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改 革 の 背 景

第 2 章において、ベトナムの外国語教育政策に欠けているところを指摘し、次の課題を 取り上げた。

1)外国語教育の理念が明確になっていない

2)外国語教育を「外国語を教える」という狭い意味で解釈しているため、外国語 能力のみに注目している。その他の能力と資質も取り上げられているが、十分に 重視されてはいないし、言語学習とは関係しないと思われている。

3)「コミュニケーション能力」とは言語的な活動だという解釈で、社会的な活動 として取り上げていない。

4)教師の新たな教育に対する認識が不十分であること、教師の外国語能力が高く ないことは「2020 国家外国語プロジェクト」の目標未達成の主な原因である。

第 3 章においては、日本語教育の問題を次の通り挙げた。

1)日本語教育の理念が明確になっていない

2)教育目標:日本語の構造、語彙を習得すること、日本語の言語面を重視する傾 向がある。

3)学習活動:日本語授業の形態から見ると、学習者を中心とした授業の仕方に変 えようと言う姿勢は見られるが、実際は伝統的な教師主導の授業がまだ行われて いるところもある。

4)評価:日本語能力基準(CEFR に基づいて作られたベトナムの KNLNNVN)と 公的に採用されている評価ツール(JLPT)が統一されていない。学生による評価 がまだ重視されていない。家族評価、社会評価を実施していない。

5)日本語教師は、日本語教育の質が良くないという課題を認識しているものの、

その原因は教師の教え方が良くないと考えている。すなわち、学習目標、教育活 動、評価の緊密な関係を問わず、教育活動のみに注目している。

6)日本語に対して受動的な態度を取っている。専門に対する受動的な態度から、

日本語教育環境を改善しようという姿勢も見られない。

改 革 の 取 り 組 み

上述した背景を踏まえ、グローバル人材育成の役割を果たせる日本語教育に向けて、

SNA の「総合能力コミュニケーション能力育成」という教育理念のもとに、日本語教育の 改革の試行を実施した。実施場所は、筆者が在職している師範大学の日本語学部である。

ベトナム人の教師がベトナムの日本語教育のため、自主的にこのような活動を行ったこと もこの改革の特徴の一つである。

試しの重点は日本語教育シンポジウムの開催、日本語教師研修の実施、日本語カリキュ ラムへのアクティブ・ラーニングの導入という三つである。SNA の特色はクラス内での授 業だけではなく、日本語教育を通して社会活動を行うことである。そのため、改革では授 業だけではなく、社会的な活動も考えた。たとえば、教師に向けるシンポジウムや学生に 向けるコンテストである。また、教育改革の中、教師改革はもっとも重要な内容だから、

教師研修も正確に行われなくてはならない。教師研修で受けた知識をすぐに応用しないと 効果がないため、知識などがまだ充分備わっていなくても、部分的に日本語カリキュラム を改革し、プロジェクト学習型を導入した。

日本語教育シンポジウムは 2015 年 9 月と 2016 年 12 月の 2 回開催された。

日本語教師研修は 2016 年1月、4 月、12 月、2017 年 3 月の計 4 回実施された。

カリキュラムの改革は 2015−2016 学年の後期と 2016−2017 学年の前期で 2 回行われた。

対象は1年生のカリキュラムとした。

改革の理論的な枠組みは SNAを活用した「めやす」を参考にし、次の項目を設定した。

教育理念:他者の発見・自己の発見・つながりの実現

教育目標:ことばと文化を学ぶことを通して、学習者の人間成長を促し、21 世紀 に生きる力を育てる

学習目標:総合的コミュニケーション能力の獲得 3 領域 x3 能力+3 連繋

3 領域:言語・文化・グローバル社会 3 能力:わかる・できる・つながる 3 連携:学習者・他教科・教室外

改 革 試 行 の 目 的

人の意識、特に教師のような固まった考え方を変えるのは容易なことではない。そのた め、改革といっても、すぐ新しい内容を行わせるわけではない。教師を納得させ、自分の 性格・能力に合わせて、実施できる時まで時間がかかる。問題を認識している教師にも実 際に応用し、反省した上、経験を積む時間をかける必要がある。換言すれば、教師は学習 者の立場で新たな日本語教育を体験し、日本語の応用能力も含む必要な能力、資質を身に つけることが必要である。この判断を踏まえて、今回の改革においては、現在の日本語教 育の本質(本当の課題)を再度認識させ、反省させる目標が設定された。具体的には、教 育理念、教育目標が明確になっていない、又は正確に確定されていないという基礎的な課

題を認識させること、また、教師の問題は教授法なのであろうかと問い直させることがカ リキュラム改革の目的である。それで、次の詳細な目的を設定した。

1)教師、学生、関係者に改革の認識を伝える 2) 教師の反応と対応能力を観察する

3) 学生の反応を観察する 4) 周りの人の反応を観察する