第 2 章 他動詞文の使役性
2.1 自動詞、他動 詞、使役形 にお ける日本語とベ トナム語 の違い
2.1.1 日本語とベト ナム語にお け る自動詞と他動 詞の違い
(1) a. Anh ấy khóc.
彼 泣く
(彼が 泣く 。)
b. Anh ấy khóc mẹ.
彼 泣く 母
(直訳 :*彼が 母を 泣く 。)
(彼が 母の こと で泣 く 。)
例(1)aでは khóc「泣 く」は目的 語を 取らな いの で自 動詞 であ るが、(1)bでは mẹ「 母 」
という 目的 語を 取る ので 、他 動詞 とし ても解 釈で きる 。ま た、 以下 のよ うな 動詞も 目的 語を 取るか 否か の基 準で 自動 詞と 他動 詞の 区別を する のは 難し い。
(2) Anh ấy ăn đũa.
彼 食べる 箸
(直訳 :*彼は 箸を 食べる 。)
(彼は 箸で 食べ る。)
(3) Cô ấy ngủ giường.
彼女 寝る ベッド
(直訳 :*彼女 はベ ッドを 寝る 。)
(彼女 はベ ッド で寝 る。)
例(2)、(3)は 見か け上、ăn「 食べ る」、ngủ「寝る 」は đũa「 箸」、giường「 ベッド 」と い
う 目的 語 を 取る よ う であ る が 、実 際 に は 、đũa「 箸 」、giường「 ベッ ド 」 は目 的 語で は な く、
動詞が 表す 動作 を実 現す るた めの 手段 として 捉え られ る。 この よう に、 日本 語では 純粋 な自 動詞で ある が、ベト ナム語 では 場合 に よ って自 動詞 とし ても 他動 詞と して も使 われる 。ま た、
道具が 目的 語の 位置 に来 る場 合も ある ので、 ベト ナム 語で は、 目的 語が ある か否 か で自 動詞 か他動 詞か の判 断を する こと は難 しい 。ベト ナム 語の 動詞 の性 質を 把握 せず に、そ のま ま、
日本語 に置 き換 える と不 自然 にな る可 能性が ある 。 し たが って 、ベ トナ ム語 のこの よう な現 象を踏 まえ つつ 、ベ トナ ム語 と日 本語 の自動 詞・ 他動 詞の 異な る点 を明 らか にする こと が必 要であ ると 考え られ る。
日本 語と 異な り、 ベト ナム 語の 自動 詞と他 動詞 は形 式的 に対 応 関 係が ない 。ベト ナム 語に おいて は、 語順 で自 動詞 か他 動 詞 かを 決める こと がで きる 。多 くの 場合 、同 じ動詞 が自 動詞 とし ても 他動 詞と し ても 用い られ る。 普通 は「NP2 V」 の語 順 の場 合は 自動 詞で ある のに 対 して、「NP1 V NP2」は 他動 詞で ある 。
(4) Buổi họp kết thúc.
会議 終る
(会議 が終 わっ た。)
(5) Kết thúc buổi họp.
終える 会議
(会議 を終 えた 。)
ベトナ ム語 では 、mở「 開け る/ 開く」、đóng「 閉め る/ 閉ま る」、bắt đầu「始 める /始ま る」、
kết thúc「 終え る/終 わる 」thay đổi「 変える /変 わる 」、dừng「止 める /止 まる」、tắt「消 す
/消え る」 等は 自動 詞と して も、 他動 詞とし ても 用い られ る。 これ らの 動詞 は日本 語の 自動 詞にも 他動 詞に も対 応し てい ると 言え る。
ベト ナム 語の 動詞 が他 動詞 とし て用 いられ る場 合、 対応 する 日本 語の 他動 詞と異 なり 、動 作性に 焦点 が置 かれ 、動 作の 意図 した 目的は 必ず しも 達成 され ると は限 らな い。
(6) a. Tôi đã đốt rồi nhưng nó không cháy.
私 [既然] 燃やす 完了 しかし 資料 ~ない 燃える b.*私 は資料 を燃 やし たが 、ま だ燃 えな かった 。
(7) a. Nó bẻ rồi nhưng vẫn không gãy.
彼 折る 完了 しかし まだ ~ない 折れる b.*彼 は折っ たが 、ま だ折 れな いよ 。
(8) a. Taro đã cắt rồi mà sợi dây không đứt.
太郎 [既然] 切る 完了 しかし 紐 ない 切れる
b.*太 郎は紐 を切 った が、 紐は まだ 切れ ていな い。
例(6)~(8)a は 日本 語に 訳し たら b のよう に非 文に なる。結果 含意 に関 する両 言語 の違 いにつ いて は、2.2と 2.3 で 詳し く議 論 する。
また、ベト ナム 語で は、他 動詞 用法 し かない 動詞 が、bị/được を 付け ると 自 動詞の よう に 用いる こと がで きる 。
(9) a.Đội cứu hộ đã cứu người bị thương.
救護班 [既然] 助ける 怪我し た人
(救護 班が 怪我 した 人を 助け た。)
b.Người bị thương đã được cứu.
怪我し た人 [既然] 助かる
(怪我 した 人が 助か った。)
(10) a.Cảnh sát cuối cùng đã bắt được tên ăn trộm 警察 ようや く [既然] 捕まえ る [可能] 泥棒
(警察 はよ うや く泥 棒を 捕ま えた。)
b.Anh ấy bị bắt vì lái xe trong tình trạng say xỉn.
彼 捕まる 故 運転す る で 状態 酔っ払 い
(彼は 酔っ 払い 運転 で捕 まっ た。)
(11) a.Anh ấy đã sửa xe máy cho tôi.
彼 [既然] 直す バイク くれる 私
(彼は 私の バイ クを 直し てく れた。)
b.Xe máy của tôi đã được sửa.
バイク の 私 [既然] 直る
(私の バイ クが 直っ た。)
上の例(9)、(10)、(11)b は目 的語 の 主題化 、ある いは「受 身文 」と して 取 ること もで き
る。
一方ベ トナ ム語 では 、 対 応す る他 動詞 がなく 自動 詞用 法し かな いも のも ある 。これ らの 動 詞は他 動詞 とし て使 われ る場 合は、使 役を表 わす làmと結 合す る。例 えば vỡ「割れ る」/làm vỡ「割 る」、 rách「破 れる 」/làm rách「破 る」、bẩn「汚 れる 」/làm bẩn「汚 す」、rơi「 落ち る」/làm rơi「 落と す」、hỏng 「 壊れ る」/làm hỏng「壊 す」 である 。
(12) a. Cái váy mới mua bẩn mất rồi.
スカー ト ~ばか り 買う 汚れる ~てし まう (買 った ばか りの スカー トが 汚れ てし まった 。)
b. Tôi làm bẩn cái váy mới mua mất rồi.
私 汚す スカー ト ばかり 買う ~てし まう
(私は 買っ たば かり のス カー トを 汚し てしま った 。)
(13) a. Chiếc xe đạp của tôi hỏng mất rồi.
自転車 の 私 壊れる ~てし まう
(私 の自 転車 が壊 れてし まっ た。)
b. Taro làm hỏng chiếc xe đạp của tôi mất rồi.
太郎 壊す 自転車 の 私 ~てし まう
(太郎 は私 の自 転車 を壊 して しま った。)
例(12)、(13)a は 自動 詞文 であ るが 、例(12)、(13)bの ように làmを 付け ること によ っ て、他 動詞 文に なる 。ま た、 これ らの 構文は 使役 文と して 捉え るこ とも でき 、感情 動詞 の多 くもこ のグ ルー プの 動詞 に属 する。例 えば:giận「怒る 」、ngạc nhiên「 びっ くり する」、vui mừng
「喜ぶ 」、khóc「泣 く」、cười「笑 う」、đau khổ「苦し む」、thất vọng「 がっ か りする 」等 も対 応する 他動 詞が なく 、làm と 結合 する ことで 他動 詞文 にな る。「làm+ 感 情動 詞」と いう 表現 は原因 を表 わす 使役 構文 とし ても 捉え ること がで きる 。 対 応す る他 動詞 を持 たない 自動 詞も 感情動 詞も làmと結 合し て、 他動 詞化 、 ある いは 使役 の意 味を 表す が、 言葉 による 命令 ・指 示の使 役文 を表 わす bắt、cho な どと 結 合する こと はで きな い。感情 動詞は làm以外 に、原因 を表わ す使 役動 詞の khiến と結合 する ことも でき る。一方 、感 情動 詞の うち、「泣 く」と「 笑 う」は làm以外 にも 、bắt、cho と 結合 できる 。
ベトナ ム語 にお ける 他動 詞が ない 自動 詞とし て、他に でも、đi「 行く 」、đứng「立つ」、ngồi
「座る 」、chạy「 走 る」、nhảy「 踊る」、sống「 住む」、say「 酔う 」、về「 帰る 」等 も存在 する 。 物の性 質、 状態 また 感情 を表 わす 自動 詞と違 って 、こ れら の動 詞は 人間 の動 作を表 わす 。 こ れらは 、絶 対自 動詞 と呼 ばれ る類 であ る。 こ れら の動 詞自 体は 動作 を表 わし 、NP2は自 分の 意思で 動作 を行 う能 力が ある ので 、làm を 付け て他 動 詞 にな るも ので はな い 。一方 、こ れら の動詞 の動 作主 は有 生物 であ るた め、言葉に よる 指示・命 令を 表わす bắt、cho使役動 詞と 結
その他 にも 、bắt「無 理や りさ せる」、cho「~ 許可 を出 す」、 để「~ させ てお く」な どと 結 合して それ ぞれ 強制 使役 、許 容使 役 、放任使 役の 意味 を表 す。この 場合 では NP2は NP1の 動 作の対 象で ある と同 時に 、Vの動 作主 である 。
(14) Tôi bắt anh ấy đến.
私 させる 彼 来る
(私は 彼を 来さ せる 。)
(15) Tôi cho anh ấy ngồi
私 させる 彼 座る
(私は 彼を 座ら せて あげ る。)
(16) Tôi để anh ấy đi.
私 させて おく 彼 行く
(私は 彼を 行か せて おい た。)
以下は ベト ナム 語の 自動 詞、 他動 詞と 使役動 詞と の結 合の まと めで ある 。
bắt cho làm khiến
対応す る他 動詞 がな い自 動 詞 × × ○ ○
感情動 詞 × × ○ ○
絶対自 動詞 ○ ○ × ×
2.1.2 自動詞、他動 詞、使役形 に おける日本語と ベトナム 語の違い
日本語 では 「入 る/ 入れ る」、「降 りる /降ろ す」 など 形式 的に 対応 する 自動 詞・他 動詞 の ペアが 多い 。普 通、 自動 詞は NP2 の動 作、変 化を 表し 、他 動詞 は NP1 の 働き かけと 同時 に NP2の 変化 を表 す。 他動 詞文 では 、対 象者を ヲ格 で表 す「 が、 を」 構文 を取 る。一 方、 自動 詞に使 役を 表す「 させ る」形態 素を 結合 して 、使 役文 を作 るこ とも 可能 である 。使役文 も NP1 が NP2に働き かけ て 、NP2が 何らか の 行為を 行う 、ある いは NP2が 変化す る ことを 表す 。自 動詞の 使役 文で は、 被使 役者 をヲ 格で 表す「 が、 を」 文型 を取 る。 この 場合 、三者 の役 割分
担がは っき りし てい る。
自動詞 他動詞 使役形
寝る 寝かす 寝させ る
帰る 帰す 帰らせ る
起きる 起こす 起きさ せる
乗る 乗せる 乗らせ る
降りる 降ろす 降りさ せる
乾く 乾かす 乾かせ る
減る 減らす 減らせ る
漏る 漏らす 漏らせ る
回る 回す 回らせ る
立つ 立てる 立たせ る
固まる 固める 固まら せる
上がる 上げる 上がら せる
逃げる 逃がす 逃げさ せる
残る 残す 残らせ る
入る 入れる 入らせ る
止まる 止める 止まら せる
しかし 、す べて の自 動詞 にお いて 「さ せる」 を付 ける こと が可 能と いう わけ ではな い。 青
木(1995) では 以下 のよ うな 動詞 は「 させる 」と 結合 する こと が不 可能 であ ると述 べら れて
いる。
壊れる 壊す ×壊 れさせ る
建つ 建てる ×建 たせる
なおる なおす ×な おらせ る
日本語 では 他動 詞文 を自 動詞 使役 形文 にする こと がで きる 。
(17) a.学生 を集 める 。 b.学生 を集 まら せる 。
(18) a.子供 たち を早 く帰 す。
b.子供 たち を早 く帰 らせ る。
(19) a.途中 で彼 を降 ろす 。 b.途中 で彼 を降 りさ せる 。
仁田(2009)に よる と、 他動 詞と 自動 詞使役 形が 類似 した 意味 を表 すの は、 被使役 者が 意
志的に 行為 を行 う有 生物 であ る場 合だ けであ り、 被使 役者 が無 生物 の時 は使 役文が 不自 然で ある。
(20) a.道具 を戻 す
b.*道 具を戻 らせ る。
(21) a.命令 を下 す。
b.*命 令を下 らせ る。
(22) a.棒を 立て る。
b*棒を 立た せる 。
反対に 、被 使役 者が 有生 物で 、そ の意 思を無 視で きな い場 合に は他 動詞 文よ り使役 文を 用 いる方 が自 然で ある 。
(23) a.?先 生が 生徒 たちを 運動 場に 1列 に並 べた。(他 動詞 文)
b.先生 が生 徒た ちを 運動 場に 1列に 並 ばせた 。( 自動 詞使 役文)(仁 田:2009)
(24) a.?先 生は 子供 を立て た。
b.先生 は子 供を 立た せた 。
2.1.1 で は ベ ト ナ ム 語 で は 同 一 の 形 式 の 動 詞 が 自 動 詞 と し て も 他 動 詞 と し て も 使 わ れ る こ とが多 いと 述べ たが 、日 本語 の自 他対 応動詞 との 対照 とい う観 点か らも う一 つ大き なグ ルー プを成 すの が、 自動 詞と 他動 詞が 全く 異なる 形式 を持 つ場 合で ある 。つ まり 、形式 では なく