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エプロン・ダイアグラムの共有原則

ドキュメント内 間柄の自律 (ページ 119-122)

4. 共同性の再考

4.2. エプロン・ダイアグラムの共有原則

こうした構造から脱却するためには共有概念の転換が必要となる。すなわち、人々と共 有すべきものは何かということを問い直す必要がある。この共有概念の転換に示唆を与え るのが、エプロン・ダイアグラムと呼ばれる、4層からなる前提と結論の論理的構図である

(図14)。エプロン・ダイアグラムは、アルネ・ネスが提唱したディープ・エコロジー運動 の特性や構造を説明するために考案された構図であるが(井上, 2016)、その構造は、多様な思 想や哲学を持つ人々が、一定の倫理に則った原則を共有し、多様な形でそれぞれの目標に 向かって判断し、行動を行うプロセスを可視化し、人間の社会的連関にも応用が可能であ る。

38 エネルギー専門家でありエコロジー運動の支持者であるパウル・ホフセフの言葉をネス が引用。

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図 14 エプロン・ダイアグラム

まずその構図を概観すると、エプロンの形を模した4層の重層構造は、前提(図の上のレ ベル)と結論(下のレベル)が論理的に結ばれ、個々のレベルが互いに密接な関係で結ば れていることを示す(Arne Naess, 1995b)。レベル1は信仰や哲学などの根本原理を示し、レベ ル2がディープ・エコロジー運動で言うプラットフォーム原則39であり、レベル3は一般的 指針、レベル4に具体的決定が置かれる。それぞれのレベルは論理的に説明可能な関係で構 成され、またあるレベルの事柄が別のレベルの事柄を導き出す派生的な関係(影響・動機・

示唆・因果関係)が認められることもある。根本原理から原則や目的を論理的に導出する 図の上から下への動きと同時に、問題の対処に対しては、具体的決定から一般規範、原則 へとレベルを下から上で上げつつ根本原因を突き止めるという両方向の論理構成が成立す る。

この構図で注目すべき点は、すべてのディープ・エコロジー運動家が同じプラットフォ

39 ディープ・エコロジー運動において、共通概念として置かれたプラットフォーム原則 は、次の8項目から成る。(1)地球上の人間および人間以外のすべての生命が、幸福であり 反映することは、それ自身価値がある。これらの価値は、人間の使用価値とは関係がない

(固有の価値、本質的価値を持つ)、(2)生命が豊かで多様なかたちで存在すること自体が 価値であること、(3)不可欠の必要を満たすため以外に、この生命の豊かさや多様性を損な う権利を人間はもっていないこと、(4)人口は大幅に減らす必要があること、(5)人間の自 然界への介入は過剰であり、状況が急速に悪化しているという事実を認めること、(6)経済 的・技術的・思想的な基本構造に影響を及ぼす深いレベルでの政策変更が必要であること、

(7)物質的生活水準の不断の上昇へのこだわりを捨て「生の質」の真の意味を理解するこ と、(8)必要な変革の実現のための努力を義務として負うこと(井上有一, 2016)。

レベル 1:

根本原理

(信仰、哲学)

レベル 2:

プラットフォーム原則

レベル 4:

具体的決定

(活動、特定の規則)

レベル 3:

一般的な規範的帰結

(政策、目的)

論理的導出

問題化

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ーム原則を支持するからといって、信仰や哲学を同じくする必要はないということである。

また、プラットフォーム原則を共有しつつも、具体的な指針や方策においては、異なる結 論が導かれることも認めている。この構図は、根本思想を共有するのでもなければ具体的 な行動や政策で人々を統制するのでもなく、プラットフォーム原則を共通項とするのみで、

3つのレベル(レベル1,3,4)における多様性を奨励する。エプロン・ダイアグラムは、

ディープ・エコロジー運動の全体図を概観するために構想された図であるということは先 に述べたとおりであるが、この論理構成の発展の根底には次のようなネス自身の気づきが ある。ディープ・エコロジー運動が認知されるようになり、人びとはディープ・エコロジ ーの一連の原則に対して同意を示す一方で、イデオロギーに関する諸側面や論理的に派生 しうる結論に対しては意見の一致が得られないという状況である。議論を促進させるため には、共通のプラットフォームに置かれる原則とその原則の派生元である基本的性質(哲 学や宗教)を区別するべきではないか、と考え始めたわけである。プラットフォームが一 連の規範及び仮定として形成されることが前提される限りにおいて、基本的性質に含まれ る哲学や宗教的観念が互いに相いれないとしても、活動の全体に悪影響を及ぼすことはな

い(Devall & Sessions, 1985, pp. 225–226)。20世紀の偉大な草の根運動として挙げられる平和運

動、社会的公正運動を見てもわかるように、いずれもディープ・エコロジー運動同様、多 様な国や文化、宗教を背景とする人々が土台となる原則を共有することで、幅広い政策や 実質的行動を展開してきた(Devall & Drengson, 2005, p. xviii)。

人々の「共同」概念の転換は、前近代の共同体における全人格的な拘束や現代コミュニ ティの技術的手法への依存とは異なる新しい社会的関係性を示している。技術的依存から の解放は、人びとにプラットフォーム原則で示された共通概念に向かってどのような対処 方法が可能かを自ら考えさせることを意味する。プラットフォーム原則は、その運動に参 加する個人もしくはコミュニティの成員が共有する認識であると同時に、4つのレベル全体 における「原則」の位置づけを確認することで、成員間の連帯感、運動の全体像の理解を 促し、問題への深い認識を育てることにつながる(井上, 2001, p. 15)。すなわち、個々人が社 会的責任を認識し、それぞれが意思決定を行う市民性の評価に関わってくるのである(井上

有一, 2009)。人々を「目的」で縛るという従来の手法からの解放と基本原則の保持は、多様

な思想を持つ人々が、一定の理念(基本原則)を共有することで基本的姿勢を保ちつつ、

それぞれが目的を設定し、多様な取り組み(政策)へと発展させることが可能となる。

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