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3.3       カリキュラムの現状と課題

3.3.2       大学のカリキュラム

3.3.2.1 学習目標

ホーチミン市では、日本語専攻であるホーチミン市師範大学以外に、日本語教育を行っ ている多くの機関が日本学を専攻している。そのうち三つの機関のホームページで公開さ れている学習目標を事例として取り上げる。

まず、ホーチミン市国家大学人文社会科学大学の日本学部の学習目標は下記通り掲示さ れている。72

知 識 に つ い て

カリキュラムは社会—人文科学、東洋についての総合的な知識を備え、日本学に関し て専門的に研究することの基礎を提供する目的で設計された。また、学生のためアジ アの多様な知識が得られる環境を備えている。卒業生は将来、研究又は仕事をするた め、日本学で専門の知識を習得し、スマートな日本語、高い構造能力、一定の外国語 能力を身につけることを目標とする。

知 覚 ・ 思 考 能 力 、 実 行 ス キ ル

学生は仕事において、知識を柔軟に応用する能力、日本のマネジメント文化を理解し 応用する能力を身につけることができる。また、学生はマナー、仕事の仕方など効果 的な実行スキルを学ぶことができる。特に、卒業生は国際的な職場で、勇気、活力、

                                                                                                               

72ホーチミン市国家大学人文社会科学大学のホームページによる

http://hcmussh.edu.vn/?ArticleId=6fe36318-4f0d-4e02-b0c7-461cae70ac2d

創造力と自信を持ち、統合・適応能力があり、堪能に日本語を使う能力があり、仕事 のため効果的にインフォマティクスツールを利用できる能力がある。

人 文 的 資 質

卒業生は法律を守る意識、他人との共有意識、社会貢献の意識があり、良い政治資 質・職業道徳を持ち、 職業・自分自身・社会のコミュニティに対する責任の高い意 識を持つ公民になる。

能 力 に つ い て

日本学プログラムの卒業生は勇気、自信、独立心を持ち、統合する能力と先駆者意識 を持つ人間であるる。卒業生は、自己発展の計画、仕事の計画を立て、独力で問題を 解決し、人をグループとして集めることができる。また独立して仕事ができ、グルー プワーク(グループ内のつながりを作り、自己を認識し、利益共有・仕事の割り当て る)ができ、どの場面においても柔軟に対応できる。

次に、ホンバン国際大学、日本学科の学習目標を引用し、紹介する。73

知 識

専門に適合する人文社会科学の知識を持ち、健康であり、祖国を建設し、防御の要件 を満たす。

専門科目を学ぶことや、より深い研究、外交の仕事又は日本語を使う分野における課 題を理解するために、基礎的な知識として日本語の初級レベルから上級レベルまでの 豊富な知識を持つ。

学習者は、政治、社会、基礎科学の総合的な知識を持つ。この知識は日本語の通訳に 関する知識を理解する基本になる。

学習者は日本語に関する基本的な知識(音声、文法、意味)を知る。学習者は仕事の ため又は卒業後の他の専攻の学習のため、日本語をツールとして使用できる。

卒業後、ヨーロッパ参照外国語能力の B1レベル相当の日本語能力を持つ。

                                                                                                               

73出点:ホンバン国際大学、教育管理室のホームページによる

http://academic.hbu.edu.vn/vi/chuan-dau-ra/nganh-nhat-ban-hoc-2825

 

技 能

学習者は日常会話や特定の専門分野において、リスニング、スピーキング、リーディ ング、ライティングの 4 つの技能において流暢に日本語を使用できる。社会、経済な ど の 異 な る 分 野 で の 通 訳 と 翻 訳 の 仕 事 を 担 当 で き る 。 通 訳 の 実 践 的 な 技 能 を 持 つ。

最後に、ラクホン大学の東洋学部、日本学科の学習目標を取り上げる。74

1. 総 合 的 な 目 標

ラクホン大学の教育理念に基づいた人材育成の目標を目指している日本学科のカリキ ュラムは以下のとおりである。

「統合と国際協力における国の工業化と近代化の事業に貢献できる品質の高い、正し い政治意識を持つ人材を育成する。大学院に進学し、高い応用性がある研究能力の持 つ人材を育成する。卒業生は効果的に働き、社会の組織のニーズを満たせる管理者を 目標とし、自己トレーニングを行う。」

2. 詳 細 な 目 標

日本学科は日本の歴史、地理、政治、経済、文化、国際関係などの日本学の専門的 な知識を持ち、日本語能力(3 級/N3 以上)があり、日本と関係のある分野での仕 事ができるような技能を持つ人材を育成する。

日本学科の卒業生は良い政治資質、社会への貢献意思、良いコミュニケーション能 力、自律、自信、仕事での独立という資質がある。コミュニケーション、翻訳、文 章作成、日本語での科学研究、研究、教える方法、問題理解、独立な研究、グルー プ研究などの重要な技能を持つ。

以上は 、ベトナム南部の日本語を行っている高等教育機関の学習目標の事例である。

「日本学科は...人材を育成する」や「学習者は卒業後、...できる」という表現が 混交し、教育目標と学習目標とが明確に分けられていない。事例として取り上げた3大学 の教育・学習目標はそれぞれの大学の特色を示しているが、いずれも学習者の「言語能

                                                                                                               

74出点:2012 年 5 月 26 に公表されたラクホン大学、東洋学部の『大学卒業生の能力質の誓約』による(Công bố cam kết chất lượng chuẩn đầu ra đối với sinh viên hệ đại học)(p. 6

 

力」「技能」「態度」に触れ、「社会」「政治」「文化」の幅広い知識を求めており、グ ローバル人材のイメージを目指していると言える。

ホーチミン市師範大学の日本語学部も、上述した三つの大学と同様な教育、学習目標を 設定した。しかしながら、実際の教育においては 2015 年に新しい教育の取り組みを始める 時まで、「1年に1冊終わらせる」というような教科書の内容をすべて学習者に伝えるこ とが教育の目標であった。学習者にうまく伝えられるかどうか、という教師の能力が重要 であった。学習者が試験に合格すれば、教師の評価が高くなる。日本語能力検定試験

(JLPT)に合格者を多く出した教師が、よい教師とされていた。教育の目標は、文法や語彙 を覚えさせ、日本語を覚えることを優先的に掲げた。教育訓練省の教育改革の指導を受け たにもかかわらず、従来の教師中心の教育を行っていた原因は二つある。まず、日本語教 師を対象とした教師研修が行われなかったため、教師の新しい教育に関する知識が不十分 であったことである。次に、文法や読解が重視される試験の存在である。そのため、1週 間の 15 コマ(1 コマ=45分)のうち、9 コマは読解と文法の授業であり、暗記能力を重 視する傾向にあった。また、教師たちは学習者中心の教育に関して意識はしているが、従 来の方式で評価されるため、それに従っている状況であった。

序論の「先行研究」項目において説明したハノイ大学(2015)により作成された『外国 語を専攻しない教育機関に向けた日本語教育カリキュラム』も、例として取り上げられる。

カリキュラム作成の根拠は教育訓練省が決めている各教育課程の学習者の言語能力のみで ある。学習目標を説明する項目において、日本語能力以外、他の能力も獲得できると記述 しているが、カリキュラムの内容のほとんどは日本語の文型・語彙を中心として、他の能 力の習得手段は触れていないのである。学習目標は日本語の構造・言語機能のみだという ことは明確である。

筆者は、他の大学の日本語教師に学習目標の設定、シラバスの作成などについて質問し たが、同様な状況であった。大学に入ってから日本語を始めた学生が多く、卒業する時点 で言語能力が N3、N2 レベルに達成するように集中しなければならないため、他の能力、技 能が放置されているようである。一方、上述した各機関の学習目標に関する記述を見ると、

その他の能力・技能・資質の獲得過程は言語能力の獲得過程と見分けているようである。

ベトナムの教育機関において、初等・中等では道徳、高等では共産党の政治、思想に関す る必須科目が行われている。筆者は以前、日本語教師としてシラバス、学習活動を作成す る時、学生の日本語能力を高めることを念頭に置いていたが、他の能力と資質などは道徳、

政治の授業の役割、または学生が自分で身につけることだと思い込んでいた。他の同僚た ちにもこの考えは共通していた。

以上が、ベトナムの日本語教育機関の学習目標設定の事情である。教育の方針は良いが、

実現はまだ充分ではないことは、中等教育だけではなく、高等教育機関においても見られ る状況である。