1.10 市場均衡の安定性
1.10.2 マーシャルの調整過程
満たされない需要や売れ残りがあってもすぐには価格が変化せず,しばらくそのままの 状態が続いた後,産出量が変化するという調整の仕方も考えられる。図1.9で産出量が均 衡値より少ないx1であるとしよう。この産出量については消費者はpDの価格で買って もよいと思うのに対し,企業はpS で売れれば十分であると考える。前者を需要価格,後 者を供給価格と呼ぶ。このとき実際にどのような価格で売れるかはその財の市場の性質や
*19それぞれ需要超過,供給超過の状態であるとも言う。
*20需要が供給より多い場合,消費者がいくら欲しいと思っても供給がなければ購入することは できないから取り引き量は供給量に等しくなる。逆に供給が需要より多い場合,企業がいく ら売りたいと思っても買ってくれる消費者がいなければ売ることができないので取り引き量 は需要量に等しい。
1.10 市場均衡の安定性 21
D S p1
p2
p E
需要量・供給量 価
格
図1.8 ワルラスの調整過程―不安定なケースの例
D S pD
pS
x
x1 x2
E
需要量・供給量 価
格
図1.9 マーシャルの調整過程―安定的なケース
企業の行動の仕方による。電化製品などで定価販売(あるいは一定率での割引販売)が行 われている場合には実際の価格はpS に近くなり満たされない需要は待たされるであろう が,魚や野菜のような市場では需要に対応したpDに近い価格になるであろう*21。
*21魚や野菜などの市場で,ある日の価格がどうなるかについてはその日一日の供給量に対応し た垂直な供給曲線と需要曲線との交点の価格がワルラスの調整過程によって実現されると見
S D E
需要量・供給量 価
格
x
x1 x2
図1.10 マーシャルの調整過程―不安定なケースの例
ここで次のようなマーシャルの調整過程を考える。
マーシャルの調整過程(マーシャル的調整過程) 需要価格が供給価格を上回っていれば 企業は産出量を増やし,供給価格が需要価格を上回っている場合には産出量を減 らす。
図1.9のx1では需要価格が供給価格を上回っている。需要価格が供給価格より高いとき には,企業にとっては生産した財が思ったよりも早く売り切れてしまうので,産出量を増 やしても採算がとれると思って増産すると考えられる。一方産出量が均衡より多いx2に おいては,供給曲線が需要曲線より上にあるので供給価格が需要価格を上回っている。こ のような場合企業は,自分が望む価格では売れ残ってしまうので産出量を減らす。そうす ると図1.9の場合には矢印で示したようにどちらのケースも産出量が均衡値に近づいてい くので安定である。図1.10の場合はどうであろうか。この図のようなケースでは,均衡 より少ない産出量では供給曲線が需要曲線より上にあって供給価格が需要価格を上回って いる,一方均衡より多い産出量では需要曲線が供給曲線より上にあって需要価格が供給価 格を上回っている。したがって,いずれも産出量は均衡値からさらに遠ざかっていくよう な動きをすることになり不安定である。
一般に,マーシャルの調整過程のもとで均衡が安定になるのは需要曲線と供給曲線が以 下の条件を満たしている場合である。
ることもできる。
1.10 市場均衡の安定性 23
D S p1
p2 p3
E
需要量・供給量 価
格
図1.11 くもの巣の調整過程
マーシャルの調整過程の安定条件 均衡点より右では供給曲線の方が需要曲線より上にあ る。逆に均衡点より左では需要曲線の方が供給曲線より上にある。
均衡点より右においては産出量が均衡より多くなっている。その状態において供給曲線の 方が需要曲線より上にあれば,供給価格が需要価格を上回っているので企業は産出量を減 らすことになるから均衡に近づいていく。均衡点より左では産出量が均衡より少なくなっ ている。その状態において需要曲線の方が供給曲線より上にあれば,需要価格が供給価格 を上回っているので企業は産出量を増やすことになるからやはり均衡に近づいていく。
ワルラスの調整過程は株式市場や為替市場,魚や野菜の市場などに,マーシャルの調整 過程は工業製品などに当てはまると考えられるが,(供給が変化しない)ごく短時間の調 整はワルラスの調整過程によって,(供給をある程度変化させられる)いくらか長い時間 の調整はマーシャルの調整過程によって表現されると考えることもできる。