1.2 ベトナム語の 使役に関 する研究
1.2.4 先行研究の問 題点
と述べ た。
(22) Giáp uốn cong cây sắt.
Giáp 曲げる 曲がっ てい る 鉄棒
(Giap は 鉄棒 を曲 げた。)
(23) Giáp bẻ gãy thanh gỗ.
Giáp 折る 折れて いる 木
(Giap は木 を折っ た。)
(22) では cây sắt「鉄 棒」は uốn「 曲 げる」 の目 的語 で、NP1の uốn「 曲げ る」動 作を 受け て、 結果 は「 曲が っ てい る」 状態 にな る。cong「曲 がっ てい る」は uốn「 曲げ る」 の結 果で あ る。(23)も同 様で giapは uốn「 折る 」という 動作 を行 って 、そ の動 作を 受け た結果 、木が折 れたこ とを 表わ す。Diệp Quang Ban に よると (22)、(23) は因 果関 係構 文で はなく 、他 動詞 構文で ある と主 張す る。
上の(22)、(23)は 以下 の (24)、(25)に置 き換 える こと が出 来る 。
(24) Giáp uốn cây sắt cong.
Giáp 曲げる 鉄棒 曲がっ てい る
(Giap は 鉄棒 を曲 げた。)
(25) Giáp bẻ thanh gỗ gãy.
Giáp 折る 木 折れて いる
(Giap は木 を折っ た。)
はベト ナム 語に おけ る真 正使 役動 詞に ついて 述べ てい る。Nguyễn Thị Quy は 発話行 為構 文と 使役構 文の 区別 を述 べて いる 。そ して 、Diệp Quang Banは 使役 構文 、 因 果関 係構文 、 他 動詞 文など につ いて 述べ てい る。 いず れに せよ、 ベト ナム 語の いわ ゆる 使役 表現 をめぐ る問 題は 次のよ うに まと めら れる だろ う 。
Nguyễn Kim Thảnは 、使 役構 文と は使 役者の 行為 によ り被 使役 者に 何か を促 す、許 可を 出
す、助 ける 、阻 止す る等 を表 わす とい う基本 的な 特徴 を述 べて いる 。ベ トナ ム語に おけ る使 役動詞 では 、cho、để、khiến(cho)、làm(cho)の 4 つ の真 正使 役動 詞が よ く使わ れて いる と述べ てい る。 真正 使役 動詞 と他 の使 役動詞 を区 別す る根 拠に ついて Nguyễn Kim Thản は明 確に述 べて いな いが、cho、để、khiến (cho)、làm(cho)は 他の 使役 動詞 よ り本動 詞の 意味 が弱く 、機 能語 とし ての役 割が 強く 感 じられ るた めで はな いか と思 われ る。khiến(cho)、làm
(cho)は NP1 が NP2に 何ら かの 行為 を行わ せる ので はな く、NP1は 原因 で 、NP2は 間接 的 に NP1 の 行為 を受 けて 、あ る行 為ま た は状況 に至 る意 味を 表す のに 対し て、cho、để は許 可 を出す 、あ るい は放 任の 意味 を表 す。 これ ら が、 日本 語の 「~ させ る」 に対 応する 度合 いが 最も高 い使 役動 詞 で ある こと は重 要な 示唆を 与え る。 すな わち 、こ れら が典 型的な 使役 動詞 である とい うこ とは 日本 語の 使役 構文 との対 照か らも 裏付 けら れる ので ある 。また、Nguyễn
Kim Thảnはlàmの用 法に つい ても 他動 詞化の 役割 と使 役を 表す 役割 があ ると 論じた 。し かし、
1.3 節 で 見る よ う に 、使 役 は 他 動 詞構 文 をプ ロ ト タ イプ と す る 連 続的 カ テ ゴ リ であ る と 考え られ、 その 一部 を取 り出 して 論じ ても 、ベト ナム 語の 使役 構文 とそ の周 辺と の関係 を明 らか にする こと はで きな い。 従っ て、Nguyễn Kim Thản の研 究は 、ベ トナ ム語の 使役の 機能 を十 分に明 らか にし たと は言 えな い。
Nguyễn Thị Quyは い わゆ る使 役構 文を 発話行 為構 文と 使役 構文 に区 別し てい る。NguyễnThị Quyの 発話 行為 構文 と使 役構 文の 7 つ の相違 点に 関し ては 以下 のよ うな 問題 点があ る。
まず 、第 一の 区別 では 発話 行為構 文は「NP1 V1 NP2 V2」とい う語 順を 許す が 、「NP1 V1 V2 NP2」は 不可 能で ある 。 一 方使役 構文 では「NP1 V1 NP2 V2」構 文も 、「NP1 V1 V2 NP2」 構 文も存 在す ると 述べ てい る。し かし 、以 下のよ うな 例文 はNguyễn Thị Quyの 基 準に合 わな い。
(26) a. Tôi làm anh ấy giận.
私 させる 彼 怒る
(私は 彼を 怒ら せた 。)
b. *Tôi làm giận anh ấy.
私 させる 怒る 彼
(私は 彼を 怒ら せた 。)
(27)a.Anh ấy làm mọi người cười.
彼 させる 皆 笑う
(彼は 皆を 笑わ せた 。)
b.*Anh ấy làm cười mọi người.
彼 させる 笑う 皆
(彼は 皆を 笑わ せた 。)
つまり 、感 情動 詞の 場合 、NP2と V2の位置 を交 換で きな い場 合 が ある ので ある 。
次に第 2 の 相違 点で は、発 話行 為構 文 では中 心動 詞 V1 は 「言 う」 とい う意 味を持 つの に 対して 、使 役構 文で は V1 は 「言 う」 という 意味 を持 たな いと 述べ てい るが 、発話 行為 構文 の動詞 リス トの 中で は、「 言う 」の 意味 を表す 動詞 以外 に も khiến「~ させる 」、bắt「 ~無理 やりさ せる 、cưỡng bức「 ~強 制す る」、cho「 ~させ る/ 許可 を出 す」等 の使 役動詞 を取 り上 げてい る。上に 述べ た動 詞が「言 う」の 意味を 含意 する か否 かは 文脈 に依 存す る。例えば khiến の場合 は、NP1は何 らか のこ とを 言い 出して 、そ の結 果、NP2はあ る行 為を 行うと いう 解釈 も可能 であ るが 、NP1 は何 も言 わず、 何らか の行 為を 行っ たた め、 その 結果 、NP2 は V2 の 行動を 行う とい う解 釈の 仕方 もあ る。 しかも 、NP1が 「何 らか のこ とを 言う 」と言 って も、
直接 NP2に命 令等 を出 すこ とで はな い 。
(28) Anh ấy khiến cô ta phải nói ra sự thật.
彼 させる 彼女 ~なけ れば なら ない 言い出 す 事実
(彼は 彼女 に事 実を 言わ なけ れば なら ないよ うに させ た/ 言わ せた。)
(28) では 彼は 「事 実を 言い なさ い」 と言っ て彼 女に 事実 を言 わせ たと いう 解釈も あり 得る し、彼 は何 も言 わず に怖 い顔 をし ただ けで彼 女が つい 事実 を言 い出 した とい う解釈 もあ る。
さらに 第 3の相 違点 では 、使 役者 は( 積極的 な場 合で も、 消極 的な 場合 でも )現実 的な 結 果を引 き起 こす と述 べて いる (Nguyễn Thị Quy:1995)。
(29) Nam bẻ cái que gãy đôi, nhưng nó không gãy ナム 折る 串 折れる 二つ でも 串 ない 折れる 。
(*ナ ムは 串を 半分 に折っ たが 、串 は折 れなか った 。)
上の例 文で は、gãy đôi「二 つに 折れ た 」があ るた め非 文で ある が、gãy đôi「 二つに 折れ た」
を入れ なけ れば (30)の よう に自 然な 文であ る。
(30) Nam bẻ cái que, nhưng nó không gãy
ナム 折る 串 でも 串 ない 折れる 。
(ナム は串 を半 分に 折ろ うと した が、 折れな かっ た。)
bẻ「 折 る 」 だけ で は な く 、giết「 殺 す 」、đốt「 燃 や す 」、xe「破 る 」、phá「 壊 す 」 等 も 同様 で ある。
Nguyễn Thị Quy が 取 り上 げた 発話 行為 構文で も、 使役 構文 でも 主語 があ る行 為を行 った 結
果、何 らか の事 態が 生じ ると いう 意味 を表す と述 べて いる 。Nguyễn Thị Quy は発話 行為 構文 と使役 構文 を区 別す る目 的と して 、前 者は主 語に よる 〈命 令〉 や〈 許可 〉と いう発 話行 為で あり、 その 結果 生じ る事 態は 目的 語が 〈行為 〉を 遂行 する もの であ るの に対 し、後 者は NP1
と NP2 と が 密接 に 結 び つ い て 単一 の 事 態 を構 成 す る も の であ る こ と を 挙 げ て い る。 つ ま り NP1が 何ら かの 行為 を行 った 結果 、NP2の状態 か位 置等 を変 化さ せる 意味を 表すと いう 事実 にある 。
この指 摘は 、日 本語 との 対照 を行 う上 で有益 なも のと 言え る。Nguyễn Thị Quyの 発話 行為 構 文 と 使 役 構 文 の 区 別 か ら 見 る と 、 発 話 行 為 構 文 は 日 本 語 の 「~さ せ る 」 を 用 い る 使 役 構 文 と同様 であ る。そ のう ち、「 言う」とい う意味 を持 つ使 役動 詞の 場合 は日 本語 の「~ よう に言 う」、「 ~て もら う」 に対 応す る。 そし て、「 言う 」の 意味 を持た ない 使役 動詞 は「~ させ る」
に対応 する 。 こ こか ら、 ベト ナム 語の 使役構 文は 日本 語の 語彙 使役 構文 に対 応する とい う仮 説をた てる こと がで きる 。実 際、3 章 以下で は、 主に 日本 語に おけ る使 役構 文とベ トナ ム語 におけ る発 話行 為構 文と 使役 構文 の相 違点と 類似 点を 検討 して いく 。
Diệp Quang Ban は使 役構 文で 用い られ る述語 動詞 は使 役的 な動 詞で あり 、使 役者は 被使 役
者に 命令 や指 示を 出 した り、 何ら かの こと をす るよ うに 仕 向け たり する と述 べて いる 。Diệp
Quang Ban の定 義は 使役 文の 基本 的な 特徴と 一致 する 。ま た、 使役 構文 に非 常に近 い原 因結
果構文 も存 在す る。 それは NP1 と NP2 の間で 、NP1が 原因 とな って NP2 が 生じる とい う原 因結果 を表 す構 文で ある と述 べて いる 。西村(1998)に よる と、X が 原因と なって Yが 生じ るのが 因果 関係 であ り 、こ のよ うな 因 果関係 を表 す 構 文を “causative”(「 使役 的」)ま たは「 使 役構文 」(causative construction)と 呼ぶ のが適 切で あろ うと 述べ た 。し たが っ て 、Diệp Quang Banが述 べて いる因 果関 係構 文も 使役 構文と 呼 ぶ こと がで きる と思 われ る 。
以上 のよ うに 、 先 行研 究か ら見 ると 、ベト ナム 語に おけ る使 役構 文は Nguyễn Kim Thản、
Nguyễn Thị Quy、Diệp Quang Banが述 べてい る使 役構 文以 外に 、Nguyễn Thị Quyが 述べ た発 話行為 構文と Diệp Quang Ban の 因原 因 結果構 文も 含ま れる と思 われ る。