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動詞屈折接尾辞

ドキュメント内 甑島里方言記述文法書 (ページ 72-76)

第 5 章 形態論

5.1 動詞

5.1.6 動詞屈折接尾辞

動詞語幹を動詞に加工するための接尾辞を動詞屈折接尾辞と呼ぶ。動詞の最終構成要素たるこの 接尾辞は,統語機能の面から次のように分類できる。

(24) a. 動詞終止接尾辞: 文を統べる動詞を作るための接尾辞。

b. 動詞連体接尾辞: 連体節ないし文を統べる動詞を作るための接尾辞。

c. 動詞準体接尾辞: 名詞節を統べる動詞を作るための接尾辞。

d. 動詞連用接尾辞: 副詞節を統べる動詞を作るための接尾辞。

5.1.6.1 動詞終止接尾辞

動詞終止接尾辞とは,文を統べる動詞を作るための接尾辞である。里方言で用いられているもの は,次のとおり。

(25) a. -anmjaa ‘neg.infr’ b. { -azjaa / -aziNja } (以下,前者で代表) ‘OBLG’ c. -e ‘IMP’ d. -teNka ‘IMP’ e. -runa ‘PROH

(26) a. [S agaN tokeenja ik-aNmjaa].

あんな ところ:DAT.TOP 行く-NEG.VOL

‘あんなところには行かないでおこう’

b. [S saa moQ-te ik-azjaa]. [S kiQ-te kam-azjaa].

さあ 持つ-CTX 行く-OBLG 切る-CTX 噛む-OBLG

‘さあ,持って行かなきゃ。切って食わなきゃ。’ (荒木1970: 150)

c. [S moQ-te itaQ-te kui-jai-mos-e].

持つ-CTX 行く-CTX くれる-HON-IMP

‘持って行って下さい。’

d. [S ir-aN koto su-Nna].

要る-NEG:NPST 事 する-PROH

‘要らんことするな。’

e. [S iQtooki maQ-toQ-te kui-jai-moi-teNka].

しばらく 待つ-CONT-CTX くれる-HON-POL-REQ

‘しばらく待っててくださいませんか。’ (里村教委2003:4)

『現代日本語方言大辞典』などによれば,かつては依頼を表す -saiも使っていたようであるが,

現在もこれを日常的に使う話者はいないようである。

5.1.6.2 動詞連体接尾辞

動詞連体接尾辞とは,連体節ないし文を統べる動詞を作るための接尾辞である。里方言で用いら れているものは,次のとおり。

(27) a. -ru ‘NPST’ b. -ta ‘PST’ c. -au ‘VOL, HORT, INFR’ (28) a. iso=ni ik-u tokjaa=jo

[NP [ADNCL iso=ni ik-ru] toki]=wa=jo 磯=DAT 行く-NPST 時=TOP=CNF

‘磯に行く時はよ’ 《連体; 不完成》

b. [S kokenjaa suQkome=no uk-aQ-toi].

ukar-tor-ru ここ:DAT.TOP ニザダイ=NOM 浮く-CONT-NPST

‘ここにはニザダイが浮いてる。’ 《終止; 現在》(里村教委2003: 13)

c. [S soN=nara soo su-i].

su-ru それ=COND そう する-NPST

‘それならそうする。’ 《終止; 未来》

(29) a. koNdo=wa [NP [ADNCL nage-ta] koQci]=ga 投げる-PST こっち=NOM

‘今度は,投げたこっちが’ 《連体; 完成》

b. [S doNkjuu=ga tomaasu=ni kaiw-are-ta].

蛙=NOM イタチ=DAT 背負う-PASS-PST

‘蛙がイタチに背負われた。’ 《終止; 過去》(里村教委2003:9)

(28) のように,-ruは非終止用法では不完成を,終止用法では現在ないし未来を表す。一方,(29)

のように,-ta は非終止用法では完成を,終止用法では過去を表す (吉本 2004 が明らかにした日本 語の時制に等しい)。両者のテンス的意味が終止用法において対立することを以って,前者は非過去

(NPST) の,後者は過去 (PST) の動詞連体接尾辞とする。

意志,勧誘,推量を表す -auで終わる動詞も,連体節ないし文を統べる。ただし,-au節が連体修 飾しうるのは,(30)aの形式名詞gotoだけである。

(30) a. omai=to keQkoN [VP [NP [ADNCL su-u] goto] ai].

2SG=COM 結婚 する-VOL 様子 ある:NPST

‘あなたと結婚したい。’

b. [S aita=a neNgazjoo=ba kak-oo].

kak-au 明日=TOP 年賀状=ACC 書く-VOL

‘明日は年賀状を書こう。’

c. [V [?? hur-oo]=soo=jai].

降る-INFR=SEEM=VLZ:NPST

‘[雨が] 降りそうだ。’

終止用法の連体動詞は,前節で取り上げた終止動詞とは異なり,語り以外では基本的に終助詞を 取る。具体的には次のとおり。

(31) a. zuQto cure-te ik-imos-u=doo.

ずっと 連れる-CTX 行く-POL-NPST=SFP

‘ずっと連れて行くぞ。’

b. jo-ka bueN micuke-ta=a.

いい-NPST 刺し身 見つける-PST=SFP

‘よい刺し身を見つけたわ。’ (里村教委2003:17)

c. io cur-ikjaa ik-oo=i.

魚 釣る-PURP 行く-HORT=SFP

‘魚を釣りに行こうよ。’ (里村教委2003:21)

5.1.6.3 動詞準体接尾辞

動詞準体接尾辞とは,名詞節を統べる動詞を作るための接尾辞である。里方言で用いられている ものは,次のとおり。

(32) a. -iØ ‘NL’ b. -ta(r)i ‘ILST

(33) 付加部

a. saaru=ga [NCL soQci=i hasii] [NCL koQci=i hasii] soN sode=ni hasir-iØ hasir-iØ

猿=NOM そっち=DAT 走る-NL こっち=DAT 走る-NL その 袖=DAT

sugaQ-te 縋る-CTX

‘猿がそっちに走り,こっちに走り,その袖に縋って’ (荒木1970: 293)

b. [NCL baari=N koo32 si-tai] soi=kara [NCL otedama toinokozjoo si-tai]

おはじき=GEM ?? する-ILST それ=ABL お手玉 お手玉 する-ILST

sogaN koto hai.

そんな 事 FIL

‘おはじきしたり,それから,お手玉したり,そんなこと,はい’

(34) 動詞句の構成要素

a. zikatjaanjaa maada ik-jaa se-N=baQte.

[VP [NCL ik-iØ]=wa se-an-ru=baQte]

本土:DAT.TOP まだ 行く-NL=TOP する-NEG-NPST=CONC

‘本土にはまだ行きはしないけど’

b. muzukai-ka kaNzi=ba [VP [NCX[NCL kak-i]=ga] nai=de].

難しい-NPST 漢字=ACC 書く-NL=NOM なる:NPST=CSL

‘難しい漢字を書くことができるよ。’

c. nikjaanjaa mo+ciQto [VP [NCX [NCL age-Ø]=ga] nai=do].

二階:DAT.TOP もう+ちょっと 上げる-NL=NOM なる:NPST=SFP

‘2階にはもうちょっと上げることができるぞ。’

d. [VP [NCL gohaN tai-tai] [NCL naN si-tai] su-i] moN

ご飯 炊く-ILST 何 する-ILST する-NPST もの

‘ご飯を炊いたり,何したりする者’ (荒木1970: 293)

(33)–(34) のとおり,-iØないし -taiで終わる名詞節は,付加部ないし動詞句の構成要素として用

いられている。両者はこの点で名詞に準じるので,-iØも -taiも動詞準体接尾辞とする。

ただし,両者は補部にはなりえないので,次のように,連体節と準体助詞 =toからなる名詞がそ の欠を補っている。

(35) a. [NCX [N [ADNCL agaNte=so odoi]=to]=ga] jo-ka=doo.

ああして=CNF 踊る:NPST=NLZ=NOM いい-NPST=SFP

‘ああしてさ,踊るのが,あれがいいよ。’

b. [NCX [N [ADNCL zikata=de koo-ta]=to]=ba] mise-teNka.

本土=LOC 買う-PST=NLZ=ACC 見せる-IMP

‘本土で買ったのを見せて。’

5.1.6.4 動詞連用接尾辞

動詞連用接尾辞は副詞節を統べる動詞を作るための接尾辞である。次のように,里方言では,-ikjaa

PURP’, -inagara ‘SIM’, -reba, -rjaa ‘COND’, -ta(i)ba ‘PST.COND’, -te ‘CTX’, -aziNNEG.CTX’ の6種類が使用 されている。

32 指示副詞kooではなく,何らかの形式名詞であると考えられる。

(36) a. [ADVCL kaeQ-te ki-oi-jar-eba] saaru=ga soQci=i hasi-i 帰る-CTX 来る-IPFV-HON-COND 猿=NOM そっち=DAT 走る-NL

koQci=i hasi-i soN sode=ni sugaQ-te こっち=DAT 走る-NL その 袖=DAT 縋る-CTX

‘[炊事者が] 帰ってきなさるところで,猿がそっちに走り,こっちに走り,その袖

に縋って’ (荒木1970: 293)

b. [ADVCL sigoto=mo se-ziN] ie=de ne-tor-aa.

仕事=も する-NEG.CTX 家=LOC 寝る-CONT-NPST:SFP

‘仕事もせず,家で寝てるわ。’

-rjaが -an- に接尾すると,次のように -anjaないし -aNnaで実現する (後者は不規則形式)。

(37) a. jaQpai soaN se-n-ja taiheN=na wakee=de.

やはり そんな する-NEG-COND 大変=VLZ.NPST 訳=VLZ.CTX

‘やはりそうしなければ,大変な訳で。’

b. beNkjoo se-Nna ik-aN=mitai.

se-an-rja

勉強 する-NEG-COND 行く-NEG:NPST=SEEM

‘勉強しなければいけないみたい。’

ドキュメント内 甑島里方言記述文法書 (ページ 72-76)