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4.3     日本語教育のシンポジウム開催

4.3.3         学生の日本語コミュニケーションコンテスト(日本語トーク)

日本語教育において、一番重視すべきなのは日本語学習者である。SNA の精神によると、

学生は他者と接する際、自己のことを反省するとのこと。「東南アジアの学生による日本 語コミュニケーション」(以下、「日本語トーク」)を行った目的の一つはベトナム人の 日本語学習者たちに、近隣の東南アジアの日本語学習者と接する機会を提供するためであ る。事業の運営は教師であったが、学生には東南アジアから来る学生たちの案内、接待な どの役割を任せた。コンテストの当日の空港への出迎え、観光案内だけではなく、コンテ ストの準備の段階から(当日の1ヶ月まえ)、各国の学生の応援団を作って、各国の学生 とフェースブック、メール上のやりとりで、その学生のための宣伝を行っていた。初めは 全然知らない人を応援することに驚いた学生が多かったが 、各国の学生たちとのコンタク トができはじめると、楽しくなって本気でその学生を応援するようになった。逆に、一人 ではじめてベトナムに来た各国の学生たちも色々不安だったと思うが、こちらの学生たち の応援や支援を受けて、楽しい体験ができたようであった。これらは以下に紹介する各国 の学生たちの感想文によって明確に分かった。

                                                                                                               

80  「2016 年オーチミン市に本語教育国際シンポジウム(2015 年VJIC)」報告書 2015 p.62  

学生たちは日本語でコミュニケーションを取っていた。だが、学生たちが注目したのは 日本語ではなく、相手とのつながりだと思っていたが、ベトナム人学生が各国の学生の日 本語の使い方を知って、自己の日本語学習について反省することや日本語学習の目的を考 え直したようである。これが学生のコンテストを開催する目的の一つであった。

一方、ベトナムの教師が各国の学生の様子をみて、ベトナムの日本語教育を省みるのも このコンテストで期待されたものであった。

2015年 日 本 語 ト ー ク  

出場者:東南アジアの8カ国の学生  

カンボジア、インドネシア、ラオス、フィリピン、マレーシア、シンガポール、タイ、ベ トナム(ミャンマーは試験のため不参加)

 

コンテスト構成  

1部 グループセッション (3組 各20分)

テーマ「もし日本の会社で働くことになったら」

個人の労働価値観や日本企業のイメージ、アルバイトなどの体験等を話し合う。

セッションはビデオで撮影され審査される。

2部 パブリック・スピーチ(1人5分)

テーマ「未来の私と日本語」  

コンテスト参加者の多様な背景が反映され、異文化理解の場となるようなスピーチ が期待される。  

 

審査委員  

審査委員長 武蔵野大学大学院 堀井惠子教授   カリフォルニアサンティアゴ校 當作靖彦教授

国際交流基金ベトナム日本文化交流センター 安藤敏毅所長 協力企業の代表者

コンテストの成果としては、各国の学生によるスピーチコンテストを通じて日本語教育 に関する興味関心を高めたことや、学生間の国際交流を通じて学習意欲が高まり、日本語 教育活動に積極的に参加することにより日本語教育に対する理解が深まったことが取り上 げられた。もっとも注目されたのは、評価基準であった。出場者の中には、日本での留学

の経験者、長期に日本に住んでいた者など、日本語能力がかなり高い学生もいた。しかし、

評価の重点は日本語の流暢さ、発音、文法ではなく、出場者が日本語によって、自己の思 考、信念を表現できるかどうかに置かれた。日本語のコンテストだから日本語能力が重視 されると思い込んでいる多くのベトナムの学生にとっては、不思議に思う結果もあった。

コンテストが終わった後、コンテストの結果を巡って議論が盛んになっていたが、ベトナ ムの学生には、日本語学習の重点について見直す絶好の機会であったと考えている。

2016 年 日 本 語 ト ー ク

2016 年のコンテストは 2015 年のコンテストに出られなかったミャンマーの学生も出席し、

東南アジアの 9 カ国の代表者が揃った。また、国内の多くの学生も参加できるように構成 の調整も行った。

コンテストはスピーチビデオ投稿、グループディスカッション、ポスター発表形式の第 1 部(ベトナム国内のみ)とパブリック・スピーチ形式の第 2 部(国際)で構成される。国 際部は「どこでも日本語」をテーマとし、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシ ア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムという東南アジアの 9 カ国 の学生による行われた。

以下に、出場した学生たちの感想文の一部81を紹介する。

ASEAN の国々からの他の参加者と3日間で仲良くなることができました。また、ベ

トナムの大学生にも出会い、彼らはたくさん手伝ってくれたり、応援してくれたりし てくれました。参加者のみんなと仲良くなったことにより、スピーチする日が少しず つ近づいていましたが、競争の雰囲気はだんだん少なくなっていきました。これによ り、少しずつ緊張しなくなり、私はより良いスピーチができたと思います。今回、私 と一緒に参加していたほとんどの参加者は日本での留学経験があり、日本語を流暢に 話していました。実は、このスピーチ大会に参加する以前は、全く上達している気が していなかった日本語を諦めようと思っていましたが、みんなの頑張っている姿を見 て、私も日本語の勉強を続けていこうと思いました。この経験によって、私を応援し てくれる人がいる限り、希望があるだろうと気づきました。一生に一度の経験をさせ ていただいてありがとうございました。

(ジャニン・クリスティン・デヴィラ フィリピン デラサール大学)

                                                                                                               

81  2016年日本語トーク」文集 pp.1417  

ホーチミン市師範大学の学生さんと交流することが本当に楽しかった。みんなと一緒 に日本語で会話をしたり、笑ったりしたことは一生忘れられず、大切な思い出だ。幸 いなことに、たった三日間だけでも、掛け替えのない友達ができた。私にとって、今 回の日本語トークは、自分の日本語能力を挑戦することに加え、東南アジア各国のこ とも勉強になり、大切な経験である。

(チュウ・キアンホン シンガポール国立大学)

学生たちが応援してくれたおかげで、この不安な気持ちもだんだん消えていて、スピ ーチコンテストに楽しんでやれました。これは私の初めての大勢の人の前にスピーチ をした経験です。Ho Chi Minh 市師範大学の先生方も、全員とても優しい方で、私た ちに暖かく歓迎してくれました。それだけではなく、前が「敵」と思ってしまった東 南アジアの国々のスピーチコンテストの参加者と友達になって本当に嬉しかったです。

このイベントのおかげで沢山友達ができて、国際の絆もできました。

(ファーミ・シーディーク・プラコソ インドネシア パジャジャラン大学)

上述した学生たちの感想によって、日本語教育は単なる「日本語を教える」ではない のが明確にされただろう。かれらは日本語コンテストに出場するため、「日本語」に対す る精神的な準備はしていたが、感想文で多く取り上げられているのは日本語のことではな く、「日本語を通じて行われた」ことである。東南アジアの学生たちはそれを体験し、気 付いたかと思われるが、ベトナムの学生たちも同じことを認識できただろう。これは日本 語教育の真の目的だと考えられる。その目的を教師と学生に伝えるため、文書、言葉だけ ではなく、見せたり、聞かせたりして自分の肌で実感させるのが「日本語トーク」の最終 目的である。今回の体験は少なくともある意味で彼らの人生に影響を与えると思われる。

また、ベトナムの日本語教師も海外の日本語教育の学生に接することができた。ベトナ ムの日本語教師はかれらに日本語を教えてはいないが、同じ活動に参加し接することを通 じて、かれらの考え方、感情などに影響を与えた。そして、間接的に、かれらの日本語学 習を発展させることまでできる。この事例は、外国語教育の「人間形成」という教育的な 役割の証拠である。當作(2013、p.117)「よい『つながり』」を持つことが、人間が幸せ になるかどうかの目案ということ」と言っているが、それによると、「日本語トーク」に より作られたつながりは、日本語教育の役割を達成させたといえるだろう。