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現代の共同性

ドキュメント内 間柄の自律 (ページ 126-129)

4. 共同性の再考

4.5. 現代の共同性

マンサー・オルソン(Mancur Olson)は、集団の行為者の観察を通して、共同性実現の条 件を模索した。オルソンは、『集合行為論』(1965=1983)にて、それまでアメリカ社会学で 通説であった、「集合行動(collective behavior)」として把握される集団運動を、「集合行為

(collective action)」として捉え直す理論を展開した。「集合行動」とは、「共通な集合的衝動、

つまり社会的相互作用の結果生じずるインパルスの影響下にある人々の行動」であり(森岡,

塩原, & 本間, 1993)、それに対し「集合行為」とは、「社会運動に参加する個別の行為者の行

為」である(保坂 & 渋谷, 2012)。つまり、集合行動において、複数の異なる行為者らは常に 同質とされ、集合行動に関わる行為者の個別性は配慮されない。それに対し、オルソンは、

「同じ境遇にあっても行為者によって異なる行為を選択すること」に注目したのである(保 坂 & 渋谷, 2012)。

オルソンは、ここからまず、集団が社会運動を起こす際に当事者全てが享受する財を、

快適な環境や社会秩序等の「集合的財」と、名声、尊敬、友情等の「非集合的財」に区別 する。人々は、財を享受するために必要な運動を、「合理的な行為」であるかどうかを判断 した上で、行為を選択する。すなわち、人々は、集合的財を求める一方で、協力行動(共 同性)に伴うコスト・負担を避ける傾向性を持つ(長谷川, 2000)。運動参加へのコストが見返 り(財)に妥当しない場合、合理的で利己的な個人は、共通の利益、あるいは集合的な利 益の達成に向けて行為はしない...

のであり、むしろ、コストを払わずに他者の努力によって 得られる成果を享受する、いわゆる「フリーライダー」を選択するのである(Olson, 依田, &

森脇, 1996, p. 2)。その上で、協力行動の実現には、(1)「選択的誘因」が提供されること、(2)

強制を加えること、のいずれかの条件が満たされる必要があるとし、さらには(3)個別の 成員の行為が他の成員から知覚(監視)されやすい小規模集団であることが効果を高める と結論付ける(Olson et al., 1996, pp. 43, 85, 35)。「選択的誘因」とは、「協働の目的や利益すな わち「集合的財」の生産にかかる費用や負担と引き換えに、それとは異なる個別」に諸個 人に与えられる誘因」、例えば報酬等を言う(西村, 2016)。

人々がある集団のうちにあり、目的を共有しながらも、それぞれが異なる行動を取ると いう個別性は、4.1で示した、前近代と近代の人びとの結合の仕方(図12)の違いから、さ らに、個々の自由度の高まり、あるいは共通項の限定性を示すものであると言える。すな わち、前近代においては、思想-原則-目的-行動の4つのレベルで同一的であり、近代に おいては、思想や原則は一様ではなく、目的と行動において共通性を持つというものであ

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ったが(図16のa)、オルソンの指摘は、目的を共有しつつも、人々は行動において一様で はないと言う(図16の b)。ただし、ここには注意が必要であり、「ある一集団のすべての 成員が合理的で利己的だと仮定すると、その集団目的が達成されてしまえば、全員が利益 を得る訳だから、かれらすべてがその目的達成のために行為するであろうということには ならない....

のである」(Olson et al., 1996, p. 2)。ここからわかることは、人々が共有しているレ ベルは、計画段階における目的ではなく、目的達成後の帰結である(図16のc)。集団があ る目的に向け行動を規定する場合、自分一人がそれに向けての努力を怠ったとしても、利 益を得られるであろうという心理が働く。オルソンの言う集団の共通関心は、最終的な帰 結=利益にある。すなわち、エプロン・ダイアグラムおよび間柄の理論構造にて示された、

一定の共通指針の共有と、それに従いそれぞれが目標を立て行動を起こすという前提とは 異なり、目的・行動・帰結のみに焦点をあて、さらには、人びとはその帰結に群がり、行 動の導出には強制あるいは選択的誘因が必要となる。ただし、この時点で、共通項は目的 から帰結へと移り、それにより「共同性」の概念が喪失されるのである。

16 共同性の構造

オルソンの3つの条件((1)選択的誘因、(2)強制、(3)小規模集団による監視効果)は、

「共同性」の実現とは一線を画す必要がある一方で、なぜ、富の社会化が実現しているケ ースがあるのかについての判断指標として用いることができる。例えば、5.4.1 で論じた地

b)目的共有型の疑似的関係 a)目的・行動共有型の関係

(集合行動論の前提)

思想

帰結 目的 原則・理念

手法・行動

c)帰結共有型の関係

監視、強制あるいは 選択的誘因が必要

(オルソン)

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域コミュニティにおける富の分配について見てみると、共有地の草ぬきや清掃は、(1)強制 力はなく、また(2)報奨等の選択的誘因も存在しない。では、(3)監視の目はどうであろ うか。確かに、この影響は拭いきれない反面、それが唯一の動機と言うわけでもない。と なれば、他に何が共同性の誘因として存在するのか。

集団運動を、集合行動.

から集合行為.

として捉えなおすオルソンと同じ流れのなかに、オ ーバーシャル(Anthony Oberschall)とティリー(Charles Tilly)がいる(保坂 & 渋谷, 2012)。 オーバーシャルは、社会運動を通して、その内部に築かれる自らの地位に着目し、権威、

道徳的責任、信頼、友愛といった非物質的資源の動員の存在を指摘した。他方、ティリー は、行為者を取り巻く潜在的なネットワークの存在に注目し、既定の戦術、リーダーの資 質、人脈といった潜在的な....

資源が、社会運動の活性化を促すことを指摘した(保坂 & 渋谷,

2012)。非物質的資源としてオーバーシャルが挙げる、権威、道徳的責任、信頼、友愛につ

いて、「間柄」は、権威以外の3つの資源を醸成することはすでに述べてきた。また、ティ リーの挙げた潜在的なネットワークは、「コミュニティ」と「個」の関係性とは明確に区別 された「間柄」の有効性を示すものである。間柄のネットワークとは、ただ無数の拡がり を言うのではなく、一対一の実在的な関係性の連鎖であり、顔の見える他者の存在が、共 同的行動を促す動機となる。それは、同調であったり、参加しない場合のきまりの悪さで あったり、必ずしも相互利益等の合理的理由ではない。オーバーシャル、ティリーが提示 する共同性の動員資源のいずれにも「間柄」が有効な前提を創出することを裏付けする。

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