93)

第 5 章 形態論

5.5 接尾語

(87) a. araa [V [VSTM [N pasokoN]=jai]-mos-u].

あれ:TOP パソコン=VLZ-POL-NPST

‘あれはパソコンです。’

b. [V [VSTM [NP [ADN sogaNta] toki]=jai]-moi-ta]=na.

そうした 時=VLZ-POL-PST=SFP

‘そんな時でしたな。’

自立性を欠く形式名詞語幹 (cf. 5.3.2節) に =jar- が接尾する場合,次のように,形式名詞語幹は 必ず複合するなり,連体詞を承けるなりしている。したがって,=jar- が付く形式は名詞語幹ではな く,名詞である。

(88) a. [N saru+waroo]=jaQ-ta=a=jo.

+野郎=VLZ-PST=SFP=SFP

‘猿野郎だったわよ。’

b. [NP [ADNCL hoNnii jo-ka] koto]=jai=naa.

本当に よい-NPST 事=VLZ:NPST=SFP

‘本当にいいことだなあ’

=jar- は派生力に欠け,(50)f–g (p. 77) の -ijar- ‘HON’ と -imos- ‘POL’ しか取れない。その上,前者 を取るのは非常に稀である (2010 年に調査を始めてから,=jar- 以外に関する面接調査で偶然 1 例 を得たのみ)

(89) a. koko=N huto=jai-jai=naa.

huto=jar-ijar-ru=na ここの 人=VLZ-HON-NPST=CFP

‘ここの人でいらっしゃるな。’

5.5.2 名詞を派生させる接尾語

5.5.2.1 準体助詞

次のように,(90)–(91) =to ‘NLZ’, =siko ‘だけ’ は連体詞に,(92)–(93) =dake ‘だけ’, =baQkai ‘ばかり’

は名詞ないし連体節 (≠連体詞) に,(94) =kaは名詞,副詞,連体詞に付いて,名詞を派生させる。

本稿ではこのような接尾語を「準体助詞」と呼ぶ。

(90) a. [NCX[N [ADN kogaN]=to]=ba] agaN su-i=jokja こんな=NLZ=ACC あんなに する-NPST=CMP

‘こんなのをああするよりか’

b. koN riNgaa [VCX [N [ADNCL kinoo koo-te ki-ta]=to]=jai=doo].

この りんご:TOP 昨日 買う-CTX 来る-PST=NLZ=VLZ:NPST=SFP

‘このりんごは昨日買ってきたものだよ。’

(91) a. [N [ADN dogaN]=siko]=jai-mos-u=to?

どんな=だけ=VLZ-POL-NPST=NLZ

‘どれだけですか?’

b. [N [ADNCL ee ai]=siko] moQ-te ki-te kui-jai-mos-e.

家:LOC ある:NPST=だけ 持つ-CTX 来る-CTX くれる-HON-POL-IMP

‘家にあるだけ持って来てくださいませ。’

(92) a. [NCX [N [NP kawa]=dake]=ba] ku-ta.

皮=だけ=ACC 食う-PST

‘皮だけを食った。’

b. [N [ADNCL ee ai]=dake] moQ-te ki-te kui-jai-mos-e.

家:LOC ある:NPST=だけ 持つ-CTX 来る-CTX くれる-HON-POL-IMP

‘家にあるだけ持って来てくださいませ。’

(93) a. [N [NNNma-ka=to]=baQkai] ku-ta.

美味い-NPST=NLZ=ばかり 食う-PST

‘美味いのばかり食った。’

b. [NP [ADN [N [ADNCL ku-te nom-u]=baQkai]=no] seekacu]

食う-CTX 飲む-NPST=ばかり=GEN 生活

‘食って飲むばかりの生活’

(94) a. araa [N [N naN]=ka] siQ-toi=do.

あれ:TOP 何=Q 知る-CONT=CFP

‘あれは何か知ってるぞ’

b. [N [ADNCL raineN ik-e-ru]=ka] [N [ADV doo]=ka] wakar-aN. 来年 行く-POT-NPST=Q どう=Q わかる-NEG:NPST

‘来年行けるかどうかわからない。’

準体助詞によって派生する形式は複合できないので,名詞語幹ではなく,名詞である。それらの うち,(90)–(94)b のように連体節を承けるものは,名詞節としても分析できる。ただし,主格や対 格 (cf. 6.1.1–6.1.2, 6.1.5節) を受けることができるのは,=to節と =ka節に限られる (前者の用法は

6.5.1節で,後者のそれは6.5.2節で詳しく記述する)。

名 詞 の よ う に 事 物 を 指 示 す る =to に 繋 辞 動 詞(語 幹) =jar- ‘VLZ’ な い し =ja //=de=wa//

VLZ.CTX=TOP’ が接尾すると,しばしば =cja(r)- なる。

(95) a. koN riNgaa [N [ADNCL kinoo koo-te ki-ta]=to]=jai=doo.

この りんご:TOP 昨日 買う-CTX 来る-PST=NLZ=VLZ:NPST=SFP

‘このりんごは昨日買ってきたものだよ。’

b. koN kuruma=a [NP oi=ga=to]=ja na-ka=doo.

この 車=TOP 1SG=GEN=NLZ=ESS:TOP ない-NPST=SFP

‘この車は私のではないよ。’

(96) a. koN riNgaa kinoo koo-te ki-ta=cjai=doo.

[NCL kinoo kaw-te ki-ta=to]=jar-ru=doo

この りんご:TOP 昨日 買う-CTX 来る-PST=NLZ=VLZ-NPST=SFP

‘このりんごは昨日買ってきたものだよ。’

b. koN kuruma=a oi=ga=cjaa na-ka=doo.

[NP oRe=ga=to]=ja

この 車=TOP 1SG=GEN=NLZ=ESS:TOP ない-NPST=SFP

‘この車は私のではないよ。’

(95) は非連声形式 =to=ja(r-) で,(96) は連声形式 =cja(r-) である。この連声形式は常に =cja(r-)

であって,後述の =sa(r-) や =ta(r-) とはならない。

いわゆるノダ文の「のだ」に相当する =to=jar- は,=cjar- の他,=sar- や =tar- でも実現しうる。

これらは集落や性別によるバリエーションで,おおむね,(i) =cjar- は村西で,(ii) =sar- は薗上と薗

中で,(iii) =tar- は薗下と村東で使用されている。また,=sa(r-) は女性が使用する傾向にあるようで

ある。

(97) a. mizuciQcii doQ=ka hicihacineN+mae cuku-ta koto=ga 水鉄砲 どこ=Q 7, 8年+前 作る-PST こと=NOM

ai=cjai=do.

ある:NPST=NLZ:VLZ:NPST=SFP

‘水鉄砲を7, 8年前に作ったことがあるんだよ。’

b. ima=wa na-ka-mosai=joo=moN.

今=TOP ない-VLZ-POL:NLZ:VLZ:NPST=INFR=SFP

‘今はないのでしょうね。’

c. koNmeN-kaQ-te=mo kiQ-te hes-eba koQpjaa nai=tai=dee.

小さい-VLZ-CTX=も 切る-CTX 干す-COND コッパ:DAT なる.NPST=NLZ:VLZ:NPST=CSL

‘小さくても,切って干せば,コッパになるんだから。’

5.5.2.2 モダリティ接尾語

次のように,認識的モダリティを表す =joo ‘INFR’, =huu ‘SEEM’, =soo ‘SEEM’ は動詞類に付いて,

名詞節を形成する。これらの名詞節も,前節で取り上げた =siko, =dake, =baQkaiが作る名詞節と同 じく,主格や対格を受けることができない (=joo節の用法は6.5.2節で詳しく記述する)。

(98) a. [N [ADNCL dokee iQ-ta]=joo] sir-aN. どこ:DAT 行く-PST=INFR 知る-NEG:NPST

‘どこに行ったか知らない。’

b. [NCX [N[ADNCL naN+niN ku-i]=joo]=de] ciga-u.

何+人 来る-NPST=INFR=INST 違う-NPST

‘何人来るかで違う。’

(99) a. [V [N [ADNCL taroo=no aNsaN=ga kaeQ-te ku-i]={ soo / huu }]=jai].

太郎=GEN 兄=NOM 帰る-CTX 来る-NPST=SEEM=VLZ:NPST

‘太郎の兄さんが帰ってくるそうだ。’

b. [NCX [N [ADNCL tooge=N sita=de=na kizewai-ka]=huu]=de] kicune=ga 峠=GEN 下=LOC=CNF 気忙しい-NPST=SEEM=ESS 狐=NOM

maQ-toi-jai-moi-ta=te.

待つ-CONT-HON-POL-PST=QUOT

‘帰り道には何事もなくて,峠の下でな,気忙しい様子で狐が待っていらっしゃいま

したって。’ (里村教委2003:7)

5.5.3 副詞,連体詞を派生させる接尾語

副詞を派生させる接尾語は次のように,引用助詞 =to, =(Q)teは文に付いて,副詞を派生させる。

(100) a. [ADV [S jakuiN-taci=dake=de]=te] ju-u hanas-i+a-i=o

役員=PL=だけ=INST=QUOT 言う-NPST 話す-NL+合う-NL=ACC

‘役員たちだけで,という話をすればと思っているわけよ。’

b. [ADV [S cuzuke-te ik-an-ja nar-aN]=to] omoo=to=jo=na.

続ける-CTX 行く-NEG-COND なる-NEG:NPST=QUOT 思う:NPST=NLZ=SFP=SFP

‘続けていかなければならないと思うのよね。’

c. kodomo moc-u okaasaN-taci=moo [ADV [S mata kotosi=mo 子ども 持つ-NPST お母さん-PL=も また 今年=も ai-mos-u=to=N]=te] juu-te

ある-POL-NPST=NLZ=Q=QUOT 言う-CTX

‘子どもを持つお母さんたちも「また今年もあるんですか?」と言って’

=to, =(Q)te が作る派生副詞のうち,(100)b–c のように連体節を承けるものは,引用の副詞節とし

ても分析できる (引用節の用法は8.6節で詳しく記述する)。

そして,次のように,属格助詞 =ga, =noは名詞に付いて,連体詞を派生させる。後者は,Nで終 わる語に接尾する場合は必ず =noで実現するが,その他の環境では =Nと自由に交替する。

(101) a. oi=ga [N [N aQko]=ga] sigoto=ba kasee si-te kuru-i=ga.

1SG=NOM 2SG=GEN 仕事=ACC 加勢 する-CTX くれる-NPST=SFP

‘私がおまえの仕事を手伝ってやるよ。’

b. omae=N=taa=naa mise=N jo-ka moN=baQkai [N[ADN [N omae]=no]=to]=wa=naa [NP [ADN mise=N] [NP jo-ka moN]]=baQkai 2SG=GEN=NLZ=TOP=CNF 店=GEN いい-NPST もの=ばかり kuu-jai=dee.

食べる-HON:NPST=CSL

‘あなたのはなあ,店のいいものばかり食べなさるから。’

ドキュメント内 甑島里方言記述文法書 (ページ 88-93)