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周辺項を標示する格助詞

ドキュメント内 甑島里方言記述文法書 (ページ 104-108)

第 6 章 統語論

6.1 格

6.1.6 周辺項を標示する格助詞

‘2階に本があるから’

(F) 事態の成立時間

=ni は事態の成立期間を標示する。たとえば,(32) では,カズラタテという行事についての発話 であるが,その行事の時期がnuQ-ka#toki ‘暖かい時’ であることが,=niによって示されている。

(32) nuQka toki=i uQ+taQ-ta wake=jai=dee=na

暖かい:VLZ 時=LOC 打つ:NL+立つ-PST わけ=VLZ:NPST=CSL=SFP

‘(カズラタテについて) 暖かい時に打ち立ったわけだよ。’ 《時点》

なお,上記の意味以外にも,=niは,結合価交替により,受動ヴォイスや使役ヴォイスの動作主を 標示することがある。

(33) [甑島について]

umi=i kakom-are-toi=cjai=dee

海=DAT 囲む-PASS-CONT:NPST=NLZ:VLZ:NPST=CSL

‘海に囲まれているから’ 《受動ヴォイスの動作主》

日本の範囲内であるということが,それぞれ所格助詞 =deによって示されている。

(36) a. kamigosikizima=de icibaN taQka=taa toomekijama=jai=doo.

上甑島=LOC 一番 高い:NPST=NL:TOP 遠目木山=VLZ:NPST=SFP

‘上甑島で一番高いのは遠目木山だよ。’

b. huzisaN=wa nihoN=de icibaN taQka jama=jai=doo 富士山=TOP 日本=LOC 一番 高い:NPST 山=VLZ:NPST=SFP

‘富士山は日本で一番高い山だよ。’

6.1.6.3 具格助詞 =de

具格助詞 =de ‘INST’ は,次の意味役割を持つ名詞を標示する。

(37) a. 道具 b. 材料 c. 手段 d. 時間量 e 原因 それぞれの例を次に挙げる。

(38) a. basu=de ik-imos-u=dee.

バス=INST 行く-POL-NPST=SFP

‘バスで行きますよ。’ 《道具》

b. dateeku=no haQpa=de hune cukuQte

ダテーク=GEN 葉っぱ=INST 船 作って

‘ダテークの葉っぱで舟を作って’ 《材料》

c. basu=de ik-imos-u=dee.

バス=INST 行く-POL-NPST=CSL

‘バスで行きますから。’ 《手段》

d. icizikaN=de cjoroQto sumase-ta=doo.

一時間=INST ちょろっと 済ませる-PST=SFP

‘一時間でちょろっと済ませたよ。’ 《時間量》

e. joozi=de ie=ni kaeQ-ta=doo.

用事=INST 家=DAT 帰る-PST=SFP

‘用事で家に帰ったよ。’ 《原因》

(38)aではkak- ‘書く’ という動作を成立させるために用いたhude ‘筆’ が,(38)bでは,作った舟

の材料がdatekuu#no#haQpa ‘ダテークの葉っぱ’ であることが,(38)cでは,交通手段がbasu ‘バス’ で

あることが,(38)dでは,sumase- ‘済ませる’ という事態の成立にかかった時間の量icizikaN ‘一時間’

が,(38)eでは,帰る原因がjoozi ‘用事’ であることが =deで示されている。

6.1.6.4 奪格助詞 =kara

奪格助詞 =kara ‘ABL’ は,次の意味役割を持つ名詞を標示する。

(39) a. 起点 b. 経路 c. 手段 d. 材料

また,結合価交替にも関与しており,与格助詞 =ni に代わって,受動ヴォイスにおける動作主の 標示を行なうことがある。なお,本稿では,=waには一律ABLというグロスを当てている。

(A) 起点

奪格助詞 =kara ‘ABL’ は起点を標示する。具体的には,人や物の移動における空間的起点,行為 によって恩恵や害などをもたらしてくる起点,行為や事態の時間的起点などを標示する。たとえば,

(40)aでは,moQte#ku- ‘持ってくる’ という行為によるものの移動の起点が,(40)bでは,osie- ‘教え

る’ という恩恵の起点となる人物が,(40)cでは,mi- ‘見る’ という行為の時間的起点がasa ‘朝’ で あることが =kara によって示されている。

(40) a. sjoogacudoogu=ba naja=kara moQ-te ki-te kui-jai-mos-e.

正月道具=ACC 納屋=ABL 持つ-CTX くる-CTX くれる-HON-POL-IMP

‘正月道具を納屋から持ってきてください。’

b. 太郎-san=kara hoogen=ba juutekase-te morjaa-moi-ta.

太郎-TTL=ABL 方言=ACC 教える-CTX もらい-POL-PST

‘太郎さんから方言を教えてもらった。’

c. asa=kara baN=zui mi-toQ-te=mo jo-ka=do.

朝=ABL 晩=TERM 見る-CONT-CTX=も いい-NPST=SFP

‘朝から晩まで見ていてもいいよ。’

(B) 経路

=kara は移動の経路も示す。たとえば,(41) では,移動する経路が koQciN#mici ‘こっちの道’ で

あることが =karaによって示されている。

(41) ora=a koQci=N mici=kara ik-u=dee

1SG=TOP こっち=GEN 道=ABL 行く-NPST=CSL

‘私はこっちの道から行くから。’

(C) 手段

=karaは,事態の成立のための手段を標示する。たとえば,(42) では,行くための交通手段がbasu

‘バス’ であることが =karaによって示されている。

(42) basu=kara ik-u=dee.

バス=ABL 行く-NPST=CSL

‘バスで行くから。’

なお上述のように手段を標示するという点においては,一見すると具格に重なる意味役割を持つ ようにも見える。しかし里方言の =karaは道具を標示することまではできず,また,材料を標示す る例も現時点では確認できていない。この点で具格助詞 =de とは大きく異なる。たとえば,(43)a

におけるkak- ‘書く’ という動作の道具である hude ‘筆’ や,(43)bにおけるcukur- ‘作る’ という動

作の材料であるmugi ‘麦’ は =karaで標示するのが不自然であるとされる。

(43) a. hude={ de / #kara } kai-ta 筆=INST 書く-PST

‘筆で書いた。’

b. [味噌について]

mugi={ de / ?kara } cukuQta.

麦=INST 作る-PST

‘麦で作った。’

なお,=karaは,与格に代わって受動ヴォイスの動作主を標示することがある。これは,受動ヴォ

イスの動作主が,当該行為をもたらしてくる起点でもあることから,起点を標示する =karaが用い られると考えられる。

(44) a. seNsee=kara gar-aree~gar-aree 先生=ABL 怒る-PASS:NL~SIM

‘先生から怒られながら,’

b. sogaNta hito=kara tanom-are-te そうした 人=ABL 頼む-PASS-CTX

‘そんな人から頼まれて’

6.1.6.5 共格助詞 =to

共格助詞 =to ‘COM’ は,事態をともに成立させる相手を標示する。たとえば,(45) では,結婚す るという事態を成立させる相手 omai ‘あなた’ が =to によって示されている。

(45) omai=to keQkoN su-u goto ai.

2SG=COM 結婚 する-VOL 様子 ある:NPST

‘あなたと結婚したい。’

また,=to には,上例のように動詞と名詞を関係付ける用法だけでなく,次に示すような,名詞 同士を関係付ける用法もある。(46) では,cukur- ‘作る’ という事態に関わるmugi ‘麦’, daizu ‘大豆’,

sio ‘塩’ が共格で繋げられている。なお,最後の名詞への =toの添加は必須ではない。

(46) mugi=to daizu=to sio{ =to / Ø }=de cukui-mos-u.

麦=COM 大豆=COM 塩{=COM /Ø}=INST 作る-POL-NPST

‘麦と大豆と塩(と)で作ります。’

6.1.6.6 比較格助詞 =juukjaa

比較格助詞 =juukjaa (=jokjaaとも) ‘CMP’ は比較対象を示す。たとえば,(47)は,好きなものの比 較対象 kuQkii ‘クッキー’ が=juukjaaによって示されている。

(47) kuQkii=juukjaa=mo karaimo=ga suki=jai-mos-u.

クッキー=CMP=も サツマイモ=NOM 好き=VLZ-POL-NPST

‘クッキーよりもサツマイモが好きです。’

6.1.6.7 限界格助詞 =zui, =made

限界格助詞の =zui ‘TERM’ と =made ‘TERM’ は,空間的・時間的な終点を表す。=zuiと =madeの

間に意味的な棲み分けは見られず,自由に入れ替えることができるようである (話者の内省による と,=zuiは方言形式で,=madeは標準語形式とのことである)。

(48) では,ik- ‘行く’ という事態の空間的終点がkagosima ‘鹿児島’ であることが,0 では,見る

という事態の終点が baN (晩) であることが,=zui によって示されている。前述のとおり,=zui は

=madeと交替できる。

(48) a. kagosima={ zui / made } kaimono=ni ita-te ku-i=dee.

鹿児島=TERM 買いもの=DAT 行く-CTX 来る-NPST=CSL

‘鹿児島まで買いものに行ってくるから。’

b. asa=kara baN={zui / made } mi-toQ-te=mo jo-ka=do.

朝=ABL 晩=TERM 見る-CONT-CTX=も いい-NPST=SFP

‘朝から晩まで見ていてもいいよ。’

なお,=madeと =zuiは上述の用法以外に,6.2.6節に示す取り立ての用法も有している。

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