• 検索結果がありません。

ゲマインシャフト

ドキュメント内 間柄の自律 (ページ 36-39)

1. 社会集団

1.2. コミュニティの概念

1.2.2. ゲマインシャフト

まず、社会集団の最も古典的な概念として、原始共同体、封建的共同体、村落共同体等 の多様な共同体の基礎として(大塚の言う「外枠」として)位置づけられるゲマインシャ フトについての考察を行う。ゲマインシャフトとゲゼルシャフトを提唱したフェルディナ ント・テンニース(1855-1936)によると、肯定的な関係によって形成される集団(結合体)

には、実在的有機的な生命体と、観念的機械的な形成物と考えられるものとがあり、前者 がゲマインシャフト(Gemeinschaft)の本質であり、後者がゲゼルシャフト(Gesellschaft) の概念と理解される(Tönnies & 杉之原, 1957b, p. 34)。ゲマインシャフトが、「すべての信頼に みちた水いらずの共同生活」であり恒久的な存在であるのに対し、ゲゼルシャフトは、「公 共生活」であり「世間」であり一時的な集合体を指す。前者は、家、言語、慣習、信仰な どと接続され、後者は、営利、旅行、学術などと結合する。最初に人格的な信頼関係が前 提され、それにより相対的に敵対が抑制され、貢献を促進しあう場合がゲマインシャフト であり、まず相手が敵対か貢献かを見極めたうえで、これに応じて態度を決め、あとから 人格的な信頼関係を形成する場合がゲゼルシャフトと定義される(田野崎, 1972, p. 35)。

ゲマインシャフトは、「血」のゲマインシャフトを起点とし、共同居住による「場所」の ゲマインシャフトへと発展し、さらに目的や意図を同じくする共同作業としての「精神」

のゲマインシャフトへと分化する。この3段階の分化過程のうち、3つ目の「精神」のゲマ インシャフトは、植物的な「血」と動物的な「場所」と結びつき、真に人間的なゲマイン シャフトの表現として存在する。人間が意志によって有機的に結びつくとき、血縁(肉親)、

場所(近隣)、精神(朋友)の3つの種類(段階)のゲマインシャフトのいずれかが常に存 在する。

また、テンニースは、人間の意志をゲマインシャフトにおける「本質意志」とゲゼルシ ャフトにおける「選択意志」とに区別する。「本質意志」が活動に内在していることに対し、

31

「選択意志」はそれが関連する活動に先行して存在し、活動の外に留まる。すなわち、「本 質意志」から生じる活動は、それ自体が目的であり、本能的な行為として現れる。「本質意 志」を、血縁(植物的)、場所(動物的)、精神(人間的)に対応させて整理すると、個人 の部類においては、「適意」21、「習慣」、「記憶」となり、社会的実現(他者とのかかわり)

の部類においては「了解」、「習俗」、「信仰」として表出する。テンニースは、この社会的 部類におけるもっとも原初的な「本質意志」である「了解」をゲマインシャフトに特有の 他者を交えた意志として位置づける。「了解」は、相互に共通で結合的な心持ちであり、人 間が全体の部分として全体への結合を許す特殊な社会的能力であり社会的共感である

(Tönnies & 杉之原, 1957a, p. 58)。また、相互的了解は、互いの体質や経験の類似性が高いほ

ど、気質や性格や考え方が調和性を持つほど、生じやすい。こうしたことから、ゲマイン シャフトには、「同質的価値秩序」が支配的に存在する(Heller, 良知, & 小箕, 1976, p. 10)。

テンニースによると、ゲマインシャフトに生じる敵対感情は、「自然的な紐帯の破壊また は弛緩から生ずる」ものと「面識なきこと・了解していないこと・不信に基づいて生ずる」

ものとに区別される。しかし、テンニースはいずれの敵対感情も「不自然で病的な状態」

であると位置づけ、「深い了解から生ずる真の」敵対感情の背後にはつねに友情や和合の存 在があるとする。このように、テンニースにおいては、人々の意志の相互作用はその性質 上、「他人の意志または身体を保存する傾向をもっているか、あるいはそれをそこなう傾向 をもっているかのいずれかであ」り、肯定的相互関係が支配する場合に限り、ゲマインシ ャフト的関係であると規定される(Tönnies & 杉之原, 1957a, p. 34)。

テンニースによって精神的・人間的つながりとして分析されたゲマインシャフトは、マ ックス・ヴェーバー(1864-1920)の考察においては、より組織的・客観的な側面から説明 される。ヴェーバーにおいてゲマインシャフトは、最小単位としての家から、近隣・氏族・

種族・宗教教団・市場・政治団体・階級・身分・党派などまで派生し(折原, 1997)、血縁、場 所、精神というテンニースの情緒的な発展的分類よりも、社会関係形成態としての意味合 いを強く示す。また、テンニースが、肯定的関係による相互了解が強まるところにおいて ゲマインシャフトを見出だしたことに対し、ヴェーバーは、社会的発展におけるゲマイン シャフトは強い対立をも生みだすと考察した。その経緯は以下に示すゲマインシャフトの 派生形式とそこでの個々人の態度をもって説明される。

ヴェーバーは、ゲマインシャフトのより原生的な形態を見極め、概念構成の起点に据え

21 人間の生具的な快感、あるいは人間の全生活・全思想・全努力をつらぬいて支配する有 機的衝動の複合体であり、(A)生命それ自体への意志、(B)栄養およびそれに関する活動 や感覚への意志、(C)生殖への意志に分類される(Tönnies & 杉之原, 1957a, p. 173)

32

ようとした。今日においては、(1)父母間、(2)母子間、(3)父子間、(4)兄弟姉妹間の関 係によって成り立つ「核家族」を原生的(urwüchsig)な単位であると考えがちであるが、ヴ ェーバーは、より原生的なゲマインシャフトとして母子関係があり、さらにはそれも絶対 的な始原状態ではなく、扶養関係の終わりとともに絶対性は失われることを指摘した(折原,

1997)。その上で、日常の需要を満たす家ゲマインシャフトに対し、次の段階としての相互

扶助の関係を築く近隣ゲマインシャフトを位置づけ、村落のような原生的形態のみならず、

空間的接近から生ずる、慢性的ないし一時的な利害状況の共有一般をもそこに含めた。近 隣ゲマインシャフトにおいては、物理的接近にもかかわらず、できるだけ距離を取ること を意識するが、共通の危機に直面した場合に互恵的行為に移る。これは、「汝が我にするよ うに、我も汝にしよう」との互恵主義に則るもので、無償貸与と無償労働の相互提供とい う形式を取る。さらにこの近隣縁は、そのゲマインシャフト内での経済的分化に伴い、経 済的有力者への無償労働に形を変え、また次の段階においては、対外関係の緊張とともに 防衛的措置として、自発的あるいは慣習律として提供されていた無償労働が義務に転化す る。こうした隣人間のつながりは、つねに互恵的融和関係であるとは限らず、いったん対 立により互恵的関係が崩れると、その人間関係の濃密さから、対立は尖鋭化する(折原, 1997)。

概して、ゲマインシャフトは、実在的・有機的に結びつく互恵的な共同関係に基づく集 団であり、観念的・機械的なゲゼルシャフトと対照をなす。本質意志に基づく社会的共感 が生じ、そこではより本能的・情緒的な行為が確認される。また、主体との近接性を軸に、

段階的に派生するものとして理解され、構造化、組織化された集合体としての側面を有す る。おおよそ、こうした社会関係・構造に関しては共通認識が得られるものの、テンニー スのそれには、肯定的諸関係のみが含まれ、相互肯定感に基づく了解が本質的に存在する との楽観的な分析が確認されることに対し、ヴェーバーは、親密度が高いからこそ起こる 強い対立を指摘する。

同一の価値観に基づく前近代的共同体においても、成員間の相互作用は絶対的な同意で はありえず、敵対感情の悪化から集団の分化に発展するケースも考えられる。テンニース による「了解」を有するゲマインシャフトを共同態の根源的状態であるとすると、ゲマイ ンシャフト的コミュニティは不和(否定的相互関係)の存在しない理想郷あるいは擬制的 共同体としてのみ存在しうるということになる。あるいは、不和状態にない他者との結合 のみをゲマインシャフトのうちにとらえるとすれば、意見の相違によって分化・集約が常 に行われていることが想定される。ゲマインシャフトが、人間の社会的集合性の前提とな る社会形態として位置づけられるならば、人間の肯定的共感と同時に競争的本能も認めら

33

れるべきであり、ヴェーバーの指摘する、自然的であるからこその対立が生じると考えら れる。

ドキュメント内 間柄の自律 (ページ 36-39)