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4.5 アクティブ・ラーニングに向けた師範大学におけるカリキュラム改革

4.5.3 一回目の実施( 2015−2016 学年の後期)

師範大学の 2016−2017 年度の後期は2月中旬からだったが、新しい学習方法の導入は後 期の最初からではなく、すでに学期が 3 分の 1 くらい進んでいる時点からであった。全く 新しい学習方法に変化すると学生が混乱するだろうという判断により、プロジェクト学習 型を軽く導入した。学習目標、評価目標は従来のものをそのままであったため、教科書に 頼った学習型から、3、4 週間の学習目標を設定し、それをめざして勉強するプロジェクト 学習型に変え、学習活動だけ変える状況であった。教師の中に、プロジェクト学習型の経 験者がいないため、ステップバイステップで進めていった。1 年生は 157 人で、5 クラスに 分けている。2年生は115人で、4クラスに分けている。1年生の授業の担当者の4人のうち、

日本人は 1 人である。従来の教育では、日本人の教師は各クラスの会話を担当していたが、ベ トナム人の教師と同じく全科目を担当するようになった。日本人に頼っていた発音の練習はゲ ストスピーカー又はユーチューブなどの活用により解決した。ベトナム人の3教師のうち、2人 は師範大学の新卒者である。また、3、4 年生の日本語教育実習生をティーチングアシスタント として採用している。1つのクラスに 3、4 人の実習生が入っている。ティーチングアシスタン トは学生のグループ活動、ペア活動を支えたり、学生の宿題をチェックしたりする役割である。

また、外部のゲストスピーカーも依頼している。ゲストスピーカーは日本からの交換留学生、

ホーチミン市に住んでいる主婦、仕事で出張している社会人などである。ゲストスピーカーの 登場頻度は授業の流れにもよるが、2週に1回が一般的である。本プログラムは実施までの事前 準備の時間がなかったため、授業の反省をしながら、次の活動を考えていく取り組みであった。

毎週の打ち合わせの他、担当者たちは毎日インターネットで連絡を取っている。授業の活動の

調整、学生の反応、反省点などについてである。従来の教育において、教師は独立して仕事が できたが、プロジェクト型学習という最終の目的を達成するため、各授業間のつながりが必要 となる。

下記に、事例として実施した「歌のプロジェクト」の取り組みについて述べる。

タイトル:歌詞を理解し日本の歌を歌おう 言語運用能力:レベル 2(KNLNNVN) 話題分野:人つきあい・趣味と遊び・行事 学習者人数:35 人/クラス、5 クラス 実施期間:3 週間

担当教師:3 人/クラス(日本人 1 人)

学習目標:基本的な個人情報や家族情報、買い物、道を尋ねること、仕事などに関 しては、文やよく使われる表現が理解できる。簡単で日常的な範囲なら、身近で日 常の事柄について、単純に説明することができる。(KNLNNVNレベル2)

学習内容

祝い事に関連する文型:基本的には提示したものを予習させる、難しいものだけ教 師が説明

語彙(祝いの言葉、その関連語彙):『TRY!』82,『NEJ』83,『まるごと』84に出てく

る語彙を予習させ、文型と同じく難しいものだけ教師が説明 大衆文化(特に歌):教師がいくつか提示簡単な紹介

行事(祝い事)(日本とベトナム): いくつかは教師が説明。ベトナムのものは学 生が簡単に日本語で説明できるようにネットで調べておく。両国の比較はグループ で話し合う。

文化背景、歴史、他国からの影響:基本的には歌を選ぶ際に学生が自分で調べる、

教師は少しヒントを出す程度。

                                                                                                               

82 ABK 財団法人 アジア学生文化協会 (著)(2014)『TRY! 日本語能力試験 N4 文法から伸ばす日本語』

アスク

83 西口光一(2015)『NEJ A New Approach to Elementary Japanese <vol.1>テーマで学ぶ基礎日本語』ベト ナム語版 くろしお出版

84  国際交流基金『まるごと日本のことばと文化』入門(A1)三修社  

実施スケジュール 1 週目

日本の有名な歌手、歌を 2、3 曲紹介。ベトナムと日本の祝い事の内容の違いに ついて学び比較する。ベトナムの結婚式についてグループごとにベトナム語で話し合 い日本語で三つの文型を使い(~たり・~なければならない・~なくてもいい)簡単 に発表する。最後に祝い事の歌「おめでとうを 100 回」を聞く。(3 コマ)

祝い事に関係のある語彙、文法を学ぶ 3 つの教科書を使って(6 コマ)

2 週目

「おめでとうを 100 回」を聞き、そこにある文法と語彙、歌の内容を説明する。

(6 コマ)

3、4 人のグループを作り、先生から簡単な歌を歌う 発表の説明などもする。

歌詞を理解し、皆の前でどんな歌か説明できるように準備する 3 週目

その歌を流すか、歌うかし、内容を簡単に発表する。

発表を聞き教師がフィードバック(文法・語彙など必要であれば補足する)

教師は評価する。

発表の様子を MSN にアップし外部の人にも見てもらいコメントをもらう。

1 回目のアクティブ・ラーニングの応用は上述した形で行われていた。この変化によって、

学習の雰囲気は楽しくなったが、学生の学習に効果があるとはいえない。その原因を次の ように整理した。

一つ目として、プロジェクト学習型について未経験だから、次のステップを早い段階か ら予想できず、事前準備が不十分であったため、授業構成が甘く進められないこともあっ た。例えば、ほとんどの学生が授業に出る前、語彙・文型の意味を調べる習慣をまだ身に つけていないため、クラスでの応用活動ができなかったし、教師の間の意見が統一されな い時もあった。

二つ目は、教師のアクティブ・ラーニング、教育目標などの理解がまだ不十分であった ことである。教師たちの中には、アクティブ・ラーニングとは授業を楽しくすることだと

理解し、ゲームにばかり取り組んだ人がいる。または、どんな科目においても、学生にプ レゼンテーションさせた人がいる。また、アクティブ・ラーニングの本質を理解しても、

対応能力がないため、従来の教え方に戻った人もいる。他は、学習者主体とは、学生が自 習すると理解し、学生へのフィードバックをせず、学生に不安感を与えた場合も見られた。

アクティブ・ラーニングを応用した評価は高くなかったが、今回の試行で、学生の会話 能力を向上することと教師の認識を高めることという目的は達成したと思われる。学期末 に活発に日本語で会話できる 1 年生が多く見られたからである。かれらはプロジェクト型 学習は従来の学習方法より大変だが、これまで、1 年生だから話せないと思い込んでいた自 分を変えることができて、何より幸せだと言っている。教師は学生たちのその姿を見て、

文法面の欠如に関する心配があったが、改革の効果を認めた。また、アクティブ・ラーニ ングを試してはじめて、失敗に直面した教師がいた。それを超えて続けた人もいれば、諦 めた人もいたが、重要なのは教師を考えさせたということであった。