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文の階層構造

ドキュメント内 甑島里方言記述文法書 (ページ 113-117)

第 6 章 統語論

6.4 文の階層構造

南 (1974) が明らかにした文の階層構造は,里方言にも認められる。本稿では南 (1974) と田窪

(1987) を参考にしながら,どのような要素を取りうるかに基づいて,節を次の4種類に分ける。

(67) A類

a. 補部を取りうる。

b 様態付加部を取りうる。

c. ヴォイス形式を述部に取りうる。

(68) B類

a. 動作主主語を取りうる。

b. 制限的付加部 (=時空間を表す付加部) を取りうる。

c. アスペクト形式から一部の対事的モダリティ形式まで (cf. (62)) を述部に取りう

る。 (いずれもA類節が取れない要素)

(69) C類

a. 主格相当のN=waを取りうる。

b. 非制限的付加部 (=可能性を表す付加部) を取りうる。

45 goto基準で見れば,時制形式 -ru ‘NPST’, -ta ‘PSTはその前後どちらにも現れる。よって,言語形式 (=接辞,接 語,形式名詞,助動詞など) の別に注意を払わない研究者は,里方言では,時制形式が対事的モダリティ形式の前 後どちらにも現れると考えるかもしれない。しかし,形式Xに接続しえない形式Yの位置をX基準で見るのは,

妥当ではない。よって,本稿では,接続しうる形式同士の間でしか順序は考慮しない。

c. 推量を表す対事的モダリティ形式 (動詞連体接尾辞 -au と連体動詞類に付く接尾語

=joo) を述部に取りうる。 (いずれもA–B類節が取れない要素)

(70) D類 (=文)

意志・勧誘を表す対事的モダリティ形式から対人的モダリティ形式までを述部に取りう

る。 (A–C類節が取れない要素)

A–D類節の構造とA–D類節を作る形式を整理すると,次のとおり。

(71) A類: [様態付加部#補部#語幹-ヴォイス]

B類: [制限的付加部#動作主主語#A類節-アスペクト-主格尊敬-丁寧-否定-時制-対事的]

C類: [非制限的付加部#主格主題#B類節-推量]

D類: [C類節-意志・勧誘-対人的] (cf. 南1974; 田窪1987) (72) A類: [副詞節] ~FULLSIM’, -inagara ‘SIM’, -te ‘CTX (様態)’, -ikjaa ‘PURP

B類: [名詞節] 準体接尾辞 (cf. 5.1.6.3, 5.2.3節), 準体助詞 (cf. 5.5.2.1節), モダリティ接 尾語 (cf. 5.5.2.2節)

[連体節] 連体接尾辞 (cf. 5.1.6.2, 5.2.3節)

[副詞節] -reba ‘COND’, -ta(i)ba ‘PST.COND’, -tara ‘COND’, =nara ‘COND’, =gii ‘COND’, tookjaa //tooki=wa// ‘時=TOP (COND)’, tamee //tame=ni// ‘ため:DAT (PURP)’, goto ‘様 子’, -te ‘CTX (CSL)’

C類: [副詞節] =dee ‘CSL’, -te=mo ‘CTX=も (逆接仮定)’, =tee //=to=ni// ‘NZL=LOC (CONC)’,

=baQte(ka) ‘CONC’, =dee=te ‘CONC’ [並列節] -te ‘CTX’, =si ‘CSL

D類: [文] 終止接尾辞 (cf. 5.1.6.1節), 終助詞 [副詞節] =to ‘QUOT’, =(Q)te ‘QUOT’ (cf. 5.5.3節)

6.4.1 A類節

次のように,A類節は構成要素の種類が最も少なく,様態副詞と補部しか取れない。B–C類節の 構成要素となりうる動作主主語や時空間を表す補部などは,取ることができない。

(73) a. [ juQkui terebi=ba mii-Ø~mii]A meesi=ba ku-u.

ゆっくり テレビ=ACC 見る:NL~SIM 飯=ACC 食う-NPST

‘ゆっくりテレビを見ながら,ご飯を食べる。’

b. * [ taroo=ga terebi=ba mii-Ø~mii]A ziroo=ga meesi=ba ku-u.

太郎=NOM テレビ=ACC 見る-NL~SIM 次郎=NOM 飯=ACC 食う-NPST

‘太郎がテレビを見ながら,次郎がご飯を食べる。’

次のように,A類節の述部 (以下「X類述部」) は -e- ‘POT’ 以外のヴォイス形式は取れるが,-tor- アスペクト形式以下のもの (cf. (62)) は取れない。

(74) a. hoN=ba jom-asee-Ø~jomasee 本=ACC 読む-CAUS-NL~SIM

‘本を読ませながら,’

b. seNsee=kara gar-aree-Ø~gararee 先生=ABL 怒る-PASS-NL~SIM

‘先生に怒られながら,’

c. ? jom-ijai~jomijai 読む-HON:NL~SIM

‘お読みになりながら’

d. * jom-imos-i~jomimosi 読む-POL-NL~SIM

‘お読みになりながら’

次のように,A類節はA類節を内包することができる。

(75) [[ te=ba cunai-de]A aib-inagara]A uta=ba uta-ijoQ-ta=naa.

手=ACC 繋ぐ-CTX 歩む-SIM 歌=ACC 歌う-IPFV-PST=SFP

‘手を繋いで,歩きながら,歌を歌っていたなあ。’

6.4.2 B類節

B 類節は,A 類節の構成要素に加え,制限的付加部 (=時空間を表す付加部) や動作主主語を取 ることができる。ただし,C類のように主格主題は取ることができない。

(76) a. [ nicijoobi=i kagosima=de kaze hii-te]B gecujoobjaa waga=no ie=de 日曜日=LOC 鹿児島=LOC 風邪 ひく-CTX 月曜日:TOP 自分=GEN 家=LOC

ne-toi.

寝る-CONT:NPST

‘日曜日に鹿児島で風邪をひいて,月曜日は自分の家で寝ている。’

b. [ asitaa aN huto=ga kai-jai=to=nara]B kjuu=no uci oi=mo 明日 あの 人=NOM 帰る-HON=NLZ=COND 今日=GEN うち 1SG=も a-ikjaa ik-aN-eba nar-aN=naa.

会う-PURP 行く-NEG-COND なる-NEG:NPST=SFP

‘明日あの人が帰りなさるのなら,今日中に俺も会いに行かなければならないなあ。’

c. [ naikjaa isomocijaki ki-jar-aN=jaQ-ta=to=te juu-taiba]B なぜ 磯もち焼き 来る-HON-NEG=VLZ-PST=NLZ=QUOT 言う-PST.COND

sir-aN=jaQ-ta=too.

知る-NEG=VLZ-PST=QUOT

‘「なぜ磯もち焼き来られなかったの」って言ったら,「知らなかった」って。’ d. * [ taroo=wa sjukudai hajoo sum-eba]B oi=mo hajoo

太郎=TOP 宿題 早い:NL 済む-COND 1SG=も 早い:NL

asob-aru-i=tee=naa.

遊ぶ-POT-NPST=CONC=SFP

‘太郎は宿題早く済めば,僕も早く遊べるのになあ。’

B 類述部はヴォイス形式から一部の対事的モダリティ形式まで取れるが,推量形式は取れない。

B類節はA–B類節を内包することができる。

(77) a. kokee oi-jar-eba iQkii basu=N ki-mos-u=dee.

ここ:DAT いる-HON-COND すぐ バス=NOM 来る-POL-NPST=CSL

‘ここにいらっしゃれば,すぐバスが来ますよ。’

b. kibai-jai-mos-eba dekui=goto nai-jai-mos-u.

気張る-HON-POL-COND できる:NPST=こと なる-HON-POL-NPST

‘[あなたなら] 頑張りなさったら,できるようになるようになります。’

c. kojasi=mo si-tor-aN=giini curu=mo akoo si-toi=dee.

肥やし=も する-CONT-NEG:NPST=COND 蔓=も 赤い:NL する-CONT=CSL

‘肥やしもしていなければ,蔓も赤いから。’

d. cukoo-ta=naraa onasi toko-i naos-itok-e.

使う-PST=COND 同じ ところ-DAT 直す-CTX:おく-IMP

‘[道具を] 使ったなら,同じところへしまっておけ。’

(78) a. [[ okure-te]A i-taiba]B moo suN-doQ-ta.

遅れる-CTX 行く-PST.COND もう 済む-CONT-PST

‘遅れて行ったら,もう済んでいた。’

b. [[ ku-i tooki=i]B renraku su-reba]B jo-ka=tee.

来る-NPST 時=LOC 連絡 する-COND よい-NPST=CONC

‘来る時に連絡すればいいのに’

6.4.3 C類節

C類節は,(i) 主格相当の主格主題,(ii) zeQtai ‘絶対’ やmasaka ‘まさか’ などの非制限的付加部

(=可能性を表す付加部),(iii) 推量を表す対事的モダリティ形式 =jooを取ることができる。

(79) a. [ taroo=wa zeQtai jakusoku jabur-aN otoko=jai=dee ziroo=wa 太郎=TOP 絶対 約束 破る-NEG:NPST 男=VLZ:NPST=CSL 次郎=TOP

taroo=ba siNzi-toi.

太郎=ACC 信じる=CONT:NPST

‘太郎は絶対に約束を破らない男だから,次郎は太郎を信じている。’

b. [ masaka amjaa hur-aN=joo=baQte] kasa=ba moQ-te mir-oo=ka.

まさか 雨:TOP 降る-NEG:NPST=INFR=CONC 傘=ACC 持つ-CTX 見る-HORT=Q

‘まさか雨は降らないだろうけど,傘を持って[行って]みようか。’

また,下位の A–C 類節を内包することもできる。たとえば,=baQteは,(80) のように動詞重複 節 (A類) や =dee節 (C類) を,=dee節は,(81) のように -reba節 (B類) や =baQte節 (C類) を 内包することができる。

(80) a. [[ hanasi=ba kik-u~kik-u]A memo toQ-ta=baQte]C wakar-aN=jaQ-ta.

話=ACC 聞く-NPST~SIM メモ 取る-PST=CONC わかる-NEG=VLZ-PST

‘話を聞きながらメモを取ったが,わからなかった。’

b. [[ aN huto=no jo-ka=tee ju-u moN=jai=dee]C あの 人=NOM いい-NPST=QUOT 言う-NPST もの=VLZ:NPST=CSL

mii-kjaa i-ta=baQte]C sogaN=demo na-kaQ-ta.

見る-PURP 行く-PST=CONC そんなに=でも ない-VLZ-PST

‘あの人がいいと言うから見に行ったが,そうでもなかった。’

(81) a. [[ rokuzi=ni nar-eba]B otoQcjaN=ga kaeQ-te 6時=DATなる-COND お父さん=NOM帰る-CTX

ki-ja-i=dee]cmaq-tor-oo=ja.

来る-hon=csl 待つ-cont-hort=sfp

‘6時になればお父さんが帰ってくるから,待とうよ。’

b. [[ sokee i-ta=baQte]C moo suN-doQ-ta=dee]C kaeQ-te ki-ta.

そこ.DAT 行く-PST=CONC もう 済む-CONT-PST=CSL 帰る-CTX 来る-PST

‘そこへ行ったがもう終わっていたから,帰ってきた。’

ドキュメント内 甑島里方言記述文法書 (ページ 113-117)