3.5 誘 発 使役
3.5.1 強 制的 使役
使役者 が被 使役 者に させ るあ る行 為が 被使役 者の 望み や気 持ち に反 する もの であり 、使 役 者がや むを 得ず 使役 者の 要求 通り に実 行する とい う強 制的 な意 味を 表す 使役 文を強 制使 役文 と言う 。こ のタ イプ の使 役は 、使 役者 が何ら かの 形で 働き かけ て被 使役 者の 嫌がっ てい るこ とや、 やり たく ない こと を、 その 被使 役者に 強制 的に やら せる こと を表 わす ため、 常に 強制
のニュ アン スが 伴う 。使 役者 と被 使役 者の関 係は 統制 と被 統制 であ り、 使役 者は被 使役 者に 強制で きる よう な立 場に いる こと を前 提とす る。 日本 語で は、 強制 的な 使役 を表す 場合 にも
「させ る 」を 用い る 。ベト ナム 語で は 、この強 制的 な使 役を 代表 する 使役 動詞 は bắtで ある 。 日本語 でも ベト ナム 語で も、強 制使 役 は NP1 が言葉 によ って 命令・指示 を出 すこと で NP2 に働き かけ を行 、何 から のこ とを させ る。
(5) a.コー チは 命令 して 、選 手達を 2時間 運動場 で走 らせ た。
b.Huấn luyện viên ra lệnh, bắt cầu thủ コーチ 命令を 出す させる 選手達 chạy hai tiếng tại sân vận động.
走る 2時間 で 運動場
(コー チは 命令 して 、選 手達を 2時間 運動場 で走 らせ た)
(6) a.先生 は宿 題を しな い生 徒に50回 も書 かせた 。
b.Thầy giáo bắt học sinh không làm bài tập chép 50 lần.
先生 させる 生徒た ち ~ない 宿題を する 書く 50回
(先生 は宿 題を しな い生 徒に 50回 も書 かせた 。)
そして 、両 言語 にお ける 強制 使役 の手 段は、 言葉 によ って だけ でな く動 作に よって も可 能 である 。
(7) a.父は 子供 の鼻 を摘 まん で薬 を飲 ませ た。
b.Người bố bóp mũi, bắt con uống thuốc.
父親 つまむ 鼻 させる 子供 飲む 薬
(父は 子供 の鼻 をつ まん で薬 を飲 ませ た。)
(8) a.あの 保育 士は 無理 やり 子ど も達 の口 を開け てご 飯を 食べ させ たの で、 逮捕 された 。 b.Bảo mẫu đó đã bóp miệng của những đứa trẻ 保育 士 あの [既然] 開ける 口 の 子供た ち
bắt chúng ăn nên đã bị bắt.
させる 彼ら 食べる だから [既然] ~られ る 逮捕す る
例(7)、(8)では 、使 役者は「鼻 を摘 まむ」「 口を 開け る」など の具 体的な 動 作によ って 働 きかけ 、被 使役者 は「 薬を 飲む」「 ご飯 を食べ る」という 動作 行わ ざる を得 な かった とい う強 制の意 味を 表す 。
また 、言 葉に 動作 を交 じえ た「 言動 」であ る場 合も ある 。こ れは 日本 語で もベト ナム 語で も同様 であ る。
(9) a.母は 一週 間も 絶食 して 、私 の結 婚を 止めさ せた /止 めさ せよ うと した 。
b.Mẹ đã tuyệt thực một tuần để bắt tôi cưới vợ.
母 [既然] 絶食す る 1週間 ~ため させる 私 結婚す る
(母は 一週 間も 絶食 して 、私 の結 婚を 止めさ せた /止 めさ せよ うと した )
使役者 が言 葉に よる 命令 や指 示に よっ て被使 役者 に何 らか のこ とを させ る場 合は、 使役 者 は被使 役者 を統 制す る立 場で ある が、(9)の 場合 は家 族の 関係で ある こと が多 い。
強制 的使 役文 では 、基 本的 に使 役者 が被使 役者 にあ まり 望ま しく ない こと 、嫌が って いる ことな どを させ る意 味を 表す。使役 者は 被使役 者よ り社 会的 地位 が高 い。NP2が 嫌がっ ても 、 拒否す るこ とは 出来 ない 状況 であ る。日本語 では NP2の 動作 の結 果を 含意 し ている が、ベト ナム語 では 含意 され てい ない 。実 際、NP2は NP1の 命令・指 示な どを 拒否 す ること は出 来な いが 、反 抗しよ うと 思えば NP2は動 作 を行わ ない こと も不 可能 では ない 。つ まり 、NP2が動 作を行 うか どう かは 自分 の意 志で 決め ること もで きる 。
3.5.2 日本語の二重 他動詞に対 応 する表現
このグ ルー プで 代表 的な のは 「着 る」「 履く」「被 る」「 嵌め る」 等の 着脱 類の 動詞と 、「 見 せる」 など の動 詞で ある 。こ れら の動 詞は「 着せ る」「見 せる」「か ぶせ る」 などの 二重 他動 詞を有 して いる と同 時に、「さ せる 」と 結合す ると 使役 文に なる 。
松本(2000)は 「着 る/ 着せ る」 のよ うな動 詞は 、前 者が 被使 役動 詞と して の他動 詞、 後
者が使 役動 詞と して の二 重他 動詞 と呼 ぶ。こ の種 類の 代表 的な もの は以 下の ような 動詞 であ る。
他動詞 二重他 動 詞 使役形
着る 着せる 着させ る
かぶる かぶせ る かぶら せる
見る 見せる 見させ る
柴谷(1982)は 、以 下の 例を 挙げ てい る。
(10) a. 太 郎は 次郎 に服 を着 せた 。 b. 太 郎は 次郎 に服 を着 させ た。
(11) a. 太 郎は 次郎 に写 真を 見せ た。
b. 太 郎は 次郎 に写 真を 見さ せた。
例(10)a で は使 役者 の太 郎が直 接服 を手に 持っ て次 郎に 着せ る。(11)a で は太郎 が直 接 写真を 持っ て次 郎に 見せ る。 つま り使 役者が 被使 役者 に直 接作 用を 与え る操 作使役 であ り、
様態副 詞句 が太 郎の 使役 行為 だけ しか 修飾で きな い。 動作 主が 一人 しか いな いとい うこ とで ある 。一 方(10)、(11)b では 通常 次 郎に 服を 着る よう に、 写真 を見 るよ う に指 示を 与え 、 次郎が その 指示 に従 って 「服 を着 た」、「写真 を見 た」 とい う状 況を 表す 。使 役者は 被使 役者 に口頭 で何 らか の行 為を する よう に指 示して 、物 事を させ る指 示使 役で ある 。動作 主は 二人 いて、 それ ぞれ 別に 動作 をし てい る、 つまり 、二 つの 事象 が言 い表 され てい るとい うこ とで ある。
寺村(1982)は 「見 させ る」「 着さ せる 」使役 の表 現も ある ため、「見 せる 」「 着 せる 」は 、
使役的 他動 詞と もよ ぶべ き特 殊な 性質 の動詞 であ り、「 見せ る」は 直接 的で「 見させ る」は間 接的で ある と述 べて いる 。つまり 、「見 せる」「着 せる 」等の 複他 動詞 にお け る NP1の働き か けは、 言葉 など で指 示し たり 命令 を出 したり する ので はな く、 実際 に使 役者 が自分 の手 で動 作 を 行 う の が 普 通 で あ る 。 こ の 種 類 の 使 役 を 操 作 使 役 と 呼 ぶ 。 一 方 、 使 役 形 の 「 着 さ せ る 」
「見さ せる 」等 は使 役者 が言 葉で 指示 したり 命令 を出 した りし て、 間接 的に 被使役 者に 何ら かをす るよ うに 仕向 ける 。こ のよ うな 使役は 指示 使役 と言 える 。
奥津(1980)は「 見る 」の主 語が「見 せ る」の間 接的 目的 語に なる と述 べて い る。「見 せる 」
の文で も「 次郎が 写真 を見 る」という 動作は 含意 され てい る。「 見る」は目 的 語を一 つし かと
文と呼 ぶこ とが でき ると 述べ てい る。
一方、 ベト ナム 語で は日 本語 のよ うな 二重他 動詞 は存 在し ない 。ベ トナ ム語 には日 本語 の 二重他 動詞 に対 応す る表 現は 一つ の単 独の動 詞で 表わ すこ とは 出来 ない 、そ の代わ りに 、主 に 2項を取 る他 動詞 +cho(~ てあ げる )であ る。つ まり 、使役 者は 被使 役者 のため に、何 ら かのこ とを して あげ る意 味を 表す 。
(12) Người mẹ mặc áo quần cho con.
母親 着る 服 ~あげ る 子供
(直訳 :母 親は 子供 に服 を着 てあ げる。)
(母親 は子 供に 服を 着せ る。)
(13) Người mẹ đội mũ cho con.
母親 かぶる 帽子 ~あげ る 子供
(直訳 :彼 女は 子供 に帽 子を 被っ てあ げる。)
(彼女 は子 供に 帽子 をか ぶせ てあ げる。)
例(13)と (14)で は、 ベト ナム 語は 日本語 と同 様で 、母 親は 服を 手に 持っ て直接 、子 供
に着せ る、 帽子 を持 って 、子 供の 頭に 被せる 。こ の場 合子 供は 何も しな いで 、ただ 、母 親の 動作を 受け 取る だけ の意 味を 表す 。使 役者は 被使 役者 に直 接作 用を 与え る操 作使役 であ る。
普通は この よう な構 文で は、NP2は自 分で動 作を 行う 能力 がな い。NP2は赤 ちゃん 、動 物、
無生物 、動作を 行う こと が出 来な い人 間であ る 。ある いは NP2は 動作 を行 う 力があ るが 、何 らかの 理由 で、 動作 を行 わな いと いう ことで ある 。例 えば 、熱 心な 奥さ んが 自分の 愛情 で旦 那さん に服 を着 せて やる とか 、靴 /靴 下を履 かせ てや る等 であ る。
これは 、一 見、 日本 語の 二重 他動 詞構 文と同 等で ある よう に思 われ るが 、実 際には そう で はない 。な ぜな ら、ベト ナム語 では 、こ の 2 項を取 る他 動詞 +cho(~ てあ げる )は mặc~ cho
「着せ る」、mang ~cho「 履か せる 」、đội ~cho「被 せる 」の みで あり 、日 本 語の二 重他 動詞 である 「見 せる 」は この 構文 を取 るこ とがで きな いか らで ある 。し かも 、ベ トナム 語で この 構文を 取る こと がで きる mang ~cho は日本 語で は「 履か せる 」に あた り、 これは 二重 他動 詞形 では なく 使役 形で あ る。 従っ て、「他 動詞 +cho」 構文 は、 日本 語 の二 重 他動 詞構 文と 一 対一に 対応 する とは 言え ない 。
では、 日本 語の 「見 せる 」に 対応 する ベトナ ム語 の構 文は 何だ ろう か。 それ は以下 のよ う
な構文 であ る。
(14) Hanako cho Taro xem hình cưới.
花子 ~あげ る 太郎 見る 結婚写 真
(花子 は太 郎に 結婚 写真 を見 せる。)
この 「cho ~( 誰か に) +2 項 を取 る 他動 詞~ 」構 文は 、 動詞 「見 る」 だけ でな く、「聞
く」な ど他 の多 くの 動詞 にも 使わ れる 一般的 な構 文で ある 。
(15) Hanako cho Taro nghe nhạc.
花子 ~あげ る 太郎 聴く 音楽
(花子 は太 郎に 音楽 を聞 かせ る。)
松本 (2000)が 指 摘す るよ う に、 日 本 語の 「 聞か せる 」「 履 かせ る 」は 形 式 的に は 動詞 の統 語的 使 役形 であ る が、 解 釈と して は 二 重他 動 詞的 な解 釈 と使 役 的な 解釈 の 両 方を 持 って いる 。 すなわ ち 、被 使役 者の 意図 的動作 を含 まない 解釈 と含 む解 釈で ある 。こ のこ とは 、ベ トナ ム 語
の「cho~ 他動 詞」 構文 にも当 ては まる 。
(16) a.トマ ト/ 赤ち ゃん に音 楽を 聞か せた 。
b.Cho cà chua/thai nhi nghe nhạc.
~あげ る トマト /赤 ちゃ ん 聴く 音楽
(トマ ト/ 赤ち ゃん に音 楽を 聞か せた。)
(16)では、トマ トや 赤ち ゃん が意 図的 に聞く 動作 を行 うと いう 解釈 はで きな いとい う点 で、
二重他 動詞 的解 釈に なる 。し たが って 、以下 のよ うな 表現 は不 自然 であ る。