• 検索結果がありません。

3.1     概要

3.1.1     日本語教育の略史

ベトナムの日本語教育は、1940~1945 年に、日本軍のインドシナ進駐及び日本企業の進 出により、日本語通訳の必要性が生じたため、ハノイ、ハイフォンにおいて短期間の日本語 講座が開始されたことから始まった。その後、1961 年にハノイ貿易大学、1973 年にハノイ 大学(旧ハノイ外国語大学)で日本語学科が設置されたことにより日本語教育は体系的に実 施されることになった。

2 章で述べた通り、ベトナムでは 1986 年以降、教育のみならず、社会全体のドイモイ

(刷新)政策が実施され、1988 年以降の新体制下では、生産・流通・価格の自由化、国有 企業改革、非国有部門の活発化などの改革が実施された。この政策により、日本との経済・

文化交流が盛んに行われるようになった。加えて、ベトナム政府が「経済発展に役立つ」と して外国語学習を奨励したことから、日本語学習熱も高まった。その結果、ベトナムにおけ る日本語教育は飛躍的な発展を遂げるようになった。

90 年代から 2017 年現在まで、日本からベトナムへの投資は年々増加しているが、なかで も、3 回のベトナムブームと言われたほど、対ベトナムの直接投資金額が急増した時期があ った。それらの時期に、ベトナムに進出した日系企業により日本語ができる人材の求人ニー ズ、日本に技術者、技能実習生を派遣するニーズが増えたため、「日本語ブーム」と言える

ほど、日本語学習ニーズも急増した。以下、3 回のベトナムブームと日本語教育について述 べたい。

90 年 代 : 第 一 次 ベ ト ナ ム ブ ー ム

独立行政法人国際協力機構(JICA)によると、ベトナムへの本格的な外国直接投資

FDI)は、90 年代以降に開始された。1986 年のドイモイ(刷新)政策のもとで、90 年代 初頭から外国企業による直接投資(FDI)が増加傾向となり、第一次ベトナムブームと呼ば れるに至った。日系企業の対ベトナム直接投資は、第一次ベトナムブームの時代から始ま

った(図 3)。べトナムへの外国投資を増やすために、日本は 1992 年の ODA 再開後、発

電所や道路、橋梁、港湾などを整備するとともに、投資環境の国際基準に対応できるよう 法制度や工業製品の基準認証、検査制度等を整備した(JICA2013)。それ以降、ベトナ ムと日本両国の外交・政治・経済・文化などの交流は密になり、対ベトナム政府開発援助 において、日本は、長く最大支援国なっている。

南部ベトナムにおいて、90 年代は多くの日本語教育機関の設立により、日本語教育が正 式に開始され、発展していった時代である。1992 年以降、さくら日本語学校、ドンズー日 本語学校のような民間学校のほか、日本語教育が高等教育で実施されはじめた。まず 1992 年に、ホーチミン市国家大学人文社会科学大学の東洋学部において日本語教育が開始され た。1995 年にはホーチミン市外国語情報私立大学、1999 年にはホンバン私立大学のような 私立大学においても、規模は多少違うが日本語教育が導入された。北部においても、日本 語教育の活性化がみられた。具体的には、1992 年にハノイ国家大学外国語大学、1993 年に ハノイ国家大学人文社会科学大学において、それぞれ日本語教育が開 始 さ れ た 。 ま た 、 2000 年に、ホーチミン市で「日本語能力試験」が開始された。

国際交流基金による64と、ベトナム人日本語学習者数は 1993 年には 2,205 人であったが、

1998 年には 10,106 人に増えている。

2000 年 代 : 第 二 次 ベ ト ナ ム ブ ー ム

2000年代は、2003年にベトナム-日本の投資協定、2008年に越日の経済パートナー協定 が締結され、互いに「戦略的パートナー」として密接な関係が築かれた時期である。ベト ナムにおいては「親日」派が増え、東日本大震災ではベトナム国民の間に日本支援の輪が 広がっている。特に 2008 年には、ギソン石油精製所への大規模投資があり、投資金額が突                                                                                                                

64 国際交流基金が作成した「国・地域別日本語教育機関数・教師数・学習者数(1993 年)」

出していた。 2012 年までの日本の累計投資額は約 287 億ドルで諸外国のトップを占め、第 二次ベトナムブームだと言われた(図 3)(国際協力機構、2013)。

ベトナム南部の日本語教育においては、2003年にカントー大学外国語センター、2007年 にバリア・ブンタウ大学、2008年にホーチミン市師範大学で日本語教育が開始された。さ らに、2003年に「中等プロジェクト」として、ハノイの中学校で課外授業としての日本語 教育が開始され、2005年にはホーチミン市のVo Truong Toan中学校でも、第1外国語科目と しての日本語教育が開始された。2009年に「中等プロジェクト」で第一外国語科目として 日本語を学習した生徒の高校進学に伴い、北部のハノイ、中部のフエ、ダナン、南部のホ ーチミンの4都市のモデル高校で日本語教育が開始された。ベトナム中部の高等教育におい ても、2004年にダナン大学所属ダナン外国語大学、2006年にフエ外国語大学にて日本語専 攻学科が設置された。

2000年代には日本語教育機関の増加とともに、日本語教育がベトナム全土に普及し、中 等教育においても発展した。国際交流基金によると、2009年のベトナムの日本語学習者は 44, 272人になり、1998年の日本語学習者の人数の4. 38倍までに増加した。

3日本からベトナムへの直接投資の金額と件数(2012年)

出典:MPIよりJETRO作成、JICAのホームページから引用

https://www.jica.go.jp/vietnam/office/others/pamphlet/ku57pq0000221kma-att/Japan_Vietnam_Partnership_To_Date_and_From_Now_On_j.pdf 2013 年 以 降 : 第 三 次 ベ ト ナ ム ブ ー ム

2013年に日本の安倍首相が初めてベトナムへ訪問した。また、ベトナムの政府は2017年

1月に安倍首相の二度目の訪問、2月に天皇のベトナムへの初の訪問を歓迎した。日越首 脳会談で、安部首相は、「アジア太平洋地域の戦略環境が大きく変化する中、日本はこの

地域の平和と繁栄のため積極的な役割を果たしていく、日本にとってベトナムは,地域的 課題を共有し、経済的に相互補完関係にある重要なパートナーである」と述べ、両首脳は、

「戦略的パートナーシップ」をさらに発展させ、協力関係を強化し、アジア太平洋地域の 平和と安定,繁栄の構築に向けて、共に歩んでいくことで一致した。さらに、日本はベト ナムの経済社会発展を引き続き支援していくことを表明し、新たに3件・約5億ドル(466億 円)の円借款の供与を行う意向が伝えられ、両首脳は、貿易、投資、インフラ整備等の分 野で協力をいっそう進展させることで一致した(日本の外務省、2017)。

在ベトナム日本国大使館によると、2015 年の対ベトナム直接投資額(認可額ベース、新 規及び追加投資案件の合計)は、前年比 10.0%増の約 245.1 億ドルとなった。特に追加投 資案件が大きく増加した(同43.5%増)(図4)。このブームの背景には、中国の人件費上昇 やTPPの締結によりベトナムに進出する日本企業が増えたことによる。この日本企業の ベトナム進出ブームは、1990年代、2000年代に続き、第三次ベトナムブームとも言われて いる、中小企業やサービス業が進出している点が特徴である。

図4 日本からベトナムへの直接投資の金額と件数(2016年)

出典: JETRO(2016、p. 27)「ベトナム一般概況〜数字で見るベトナム経済〜」

一方、日本の労働者不足を背景に、技能実習生、特に、介護技能実習生などの資格で渡 日したベトナム人も増えている。かれらが日本に派遣される前の日本語学習ニーズも、近 年の日本語学習者を増加させた原因の1つである。さらに、ベトナムから日本への留学生 も急増しており、2015年、日本語学校の留学生数では中国を抜いて1位となった。この日

本語学習のニーズが高まった状況はベトナムの日本語教育を横へも、縦へも発展させた。

2013年以降は、ホーチミン市工芸私立大学( HUTECH)などで日本語教育が開始された。

他にも、ベトナム南部周辺にあるビンズン省の中等教育機関、バリア・ブンタウ省、ダラ ット県の高等教育機関での日本語教育が開始された。また、2016年に「2020年国家外国語 プロジェクト」の第一外国語科目としてハノイ4校、ホーチミン1校の計5つの小学校で日本 語教育が開始された。ベトナムの日本語教育が横と縦の両方の方向に拡大されているとと もに、日本でのベトナム人の留学生が急増していることが2013年以降の時期の特徴だとい える。

国際交流基金によると、2012年のベトナム人の日本語学習者数は46,762人であったが、

2015年には64,863人に増えた。2009年から2012年までの増加人数は2,490人であったが、

2012年から2015年までの増加人数は18,101人であった(図5)。

図 5 ベトナムにおける 1998 年~2015 年の日本語学習者数

出典: 国際交流基金「1998 年~2015 年海外日本語教育機関調査の結果概要」のデータを もとに作成

2017年の時点で、ベトナム南部において日本語教育を実施している教育機関は下記の通 りである。

8 ベトナム南部の日本語教育を実施している教育機関 初等教育(1校) 中等教育(20校) 高等教育 (15校)

①ベトナム・オースト ラリア国際学校

ホーチミン市:

Le Quy Don 中学校

Vo Truong Toan中学校

③Ngo Tat To 中学校

Le Quy Don高校

⑤Trung Vuong高校

⑥Marie Curie 高校

Le Hong Phong高校

ビンズン県:

Binh Thang中学校

Nguyen Viet Xuan中学 校

Nguyen Van Tiet中学 校

Binh Chuan中学校

Trinh Hoai Duc中学校

Trinh Hoai Duc高校

Di An高校

バリア・ブンタウ県:

Phu My 高校

Chau Thanh高校

Nguyen Hue高校

Tran Hung Dao高校

⑲Ba Ria高校

⑳Dinh Tien Hoan高校

①ホーチミン市国家大学人文社会科 学大学

②国立ホーチミン市師範大学

③ホンバン国際大学

④バン・ヒェン私立大学

⑤ホーチミン市外国情報技術

(HUFFLIT)私立大学

⑥ホーチミン市工芸私(HUTECH)立 大学

⑦ラクホン大学

⑧ホーチミン市オープン大学

⑨ホーチミン市技術師範大学

FPT大学

⑪貿易大学(ホーチミン市分校)

⑫ホーチミン市法科大学

⑬バリア・ブンタウ大学

⑭バリア・ブンタウ師範短期大学

⑮ダラット大学

ホーチミン市を中心としたベトナム南部はベトナムで最も重要な経済的中心地である。

JETRO によると、2016 年にベトナム現地進出日本企業数は 1,553 社であったが、内、ホー チミン日本商工会に加盟しているのは 824 社であった。ベトナム南部での日本語教育はこ れらの日系企業に日本語のできる人材を提供するため誕生し、それ以降、日越の経済関係