第 2 章 他動詞文の使役性
2.6 無生物主語の 問題
2.6.1.4 何らかの行為 が含意され ている場合
(10) Con đường này sẽ đưa bạn đến La Mã.
道 この きっと 連れる 貴方 来る ローマ
(直訳 :こ の道 が貴 方を ロー マに 連れ て行く 。)
(この 道を 行け ば、 ロー マに 行 け る。)
(11) Sự tuyệt vọng đã dồn anh ấy vào con đường tự sát.
絶望 [既然] 追いや る 彼 に 道 自殺す る
(直訳 :絶 望が 彼を 自殺 へ追 いや った。)
(希望 を失 って 彼は 命を 断っ た。)
主語 が単 なる 名詞 、あ るい は名 詞句 の 2.6.1.1 と 2.6.1.2そ して 、無 生物 疑 問詞の 2.6.1.3と 異なり 、2.6.1.4の(10)、(11)では 主語 は動作 の一 部を 使っ て動 作の 全体 を表 す。す なわ ち、
動作そ れ自 体は 含意 され てい るに 過ぎ ない。し かし、聞き 手は その 動作 を連 想 でき、そ して 、 文全体 の意 味を 解釈 でき る。 一方 日本 語では 、無 生物 名詞 のみ 文の 主語 にな ること は不 可能
であ る。(10)、(11) のよ うに、「こ の 道を 行け ば」「 希望 を失 っ て」、 など 、 動詞 を入 れな い と許容 でき ない 。
(11)の よう な場 合 、sự tuyệt vọng「 絶望 」は 単な る名 詞で あ るた め動 詞を 連想 する の は 難しい が、mất hết hy vọng「 希望 を失 う」と いう 意味 で捉 えら れる ので 、動 詞を補 うパ ター ンにし ても 差異 がな い。
上に述 べた よう に、 ベト ナム 語で は無 生物で も他 動詞 文の 主語 にな る。 無生 物主語 に来 る 他動詞 は、 有生 物主 語の 他動 詞と は意 味上で は異 なる 。そ れは 、NP2の 結果 を含意 する か否 かの点 であ る。 ここ で少 し触 れて みた い。
2.6.2 無生物主語文 で使われる 動 詞の性質
2.2 節で 述べ たよ うに、日本語 では NP1の働き かけで NP2があ る状 態の 変化 を生じ るの に 対して、ベト ナム 語に おけ る他 動詞 は 動作の み表 わす。つま り、NP1の 働き か けを表 わす が、
NP2の 状態 変化 の結 果に 言及 しな い。
(12) Tên cướp đã giết cô gái.
強盗 [既然] 殺す 女の人
(強盗 は女 の人 を殺 した。)
例(12)で はベ トナ ム語 の giết「 殺す 」は「 死ぬ 」と いう 結果 に言 及し ない 。文末 で何 も
述べな い場 合「 死ぬ 」ま で解 釈し ても よいが 、(13)のよ うに まだ「死 なな い 」と いう 補文を 入れた ら、その「 死ぬ 」と いう 結果 が 含意し ない 。一 方日 本語 では 、「殺す 」は一般 的に「死 ぬ」とい う状 態ま で含意 する ので 、例(13)bの よう に訳 すと 非文 になる 。例(13)c のよ う に「~ よう とす る」 とい う表 現で 訳せ ば自然 にな る。
(13) a.Tên cướp đã giết cô gái, nhưng may thay, cô ấy không chết.
強盗 [既然] 殺す 女の人 幸い 彼女 ~ない 死ぬ
b.*強 盗は彼 女を 殺し たが 、幸 い、 彼女 は死な なか った 。
c. 強 盗は 彼女を 殺そ うと した が、 幸い 、彼女 は死 なな かっ た。
また、 結果 まで 表し たい 場合 、動 作を 表わす 他動 詞と 状態 変化 の結 果を 表わ す自動 詞か ら 形成し た複 合動 詞を 用い る。 例(14) のよう に giết chết「 殺す +死 ぬ」 とい う複合 動詞 は、
日本語 の「 殺す 」と 対応 する 。
(14) Tên cướp đã giết chết cô gái.
強盗 [既然] 殺す 死ぬ 女の人
(強盗 は女 の人 を殺 した。)
例(14)で は、(13)のよ うに 、「 幸い 、彼女 は死 なな かっ た」 とい う補 文を 入れる こと が
不可能 であ る。
一方、 無生 物主 語の 他動 詞文 は、 有生 物主語 の他 動詞 文と 違っ て、 動作 のみ を表わ すこ と が不可 能で ある 。無 生物 主語 は直 接自 分の手 で動 作を 行わ ない 。無 生物 主語 はある 力を もっ て、そ の影 響で 、NP2が 状態 変化 を生 じると いう 意味 を表 す。 従っ て(15)、(16) のよ うに 動作の み表 わす 他動 詞は 、無 生物 主語 の他動 詞文 には 来な い。
(15) ??Chất độc màu da cam đã giết em tôi. (cf 例(5))
枯れ葉 剤 [既然] 殺す 妹 私
(16) ??Ung thư giết hằng ngàn người mỗi năm (cf 例 (6))
癌 殺す 何千 人 毎年
ベトナ ム語 では 、有 生物 でも 無生 物で も他動 詞文 の主 語に なる こと が出 来る が、有 生物 主 語の場 合は 動作 のみ 表わ す動 詞と 結合 できる のに 対し て 、無 生物 主語は NP2 の状態 変化 の結 果を表 わす 動詞 と結 合し なけ れば なら ない。