第 6 章 統語論
6.1 格
6.1.5 中心項を標示する格助詞
‘私 [を含む集団] の家’
e. 存在場所 f. 事態の成立時間
与格助詞 =niが標示する名詞の意味役割は上記のように多様であるが,なお,本稿では,=niには 便宜的にDAT, LOC, ESSのいずれかを当てている。
また,=ni は,有標のヴォイス (≒結合価) においても重要な役割を持つ。=ni は基本的には動作 主は標示しないが,-sase- による使役ヴォイスや -rare- による受動ヴォイスでは,動作主 (前者の 場合,被使役者でもある) を標示する。次に挙げる (25) は -sase- による使役ヴォイスの例で,納 豆を食べる hanakoが =niによって標示されている。(26) は -rare- による受動ヴォイスの例で,お もちゃを取り上げるsenseeが =niによって標示されている。
(25) miciko=ga hanako=ni naQtoo=ba k-ase-ta.
ミチコ=NOM 花子=DAT 納豆=ACC 食べる-CAUS-PST
‘ミチコが花子に納豆を食べさせた。’
(26) taroo=ga seNsee=ni omocja=ba toiager-are-ta.
太郎=NOM 先生=DAT おもちゃ=ACC 取りあげる-PASS-PST
‘太郎が先生におもちゃをとりあげられた。’
(A) 受け手
=niは受け手 (=授与のゴール) を標示する。具体的には,やりもらいの受け手,行為による恩恵 や依頼や害などの受け手,動作や心的活動の受け手などを表す。たとえば,(27)aでは,本の授受に おいて,その受け手がaNsaN ‘兄さん’ であるということが,(27)bでは,体操を教わるという恩恵の
受益者がoi ‘私’ であるということが,(27)cでは,kik- ‘聞く’ という動作の受け手がwaaki=N#ko ‘隣
の子’ であることが =niによって示されている。(27)dは,akogare- ‘憧れる’ という心理活動の受け
手がano#seNpai ‘あの先輩’ であることが =niによって示されている。
(27) a. oi=ga aNsaN=ni koN hoN=ba kui-ta=doo.
1SG=NOM 兄さん=DAT この 本=ACC くれる-PST=SFP
‘私が兄さんにこの本をあげたよ。’ 《授受活動の受け手》
b. niisaN=ga oi=ni taisoo=ba juutekai-ta44=doo.
兄さん=NOM 私=DAT 体操=ACC 教える-PST=SFP
‘兄さんが私に体操を教えてくれたよ。’ 《恩恵の受け手》
c. waaki=N kee kii-te mir-oo=ka?
ko=ni
脇=GEN 子=DAT 聞く-CTX みる-HORT=Q
‘隣の子に聞いてみようか?’ 《動作の受け手》
d ano seNpai=njaa akogaru-i.
あの 先輩=DAT.TOP 憧れる-NPST
‘あの先輩には憧れる。’ 《心理活動の受け手》
44 基底形はおそらく //iw-te#kas-ta// (cf. 7.8.2.4節)。
(B) 変化の結果
=niは,変化の結果として成立するもの・状態 (=変化のゴール) も標示する。たとえば,(28)a は,
「なる」という変化のゴールがseNsee ‘先生’ であるということが =niによって示されている。(28)b は,kawar- ‘変わる’ という変化のゴールが黄色であることが =niによって示されている。(28)c は,
kir- ‘切る’ という変化の結果がhaNbuN ‘半分’ の状態であることが =niによって示されている。
(28) a. seNsee=ni nai cumoi=jai.
先生=ESS なる:NPST つもり=VLZ:NPST
‘先生になるつもりだ。’
b. siNgoo=ga ao=kara kiiree kawaQ-ta tookjaa
kiiro=ni
信号=NOM 青=ABL 黄色=ESS 変わる-PST 時:TOP
‘信号が青から黄色に変わった時は’
c. soi=ba haNbuN=ni kiQ-te kure-e.
それ=ACC 半分=ESS 切る-CTX くれる-IMP
‘それを半分に切ってくれ。’
(C) 目的地
=niは目的地 (=移動のゴール) も標示する。たとえば,(29)では,ita-te#ku- ‘行ってくる’ という 移動の目的地がnakagosiki ‘中甑’ であるということが =niによって示されている。
(29) nakagosiki=ni ita-te ku-i=dee
中甑=DAT 行く-CTX 来る-NPST=SFP
‘中甑に行ってくるよ。’
(D) 移動の目的
=niは移動の目的となる事象も標示する。たとえば,(30) では,ik- ‘行く’ という移動の目的が仕 事であるということが,=niによって示されている。
(30) kore=kara sigotee ik-u=to sigoto=ni
これ=ABL 仕事=DAT 行く-NPST=NLZ
‘これから仕事に行くの。’
(E) 存在場所
=niは存在場所も標示する。たとえば,(31) では,本の存在場所がnikai ‘2階’ であるということ が =niによって示されている。
(31) nikai=i hoN=no ai=dee
2階=LOC 本=NOM ある:NPST=SFP
‘2階に本があるから’
(F) 事態の成立時間
=ni は事態の成立期間を標示する。たとえば,(32) では,カズラタテという行事についての発話 であるが,その行事の時期がnuQ-ka#toki ‘暖かい時’ であることが,=niによって示されている。
(32) nuQka toki=i uQ+taQ-ta wake=jai=dee=na
暖かい:VLZ 時=LOC 打つ:NL+立つ-PST わけ=VLZ:NPST=CSL=SFP
‘(カズラタテについて) 暖かい時に打ち立ったわけだよ。’ 《時点》
なお,上記の意味以外にも,=niは,結合価交替により,受動ヴォイスや使役ヴォイスの動作主を 標示することがある。
(33) [甑島について]
umi=i kakom-are-toi=cjai=dee
海=DAT 囲む-PASS-CONT:NPST=NLZ:VLZ:NPST=CSL
‘海に囲まれているから’ 《受動ヴォイスの動作主》