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第 3 章 日本語の「させる」とベトナム語の代表的な使役形式 について

3.1 日本語の「さ せる」使役 構文 における被使役 者の格に ついて

日本語 にお ける 使役 構文 では 、使 役者 が「が 」格 を取 るこ とは いか なる 状況 の中で も変 わ りがな いが 、被 使役 者が 「を 」格 を取 る場合 と「 に」 格を 取る 場合 があ る。 日本語 研究 者の 間では 被使 役者 が「を」格を 取る か「に 」格を取 るか はし ばし ば問 題に なる。文 によっ て「を 」 しか用 いら れな いも のと、「 に」しか 用 いられ ない もの があ り、また 、「 に」「 を」のい ずれを 用いて もよ いが 、い ずれ を用 いる かに よって 意味 の違 いが 生じ るも のも ある 。

井上(1976)は 「を 」使 役文 は補 文の 主語の 意志 に関 わら ず行 為を させ ると いう意 味を 持

ち、「 に」 使役 は補 文の主 語の 意志 によ る行為 の場 合で なけ れば なら ない と述 べてい る。

つまり 、「 を」 使役 文は補 文の 主語 の意 志を無 視す るの に対 して、「に 」使 役文 は補文 の 主 語の自 発的 行為 を前 面に 出し て、主 文の 主語と 間接 的な 働き かけ を表 わす 使役 文であ る。「 を」

使役文 は強 制的 使役 を表 し、「 に」 使役 が許容 的な 使役 を表 わす 。

(1) a.太郎 は弟 を泣 かせ た。

b.*太 郎は弟 に泣 かせ た。

例(1)aで は、泣く とい う動 詞は 被使 役者の 意志 によ っ て 行う 行為 では なく 、被 使役者 が 自己制 御で きな い動 詞な ので、「を 」格 を取る 。し かし 、葬 式な どで、「泣 く」 ことを 商売 と

(2) 太郎は 泣き 女に 泣か せた 。

一方 、以 下の、(3)bは 補文の 主語 の自 発的行 為と いう 想定 がで きな いた め、(3)bは 非 文 である 。

(3) a.係長 が新 しい 車を 走ら せて みた 。 b.*係 長が新 しい 車に 走ら せて みた 。

主文の 主語 補文の 主語

「を」 使役 文

有生名 詞句 (動 作主 格 ) 有生名 詞句 (動 作主 格、 経験 者各 ) 無性名 詞句

(自発 性を 持 つ 対象 格、 対象 格 )

「に」 使役 文 有生名 詞句 (動 作主 格 ) 有生名 詞句 (動 作主 格 )

井上は 次の 例文 を挙 げ「 を」 と「 に」 の違い は必 ずし も被 使役 者の 意志 の有 無によ ると は 言えな いこ とを 証明 した 。

(4) a.彼は 妻を 働か せた 。

b.彼は 妻に 働か せた。(「 彼の 代わり に」)

(5) a.僕は 弟を 進学 させ た。

b.僕は 弟に 進学 させ た。(「僕 の代わ り に」)

例(4)(5)bは 被使 役者 の意 志に関 係 なく 、使役 者の 代わ りに 動作 を行 う意 味を表 す。つ まり、b 文で は「 誰か の代 わりに 」と いう意 味を 持っ てい る。

柴谷(1978)は 、使 役文 の被 使 役 者の 助詞に よる 表示 は被 使役 者の 意味 的な 働きに よる こ

とがあ ると した 。日 本語 の使 役文 を意 味的に 「誘 発使 役」 と「 許容 使役 」に 分け、 それ ぞれ の意味 を表 す場 合の 「を 」と 「に 」の 相違点 を以 下の よう に述 べて いる 。使 役文の 補文 が自 動詞を 含む 場合 は 、動 作主と して 働く 被使役 者を「 に」でも「 を」でも 表わ す ことが 出来 る。

両方の 形が 誘発 使役 文と して も、 許容 使役文 とし ても 使う こと が出 来る 。

誘発使 役文 にお ける 「を 」使 役文 と「 に」使 役文 の基 本的 な意 味の 違い は、 前者は 被使 役

者の意 志を 無視 した 表現 であ るが、後者 は被使 役者 を尊 重し た表 現で あ る とい うこと であ る。

その根 拠は 、「を 使役 文」は 、強制 的に 強いら れた 状況 とか、使役 者が 直接 手 を下し て物 事を 引き起 こし た場 合と か、 それ に使 役者 が権威 者で ある 場合 など を典 型的 に表 し、一 方「 に使 役文」 は、 被使 役者 の意 志を 重ん じ、 使役者 がそ れを 訴え て物 事を 引き 起こ したよ うな 状況 を典型 的に 表す 、と 指摘 して いる 。

(6) あそこ で家 人を 豆腐 屋に 走ら せて 、お からを 買わ せる 一方 、・・ ・。

(7) 土曜日 に修 一に 行か せよ う。

上の 例(6) は家 の主 人が 権威 者 の立 場で 家人 の意 志を 無 視し て用 事を 言い つけ た状 況の 表現で あり 、例(7)は 父が 息子 の修 一 に言っ て聞 かせ 、行か せる とい う状 況 の表現 であ る。

(6) の 場合 は「 を」 を「 に」 に 置き 換え ると 、不 自然 な文 に なる 。家 の主 人と 家人 の関 係 では統 制と 被統 制の 関係 なの で、使 役 者は被 使役 者の 意見 を尊 重す る意 味を 捉えに くい から であ る。 一方 (7)で は、 父は 息 子の 意志 を無 視す るか 、尊 重 する かと いっ たよ うな 意味 が むしろ かな り希 薄で ある。(6)では、「 に」を「 を」に 置き 換え るこ とも でき る。「に 」を 使 う場 合は 被使 役者 の 意志 を尊 重す ると いう 意味 を表 す以 外に 、 誰か の代 わり に、「 修 一」 を 指定 して 、「 修一 」に 行か せる 意 味も 表す 。ま た、「 修 一」 が選 ばれ る 意味 も表 す。 例え ば、

4人の子 供を 持っ てい る母 親が 、子 供 たち全 員を 旅行 に連 れて 行く こと が無 理な場 合 、一 番 成績が よか った 修一 を選 んで 、今 回「 修一に 行か せよ う」 と言 うこ とも でき る。

(8) 太郎は 次郎 を/*に 気絶さ せた 。

(9) 太郎は 次郎 を/*に びっく りさ せた 。

「に」を使 えな い理 由は、「 に」使役 文 は被使 役者 の意 志に 訴え る状 況を 表す が、「を 」使 役 文は被 使役 者の 意志 に関 係な く、使 役 者が自 らの 手を 下し てあ る状 況を 引き 起こす 状況 を表 すため であ る 。ま た動作 主と なり 得な いもの が被 使役 者と なっ てい る文 に「 に」が起 こら な いのも 同じ 理由 であ る。

(10) 花を/*に 咲か せた 。

(11) 汽車を /*に走 らせ る。

柴谷は 、「 に 」使 役文 は被使 役者 が動 作 主の場 合に 限ら れ 、被使 役者 の自 発性 を重く 見た 表 現に対 して 、「 を 」使 役表現 は被 使役 者 が使役 行為 の対 象と して 捉え られ ると 述べて いる 。両 者の違 いは 深層 構造 レベ ルで 被使 役者 を使役 者の 対象 とし て考 える か、 それ とも、 動作 主と して考 える かに ある とい う点 であ る。 この意 味に おい て、「を」 は被 使役 者の 意志を 無視 し、

「に」 は被 使役 者の 意志 を尊 重す ると いうこ とが でき る。

柴谷は (12)(13) のよう な例 文を 取り 上げて 、 自 然さ の相 違を 見て いる 。

(12) 奴隷監 督は 鞭を 使っ て奴 隷達 を働 かせ た。

(13) *?奴隷 監督 は鞭 を使 って 奴隷 達に 働か せた。

上の例 文で は(12) と(13) では どち らも「 鞭を 使っ て」 とい う言 葉が 入る ため、 監督 が 鞭を振 り振 り奴 隷達 を追 い回 して いる 光景 が 思い 浮か ぶ の で、(13)よ りも(12)の 方が 自然 な文で ある とい う。

また柴 谷は 、被 使役 者が 意志 的に 引き 起こせ ない 状況 を表 す使 役文 は「 を」 使役文 でな け ればな らな いと して いる 。

次に、「 許容 使役 」に おけ る「を 使役 」と「に 使役 」の違 いは 、主 に許 容の 種 類の違 いに あ る。許 容に は、 承諾 を与 えて 積極 的に 許すと いう 場合 と、 積極 的に 承諾 を与 えはし ない が、

ある物 事の 発生 ・進 行を 防げ るの を控 えると いう 消極 的な 許容 があ る、 と指 摘して いる 。柴 谷は以 下の 例文 を取 り上 げて 分析 を行 ってい る。

(14) よし、 と言 って 、子 供に /?を 行か せた 。

この 場合 では 、親 が 積極 的に 承諾 を与 えた とす れば 、「 に」 使役 文の ほ うが 自然 であ る。

一方、 消極 的に 許し た場 合は 「を 」使 役文の 方が 自然 であ る。

(15) 見て見 ぬふ りを して 子供 を/ ?に 行か せた。

池上(1981)は 「ニ 使役 」と 「ヲ 使役 」につ いて 以下 のよ うに 述べ てい る。

(16) a.太郎 は次 郎に 行か せた 。 b.太郎 は次 郎を 行か せた 。

(16)a の「ニ 使役 」の 方が(16)b の「ヲ 使役 」よ りも 使役 者に 対す る強 制 力が緩 やか な言 い方で ある 。(16)aのよう な「ニ使 役 」では 、次郎は 被使 役者 であ りな がら 、なお その 自主 性が尊 重さ れて いる もの とし て捉 えら れてい る。一方 、(16)b のよ うな「ヲ 使役 」の場 合に は、次 郎は 被使 役者 とし て使 役主 であ る太郎 の完 全な 支配 下に 置か れて いる と感じ られ ると 述べて いる 。

寺 村 (1982) で は 一 般 的 に い っ て 、X( 被 使 役 者 ) が 「ヲ 」 を 取 る か 「 ニ 」 を 取 る か を決 定する のは その 動詞 の性 質、 とく にそ れがど うい う補 語を 取る 動詞 であ るか という こと と、

X の性 質、 とく にそ れ自 体が 意志 をも って行 動で きる もの であ るか とい うこ とが基 本的 な条 件であ ると 述べ てい る。 寺村 (1982) は使役 構文 では 、「 を」格 を取 る場 合、「に」 格を とる 場合、 そし て「 に」 格「 を」 格ど ちら も可能 な場 合が 存在 する 。

他動詞 とし たも のが 使役 態を とる 時に はその 動作 主格 は「 ニ」 格を 取る 。

(17) 母親が 赤ん 坊に ミル クを 飲ま せる。(寺 村:1982)

寺村(1982)も Vが 自動 詞の うち 、感 情的な 動詞 の中「一 時的 な気 の動 き 」を表す よう な

もの であ ると き、 その 動 作( 感情 )主 体は 被使 役者 にな った と き、「 を」 格 を取 り、「 に 」格 を取ら ない と述 べて いる。「 失敗 する 、ぎょっ とす る 、感心 する 、安心 する 、笑う 、泣 く 」も 同類で ある 。

(18) 彼ハ巧 ミナ 手品 デ皆 ヲオ ドロ カセ タ。

(19) 見セビ ラカ シテ 、皆 ヲウ ラヤ マシ ガラ セタ。(寺 村: 1982)

また、「 降る 、咲 く、光 る、輝 く、さび る、腐 る、済 む 」など、自然 現象 を表 すもの はす べ てその 主体 が意 志を 持た ない もの であ る。こ れら の動 詞も 「を 」格 を取 る。

成する 、反 対す る 」 など の動 詞は 「に 」格の ほう が「 を」 格よ り自 然で ある 。

(20) a.彼が 犬に その 男に 噛み 付か せる /飛 び掛ら せる 。 b.?彼 が犬 をその 男に 噛み 付か せる /飛 び掛ら せる 。

移動す る動 詞の 場合 、出 所の 「を 」を とる場 合、 それ を「 ~か ら」 にか えれ ば、被 使役 者 は「を 」、「 に」 どち らを とっ ても 重複 すると いう 問題 は起 こら ない が、 一般 に「を 」の ほう が「に 」よ りも 自然 と感 じら れる よう である 。

(21) a. 子 ドモ ガ親 元ヲ 離レ ル。

b. *子ドモ ヲ親 元ヲ 離レ サセ ル。

c. 子 ドモ ヲ親 元カ ラ離 レサ セル 。 d. ? 子ド モに 親元 から 離レ サセル 。

しかし 、出 所の 「を 」は 「か ら」 に変 えられ ない 場合 、重 複を 避け るた めな ら「に 」の 方 が自然 であ るは ずだ が、「 を」 の方 が自 然だと 感じ る場 合も ある 。

(22) a. 息 子ガ 大学 ヲ卒 業ス ル。

b. 息 子ヲ 大学 ヲ卒 業サ セル 。

c. ?息 子 ヲ大 学カラ 卒業 サセ ル。

d. ?息 子 ニ大学 ヲ卒 業サ セル 。

また、「通 り道 」の 「~を 」の 場合 は、「出所 」の よう に「 から 」に 変え るわ けには いか な いこと もあ る。 その 場合 は被 使役 者に 「を」 を付 ける と文 の中 に「 ~を 」が 二つに なる ため 不安定 にな るが 、それ にもか かわ らず「に 」より「を 」の方が まし な感 じが す る場合 もあ る。

最後に、被使 役の 意思 を考 慮し てそ れ に働き かけ るの か、そ の意 思を 無視 す るのか で「に 」 格を取 るか 、「 を」 格を取 るか が決 まる 。

「誘発 」「 放任 」の使役 なら 、「 に 」格 、被使役 者の 意思 無視 の「 強制 」「 誘発 」使役は「 を」

格を取 ると 指摘 した 。

仁田(2009)によ ると他 動詞 から 作ら れる文 型で は使 役者 が「 が」、被 使役 者 が「 に」で表