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3.2     日本語教師の現状と課題

3.2.2       アンケート調査から見たベトナム日本語教師の現状

3. 2. 1 において、ベトナム南部の日本語教師の略歴について述べた。次に、教師たちの日

本語教育に対する姿勢を把握するため、主にベトナム南部の日本語教師を対象として行っ たアンケート調査の結果を述べる。

このアンケート調査を行った目的は、日本語教師の育成とレベルの向上のためには、ま ず、教師の現状を明確にすることが必要だが、今まで、現地の教師の能力、仕事上の要望 などを調べる基礎的な研究があまり行われていなかったからである。調査は1)教師の学 習経歴、2)教師研修に対する認識、3)現在のベトナムの日本語教育の現状についての 教師の認識という3つに重点を置いて行った。

アンケート調査は 20164 月から 6 月にかけて実施した。協力対象者はベトナムの南部、

中部の中等教育機関、高等教育機関、日本語学校、日本語教育を行っている企業で日本語を 教えているベトナム人の教師である。アンケートの回答者にはベトナム中部の日本語教師も 若干含まれるが、大多数が南部の教師であり、さらにベトナム中部の教師の背景及び抱える 問題は、北部と比較した場合の南部と同様であると思われることから、ベトナム南部の特徴 に含めてもいいと考えた。

各高等教育機関の日本語専攻長にメールまたは電話で調査を依頼した後、それぞれの機関 の責任者にアンケート用紙のデータを送付し、メールで回答を受けるという方法によって調 査を実施した。加えて、2016 年 46 日にダナン外国語大学で行われた日本語教育セミナ ー、7〜9日にホーチミン市師範大学で行われた日本語教師研修に参加した教師たちを対象 にしてアンケート用紙を配布して実施した。また、知り合いの日本語教師のネットワークを 通して、個人的にも依頼をしている。依頼にあたっては、重なるケースがないように十分配 慮した。

本アンケートにおいて、日本語能力、日本語教師としての知識に関する質問など、協力者 およびその所属機関が特定および公開を望まないと思われる質問が設定されたため、協力対 象者の氏名と所属機関名の個人情報の明記を求めなかった。ベトナム人日本語教師は自分の 日本語能力や、個人の意見について言い出すことを遠慮する傾向があり、明記を重視すれば このようなタイプの質問調査に協力が得られないのではないかと予想したからである。氏名 と所属機関などの記入を求めないことによって、協力対象者を安心させ、アンケートの回収 に重点をおいた。また、本調査の目的は、日本語教育機関別の状況を調べることではなく、

ベトナム人日本語教師の総合的な事情を明らかにすることであるから、各機関のそれぞれの 違いについては、今回は注目しない。

アンケート調査を依頼した結果、ベトナム人日本語教師は、社会活動、研究活動に協力す る意識はあまり高くないと思われた。多くの場合、各機関の長に調査実施の依頼の手紙、メ ールを送付したことは効果がなかった。筆者は別途自分のホーチミン市師範大学の日本語学 部長の地位を活用し、仕事上知り合った各機関の日本語専攻長に電話をかけて依頼したが、

そのような個人的つながりによる依頼が一番効果的であったと言える。それでも、アンケー トのデータを送付した後、常に実施の催促を行い、得られたのが下記の結果である。

まず、1)日本語教師の経歴を調べるため、次の情報について質問した。

1. 所属している機関(機関の種類、機関の名称まで問わず)

2. 年齢 3. 性別

4. 日本語教師の経験年数 5. 日本語能力、学位 6. 日本への留学経験

回答者の所属は、47. 9%が高等教育機関の教師である。中等教育機関の教師と日本語学校 の教師もそれぞれ 11. 0%を占めた。技術研修生派遣会社または日系企業で日本語を教えて いる教師は、23. 3%という結果であった(表12)。

12 回答者の所属機関

所属機関 人数(人) 割合(%)

大学 35 47. 9

中・高校 8 11. 0

日本語学校 8 11. 0

研修生派遣会社 13 17. 8

企業 4 5. 5

家庭教師 3 4. 1

その他 2 2. 7

合計 73 100

年齢については表13において示したとおり、約60%が2030代、約33%が3040代で あり、40代以上は7%未満であった。

13 回答者の年齢

年齢(代) 人数(人) 割合(%)

203044 60. 3

30〜4024 32. 9

4050代 3 4. 1

50代以上 2 2. 7

合計 73 100

性別については、女性が78%を占め、男性は22%であった。

日本語教師の経験年数で特徴的なのは、67%を占めた 05年の経験者に対し、1620 年 の経験者はわずか 4%だという割合である。ベトナム南部では、日本語教師養成機関がない ため、新人の日本語教師は研修または大学院への進学が必要とされる。この教師研修と大学 院への進学は主に最初の5年間の間行われる。研修または進学の条件を満たさず、日本語教 師の仕事を諦めた人もいるが、研修や進学によって日本語能力が上達したため他の仕事に変 えた人も多く見られた。

すなわち、05 年のグループは、経験が浅く、今後日本語教師の仕事を継続しない可能 性があるグループである。1620 年の経験者はホーチミン市人文社会科学大学の一期生、

二期生の当たりで、かなり教育の経験を積んだグループであるが、本調査の結果によると、

このグループの割合が一番低い。11〜15 年の経験者は 11%で、6〜10 年の経験者は 18%で ある。6〜10 年のグループと 11〜15 年のグループの共通点はある程度日本語教師の経験を 積んで、この仕事を継続する可能性が高いことである。

日本語の第二ブームの 2004、2005 年以降に卒業した教師は以前より容易に日本の大学院 に進学できたため、1115年のグループに比べると、610年のグループの中では、日本の 大学院で勉強した教師が多いと考えられる。20年以上の経験者はいない。

教師の日本語能力は下記の通りの割合である。ベトナムの中等・高等教育機関において、

教師の採用の条件としては日本語能力検定試験の受験証明書ではなく、大学での成績だか ら、日本語能力検定試験を受験していない人がいる。そのため、本調査の質問は「N1 又は N1 相当」という形で、回答者の自己評価を採用した。高率からの順でみると、N2 は 47%、

N1 は 34%、N3 は 19%という並びである。

教師の学歴に関して日本語をどこで勉強していたかという質問に対し、大学、民間日本語 学校、技術研修生の派遣会社、企業、自習、家庭教師という答えであった。この質問は複数

回答であったが、一番多かったのは「大学」で、73 人中 61 人であった。「民間日本語学 校」は11人であった。他はそれぞれ2〜4人であった。

教師の学位の状態については、学士レベルの教師の割合が 73%を占めている。博士号を 得た教師はわずか3%で、修士号を得た教師は18%である。

日本への留学経験について、73 人の内、28 人は「日本で勉強したことがない」という回 答であった。教師研修を受けに日本に行った人は 18 人である。また、学部、大学院の博士 前期、後期課程での勉強の他、日本語学校、技術研修の受け入れ先で勉強した経歴も見られ た。

次に、2)教師研修に対する認識を調べるため、下記の3つの質問をした。

1.教師研修を受けたことがあるかどうか。どんな研修であったか。

2.教師研修の必要性についてどう思うか。

3.どのような研修を期待しているか。

日本語教師の研修を受けたことがある教師は 70%占め、受けたことがない教師は 30%で あった。国際交流基金が主催している現地または日本での研修、教育機関の内部研修、国際 交流基金とホーチミン市教育訓練省の協力で開催された研修、ハノイ国家大学ハノイ外国語 大学の主催した研修、広島県の主催した研修、ホーチミン市師範大学の主催した研修などで ある。

教師研修の必要性についてどのように考えるかという質問に対し、「必要ない」と「どち らでもいい」と回答した率は 19%を占めた。教師研修が非常に必要または必要だと考えて

いる人は81%である。

下記の表 14 は、教師たちに期待されている研修の内容を表している。この結果によると、

回答者の73 人の内、51 人に選択された教授法に関する研修が一番多く求められた内容であ るが、これは67%を占めている 0〜5 年経験のグループから多く求められていたと考えられ る。一方、カリキュラム作成、テスト作成、評価方法についての研修ニーズのある人は回答 者の半分にもならないことが今回の調査で明確になった。

この結果を見ると、日本語教育の学習目標、学習活動、評価という三つの要素の中で、ベ トナム人の日本語教師に注目されているのは学習活動だと言えよう。

14 教師研修の期待される内容

研修の内容 回答人数

教授法 51

日本語教育に関する最新情報のアップデート 34 日本語に関する理論 30 カリキュラム・シラバス作成 28

教材開発 27

テスト、評価 24

日本の文学 1

IT、E-learning を日本語教育に応用する方法 1

以上が教師研修に関する考えであった。多くの教師は教師研修が必要だと答えたが、研修 を受けたことのある率は 70%である。また、カリキュラム、評価、教材開発より教授法に ついて関心を持っていることが本調査の結果により明らかになった。この結果は日本語教育 の学習目標、学習活動、評価という三つの要素に対するアンバランスな扱い方の証拠だと考 えられる。この状況は、ベトナムの教育制度、教師の課題に関わるため、2. 1. 2 の教師の課 題に関する項目で論じる。

次に、3)ベトナムの教育、日本語教育についての認識を調べた結果である。ベトナム政 府が指導している教育政策についてどのように認識しているか、ベトナムの日本語教育・日 本語教師の事情についてどのように判断しているかということを調べる目的で行った。また、

教師たちはどのようなことを目指し、日本語を教えているかということも調べたく、下記の 項目について質問した。

1.ベトナムの教育訓練省が実施している 2014 年の教育改革についての意見 2.ベトナムでの日本語教育についての意見

3.ベトナムの日本語教育の課題 4.ベトナムの日本語教師の課題 5.日本語教育で一番大切な要素

6.日本語で活動し、つながりを作ることに対する認識 回答結果は下記のとおりである。

まず、ベトナムの政府が指導している全面的な教育の改革についてどれほど関心を持っ ているかの質問について、次の結果を得た。「 よく知っている。できるだけ改革方向に改 善していきたい。」とう回答した人は 49%を占めた。他に、「 聞いたことがあるが、良く