第 3 章 企業の行動 92
3.18 公共財
3.18.4 グローブズメカニズム (Groves mechanism)
グローブズメカニズムと呼ばれる別の方法を紹介しよう。2人の人,A,Bがいて,あ る公共財を作るかどうか,また費用の負担をどうするかということを考える*30。その公共 財に対する各自の評価(貨幣で測った効用)はvA,vB で表される。公共財を作るのに必 要な費用はcであるとする。次のような手順で費用負担を決める。
1. 各自が評価額ri.i DA; B 以下同じ/を申告する。ただしri D vi であるとは限ら ない。
2. rACrB =cならば公共財を作るが,rACrB < cならば作らない。
*29この状況は次章で扱うゲーム理論で言うところの「囚人のジレンマ」の一種である。
*30以下の内容は梶井厚志・松井彰彦『ミクロ経済学 戦略的アプローチ』(日本評論社)を参考に したものである。
3.18 公共財 153 3. 公共財を作る場合の各自の費用負担額はcから相手の申告額を引いたものとする。
すなわちAの負担額はc rB,Bの負担額はc rAである。
もちろん2人の真の評価の和vACvBがcより大きければ(小さくなければ)公共財を 作る価値がある。しかし,この方法において各自が真の評価vi を申告するインセンティ ブを持つであろうか? Bの申告をrBとしてAの申告rAと(公共財の供給とその費用負 担から得られる)Aの効用との関係について以下のケースに分けて考えてみよう。
1. vACrB c > rACrB c=0のとき(rA < vA)
このときはvA を申告してもそれより小さいrAを申告しても公共財は生産され,
いずれの場合もAの効用はvACrB cである。Aの申告とAの負担とには関係 がないことに留意されたい。
2. vACrB c=0 > rACrB cのとき(rA < vA)
このとき正直にvAを申告すれば公共財は生産されAの効用はvACrB cになる がvAより小さいrAを申告すれば公共財は生産されず(公共財に関する)効用は0 である。vAを申告した方が大きな(少なくとも小さくない)効用が得られる。
3. 0 > vACrB c > rACrB cのとき(rA < vA)
vAを申告してもそれより小さいrAを申告しても公共財は生産されず効用は0で ある。
4. rACrB c > vACrB c=0のとき(rA > vA)
このときはvA を申告してもそれより大きいrAを申告しても公共財は生産され,
いずれの場合もAの効用はvACrB cである。
5. rACrB c=0 > vACrB cのとき(rA > vA)
このとき正直にvA を申告すれば公共財は生産されないがvA より大きいrA を 申告すれば公共財は生産される。しかしそのとき得られる効用はマイナスになる
(0 > vACrB c)のでvAを申告した方が大きな効用(この場合は0)が得られる。
6. 0 > rACrB c > vACrB cのとき(rA > vA)
vAを申告してもそれより大きいrAを申告しても公共財は生産されず効用は0で ある。
以上によってこの費用負担の方法であれば正直にvAを申告することによって少なくとも 他の申告をするよりも悪くなることはなく,より大きな効用を実現できる場合もあること がわかる。Bについても同様に考えることができる。この方法で費用負担を決めればうま く行くように思われるがなかなかそうではない。公共財の費用はcであるが2人の負担 額の合計はいくらになるのであろうか? 各自が正直に申告すればAの負担額はc vB
でBの負担額はc vAであるからその和は2c .vACvB/である。もしvACvB > c であれば(費用よりも価値の方が大きければ)2c .vACvB/ < cとなって公共財を生産 するのに要するお金を集めることができなくなってしまう。そこでこれを次のように修正
(修正されたグローブズメカニズム) 公共財を生産するしないに関わらず,もし相手が 費用の均等割り(2人ならば半分)よりも大きな申告をしているならば相手の申告 額と均等割り額の差額が自分の負担額に追加される。
この方法においてAが得られる効用とrAの関係を次のように整理することができる。
1. rB 5 c2 のとき
(i) 公共財が生産される(rACrB =0)ならば効用はvACrB c。
(ii) 公共財が生産されない(rACrB < 0)ならば効用は0。以上2つのケースの 効用は上の方法と同じなので同様の議論でvA を申告しても損をすることは ない。
2. rB > c2 のとき
(i) 公共財が生産される(rACrB =0)ならば効用はvA c
2。この場合の負担額 はc rBC.rB c
2/D c2 である。
(ii) 公共財が生産されない(rACrB < 0)ならば効用は2c rB < 0。このときは 公共財が生産されなくてもお金を取られてしまう。
公共財が生産される場合と生産されない場合のAの効用の差を計算すると vACrB cとなる。vACrB c=0であれば公共財が生産される方が効用 が大きく(少なくとも小さくなく),またvAを申告することによって公共財が 生産されるようにできるのでvAを申告すればよい(公共財が生産されるよう にできれば他の申告でもよいがvAでもよい)。逆にvACrB c < 0ならば公 共財が生産されない方が効用が大きいが,このときはvAを申告しても公共財 は生産されない。
以上によってこの修正された費用負担においてもvAを申告することは少なくとも悪く ないことが言える。では負担の合計はどうなるであろうか? 公共財が生産されるならば vACvB =cが成り立っているので(正直に申告するとして)少なくともどちらかの人が 費用の半額に等しいかそれより大きい申告をしている。vB > c2 かつvA < 2c と仮定して みよう。このときAの負担額はc vBCvB c
2 D c2 で,Bの負担額はc vAであるか らその合計は 32c vAとなるが,仮定よりvA < c2 なのでこれはcより大きい。vA= c2 かつvB = c2 の場合はAの負担額もBの負担額も c2 になり合計は丁度cになる。以上に よりこの修正された方法では公共財を生産すべきときには必要な費用を集めることができ る。しかし,生産しない場合にもどちらかの人の評価が2c を越えているならばもう一方の 人からお金を取ることになってしまう。また公共財が生産される場合も一方の申告額が費 用の半分より小さい場合は余分にお金を集めることになる。