第 3 章 音韻規則
3.12 子音語幹とそのテ形語幹
表11 動詞語幹
1. 読む 2. 立つ 3. 書く 4. 上げる 5. 混ぜる
a. NEG.CTX jom-aziN tat-aziN kak-aziN age-ziN maze-ziN b. POL jom-imos- tac-imos- kak-imos- age-mos-
maze-mos-c. COND jom-eba tat-eba kak-eba agu-reba mazu-reba
d. NPST jom-u tac-u kak-u agu-i mazu-i
e. PST joo-da taQ-ta kjaa-ta age-ta maze-ta
f. MED joo-de taQ-te kjaa-te age-te maze-te
子音語幹は /t/ で始まり,連結母音を要求しない動詞接尾辞 (以下「テ形接尾辞」。//-ita-// ‘DES’ は 連結母音 /i/ を要求するので,テ形接尾辞ではない) を取る時,[表 11: 斜体部] のような連声語幹 (以下「テ形語幹」) になる。そして,/m, b, n, g/ (=/C[+nas]/ ないし /C[–son, +voi]/) 終わりの (本 節では,「/X/ 終わりのY」を「XY」と略す) 動詞語幹は,後続するテ形接尾辞の初頭音素を /d/ に 替える。
(66) テ形接尾辞における初頭音素の交替
t → d / { C[+nas] / C[–son, +voi] }_
3.12.1 m-b-w語幹とそのテ形語幹
m-b-w語幹とそのテ形語幹は [表12] のように対応している。
表12 m-b-w語幹とそのテ形語幹
包む 組む 遊ぶ 縮む 飛ぶ 読む 叫ぶ 買う m-b-w cucum- kum- asub- cizim- tob- jom- orab-
kaw-
cizum-テ形 cucuN- kuN- asuu- cizuu- too- joo- oroo- koo-
kuu-(注) /eC[LAB]-/ の例は得られなかった。
[表12] に示すテ形語幹末の音素配列は,(39) (p. 40) で確認した準体形容詞末のそれに酷似して いる。そこで,準体形容詞の形成過程 (40) を踏まえて,m-b-w 語幹からテ形語幹を作る過程を次 のように推定する。
(67) cucum- kum- kum- asub- cizum- cizim- tob- kaw-
↓ 交替規則 (68)
cucuN- kuN- kuu- asuu- cizuu- ciziu- tou- kau- ↓ 交替規則 (42) cizuu- too- koo-
(68) テ形語幹形成過程における /m, b, w/ の交替
a. m → u, N / u_ b. b, w → u → u / EW
一部のum語幹は,[+nas] で共通するn語幹 (cf. 次節) のように語幹末を /N/ に交替させる。「一
部の」と述べるとおり,um語幹でありながら,(i) //cizum-// ‘縮む’ のように,語幹末を常に /u/ に 交替させるものや,(ii) //kum-// ‘組む’ のように,語幹末を /u/ ないし /N/ に替えるものもある。
なお,//cizim- → ciziu-// ‘縮む’ が /cizjuu-/ ではなく,/cizuu-/ で実現する点はいささか気にはな る (cf. //uresi-u// ‘嬉しい-NL’ → /uresjuu/ 3.7.1節)。ただし,ここでの /j/ の有無は弁別性に乏しいの で,問題視するほどでもないだろう。
3.12.2 n-r-t語幹
n-r-t語幹とそのテ形語幹は [表13] のように対応している。
表13 n-r-t語幹とそのテ形語幹
死ぬ 切る 塗る 打つ 蹴る 取る 持つ 割る 立つ
n-r-t sin- kir- nur- ut- ker- tor- mot- war-
tat-テ形 siN- kiQ- nuQ- uQ- keQ- toQ- moQ- waQ- taQ
-[表13] からわかるように,n-r-t語幹は語幹末をモーラ子音に替えると,テ形語幹になる。
(69) sin- kir- ut- ker- tor- tat-
↓ 交替規則 (70) siN- kiQ- uQ- keQ- toQ- taQ-
(70) テ形語幹形成過程における /n, r, t/ の交替
a. n → N
b. r, t → Q
3.12.3 s-k-g語幹
s-k-g語幹とそのテ形語幹は [表14] のように対応している。
表14 s-k-g語幹とそのテ形語幹
引く 剥く 泳ぐ 消す 漕ぐ 押す 退く 貸す 剥ぐ
s-k-g hik- muk- ozug- kes- keg- os- dok- kas-
hag-
kog-テ形 hii- mii- ozii- kee- kee- ee- dee- kjaa-
hjaa-[表14] に示すテ形語幹末の音素配列は,[表6: 6–10b] (p. 34) で確認した与格名詞末のそれに酷似 している。そこで,与格名詞の形成過程 (15) を踏まえて,s-k-g語幹からテ形語幹を作る過程を次 のように推定する。
(71) hik- ozug- kes- os- hag-
↓ 交替規則 (72) hii- ozui- kei- ei- hai- ↓ 交替規則 (18) - ozii- kee- ee- hjaa-
(72) テ形語幹形成過程における /s, k, g/ の交替
s, k, g → i
なお,//ik-// (A) ‘行(く)’ からテ形語幹を作る時だけは,語幹末を次のように交替させる (//ik-// の
テ形語幹が不規則形式になるのは,現代日本語では一般的)。
(73) k → Ø / _-ta: e.g. i-ta, i-tai, i-ta(i)ba → Q / _-to: e.g. iQ-tor-
→ ta / _-te: e.g. ita-te, ita-teNka
/ita-te/ の /ita-/ は出自不明である。現時点では itar- ‘至る’ に由来する補充形を推定しているが
(e.g. *itar-ite > *itaQ-te > ita-te),確証はない。
3.12.4 テ形語幹形成過程の交替規則に見る自然音類
テ形語幹形成過程の交替規則 (68), (70), (72) は,次のような自然音類の存在を示唆している。
(74) [LAB] [+nas] [COR, –nas, –cont] the others m, b, w n(, m) r, t s, k, g
↓ u N Q i
しかし,交替規則 (68), (70), (72) は子音語幹からテ形語幹を作る時にしか適用されない。した がって,(74) のような自然音類の存在を主張するのは,共時的には妥当ではない。