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3.1     概要

3.1.3 日本語教育の国内・外の位置

本項ではまず、ベトナム国内における日本語教育の位置を考察したい。

ベトナム政府は2003年に中等教育にての日本語教育を開始させ、2014 年に日本語教育を

2020 国家外国語プロジェクト」の一部として入れ、2016 年に「2020 国家外国語プロジェ クト」のもとに、初等教育においても日本語教育を開始した。これは、日本語がベトナムの 国民教育システムで教えられる外国語として認められたという意味である。日本語教育が正 式にベトナムに導入されたのは、 70 年ほど前である。それは、 2000 年以上の歴史を持つ 中国語教育や 100 年以上の歴史を持つフランス語教育と比較すると、近年のことである。

60 年代以降に導入されたロシア語などのヨーロッパ系語学の教育と比較すれば、日本語教 育の方が早かったが、中等教育の外国語として認められたのは 2003 年からであり、他の外 国語教育より遅れたイメージである。

初等・中等教育において、外国語を学んでいる学生の 99%は英語を学習している。その ほか、フランス語、中国語、ロシア語、日本語、ドイツ語を学んでいる学生の合計は 1%で ある。この 1%の内、日本語学習者は約 30%を占めている。下記の表 10 に、ベトナムで教 えられている外国語教育の状況をまとめた。日本語教育は他の外国語より遅れて始められた イメージであるが、中等教育での普及程度は比較的高い。また、日本語学習者に対しては、

ベトナムでの高度な採用率や渡日率によって活発な外国語だと見られている。さらに、近年 の社会・経済の影響を大きく受けて、急速に発展しているため、日本語教育は現代的な分野 だと思われている。

10 ベトナムにおけるロシア語・中国語・日本語教育の状況 英語 ベトナムの全土(市、県)で教えられている

・ 中学校・高校:すべて

・ 学生数:外国語を学んでいる学生の99%

・ 小学校の60%

フランス語 ベトナムの34ヶ所(市、県)で教えられている

・ 小学生:6, 691人

・ 中学生:8, 228人

・ 高校生:27, 603人

・ 学生数の合計:43, 522

ロシア語 ベトナムの10ヶ所(市、県)で教えられている

・ 中学校:1校

・ 高校:12校

・ 学生数:1, 200人

中国語 ベトナムの9ヶ所(市、県)で教えられている

・ 中学校:28

・ 高校:18校

・ 学生数:12, 000人

日本語 ベトナムの7ヶ所(市、県)で教えられている

・ 中学校:26校

・ 高校:22

・ 学生数:25, 000人

ドイツ語 ベトナムの3ヶ所(市、県)で教えられている

・学生数:2, 101

出典:ベトナム教育訓練省の2016年度の報告データにより作成

ベトナム政府は「2020国家外国語プロジェクト」の一部として、日本語教育を国民教育 システムとして発展させる政策を実施している。2003−2013年の中学校から日本語を教える

「中等プロジェクト」は成功だと評価され、2013—2025年まで継続的にプロジェクトが展開 されている。しかし、日本語教育は英語教育のように優先的な位置にはないため、日本語 教育のための予算は限定され、主に日本からの協力に依存している状況である。

例えば、20134月18日に開催された「2003−2013年の中等プロジェクト」に関する会議 において、教育訓練省のグエン・ビン・ヒェン次長は「中等プロジェクトの実施状況を調 査し、経費がかからないように、報告する会議を開催すること。ただし、調査する地方は2 ヶ所に限定し、必要な場合のみ実施すること。」と指導した。また、2013−2025年の計画を 継続して実施するため、報告会議の実施も含み、カリキュラム作成、教科書作成、教師養 成、評価、機材などに関して、日本からの協力を期待するとも発表された。

実際に、ベトナムでの日本語教育は日本側に依存している形で継続されている。例えば、

初等・中等の日本語教科書作成、日本語教師養成は主に国際交流基金の専門家により行わ れている。日本語教育のセミナー、シンポジウム、学生のスピーチコンテストなどの開催

予算は主に日本側(国際交流基金、日本国大使館、日系企業)の支援である。

教科書は新しいカリキュラムに沿って作成することが必要だが、すべての課程の教科書 を統括的に作成したことはなく、ステップバイステップで作成している。2016年に、小学 校3年生向けの日本語教科書が発行されたが、次の課程の教科書は準備中の段階である。こ れらの教科書は最初の3年は試験的に使用されるが、訂正がなければ4年目から正式に採用 される。日本語教科書の作成作業は主に教育訓練省が指名したメンバーと国際交流基金の 専門家に偏っている。

上述したように、ベトナム国内において、日本語はフランス語、中国語、韓国語、ロシ ア語のように、国民教育システムで教えられている外国語の1つであり、近年の日本との 活発な経済関係により、日本語教育が盛んになっているように見えるが、英語学習者より わずかな人数であり、政府の支援や予算的な裏付けは十分ではない状況を見てきた。また、

日本語教育の発展は主に日本側に頼っているため、受動的である。

次に、海外から見たベトナムの日本語教育の位置について考察したい。

国際交流基金の 2015 年度の調査によると、全世界における日本語教育の機関、教師、学 習者の総数を地域別に比較すると、いずれにおいても東アジアが占める比較が圧倒的に高 く、次いで東南アジアとなっている。全世界の日本語学習者数の 78. 2%が東アジアと東南 アジアであり、東南アジアの日本語学習者数は全世界の 29. 9%を占めている。インドネシ アは世界第 2位の日本語学習者数を抱えている。前回 2009年の調査と比較して、高等教育 では日本への文化的関心などから日本語の履修者が増加した。また、タイの日本語学習者 は前回に比べて30%を超えた。日系企業への就職と 2013年に訪日観光客を対象にビザ免除 措置が認められた影響で日本への渡航者数が増加したことが、その他の教育機関の拡大の 原因の一つだと考えられる。インドネシアとタイに次いで、ベトナムの日本語学習者数は 東南アジア第 3 位である。ベトナムの初等教育段階での日本語教育の導入は東南アジアで 初めてである。このほか、近年急速な開放政策と経済改革が進むミャンマーで日本語教育 の規模が拡 大 し て い る 。また他の東南アジア諸 国に比べて規模は大きくないものの、ラオ ス、カンボジアにおいては機関数と学習者が前回比で増加している(表11)。

11 東南アジアにおける日本語学習者数

国 学習者(人)

初等 中等 高等 その他 合計 インドネシア 6, 504 703, 775 26, 981 7, 865 745, 123

タイ 3, 601 115, 355 24, 789 30, 072 173, 817

ベトナム 0 10, 995 19, 620 34, 266 64, 863 フィリピン 1, 019 5, 595 15, 572 27, 852 50, 038 マレーシア 0 17, 450 12, 442 3, 332 33, 224 ミャンマー 0 0 762 10, 539 11, 301 シンガポール 18 1, 336 3, 947 5, 497 10, 798 カンボジア 15 648 583 2, 763 4, 009

ラオス 261 202 265 318 1, 046

ブルネイ 0 0 155 61 216

東南アジア全体 11, 418 855, 356 105, 098 122, 565 1, 094, 437 出典:国際交流基金 2015 年度日本語教育機関調査より

https://www.jpf.go.jp/j/about/press/2016/dl/2016-057-2.pdf

東南アジア地域は、政治・経済・文化交流の上で日本にとって重要な地域である。近年 東南アジアから日本への観光客、留学生は増加しており、各国の日本に対する関心もます ます高くなっている。東南アジア緒国のいずれにおいても、日本語は、グローバル社会で 有用な国際言語として認識され、教育課程の中で第 1 ま た は 第 2 外国語の科目として位 置づけられることによってその地位を確保している(国際交流基金、2013)。

東南アジア諸国連合(ASEAN)に加盟している各国は国際言語として英語教育を強化し ているが、日本語も東南アジア、東アジアにおいて、英語に次いで国際言語として活用さ れていると考えられる。ASEAN 加盟国であるベトナムにおいて、国際言語としての日本語 教育は利点が多いと言える。