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形容詞

ドキュメント内 甑島里方言記述文法書 (ページ 81-84)

第 5 章 形態論

5.2 形容詞

5.2.1 形容詞語幹および形容詞の構造

4.3節: (15) で述べたとおり,形容詞とは屈折接尾辞 -kaないし -uで終わり,動詞と同じく,事 態を描写する語である。

(59) a. take=N [A [ASTM=AR taQ]-ka].

背=GEN 高い-NPST

‘背が高い。’

b. namana [A [ASTM=AR uresju]-u] si-te とても 嬉しい-NL する-CTX

36 takur- はいわゆる cramberry 形態素で,単独では動詞語幹になれない。次のように必ず何らかの言語形式を伴っ

て,動詞語幹を形成する (なお,momoNmomoziicramberry形態素) (XIII) huN+takur- momoN+takur- momozii+takur-

踏む:NL+乱雑にする ??+乱雑にする ??+乱雑にする

滅茶苦茶に踏む’ ‘もみくちゃにするくしゃくしゃに揉む

37 なお,打ち割るを意味する動詞語幹の音形はuciwar- が期待されるが,実際はucuwar-

‘とても嬉しくて’

c. koi=ba [A [ASTM[VSTM kuw-ase]-ta]-ka].

これ=ACC 食う-CAUS-DES-NPST

‘これを食わせたい。’

形容詞は統語的には動詞に等しいので,清瀬 (1971) のように動詞の一種 (清瀬の用語では「形 状動詞」) とする手もある。しかし,動詞にしては活用が貧弱なので (詳しくは 5.2.3–5.2.4節で),

動詞とは区別する。

(59) からわかるように,形容詞語幹および形容詞の構造は次のように単純化できる。

(60) a. [ASTMAR]- or [ASTMSTM-ALZ]- b. [A ASTM-INFL] (注) ALZ: 形容詞語幹化

(60)aの [ASTM STM-ALZ]- にあたるのは (59)cの -ita- 形容詞語幹だけである。これを除けば,形容 詞語幹は形容詞語根と一致する。

なお,形容詞語幹は名詞語幹と同じく,複合語幹の構成要素にはなりうるが,名詞語幹とは異な り,自立性に欠ける。

5.2.2 形容詞語幹

前述のとおり,形容詞語幹を作る形態素は,-ita- を除けば,すべて形容詞語根である。動詞語幹 とは異なり,形容詞接尾辞との間に連結音を入れることはない。

(61) a. 形容詞語根: namai- (B) ‘生な’, uresi- (B) ‘嬉しい’, sewasi- (A) ‘忙しい’, sewarasi- (A)

‘うるさい’, sekarasi- (B) ‘うるさい’, sii- (B) ‘酸い’, obu- (A) ‘重い’, waru- (B) ‘悪い’, karu- (A) ‘軽い’, maNmaru- (A) ‘まん丸い’, kosu- (??) ‘狡い’, huku- (B) ‘低い’, uu- (B)

‘多い’, gaNzjuu- (B) ‘頑丈な’, uto- (B) ‘疎い, 鈍い’, jo- (B) ‘よい’, odoo- (??) ‘意地悪 い’, mizjoo- (A) ‘見目よい’, kowa- (B) ‘固い’, na- (B) ‘ない’, tazina- (??) ‘少ない’, oQkina- (B) ‘大きい’, ara- (A) ‘荒い’, joora- (B) ‘柔らかい, 弱い’, aQtara- (??) ‘勿体な い’, komeka- (A) ‘小さい’, databjaa- (??) ‘大きい, 多い’

b. 形容詞語幹化接尾辞: -ita- ‘DES

5.2.3 形容詞屈折接尾辞

形容詞語幹を形容詞に加工するための接尾辞を形容詞屈折接尾辞と呼ぶ。ただし,形容詞の最終 構成要素たるこの接尾辞は,次の2種類しかない。

(62) a. 連体接尾辞: -ka ‘NPST’ b. 準体接尾辞: -u ‘NL

(63) a. [VCX [NP [ADNCL terebi=mo naN=mo na-ka] zidai]=jai-moi-ta=dee]

テレビ=も 何=も 無い-NPST 時代=VLZ-POL-PST=CSL

‘テレビも何もない時代でしたんで’ 《連体》

b. [S jakusoku=ba mamoi=naraaba suN-de=mo jo-ka].

約束=ACC 守る:NPST=COND 住む-CTX=も いい-NPST

‘約束を守るならば,住んでもいい。’ 《終止》

(64) a. [NCL hijoo] naQ-ta.

hija-u 寒い-NL なる-PST

‘寒くなった。’ 《付加部》

b. [NCX [NCL too]=ni] hanare-te too-u

遠い-NL=DAT 離れる-CTX

‘遠くに離れて’ 《名詞複合体の基幹》(荒木1970: 113)

c. [NCX [NCLhajoo]=kara] ki-toi.

haja-u

早い-NL=ABL 来る-CONT:NPST

‘早くから来てる。’ 《名詞複合体の基幹》

5.2.4 形容詞派生接尾辞

形容詞語幹から何らかの語幹を派生させる接尾辞を形容詞派生接尾辞と呼ぶ。里方言の形容詞派 生接尾辞は,いずれも動詞語幹ないし名詞語幹を派生させるもので,形容詞語幹化接尾辞は今のと ころ得ていない。

(65) a. 動詞語幹化接尾辞: -kar- ‘VLZ’, -gar- ‘ACT’, -mar- ‘INTR’, -me- ‘TR’ (他にもあると思わ れるが,突き止めていない)

b. 名詞語幹化接尾辞: -sa (他にもあると思われるが,突き止めていない)

(65)bの -saが作る名詞は常に =niを取り,付加部となる (補部とはならない)。

(66) saru-doN=ga [NP hoQ-saa] [QCL hitocu kure. hitocu kure-e]=te hosi-sa=ni

猿-TTL=NOM 欲しい-NLZ=ESS 1つ くれる:IMP 1つ くれる-IMP=QUOT

i-u=baQte 言う-NPST=CONC

‘猿が [握り飯] 欲しさに「1つくれ。1つくれ」と言うけど’

形容詞語根が取りうる接尾辞の種類は動詞語根のそれよりも少なく,形容詞では待遇や過去を表 すことも副詞節を作ることもできない。よって,形容詞語根語 (≠形容詞) でこれらを実現するた めには,次のように,動詞語幹化接尾辞 -kar- で動詞にするか,助動詞se- を利用する必要がある。

(67) a. taroo-saN=na se=N [V taQ-ka-jai].

太郎-TTL=TOP 背=GEN 高い-VLZ-HON-PST

‘Xさんは背が高くていらっしゃる。’

b. hoNni [V jo-ka-moi-ta].

本当に 良い-VLZ-POL-PST

‘本当に良かったです。’

c. [ADVCL se=no [V taQ-kar-jaa]] [V jo-kaQ-ta]=tee.

背=GEN 高い-VLZ-COND 良い-VIZ-PST=CONC

‘背が高ければ良かったのに。’

(68) a. [ADVCLhe+kusoo si-te] moo kuw-are-N=hiko

+臭い:NL する-CTX もう 食う-POT-NEG:NPST=だけ he+kusa-kaQ-ta=to=jo.

屁+臭い-VLZ-PST=NL=SFP

‘屁臭くて,もう食えないくらい屁臭かったのよ。’ (荒木1970: 261)

b. [ADCL kaerimici=njaa naNgoto=mo noo si-te] tooge=N sita=de=na 帰り道=LOC.TOP 何事=も 無い:NL する-CTX 峠=GEN 下=LOC=CNF

kizewai-ka=huu=de kicune=ga maQ-toi-jai-moi-ta=te.

気忙しい-NPST=SEEM=ESS 狐=NOM 待つ-CONT-HON-POL-PST=QUOT

‘帰り道には何事もなくて,峠の下でな,気忙しい様子で狐が待っていらっしゃいま

したって。’ (里村教委2003:7)

ドキュメント内 甑島里方言記述文法書 (ページ 81-84)