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主格尊敬表現

ドキュメント内 甑島里方言記述文法書 (ページ 134-138)

第 7 章 意味論

7.4 待遇表現

7.4.1 主格尊敬表現

毎日=GEN 様子 飲む-CONT-HON-POL-PST=SFP=SFP

‘毎日のように飲んでいらっしゃいましたよなあ。’

(46) mo taroo=wa asita=kara daigaQkoo=ni ik-imos-u=sar-aa.

もう 太郎=TOP 明日=ABL 大学=DAT 行く-POL-NPST=NLZ:VLZ-NPST:SFP

‘もう太郎は明日から大学に行くでしょう。’

周辺的なアスペクト形式としては,(47) +kata=jar-, (48) -te#ok-, (49) -te#ar-, (50) -te#simaw- が存在 する。+kata=jar- は進行相で,限界達成前の段階を表す。

(47) aoziru nom-i+kata=jai=do.

青汁 飲む-NL+IPFV=VLZ:NPST=SFP

‘青汁を飲んでいるよ。’

-te#ok- と -te#ar- はパーフェクトを表す。しかし,-te#ar- も -te#ok- も -tor- と意味領域が重な

るため,基本的には -tor- を用いる。

(48) a. rjoori=ba tanoo-dok-e=joo.

tanom-te#ok-e=joo 料理=ACC 頼む-CTX#置く-IMP=SFP

‘料理を頼んでおけよ。’

b. hutoN=ba sii-tok-e=joo.

sik-te#ok-e=joo

布団=ACC 敷く-CTX#置く-IMP=SFP

‘布団を敷いておけよ。’

(49) a. oi=ga jaa hasira=ni huQto-ka tokee=ba kake-te ai=doo.

1SG=GEN 家:TOP 柱=DAT 大きい-NPST 時計=ACC 掛ける-CTX ある:NPST=SFP

‘私の家は柱に大きな時計を掛けてあるよ。’

b. [[近所の人たちで宴会をするから料理を頼んでおくように言われ,それに答えて]

moo tanoo-de ai-mos-u=doo.

もう 頼む-CTX ある-POL-NPST=SFP

‘もう頼んでありますよ。’

-te#simaw- は不可逆性を強調する場合に用いる。

(50) waQ-te simoo-ta=a.

割る-CTX しまう-PST=SFP

‘割ってしまったわ。’

が来る時には,-ijar- は用いられない。

(51) a. seNsee=ga iQk-jai-ta.

ik-ijar-ta 先生=NOM 行く-HON-PST

‘先生が行かれた。’

b. # mago=ga iQk-jai-ta.

孫=NOM 行く-HON-PST

‘孫が行かれた。’

この -ijar- は,待遇場面によって適用範囲が多少異なる。すなわち,-ijar- は聞き手待遇ではウチ /ソト,親/疎に関わらず目上または対等の聞き手に対して使用され,目下に対しては使用されない。

第三者待遇では,女性は,目下にも使用することがあるが (後述),基本的に目上の人物が主語に来 る時に使用される。

(52) [聞き手に対して,今日の夏祭りに行くか聞く。]

a. iQk-jai-mos-u=to=N? 行く-HON-POL-NPST=NLZ=Q

‘[目上に] 行かれますか?’

b. iQk-jai=to=N?

行く-HON:NPST=NLZ=Q

‘[対等に] 行かれるか?’

c. ik-u=to=N? 行く-NPST=NLZ=Q

‘[目下に] 行くか?’

(53) [聞き手に対して,今日の夏祭りに来るか聞く。]

a. ki-jai-mos-u=to=N?

来る-HON-POL-NPST=NLZ=Q

‘[目上に] 来られますか?’

b. ki-jai=to=N?

来る-HON:NPST=NLZ=Q

‘[対等に] 来られるか?’

c. ku-i=to=N? 来る-NPST=NLZ=Q

‘[目下に] 来るか?’

(54) [聞き手に対して,今日家にいるか聞く。]

a. oi-jai-mos-u=to=N?

いる-HON-POL-NPST=NLZ=Q

‘[目上に] いらっしゃいますか?’

b. oi-jai=to=N?

いる-HON:NPST=NLZ=Q

‘[対等に] いらっしゃるか?’

c. oi=to=N?

いる:NPST=NLZ=Q

‘[目下に] いるか?’

(55) A: siQ-toi-jai=to=N?

知る-CONT-HON:NPST=NLZ=Q

B: sii-mos-aN.

知る-POL-NEG:NPST

A: ‘[あなたはそれを] 知っていらっしゃるの?’

B: ‘[私はそれを] 知らないです。’

なお,次の例文のように,無生物主語 (事柄) の時は -ijar- が用いられない。

(56) uuN naaNda naN=mo kjaa=mo na-ka gote naQ-te うん なんだ 何=も 彼=も ない-NPST 様子:DAT なる-CTX

ik-imos-ita=a.

行く-POL-PST=SFP

‘うーん何もかも,なくなっていきました。’

さらに,その適用範囲には男女差も見られるようである。すなわち,調査で確認した数人の話者 について言えば,女性は対等以上の人物に -ijar- のみまたは,-imos-を使用し,下の人物には -ijar- を 使用するという使い分けが見られる。一方,男性は,目下に対して -ijar- を使用しない。つまり,

男性よりも女性の方が -ijar- の適用範囲が広い。

-ijar- は第三者待遇でも使用される。日本語の方言の中には,たとえば,関西方言において主格尊

敬接尾辞の使用が第三者場面に偏ることが指摘されている。そのなかでも京都方言の「はる」は,

聞き手待遇場面では主格が目上の時に使用されるが,第三者待遇場面ではほぼすべての有生物に対 して使用される。このことから,京都方言の「はる」は,第三者場面ではその待遇性を失っており,

その場にいない第三者であることをマークする形式となっていることが指摘されている。里方言に おいても,第三者場面で主格尊敬を表す -ijar- が使用されるが,京都方言の「はる」のような第三 者場面に使用が偏るということは認められない。

第三者待遇においても聞き手待遇で見られた形式の適用範囲に男女差が見られ,女性の方が -ijar- の範囲が広い。男性は,第三者待遇では場合によっては -ijar- を使用するとの回答であった。一方,

女性は対等以上の人物を第三者として待遇する時に -ijar- を用いる。

(57) [第三者が夏祭りに行くか聞く時]

a. 聞き手: [ウチ・対等]; 第三者: [目上]

iQk-jai-mos-u=joo=kai?

行く-HON-POL-NPST=INFR=Q

‘[あの人は] 行かれるでしょうか?’

b. 聞き手: [ウチ・対等]; 第三者: [対等]

iQk-jai=joo=ka=i?

行く-HON:NPST=INFR=Q=POL

‘[あの人は] 行かれるだろうか?’

c. 聞き手: [ウチ・対等]; 第三者: [目下]

ik-u=to=N? 行く-NPST=NLZ=Q

‘[あの人は] 行くか?’

(58) [第三者が夏祭りに来るか聞く時]

a. 聞き手: [ウチ・対等]; 第三者: [目上]

ki-jai-mos-u=joo=ka=i?

来る-HON-POL-NPST=INFR=Q=POL

‘[あの人は] いらっしゃるでしょうか?’

b. 聞き手: [ウチ・対等]; 第三者: [対等]

ki-jai=na?

来る-HON:NPST=Q

‘[あの人は] いらっしゃるか?’

c. 聞き手: [ウチ・対等]; 第三者: [目下]

ku-i=to=N? 来る-NPST=NLZ=Q

‘[あの人は] 来るか?’

(59) [第三者が公民館にいるか聞く時]

a. 聞き手: [ウチ・対等]; 第三者: [目上]

oi-jai-mos-u=na?

いる-HON-POL-NPST=Q

‘[あの人は] いらっしゃるでしょうか?’

b. 聞き手: [ウチ・対等]; 第三者: [対等]

oi-jaQ-ta=na?

いる-HON-PST=Q

‘[あの人は] いらっしゃったか?’

c. 聞き手: [ウチ・対等]; 第三者: [目下]

oQ-ta=na?

いる-PST=Q

‘[あの人は] いたか?’

(60) kaNnusi-saN=mo iQk-jai-moos-u=jai dogaja soko=wa

神主-TTL=も 行く-HON-POL-NPST-VLZ:NPST など:TOP そこ=TOP

sii-moos-aN=baQteN. 知る-POL-NEG:NPST=CONC

‘神主さんも行かれるかなどは,そこは存じませんけど。’

(61) ebisu-sama=wa asoko=ni oi-jai wake=jai=dee=naa.

恵比寿-TTL=TOP あそこ=LOC いる-HON:NPST わけ=VLZ:NPST=CSL=SFP

‘恵比寿様はあそこにいらっしゃるわけだからなあ。’

なお,主格尊敬接尾辞の -ijar- の他に,標準語で用いられる「いらっしゃる」,「召し上がる」の ような主格尊敬動詞語根は里方言にはない。

ドキュメント内 甑島里方言記述文法書 (ページ 134-138)