第 2 章 他動詞文の使役性
2.2 働きかけを表 す他動詞
他動詞 は普 通、 動作 主の 働き かけ と働 きかけ を受 けた 対象 者の 状態 変化 を表 すとさ れる 傾 向があ るが、実際 には、すべ ての 他動 詞 が働き かけ と状 態変 化を 表す わけ では ない。そ して 、 それぞ れの 言語 にお いて との 動詞 がど ちらを 表す かは 異な って いる 。日 本語 では、 他動 詞は 働きか けと 同時 に状 態変 化の 結果 も表 わすが 、ベ トナ ム 語 にお ける 他動 詞は 、単純 に動 作を 表す動 詞も あれ ば動 作と 同時 に結 果を 表す動 詞も 存在 する 。 ベ トナ ム語 は日 本語よ り、 他動 詞が NP1の働 きか けと NP2の 状態 変化 を表す 動詞 が多 い。
日本語 にお いて は、他 動詞が NP1の働 きかけ のみ に言 及し、NP2の状 態変 化 につい ては 全 く触れ ない 動詞 には 以下 のよ うな もの がある 。
触る 殴る 蹴る 引っ張 る こする なでる
押す いじる 握る うつ 噛む 抑える
読む 聞く 叩く 招く
(1) 太郎は 音楽 を聞 いた 。
(2) 太郎は 次郎 を殴 った 。
例(1)、(2)では、「聞く 」「殴 る」は 動作主 の太 郎と 動作 の対 象「花 子」「 次 郎」を 同時 に
示すが 、NP1の NP2に対 する 働きか け 、つ まり NP1の 動作 のみ を表 すもの で あり 、NP2の 状 態変化 には 言及 して いな い。 従っ て、 以下の よう な文 でも 許容 でき る。
(3) 太郎は 花子 を結 婚式 に招 いた が、 彼女 は来な かっ た。
(4) 私はド アを 力一 杯押 した がび くと もし なかっ た 。
(5) 私はあ の男 と結 婚し ない よう にと 娘を 説得し たが 、聞 いて くれ なか った 。
一方ベ トナ ム語 では 、上 に述 べた 動詞 に対応 する 動詞 以外 にも 、NP1の 働き かけの み表 す 他動詞 が非 常に 多い 。ベ トナ ム語 にお ける 他 動詞 は一 般的 に、 動作 のみ を表 す。同 じよ うな 意味を 表す 動詞 でも 、日 本語 では 状態 変化も 表す のに 対し て、 ベト ナム 語で は状態 変化 を表 さない こと が多 い。 ベト ナム 語で は、NP1の 働き かけ のみ 表す 動詞 は、 単純 な一つ の単 語で ある場 合が 多い 。
(6) a. Taro đã giết con hổ, nhưng nó không chết.
太郎 [既然] 殺す 虎 しかし 虎 ~ない 死ぬ
b.(直 訳:*太郎 は虎 を殺 した が、 虎は 死なな かっ た。)
c. 太 郎は 虎を殺 そう とし たが 、虎 は死 ななか った 。
(7) a. Tôi đã cắt miếng da này, nhưng nó không đứt.
私 [既然] 切る 革 この しかし 革 ~ない 切れる
b.(直 訳:*私は この 革を 切っ たが 、切 れなか った 。)
c. 私 はこ の革を 切ろ うと した が、 切 れ なかっ た。
(8) a.Tôi đã xé áo của Taro nhưng nó không rách.
私 [既然] 破る シャツ の 太郎 しかし シャツ ~ない 破れる
b.(直 訳:*私は 太郎 のシ ャツ を破 った が、破 れな かっ た。)
c. 私 は太 郎 のシ ャツ を破 ろう とし たが 、破れ なか った 。
(9) a.Tôi đã bẻ cây sắt này nhưng nó không gãy.
私 [既然] 折る 鉄棒 この しかし 鉄棒 ~ない 折れる
b.(直 訳:*私は この 鉄棒 を折 った が、 折れな かっ た。)
c. 私 は鉄 棒を折 ろう とし たが 、折 れな かった 。
例(6)~(9)a では、 ベト ナム 語に おける giết「殺 す」、cắt「 切る」、xé「 破る」、bẻ「折
る」と いう 動詞 は そ れぞ れ働 きか けと いう行 為の みを 表し 、状 態変 化の 結果 を含意 しな い 。 一方、これ らの 動詞 は日 本語 では、NP2 の状態 変化 に言 及す る。従 って 、(6)~(9)bは す べて非 文に なる 。 上の例 文は いず れも「完 了」の意 味を 表す rồi を 用い るが 、rồiは その 働き の結果 を含 意せ ずに 、た だ動 作の 完了 の意味 を表 す。
しかし 、状 態変 化の 結果 を表 す語 を働 きかけ 動詞 の直 後に 入れ ると 状態 変化 の結果 も含 意 される こと にな るた め、 文の 後節 で否 定する と以 下の よう に非 文に なる 。
(10) *Tôi cắt đứt miếng da này rồi, nhưng không đứt.
私 切る 切れる 革 この [完了] しかし ~ない 切 れる
(11) *Tôi xé rách áo của Taro rồi nhưng không rách.
私 破る 破れる シャツ の 太郎 [完了] しかし ~ない 破れる
(12) *Tôi bẻ gãy cây sắt này rồi nhưng không gãy.
私 折る 折れる 鉄棒 この [完了] しかし ~ない 折れる
このよ うな 場合 、rồi は 状態 変化 の結果 が完了 した 意味 を表 す。
一方、2.1.1 節 で言 及した 語順 で自・他動 詞が決 まる 動詞 は、他 動詞 の場 合 動 作 しか表 さ ず 、
自動詞 の場 合 状 態変 化の 結果 しか 表さ ないも のも ある 。例 えば 、tắt (đèn) 「(電 気を )消 す」/(đèn)tắt 「(電 気が )消 える 」、mở (cửa)「(ド アを )開 ける 」/ (cửa) mở「(ド アが)開 く」、lăn(hòn đá)「(石 を)転 がす」/(hòn đá) lăn「(石 が)転 がる 」などで ある 。
(13) Tôi đã mở cửa rồi, nhưng vẫn không mở được 私 [既然] 開ける ドア 完了 しかし まだ ~ない 開く できる
(*私 はド アを 開け たが、 開 け るこ とが できな かっ た な かっ た。)
例(16)では普 通 、後の 節に không được「で きない 」を用い て否 定文 を表 す ものが 多い 。 このよ うな 場合 、không được「で きな い」は 動作 主の 能力 を表 すも ので ある 。動作 主が 実際 の行為 を行 った が、 動作 主の 力で は思 い通り の結 果が 実現 でき ない とい う意 味を表 す。