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確率と期待値

ドキュメント内 i * III () 23. *1 (ページ 91-96)

第 2 章 消費者の行動 25

2.10 不確実性と期待効用

2.10.1 確率と期待値

U1

M

N E

現在の消費量 将

来 の 消 費 量

図2.23 予算制約がある場合の現在と将来の消費

が,借入制約がないときにc1 Dm1となる点よりも右側で両者が接するような場 合は,借入制約のあるときにはc1D m1となる点がコーナー(角の点)となって 無差別曲線が予算制約線と接する形となり,その点が消費者によって選ばれる点で ある。図2.23参照。

2.10 不確実性と期待効用 81 2つのサイコロをころがして出た目の和が4になる確率は,全体で36通りあるそれぞれ

の場合が起きる確率が等しい(「同様に確からしい」と言う)という前提で考えると,和 が4になるのは3通り(1と3,2と2,3と1)であるからその確率は1/12になる。これ らは客観的な確率である。

「期待値(expected value)」とは平均値とよく似た意味であるが,平均値が過去に起きた

事柄について計算されるのに対して,期待値はこれから起きる事柄についてそれらが起き る確率にもとづいて計算される。2つのサイコロをころがして出る目の和の期待値は次の ようにして求められる。

2C32C43C54C65C76C85C94C103C112C12

36 D7

次のような籤(くじ)あるいは証券を考える。

翌日確率 12 で2000円が受け取れ,確率 12 で0円になる

このくじが800円で売られているとして買うだろうか? このくじの平均的な収益は1000 円であるが,2000円になることがある一方で0円になってしまうこともある。このよう な場合リスク(危険)があると言う。これをどのような価格で買うか買わないかはその人 がリスクに対してどのように考えるかにより,900円では買わないが800円なら買う人,

1000円で買う(1000円を越えると買わない)人,中には1200円でも買う人がいるかもし れない。最初のタイプの人を「危険回避的」,2番目の人を「危険中立的」,最後のタイプ の人を「危険愛好的」と言う。危険中立的とは平均の収益だけで判断しリスクを気にしな いことを意味する。危険回避的,危険愛好的はそれぞれリスクを嫌うこと,リスクを好む ことを意味する。一般的に人々は危険回避的であると考えられるがその程度は人によって 異なるであろう。すなわち上記のくじを800円以下なら買う人もいれば,500円以下でな ければ買わない人もいるだろう。このような不確実性のもとでの人々の行動を効用関数を 使って分析することを考える。人々のくじに対する選好が次の条件を満たすものとする。

1.『(連続性)3つのくじL1,L2,L3があり,ある個人がL3よりL1を,L2より L3を好むとき,L1とL2をある比(1より小さい正の数)で組み合わせたくじで L3と無差別になるようなものがある。』

ここで2つのくじを組み合わせるとは以下のようなことを意味する。

L1:翌日確率12 で2000円が受け取れ,確率 12 で0円になる

L2:翌日確率12 で1500円が受け取れ,確率 12 で300円が受け取れる

が2つのくじであるとしてこれらをp W1 p.05p 51/の比で組み合わせると 次のようなくじになる。

pL1C.1 p/L2:翌日確率12pで2000円が,確率12.1 p/で1500円が,確

2 2

この条件は好きなくじと嫌いなくじ,およびその中間的なくじがあったとき,好き なくじと嫌いなくじを適当に組み合わせたもので中間的なものと無差別(効用が等 しい)になるものがあるということである。pを大きくすれば組み合わせたくじは L1に近づき,小さくすればL2に近づくので妥当な条件だと思われる。

2.『(独立性) 上記の条件におけるL1とL2を組み合わせたくじとL3はそれらにつ いて無差別な個人にとっては同等のものであると見なし,さらに別のくじとの組み 合わせにおいてこれらを置き換えても個人の選好に変化はない。』

この条件はいくつかのくじを組み合わせたくじにおいてその中の1つ(それ自体が 複数のくじを組み合わせたものである場合も含めて)をそれと無差別な別のくじと 置き換えたものはもとの組み合わせと無差別であることを求めるものであり,くじ に関する人々の選好の合理性を要求する条件である。

これらの条件のもとで人々の効用を比較的簡単な形で表すことができる。なお以前に説 明した推移性はここでも仮定する(すでに第1の条件においてL1,L2,L3に関する選 好の部分で推移性を用いている)。

定理2.10.1(期待効用定理). 上の条件のもとで

L:確率pでx円,確率1 pでy円受け取れる

というくじLに対するある個人の効用は,u.x/,u.y/をそれぞれ確実にx,yが得られ るときの効用の適当な表現として,それらの期待値

u.L/Dpu.x/C.1 p/u.y/

で表される。

このとき効用関数uu0DauCba.> 0/bは定数)で置き換えると

u0.L/Dpu0.x/C.1 p/u0.y/Dpau.x/CpbC.1 p/au.y/C.1 p/bDau.L/Cb となり,2つのくじL1とL2についてu.L1/=u.L2/のときにはu0.L1/=u0.L2/が成 り立つのでuとu0とは同一の選好を表す。

証明. x > yと仮定する。実現可能な最大の収益,最小の収益をそれぞれh,lで表す。条 件1(連続性)によりある確率rx でh,1 rxでlが実現するというくじと,確実にxが 得られるというくじ(くじではないが一応これもくじに含める)とが無差別になるような rx.0 < rx < 1/が存在する。ただしx Dhのときはrx D1x D lのときはrx D 0 ある。同様にある確率ryでh1 ryでlが実現するというくじと,確実にyが得られ るというくじとが無差別になるようなryが存在する。そこでxyの効用をu.x/Drx

2.10 不確実性と期待効用 83 u.y/Dryで表すことにする。したがってu.h/D1u.l/D0である。abを定数とし

てu.x/DarxCbu.y/DaryCbと表してもよい。

xyをそれぞれ上記のくじと同等のものと見なせば,条件2(独立性)によりくじL 確率prxC.1 p/ryでh円,確率p.1 rx/C.1 p/.1 ry/l円受け取れる というくじと同等のもであると見なすことができる。したがってくじLの効用はprxC .1 p/ryで表されるが,これはpu.x/C.1 p/u.y/に等しい。x,yの効用をu.x/D arx C b,u.y/ D ary C b と表す場合には Lの効用は aŒprx C.1 p/ryCb D p.arxCb/C.1 p/.aryCb/と表され,やはりpu.x/C.1 p/u.y/に等しい。

この定理は,あるくじに対する人々の効用はそのくじに含まれるそれぞれの場合の効用 の期待値に等しくなるように表すことができるということを意味する。このようにして表 現された効用は期待効用(expected utility)と呼ばれ,Lの期待効用をE.L/と表すことも ある(EはExpected valueのE)。1つ例を考えてみよう。くじの結果得られる収益をx として2人の人,個人1および2の効用関数が次のようであるとする。

u1.x/D6800x x2 u2.x/D8200x 2x2

上記のくじL1から得られる期待効用はそれぞれE1.L1/D 12.68002000 20002C0/D 4800000E2.L1/D 12.82002000 220002C0/D4200000となるが,個人1はこ のくじと確実に800円が得られるくじについて無差別となるのに対して,個人2はこのく じと確実に600円が得られるくじについて無差別であるから,個人2の方がより危険回避 的であると言える。abを定数としてu1

u01Da.6800x x2/Cb

のように書き直しても今の計算には変化がない(u2についても同様)。序数的な効用の場 合にはある効用関数uに対してu0DauCbとするだけではなくu0Du2u0Du3とし ても同じ選好すなわち同じ無差別曲線を表すことになるが,期待効用の場合はu0DauCb のときだけ同一の効用関数と見なされ,u0Du2u0 Du3の場合はuu0は異なる効 用関数と考えなければならない。

この期待効用理論にもとづいて保険や金融など不確実性に直面する人々の様々な行 動が分析される。また,後の章で解説するゲーム理論では人々(プレイヤーと呼ぶ)の 効用はこの期待効用の意味で表されている。「期待効用定理」の条件を満たす効用関数 を,最初にその研究をした人々の名をとってフォン・ノイマン-モルゲンシュテルン(von Neumann-Morgenstern)型効用関数と呼ぶ。

われわれが保険会社の人件費その他の経費支払いや株主への利益分配に回される保険料 を支払ってでも火災保険や地震保険,自動車の任意保険などに入るのは,災害に会ったり

くつかの企業の株に分散投資するのもやはりリスクに対応するためである。また犯罪に対 する刑罰を重くするのは,罪を犯して逮捕されたときのリスクを高めることによって(合 理的判断にもとづく)犯罪を犯す誘因(インセンティブ)を小さくしようとするものであ ると考えることができる*27

■保険の例 利益や損失など金額で表される結果についてのある人の効用関数が次のよう であるとする。

u.x/D300C140x x2

xは金額を表す。地震保険に入るかどうかを考える。地震が起きないときの経済的な利益 をxD30(たとえば100万円を1単位とすると3000万円),地震が起きたときはxD0 であるとする(地震の損害は30である)。この地震が起きたときにその損害を完全に埋め 合わせてくれる保険があるとしていくらまでなら保険料を支払ってもよいだろうか。ある 期間に地震が起きる確率は101 であるとする(保険料もその期間の保険料である)。期待効 用は次のように計算される。

E.u/D3600 9

10C300 1

10 D3270

保険料を払えば地震が起きても損害を被らないので不確実性はなくこの人の効用は保険料 をyとすれば

u.30 y/D300C140.30 y/ .30 y/2D3600 80y y2 と表される。3600 80y y2D3270よりy2C80y 330D0が得られ

yD 40Cp

19303:9

が求まる。地震による損害そのものの期待値は 3であるから危険中立的ならば3の保険 料しか払わないはずであるが危険回避的な行動により3.9までの保険料を支払う可能性が ある。

■アレのパラドックス ノーベル賞受賞者アレによる期待効用理論に対する反例。期待効 用理論はたいへん便利であるが実際の人間の行動と合わない面もある。次のようなくじを 考える。

*27しかし同じわれわれが(筆者は買わないが)宝くじを買ったり,馬券を買うのはなぜであろ うか(競馬はスポーツでもあるが)。これについては,危険回避的な人も生活に響かない程度 のちょっとしたリスクに対しては正の効用を感じると考えるべきであろう。中にはギャンブ ルや株式投資にはまって身を持ち崩す人もいる。そのような人は危険愛好的になっていると 考えられるが,危険愛好的というのは人間として正常ではなく病的な状態であると思われる。

詳しくは心理学が対象とすべき問題である。

ドキュメント内 i * III () 23. *1 (ページ 91-96)