第 2 章 他動詞文の使役性
2.3 働きかけと状 態変化の結 果を 表す他動詞
2.3.2.1 動作を表わす 他動詞と結 果を表わす自動 詞の結合 現象
日本語 では 、他 動詞 は働 きか けと 同時 に状態 変化 の結 果も 表わ すが 、ベ トナ ム語に おけ る 他動詞 は、 単純 に動 作を 表す 動詞 もあ れば、 動作 と同 時に 結果 を表 す動 詞も 存在す る。 前者 は単純 な一 つの 単語 であ るの に対 して 、後者 は二 つの 単語 から な っ てお り、 前の単 語が 働き かけを 示し 、後 ろの 単語 は状 態変 化の 結果を 示す 複合 動詞 とし て捉 えら れる 。下の 左側 のよ うな動 詞は 動作 の み 表す のに 対し て、 右側の 動詞 は動 作を 表す 他動 詞と 状態 変化の 結果 を表 す自動 詞で ある 。日 本語 の働 きか けと 状態変 化を 同時 に表 して いる 一つ の他 動詞は ベト ナム 語の二 つの 動作 を表 す他 動詞 と状 態変 化の結 果を 表す 自動 詞か ら出 来た 他動 詞と対 応す る。
例えば 、日本 語の「壊 す」に対 する ベ トナム 語は phá 「壊 す」と hỏng「 壊れ る」が結 合し た
phá hỏngで ある 。日 本語 の「燃 やす 」に 対する ベト ナム 語は đốt 「 燃や す」と cháy「 燃える 」
が結合 した đốt cháy等 であ る。
動作 結果 動作+ 結 果
phá (壊す ) hỏng (壊れ る ) phá hỏng (壊す +壊 れる ) đốt (燃や す) cháy (燃え る ) đốt cháy (燃や す+ 燃え る )
giết (殺す ) chết (死ぬ ) giết chết (殺す +死 ぬ )
bẻ (折る ) gãy (折れ る ) bẻ gãy (折る +折 れる ) đập (潰す ) nát (潰れ る ) đập nát (潰す +潰 れる )
thổi (消す ) tắt (消え る ) thổi tắt (消す +消 える )
xô (倒す ) ngã (倒れ る ) xô ngã (倒す +倒 れる ) cắt (切る ) đứt (切れ る ) cắt đứt (切る +切 れる ) xé (破る ) rách (破れ る ) xé rách (破る +破 れる )
chữa (治す ) khỏi (治る ) chữa khỏi (治す +治 る )
phơi (干す ) khô (乾く ) phơi khô (干す +乾 く )
sấy (乾か す) khô (乾く ) sấy khô (乾か す+ 乾く )
tìm (見つ ける ) thấy (見つ かる ) tìm thấy (見つ ける +見 つか る )
nghiền (砕く ) nát (砕け る ) nghiền nát (砕く +砕 ける )
đánh (戦う ) thắng (勝つ ) đánh thắng (戦う +勝 つ )
đun (沸か す) sôi (湧く ) đun sôi (沸か す+湧く ) uốn (曲げ る) cong (曲が る ) uốn cong (曲げ る+ 曲が る )
日本語 とベ トナ ム語 の違 いは 簡単 に以 下のよ うな 図表 でま とめ るこ とが でき る。
倒す xô ngã(倒 す―倒れ る)
働きか け 状態変 化の 結果 働きか け 状態変 化の 結果
倒す xô(倒 す) ngã( 倒れ る)
日本語 の場 合で は一 語で ある ため 分離 するこ とは 不可 能な のに 対し て、 ベト ナム語 では 役 割が異 なる 二つ の単 語か ら成 る。
そのた め、 結果 への 否定 はで きな いこ とにな る。 すな わち 、以 下の よう な例 文はす べて 非文 である 。
(1) *Taro đã giết chết Hanako nhưng Hanako không chết.
太郎 [既然] 殺す 花子 しかし 花子 ~ない 死ぬ
(*太 郎は 花子 を殺 したが 、花 子は 死な なかっ た。)
(2) *Taro đã đốt cháy nhà nhưng nó không cháy.
太郎 [既然] 燃やす 家 しかし 家 ~ない 燃える
(*太 郎は 家を 燃や したが 、家 が燃 えな かった 。)
(3) *Hanako đã xé rách cái váy nhưng nó không rách.
花子 [既然] 破る スカー ト しかし スカー ト ~ない 破れる
(*花 子は スカ ート を破っ たが 、ス カー トは破 れな かっ た。)
(4) *Hanako đã thổi tắt cây nến nhưng nó không tắt.
花子 [既然] 消す 蝋燭 しかし 蝋燭 ~ない 消える
(*花 子は 蝋燭 を消 したが 、蝋 燭は 消え なかっ た。)
(5) *Hanako đã chữa khỏi bệnh cảm cho con nhưng
花子 [既然] 治す 風邪 ~あげ る 子供 しかし
nó vẫn chưa khỏi.
子供 まだ ~ない 治る
(*花 子は 子供 の風 邪を治 した が、 子供 はまだ 治ら なか った 。)
上記の 例文 はベ トナ ムで も、 日本 語で もいず れも 不自 然で ある 。Nguyễn Thị Quy(1995) による と、 上に 述べ たこ れら の動 詞を 用いる 文で は、 動作 主が 行っ た行 為は 消極的 にし ろ積 極的に しろ 、必 ずあ る結 果を 引き 起こ す。前 の動 詞は 働き かけ を表 すの に対 して、 後ろ の動 詞はそ の状 態変 化の 結果 を表 す。 従っ て、上 の例 文は 後の 節で 、状 態変 化が 起こら ない と非 文にな ると 述べ てい る。
ベトナ ム語 で は 、働 きか け動 詞と 状態 変化の 結果 を表 す動 詞は 元々 関係 のな い二つ の動 詞 である 。両 者は 常に 一緒 に用 いら れな ければ なら ない こと はな い。 働き かけ を表す 動詞 は単 独で動 作を 表す 他動 詞と して 使わ れて いる。 その 働き かけ の結 果を 表し たい 場合、 結果 を表 す動詞 と結 合す る。 一方 、後 ろの 状態 変化の 結果 を表 す動 詞も 単独 で自 動詞 として 使わ れて
いる。 その 結果 を生 じさ せる 原因 を表 したい 場合 、働 きか けを 表す 他動 詞と 結合す る。 二つ の動詞 の関 係は 制限 され てい ない 。状 態変化 の結 果を 表す 後の 動詞 は、 意味 が許容 でき る限 り様々 な他 動詞 と結 合で きる 。例 えば chết「 死ぬ 」は đâm chết「刺 す+ 死ぬ」、 dẫm chết「踏 む+死 ぬ」、 bắn chết「 撃つ+ 死ぬ 」、 đụng chết「ぶ つか る+ 死ぬ 」、dìm chết「 沈 める+ 死ぬ 」、
cán chết「 軋く+ 死ぬ 」、 đá chết「 蹴る +死ぬ 」、 đánh chết「打 つ+死 ぬ」、chém chết「 斬る
+死ぬ 」、cắn chết「 噛む +死 ぬ」 等、 死に至 らし める 様々 な方 法を 表す 他動 詞と結 合す るこ とがで きる 。ま た、đứt「 切れ る」も 様 々な他 動詞 と結 合す るこ とが でき る。例えば 、cắt đứt
「切る +切 れる 」、 cắn đứt「 噛む +切 れる」、 giật đứt「引 っ張 る+ 切れ る」のよう に様 々な 方法で 「切 れる 」状 態を 表す こと がで きる。 結果 は同 じ状 態を 表す が、 働き かけ動 詞が 異な ると、働き かけ の手段 も違 って くる 。以下の 例文 は結 果と して NP2が 死ん で いる状 態を 表す が、そ の働 きか け方 が異 なる こと によ って、 文の 意味 も異 なっ てい る。
(6) Cảnh sát đã bắn chết tên sát nhân.
警察 [既然] 撃つ 死ぬ 殺人犯
(警察 は殺 人犯 を撃 って 、死 なせ た。 =警察 は犯 人を 撃ち 殺し た。)
(7) Taro đã đánh chết con chó.
太郎 [既然] 殴る 死ぬ 犬
(太郎 は犬 を殴 って 、死 なせ た。 =太 郎は犬 を殴 り殺 した 。)
(8) Taro vô ý dẫm chết con kiến.
太郎 無意識 踏む 死ぬ 蟻
(太郎 は無 意識 に蟻 を踏 んで 死な せた。)
(9) Tên cướp đã dìm chết đứa trẻ.
強盗 [既然] 沈める 死ぬ 子供
(強盗 は子 供を 水に 沈め て死 なせ た。)
(10) Quân Mỹ đã chém chết nhiều người dân vô tội.
アメリ カ軍 [既然] 斬る 死ぬ 多く 人民 無罪
(アメ リカ 軍は 罪の ない 多く の人 民の 首を斬 って 、死 なせ た。=ア メリ カ軍 は罪の な い多く の人 民 の 首を 斬っ て殺 した。)
(11) Trong một phút nóng giận, anh ấy đã đâm chết người.
中 一瞬 怒る 彼 [既然] 刺す 死ぬ 人
(怒っ た瞬 間、 彼は 人を 刺し て死 なせ た。= 怒っ た瞬 間、 彼は 人を 刺し 殺し た。)
例(6)~ (11)の bắn chết「撃つ +死 ぬ」、đánh chết「 打つ +死 ぬ」、dẫm chết「 踏む+ 死 ぬ」、dìm chết「 沈め る+ 死ぬ 」、chém chết「斬 る+ 死ぬ 」、 đâm chết「 刺す +死 ぬ」はす べて 、 NP1が ある 働き かけ をして NP2を死 な せたと いう 意味 を表 すが、その 働き か けの動 作、方法 は異な る。bắn chết「撃 つ+ 死ぬ 」は 銃 で相手 を撃 って 死な せる 。đánh chết「 打つ+ 死ぬ 」と いう 動 詞は 、動 作 主が 自 分の 手で 相 手 を打 っ て死 なせ る 。dẫm chết「踏 む + 死ぬ 」 は死 ぬま で 足 で踏 む 。dìm chết「 沈 め る +死 ぬ 」 は 水の 中 に 入 れ て 、呼 吸 が で き な い よ う にし て 死 な せる 。chém chết「斬 る +死 ぬ 」 は刃 物 など を 使 って 、 相手 の 首 を斬 っ て死 な せる 。 そ して、
đâm chết「 刺す +死 ぬ 」は 包 丁な ど 、 尖っ て いる もの を 使っ て 、相 手を 刺 し て、 死 なせ る等 の意味 を表 す。 上の 例文 から みる と、「 撃つ」、「打 つ」、「踏 む」、「沈 める」、「 斬る」、「刺 す」
は死ぬ まで の結 果を 引き 起こ すか どう かは言 及し てい ない 。日 本語 でも それ ぞれの 働き かけ 動詞は ベト ナム 語と 同様 で、 結果 を含 意しな い。 これ らの 動詞 は働 きか けし か表さ ない 。従 って、「死 ぬ 」と いう 状態を 表し たい 場 合には 、ベト ナ ム 語では 働き かけ 動詞 に状態 変化 の結 果を表 す動 詞を 結び つけ るこ とに よっ て働き かけ と状 態変 化の 結果 を表 すこ とが可 能で ある のに対 して 、日 本語 では ベト ナム 語と 同じよ うに 表現 する こと は不 可能 であ る。そ のよ うな 場合に は、連 続し た二 つの 動詞 を用 い る。(6)~(11)まで では、「 撃っ て、死なせ る」、「 犬 を打っ て、死な せる」、「踏 んで 死な せ る」、「 斬っ て、死 なせ る」、「刺 して 死 なせる 」等、「~
V、~V」の 形がよ く取 られ る 。この よ うな構 文で は前 者が 後者 の原 因で 、後 者は前 者の 結果
である とい うこ とに なる 。NP1の 働き かけを 表し 、そ れか ら「 自動 詞+ させ る」で その 結果 を表す とい う方 法を とる 。
日本語 にも 、「 刺し 殺す」、「 撃ち 殺す」、「押 し殺 す」、「噛 み殺す 」、「斬 り殺す 」、「蹴 殺す 」、
「絞め 殺す 」、「 叩き 殺す」、「 突き 殺す」、「殴 り殺 す」、「押 し倒す 」、「 蹴倒 す」、「殴り 倒す 」、
「引き ずり 倒す 」な どの 複合 動詞 が存 在し、 これ らの 動詞 も「 刺す 」+ 「殺 す」、「 撃つ 」+
「殺す 」、「 押す 」+ 「殺 す」、「押 す」 +「倒 す」、「蹴 る」 +「 倒す 」等 、二 つの単 語か らな るもの であ る。 一見 これ らの 動詞 はベ トナム 語の 働き かけ と状 態変 化の 結果 を表す 動詞 に似 ている よう に思 われ るが 、ベ トナ ム語 では前 の語 は働 きか けを 表す 他動 詞で 、後の 語は 状態 変化の 結果 を表 す自 動詞 であ るの に対 して、 日本 語に おけ る複 合動 詞は 前の 語と後 の語 はい
ずれも 他動 詞で ある 点が 異な る。ど ちら の動詞 もNP1がNP2に対 して 働き かけ る意味 を持 ち、
前の働 きか けを 表す 動詞 は後 ろの 働き かけ動 詞の 方法 にな って いる 。ベ トナ ム語と 異な り、
前者が 原因 を表 し後 者が 結果 を表 すと いう形 には なっ てい ない 。一 方、 働き かけ他 動詞 は、
意味が 許容 でき る限 り、様々な 状態 変化 の結果 を表 わす 自動 詞と 結合 する こと も可能 であ る。
例えば 、xé đứt「千 切る +切 れる」、 xé rách「千 切る +破 れる」、xé nát「 千 切る+ 砕け る」、
xé vụn「千 切る +粉 々に なる 」 bẻ cong「折る +曲 がる 」、 bẻ gãy「 折る +折 れる」、dẫm nát
「踏む +砕 ける 」、dẫm chết「 踏む +死 ぬ」、phá hỏng「ぶち 壊す 」、 phá nát「 粉砕す る」、 phá hủy「打 ち壊 す」等 であ る。このよ うな 動詞は 働き かけ につ いて は同 様で ある が、状 態の 変化 の結果 が異 なる ため 文全 体の 意味 も違 ってく る。 日本 語は 、ベ トナ ム語 のよ うに働 きか けと 状態変 化の 結果 を表 すも のと が結 合す ること はで きな い。 例(12) ~(15) も前者 が後 者の 原因 で、 後者 は前 者の 結果 であ ると い うこ とに なる 。し かし 、(6)~ (11) では 働き かけ の 方法が 中心 にな るの に対 して 、例 (12)~(15) では 結果 状態 の区 別が 中心 になる 。
(12) Taro đã xé rách cái túi.
太郎 [既然] 千切る 破れる 袋
(太郎 は袋 を破 れる まで 、ズ タズ タに 千切っ た。)
(13) Hanako đã xé đứt cái khăn tay.
花子 [既然] 千切る 切れる ハンカ チ
(花子 はハ ンカ チを いく つに も千 切っ た。)
(14) Những lời nói của cô ấy đã xé nát trái tim tôi.
言葉 の 彼女 [既然] 千切る 砕ける 心 私
(彼女 の言 葉で 私の 心が 引き 裂か れた。)
(15) Hanako đã xé vụn bức thư
花子 [既然] 千切る 粉々 手紙
(花子 は手 紙を 粉々 に千 切っ た。)
また 、ベ トナ ム語 では 働き かけ 動詞 は状態 変化 の結 果を 表す 動詞 と結 びつ いて、 働き かけ と状態 変化 の結 果を 表す のに 対し て、 日本語 では 動詞 一つ だけ を用 いる こと によっ ても 表現 可能で ある 。