第 6 章 統語論
6.1 格
6.1.6 周辺項を標示する格助詞
‘2階に本があるから’
(F) 事態の成立時間
=ni は事態の成立期間を標示する。たとえば,(32) では,カズラタテという行事についての発話 であるが,その行事の時期がnuQ-ka#toki ‘暖かい時’ であることが,=niによって示されている。
(32) nuQka toki=i uQ+taQ-ta wake=jai=dee=na
暖かい:VLZ 時=LOC 打つ:NL+立つ-PST わけ=VLZ:NPST=CSL=SFP
‘(カズラタテについて) 暖かい時に打ち立ったわけだよ。’ 《時点》
なお,上記の意味以外にも,=niは,結合価交替により,受動ヴォイスや使役ヴォイスの動作主を 標示することがある。
(33) [甑島について]
umi=i kakom-are-toi=cjai=dee
海=DAT 囲む-PASS-CONT:NPST=NLZ:VLZ:NPST=CSL
‘海に囲まれているから’ 《受動ヴォイスの動作主》
日本の範囲内であるということが,それぞれ所格助詞 =deによって示されている。
(36) a. kamigosikizima=de icibaN taQka=taa toomekijama=jai=doo.
上甑島=LOC 一番 高い:NPST=NL:TOP 遠目木山=VLZ:NPST=SFP
‘上甑島で一番高いのは遠目木山だよ。’
b. huzisaN=wa nihoN=de icibaN taQka jama=jai=doo 富士山=TOP 日本=LOC 一番 高い:NPST 山=VLZ:NPST=SFP
‘富士山は日本で一番高い山だよ。’
6.1.6.3 具格助詞 =de
具格助詞 =de ‘INST’ は,次の意味役割を持つ名詞を標示する。
(37) a. 道具 b. 材料 c. 手段 d. 時間量 e 原因 それぞれの例を次に挙げる。
(38) a. basu=de ik-imos-u=dee.
バス=INST 行く-POL-NPST=SFP
‘バスで行きますよ。’ 《道具》
b. dateeku=no haQpa=de hune cukuQte
ダテーク=GEN 葉っぱ=INST 船 作って
‘ダテークの葉っぱで舟を作って’ 《材料》
c. basu=de ik-imos-u=dee.
バス=INST 行く-POL-NPST=CSL
‘バスで行きますから。’ 《手段》
d. icizikaN=de cjoroQto sumase-ta=doo.
一時間=INST ちょろっと 済ませる-PST=SFP
‘一時間でちょろっと済ませたよ。’ 《時間量》
e. joozi=de ie=ni kaeQ-ta=doo.
用事=INST 家=DAT 帰る-PST=SFP
‘用事で家に帰ったよ。’ 《原因》
(38)aではkak- ‘書く’ という動作を成立させるために用いたhude ‘筆’ が,(38)bでは,作った舟
の材料がdatekuu#no#haQpa ‘ダテークの葉っぱ’ であることが,(38)cでは,交通手段がbasu ‘バス’ で
あることが,(38)dでは,sumase- ‘済ませる’ という事態の成立にかかった時間の量icizikaN ‘一時間’
が,(38)eでは,帰る原因がjoozi ‘用事’ であることが =deで示されている。
6.1.6.4 奪格助詞 =kara
奪格助詞 =kara ‘ABL’ は,次の意味役割を持つ名詞を標示する。
(39) a. 起点 b. 経路 c. 手段 d. 材料
また,結合価交替にも関与しており,与格助詞 =ni に代わって,受動ヴォイスにおける動作主の 標示を行なうことがある。なお,本稿では,=waには一律ABLというグロスを当てている。
(A) 起点
奪格助詞 =kara ‘ABL’ は起点を標示する。具体的には,人や物の移動における空間的起点,行為 によって恩恵や害などをもたらしてくる起点,行為や事態の時間的起点などを標示する。たとえば,
(40)aでは,moQte#ku- ‘持ってくる’ という行為によるものの移動の起点が,(40)bでは,osie- ‘教え
る’ という恩恵の起点となる人物が,(40)cでは,mi- ‘見る’ という行為の時間的起点がasa ‘朝’ で あることが =kara によって示されている。
(40) a. sjoogacudoogu=ba naja=kara moQ-te ki-te kui-jai-mos-e.
正月道具=ACC 納屋=ABL 持つ-CTX くる-CTX くれる-HON-POL-IMP
‘正月道具を納屋から持ってきてください。’
b. 太郎-san=kara hoogen=ba juutekase-te morjaa-moi-ta.
太郎-TTL=ABL 方言=ACC 教える-CTX もらい-POL-PST
‘太郎さんから方言を教えてもらった。’
c. asa=kara baN=zui mi-toQ-te=mo jo-ka=do.
朝=ABL 晩=TERM 見る-CONT-CTX=も いい-NPST=SFP
‘朝から晩まで見ていてもいいよ。’
(B) 経路
=kara は移動の経路も示す。たとえば,(41) では,移動する経路が koQciN#mici ‘こっちの道’ で
あることが =karaによって示されている。
(41) ora=a koQci=N mici=kara ik-u=dee
1SG=TOP こっち=GEN 道=ABL 行く-NPST=CSL
‘私はこっちの道から行くから。’
(C) 手段
=karaは,事態の成立のための手段を標示する。たとえば,(42) では,行くための交通手段がbasu
‘バス’ であることが =karaによって示されている。
(42) basu=kara ik-u=dee.
バス=ABL 行く-NPST=CSL
‘バスで行くから。’
なお上述のように手段を標示するという点においては,一見すると具格に重なる意味役割を持つ ようにも見える。しかし里方言の =karaは道具を標示することまではできず,また,材料を標示す る例も現時点では確認できていない。この点で具格助詞 =de とは大きく異なる。たとえば,(43)a
におけるkak- ‘書く’ という動作の道具である hude ‘筆’ や,(43)bにおけるcukur- ‘作る’ という動
作の材料であるmugi ‘麦’ は =karaで標示するのが不自然であるとされる。
(43) a. hude={ de / #kara } kai-ta 筆=INST 書く-PST
‘筆で書いた。’
b. [味噌について]
mugi={ de / ?kara } cukuQta.
麦=INST 作る-PST
‘麦で作った。’
なお,=karaは,与格に代わって受動ヴォイスの動作主を標示することがある。これは,受動ヴォ
イスの動作主が,当該行為をもたらしてくる起点でもあることから,起点を標示する =karaが用い られると考えられる。
(44) a. seNsee=kara gar-aree~gar-aree 先生=ABL 怒る-PASS:NL~SIM
‘先生から怒られながら,’
b. sogaNta hito=kara tanom-are-te そうした 人=ABL 頼む-PASS-CTX
‘そんな人から頼まれて’
6.1.6.5 共格助詞 =to
共格助詞 =to ‘COM’ は,事態をともに成立させる相手を標示する。たとえば,(45) では,結婚す るという事態を成立させる相手 omai ‘あなた’ が =to によって示されている。
(45) omai=to keQkoN su-u goto ai.
2SG=COM 結婚 する-VOL 様子 ある:NPST
‘あなたと結婚したい。’
また,=to には,上例のように動詞と名詞を関係付ける用法だけでなく,次に示すような,名詞 同士を関係付ける用法もある。(46) では,cukur- ‘作る’ という事態に関わるmugi ‘麦’, daizu ‘大豆’,
sio ‘塩’ が共格で繋げられている。なお,最後の名詞への =toの添加は必須ではない。
(46) mugi=to daizu=to sio{ =to / Ø }=de cukui-mos-u.
麦=COM 大豆=COM 塩{=COM /Ø}=INST 作る-POL-NPST
‘麦と大豆と塩(と)で作ります。’
6.1.6.6 比較格助詞 =juukjaa
比較格助詞 =juukjaa (=jokjaaとも) ‘CMP’ は比較対象を示す。たとえば,(47)は,好きなものの比 較対象 kuQkii ‘クッキー’ が=juukjaaによって示されている。
(47) kuQkii=juukjaa=mo karaimo=ga suki=jai-mos-u.
クッキー=CMP=も サツマイモ=NOM 好き=VLZ-POL-NPST
‘クッキーよりもサツマイモが好きです。’
6.1.6.7 限界格助詞 =zui, =made
限界格助詞の =zui ‘TERM’ と =made ‘TERM’ は,空間的・時間的な終点を表す。=zuiと =madeの
間に意味的な棲み分けは見られず,自由に入れ替えることができるようである (話者の内省による と,=zuiは方言形式で,=madeは標準語形式とのことである)。
(48) では,ik- ‘行く’ という事態の空間的終点がkagosima ‘鹿児島’ であることが,0 では,見る
という事態の終点が baN (晩) であることが,=zui によって示されている。前述のとおり,=zui は
=madeと交替できる。
(48) a. kagosima={ zui / made } kaimono=ni ita-te ku-i=dee.
鹿児島=TERM 買いもの=DAT 行く-CTX 来る-NPST=CSL
‘鹿児島まで買いものに行ってくるから。’
b. asa=kara baN={zui / made } mi-toQ-te=mo jo-ka=do.
朝=ABL 晩=TERM 見る-CONT-CTX=も いい-NPST=SFP
‘朝から晩まで見ていてもいいよ。’
なお,=madeと =zuiは上述の用法以外に,6.2.6節に示す取り立ての用法も有している。