第 5 章 形態論
5.1 動詞
5.1.6 動詞屈折接尾辞
動詞語幹を動詞に加工するための接尾辞を動詞屈折接尾辞と呼ぶ。動詞の最終構成要素たるこの 接尾辞は,統語機能の面から次のように分類できる。
(24) a. 動詞終止接尾辞: 文を統べる動詞を作るための接尾辞。
b. 動詞連体接尾辞: 連体節ないし文を統べる動詞を作るための接尾辞。
c. 動詞準体接尾辞: 名詞節を統べる動詞を作るための接尾辞。
d. 動詞連用接尾辞: 副詞節を統べる動詞を作るための接尾辞。
5.1.6.1 動詞終止接尾辞
動詞終止接尾辞とは,文を統べる動詞を作るための接尾辞である。里方言で用いられているもの は,次のとおり。
(25) a. -anmjaa ‘neg.infr’ b. { -azjaa / -aziNja } (以下,前者で代表) ‘OBLG’ c. -e ‘IMP’ d. -teNka ‘IMP’ e. -runa ‘PROH’
(26) a. [S agaN tokeenja ik-aNmjaa].
あんな ところ:DAT.TOP 行く-NEG.VOL
‘あんなところには行かないでおこう’
b. [S saa moQ-te ik-azjaa]. [S kiQ-te kam-azjaa].
さあ 持つ-CTX 行く-OBLG 切る-CTX 噛む-OBLG
‘さあ,持って行かなきゃ。切って食わなきゃ。’ (荒木1970: 150)
c. [S moQ-te itaQ-te kui-jai-mos-e].
持つ-CTX 行く-CTX くれる-HON-IMP
‘持って行って下さい。’
d. [S ir-aN koto su-Nna].
要る-NEG:NPST 事 する-PROH
‘要らんことするな。’
e. [S iQtooki maQ-toQ-te kui-jai-moi-teNka].
しばらく 待つ-CONT-CTX くれる-HON-POL-REQ
‘しばらく待っててくださいませんか。’ (里村教委2003:4)
『現代日本語方言大辞典』などによれば,かつては依頼を表す -saiも使っていたようであるが,
現在もこれを日常的に使う話者はいないようである。
5.1.6.2 動詞連体接尾辞
動詞連体接尾辞とは,連体節ないし文を統べる動詞を作るための接尾辞である。里方言で用いら れているものは,次のとおり。
(27) a. -ru ‘NPST’ b. -ta ‘PST’ c. -au ‘VOL, HORT, INFR’ (28) a. iso=ni ik-u tokjaa=jo
[NP [ADNCL iso=ni ik-ru] toki]=wa=jo 磯=DAT 行く-NPST 時=TOP=CNF
‘磯に行く時はよ’ 《連体; 不完成》
b. [S kokenjaa suQkome=no uk-aQ-toi].
ukar-tor-ru ここ:DAT.TOP ニザダイ=NOM 浮く-CONT-NPST
‘ここにはニザダイが浮いてる。’ 《終止; 現在》(里村教委2003: 13)
c. [S soN=nara soo su-i].
su-ru それ=COND そう する-NPST
‘それならそうする。’ 《終止; 未来》
(29) a. koNdo=wa [NP [ADNCL nage-ta] koQci]=ga 投げる-PST こっち=NOM
‘今度は,投げたこっちが’ 《連体; 完成》
b. [S doNkjuu=ga tomaasu=ni kaiw-are-ta].
蛙=NOM イタチ=DAT 背負う-PASS-PST
‘蛙がイタチに背負われた。’ 《終止; 過去》(里村教委2003:9)
(28) のように,-ruは非終止用法では不完成を,終止用法では現在ないし未来を表す。一方,(29)
のように,-ta は非終止用法では完成を,終止用法では過去を表す (吉本 2004 が明らかにした日本 語の時制に等しい)。両者のテンス的意味が終止用法において対立することを以って,前者は非過去
(NPST) の,後者は過去 (PST) の動詞連体接尾辞とする。
意志,勧誘,推量を表す -auで終わる動詞も,連体節ないし文を統べる。ただし,-au節が連体修 飾しうるのは,(30)aの形式名詞gotoだけである。
(30) a. omai=to keQkoN [VP [NP [ADNCL su-u] goto] ai].
2SG=COM 結婚 する-VOL 様子 ある:NPST
‘あなたと結婚したい。’
b. [S aita=a neNgazjoo=ba kak-oo].
kak-au 明日=TOP 年賀状=ACC 書く-VOL
‘明日は年賀状を書こう。’
c. [V [?? hur-oo]=soo=jai].
降る-INFR=SEEM=VLZ:NPST
‘[雨が] 降りそうだ。’
終止用法の連体動詞は,前節で取り上げた終止動詞とは異なり,語り以外では基本的に終助詞を 取る。具体的には次のとおり。
(31) a. zuQto cure-te ik-imos-u=doo.
ずっと 連れる-CTX 行く-POL-NPST=SFP
‘ずっと連れて行くぞ。’
b. jo-ka bueN micuke-ta=a.
いい-NPST 刺し身 見つける-PST=SFP
‘よい刺し身を見つけたわ。’ (里村教委2003:17)
c. io cur-ikjaa ik-oo=i.
魚 釣る-PURP 行く-HORT=SFP
‘魚を釣りに行こうよ。’ (里村教委2003:21)
5.1.6.3 動詞準体接尾辞
動詞準体接尾辞とは,名詞節を統べる動詞を作るための接尾辞である。里方言で用いられている ものは,次のとおり。
(32) a. -iØ ‘NL’ b. -ta(r)i ‘ILST’
(33) 付加部
a. saaru=ga [NCL soQci=i hasii] [NCL koQci=i hasii] soN sode=ni hasir-iØ hasir-iØ
猿=NOM そっち=DAT 走る-NL こっち=DAT 走る-NL その 袖=DAT
sugaQ-te 縋る-CTX
‘猿がそっちに走り,こっちに走り,その袖に縋って’ (荒木1970: 293)
b. [NCL baari=N koo32 si-tai] soi=kara [NCL otedama toinokozjoo si-tai]
おはじき=GEM ?? する-ILST それ=ABL お手玉 お手玉 する-ILST
sogaN koto hai.
そんな 事 FIL
‘おはじきしたり,それから,お手玉したり,そんなこと,はい’
(34) 動詞句の構成要素
a. zikatjaanjaa maada ik-jaa se-N=baQte.
[VP [NCL ik-iØ]=wa se-an-ru=baQte]
本土:DAT.TOP まだ 行く-NL=TOP する-NEG-NPST=CONC
‘本土にはまだ行きはしないけど’
b. muzukai-ka kaNzi=ba [VP [NCX[NCL kak-i]=ga] nai=de].
難しい-NPST 漢字=ACC 書く-NL=NOM なる:NPST=CSL
‘難しい漢字を書くことができるよ。’
c. nikjaanjaa mo+ciQto [VP [NCX [NCL age-Ø]=ga] nai=do].
二階:DAT.TOP もう+ちょっと 上げる-NL=NOM なる:NPST=SFP
‘2階にはもうちょっと上げることができるぞ。’
d. [VP [NCL gohaN tai-tai] [NCL naN si-tai] su-i] moN
ご飯 炊く-ILST 何 する-ILST する-NPST もの
‘ご飯を炊いたり,何したりする者’ (荒木1970: 293)
(33)–(34) のとおり,-iØないし -taiで終わる名詞節は,付加部ないし動詞句の構成要素として用
いられている。両者はこの点で名詞に準じるので,-iØも -taiも動詞準体接尾辞とする。
ただし,両者は補部にはなりえないので,次のように,連体節と準体助詞 =toからなる名詞がそ の欠を補っている。
(35) a. [NCX [N [ADNCL agaNte=so odoi]=to]=ga] jo-ka=doo.
ああして=CNF 踊る:NPST=NLZ=NOM いい-NPST=SFP
‘ああしてさ,踊るのが,あれがいいよ。’
b. [NCX [N [ADNCL zikata=de koo-ta]=to]=ba] mise-teNka.
本土=LOC 買う-PST=NLZ=ACC 見せる-IMP
‘本土で買ったのを見せて。’
5.1.6.4 動詞連用接尾辞
動詞連用接尾辞は副詞節を統べる動詞を作るための接尾辞である。次のように,里方言では,-ikjaa
‘PURP’, -inagara ‘SIM’, -reba, -rjaa ‘COND’, -ta(i)ba ‘PST.COND’, -te ‘CTX’, -aziN ‘NEG.CTX’ の6種類が使用 されている。
32 指示副詞kooではなく,何らかの形式名詞であると考えられる。
(36) a. [ADVCL kaeQ-te ki-oi-jar-eba] saaru=ga soQci=i hasi-i 帰る-CTX 来る-IPFV-HON-COND 猿=NOM そっち=DAT 走る-NL
koQci=i hasi-i soN sode=ni sugaQ-te こっち=DAT 走る-NL その 袖=DAT 縋る-CTX
‘[炊事者が] 帰ってきなさるところで,猿がそっちに走り,こっちに走り,その袖
に縋って’ (荒木1970: 293)
b. [ADVCL sigoto=mo se-ziN] ie=de ne-tor-aa.
仕事=も する-NEG.CTX 家=LOC 寝る-CONT-NPST:SFP
‘仕事もせず,家で寝てるわ。’
-rjaが -an- に接尾すると,次のように -anjaないし -aNnaで実現する (後者は不規則形式)。
(37) a. jaQpai soaN se-n-ja taiheN=na wakee=de.
やはり そんな する-NEG-COND 大変=VLZ.NPST 訳=VLZ.CTX
‘やはりそうしなければ,大変な訳で。’
b. beNkjoo se-Nna ik-aN=mitai.
se-an-rja
勉強 する-NEG-COND 行く-NEG:NPST=SEEM
‘勉強しなければいけないみたい。’