Title
日本語とベトナム語における使役表現の対照研究 :
他動詞、テモラウ、ヨウニイウとの連続性
Author(s)
Nguyen Thi, Ai Tien
Citation
Issue Date
Text Version ETD
URL
https://doi.org/10.18910/50580
DOI
10.18910/50580
大阪大学
博 士 論 文
題目
日本語とベトナム語における使役表現の対照研究
―他動詞、テモラウ、ヨウニイウとの連続性―
提出年月
2014 年 6 月 10 日
言語文化研究科言語社会専攻
氏名
NGUYEN THI AI TIEN
目次 序章 1 1. はじめに 1 2. 研究目的 5 3. 研究方法 6 4. 研究の枠組み 7 5. 分析資料 7 6. 論文の構成 7 第1 章 先行研究と本研究の位置づけ 10 1.1 日本語の使役に関する研究 10 1.1.1 阪田( 1980 )の主張 10 1.1.2 高見( 2009 )の主張 12 1.1.3 寺村( 1982 )の主張 13 1.1.4 柴谷( 1978 )の主張 15 1.1.5 仁田( 2009 )の主張 16 1.1.6 先行研究の概観 17 1.2 ベトナム語の使役に関する研究 17 1.2.1 Nguyễn Kim Thản の主張 17 1.2.2 Nguyễn Thị Quy の主張 20
1.2.3 Diệp Quang Ban の主張 25
1.2.4 先行研究の問題点 29 1.3 使役とは 33 1.4 ベトナム語における bắt 、 cho 、để、 làm 、 khiến 使役文について 39 1.4.1 bắt 使役構文 40 1.4.2 cho 使役構文 41 1.4.3 để使役構文 46 1.4.4 khiến 使役構文 49 1.4.5 làm 使役構文 52 第2 章 他動詞文の使役性 57 2.1 自動詞、他動詞、使役形における日本語とベトナム語の違い 57
ii 2.1.1 日本語とベトナム語における自動詞と他動詞の違い 57 2.1.2 自動詞、他動詞、使役形における日本語とベトナム語の違い 62 2.2 働きかけを表す他動詞 67 2.3 働きかけと状態変化の結果を表す他動詞 70 2.3.1 日本語の場合 70 2.3.2 ベトナム語の場合 72 2.4 NP1 の働きかけと NP2 の位置の変化を表す他動詞 81 2.5 「 NP1 が NP2 を X にする」構文について 86 2.5.1 X が身分、職業、地位、資格などを表す名詞の場合 86 2.5.2 X が人間の属性、評価などの場合 88 2.5.3 X が形容詞・形容動詞の場合 90 2.6 無生物主語の問題 92 2.6.1 無生物主語の種類 92 2.6.2 無生物主語文で使われる動詞の性質 96 2.7 日本語とベトナム語における他動詞についてのまとめ 98 3.1 日本語の「させる」使役構文における被使役者の格について 99 3.1.1 「を」しか取れない使役構文 105 3.1.2 「に」しか取れない使役構文 106 3.1.3 「に」と「を」とどちらも取れる使役構文 107 3.2 ベトナム語における bắt 、 cho 、để、 làm 、 khiến の違いについて 108 3.3 「させる」と bắt 、 cho 、để( cho )、 khiến ( cho )、 làm ( cho )の共通性 111
3.3.1 補文を持つ 111 3.3.2 様々な動詞と結合する 117 3.3.3 誘発の意味を持つ 118 3.3.4 強制の意味を持つ 118 3.3.5 許可の意味を持つ 119 3.3.6 放任の意味を持つ 121 3.3.7 責任の意味を持つ 122
3.4.1 構文上の違い 124 3.4.2 NP2 の状態変化の結果を含意するかどうか 124 3.5 誘発使役 133 3.5.1 強制的使役 134 3.5.2 日本語の二重他動詞に対応する表現 136 3.5.3 人の心理的・生理的変化を表す使役表現 142 3.5.4 いわゆる所動詞の場合 147 3.6 許容使役 152 3.6.1 許可を与える使役文 153 3.6.2 許可を求める使役文 155 3.7 放任・放置使役文 157 3.8 使役者が有生物で、被使役者が無生物の場合 160 3.8.1 被使役者( NP2 )が使役者( NP1 )の体の一部である場合 160 3.8.2 NP2 が身体部位ではない無生物の場合 165 3.9 両言語における対応する他動詞のない自動詞の使役形 169 3.9.1 日本語では対応する他動詞がない自動詞であるが、ベトナム語では他動詞が存在 する場合 169 3.9.2 ベトナム語の場合では対応する他動詞がない自動詞であるが、日本語では他動詞 が存在する場合 170 3.10 使役者が無生物で、被使役者が有生物の場合 172 3.10.1 自然現象が主語になる場合 174 3.10.2 一般の物事が無生物主語になる場合 175 3.10.3 無生物疑問詞が主語になる場合 177 3.10.4 動詞を補う型が主語になる場合 178 第4 章 ベトナム語における使役動詞とそれに対応する日本語の表現 180 4.1 使役性が非常に高い(絶対的)グループ 184 4.1.1 bắt buộc 「無理やりさせる」使役文 184 4.1.2 ra lệnh 「命令を下す」使役文 185 4.2 使役性がやや高いグループ 186 4.2.1 yêu cầu 「要求」使役文 186
iv 4.2.2 sai 「遣いに出す」使役文 188 4.2.3 bảo / biểu 「言いつける」使役文 190 4.3 使役性が中間レベルのグループ 191 4.3.1 đề nghị「頼む」使役文 191 4.3.2 khuyên 「勧める」使役文 192 4.4 使役性が低いグループ 194 4.4.1 nhờ 「~てもらう」使役文 194 4.4.2 mời 「招く」使役文 196
4.4.3 xúi / xúi giục 「唆す」使役文 198
4.5 使役性が非常に低いグループ 198 4.6 無生物主語 199 4.7 NP2 の動作の実現を含意する使役動詞と含意しない使役動詞 202 4.7.1 bắt 、 sai 、 bảo のグループ 203 4.7.2 chỉ thị 、 ra lệnh 、chỉ đạoのグループ 205 4.7.3 yêu cầu 、đề nghị、 nhờ のグループ 206 4.7.4 khuyến khích 、khuyên、 mời のグループ 207 第5 章 日本語における「~ように」「~てもらう」構文に対応するベトナム語の表現 209 5.1 「~てもらう」「~ていただく」構文について 209 5.1.1 「~てもらう」構文の文法的特徴 210 5.1.2 「受動 」、 「使役」の解釈と影響度 212 5.1.3 「~てもらう」とベトナム語に対応する表現 215 5.1.4 mời 「招く」の構文 223 5.1.5 yêu cầu 「要求する」構文 224 5.1.6 đề nghị構文 226 5.2 「~ようにいう」構文について 228 5.2.1 命令の間接化の場合 228 5.2.2 使役動詞の陳述的用法の場合 234 5.2.3 NP2 の動作の実現を含意しない場合 236 第6 章 結び 241 参考文献 247
序章
1. はじめに
ベトナ ム語 を母 語と する 日本 語学 習者 が日本 語を 習う 際、 いく つか の文 法項 目にお いて 学 習に戸 惑っ たり 、学 習し てい ても その 用法の 理解 が十 分で ない ため に誤 用を おかし たり する ことが ある 。そ の文 法項 目の 中の 一つ が使役 文で ある 。ベ トナ ム語 の使 役文 と日本 語の 使役 文には 、相 違点 が多 くみ られ る。 本研 究は、 日本 語の 使役 構文 とそ れに 対応 するベ トナ ム語 の表現 との 関係 につ いて 考察 する もの であり 、そ れは 主に 以下の 2 つの 観点 での指 摘に 関し て有益 なも ので ある こと を目 指す 。ま ず、ベ トナ ム人 日本 語学 習者 が日 本語 の使役 構文 の学 習に際 して 、し ばし ば困 難を 感じ ると いう点 であ る。 次に 、ベ トナ ム語 の使 役文と 日本 語の 使役文 に関 して 、そ の相 互の 翻訳 でし ばしば 重大 な誤 訳が 見ら れる 点で ある 。例え ば ① 他動詞 構文 では 、 NP1 の働 きかけ と NP2 の動 作の 実現 のあ り方 が異 なる 。そ して、 他 動詞構 文の 主語 が有 生物 か無 生物 かに ついて も両 言語 では 異な る。 ② 「させ る」 使役 文では NP1 の 働きか け と NP2 の動 作の 実現 のあ り方 が異な る 。そし て 「させ る」 使役 文の 主語 が有 生物 か無 生物か につ いて も両 言語 では 異な る。 ③ 「させ る」使役 表現 が表 す意 味は 幅広 く、誘 発の 意味 、強 制の 意味 、許 可の 意味、放任 の意 味 など 様々 な 意味 を 表す 。一 方 、 ベト ナ ム語 では 、 それ ぞ れの 意味 で 、 bắt、cho、 làm( cho)、 khiến( cho) 等 の 異 な っ た 使 役 動 詞 を 用 い る 。④ 「~て もら う」と「~ よう にい う」表 現はベ トナ ム語 にお ける 様々 な使 役動 詞に対 応す る。
等であ る。
これら 2 つ の領 域に おけ る困 難さ の最 も大き な原 因は 、ベ トナ ム語 の使 役動 詞 bắt、cho、 để(cho)、 làm(cho)、 khiến(cho)を 日本語 の使 役接 辞「~ せる 、~ させる 」に機 械的 に置 き換え てし まう とい うこ とに ある 。こ れらは 一見 翻訳 上等 価で ある よう に思 われる が、 実際
にはし ばし ば場 面や 状況 のず れが 存在 してい る。 従って 、本 研究 は日 本語 とベ トナ ム語 のいわ ゆる 使役 構文 を比 較対 照し 、考 察する こと を 通して 、そ こか ら一 定の パタ ーン を抽 出する こと であ る。 これ は日 本語 学習 にも翻 訳に も有 益であ ると 考え られ る。 まず、 日本 語に おけ る使 役構 文を 考察 してみ よう 。 (1) 太郎は 花子 に宿 題を やら せた 。 (2) 太郎は 花子 を早 く帰 らせ た。 (3) 太郎は 花子 を泣 かせ た。 (4) 彼女に 説明 させ てく ださ い。 (5) 太郎は 面白 い話 をし て、 皆を 笑わ せた 。 (6) 自己紹 介さ せて いた だき ます 。 上記 の例 文は 一般 に 使 役構 文と 呼ば れ、以 下の 特徴 を持 つ。 まず 、動 詞に 「~せ る、 ~さ せる」 を付 加す ると いう 形態 にな って いる。 そし て、 文の 主語 は「 に」 か「 を」格 を取 る。 意味的 には 、使 役者 が被 使役 者に 対し てある 動作 ・作 用ま たは 状態 変化 をす るよう に仕 向け るとい うこ とで ある 。ま た、 使役 者は 被使役 者が 行っ てい る行 為を 放任 する 、許可 を与 える 意味も 表わ す。 上の例 文を ベト ナム 語に 訳す と以 下の ような 文に なる 。
(7) Taro bắt Hanako làm bài tập. 太郎 させる 花子 する 宿題 (太郎 は花 子に 宿題 をや らせ た。)
(8) Taro cho Hanako về sớm. 太郎 させる 花子 帰る 早く (太郎 は花 子を 早く 帰ら せた。)
(9) Taro làm cho Hanako khóc. 太郎 させる 花子 泣く (太郎 は花 子を 泣か せた。)
(10) Hãy để cho cô ấy giải thích. ~くだ さい させる 彼女 説明す る (彼女 に説 明さ せて くだ さい。)
(11) Taro nói chuyện vui khiến mọi người cười. 太郎 話す 面白い させる 皆 笑う (太郎 は楽 しそ うに 話し て、 皆を 笑わ せた。)
(12) Cho phép tôi được tự giới thiệu. させる 私 得る 自己紹 介す る (自己 紹介 させ てい ただ きま す。)
ベトナ ム語 では bắt、cho、để(cho)、 làm(cho)、 khiến(cho) を用 い、 使役 者は文 の主 語 として 、被 使役 者は 使役 動詞 の目 的語 かつ、 その 後に 来る 補文 の主 語と して 表現さ れる 。意 味的に は日 本語 と同 様で 、使 役者 が被 使役者 にあ る動 作・ 作用 ある いは 状態 変化を する よう に仕向 ける 、ま た、 被使 役者 が行 って いる行 為を 放任 する 、許 可を 出す 意味 を表す 。ベ トナ ム語に おい てこ のよ うな 構文 は「 発話 行為構 文」「使 役構 文」「 因果 結果 構文 」など と呼 ばれ る。以 下は 日本 語と ベト ナム 語に おけ る二つ の構 文の 形式 と意 味の 特徴 であ る。 意味 NP1 が NP2 に NP2 が 何らか のこ とを する よ うに仕 向け る 放任、 許可 を出 す 許可を 求め る 形式 日本語 NP1 が NP2 に / を V さ せる NP1 が NP2 に / を V させる NP2 に / を V させ る ベトナ ム 語 NP1 bắt, cho, làm, khiến NP2 V NP1 để, cho NP2 V cho phép NP2 V 上記の 表を 見る と、 日本 語と ベト ナム 語にお ける 使役 構文 は意 味的 に対 応し ている よう に
し議論 すれ ばよ いよ うに 思わ れる 。し かし、 文法 構造 に異 なる 点が 多く 、例 えば以 下の よう な文は ベト ナム 語に は対 応し ない。( 13)で は、日本 語の 場合 、使 役を 表わす「~ させ る」を 使える のに 対し て、 ベト ナム 語で は使 役を表 わす 動詞 を用 いな い。 (13) キエン は足 を滑 らせ て倒 れ、 転ん で落 ちた。 例(13)は 日本 語の 「~ させ る」 使役 構文を その まま にベ トナ ム語 に訳 すと 不自然 な文 で ある。
(14) *Kiên làm cho chân trượt, ngã xuống. キエン させる 足 滑る 転んだ (キエ ンは 足を 滑ら せて 倒れ 、転 んで 落ちた 。) 例(13)の 日本 語の 表現 と意 味的 に対 応 すると 思わ れる ベト ナム 語は、次の よ うな文 であ る。 (15) Kiên trượt ngã (BN:1990) キエン 滑る 転ぶ (直訳 :キ エン は滑 って 転ん だ。) (キエ ンは 足を 滑ら せて 倒れ 、転 んで 落ちた 。) (バオ :1999) また、 ベト ナム 語で は使 役を 表わ す動 詞を使 って 、使 役表 現を 用い る。 日本 語でも 意味 的 にはベ トナ ム語 の使 役文 に対 応す るが、「~さ せる 」以 外の 構文 で対 応す る場 合もあ る。 (16) Tôi bắt con dọn phòng nhưng nó không dọn. 私 させる 子供 片付け る 部屋 しかし 彼 ~ない 片付け る (直訳 :私 は子 供に 部屋 を片 付け させ たが、 彼は しな かっ た。) (私は 子供 に部 屋を 片付 ける よう に言 ったが 、彼 はし なか った。)
(17) Bộ phim đó đã khiến/ làm cho nhiều người rơi nước mắt. 映画 その [過去 ] させる 多くの 人 流す 涙 (直訳 :そ の映 画は 多く の人 を泣 かせ た。) (その 映画 を見 て多 くの 人が 涙を 流し た。) (18) Tôi đã làm rơi ví. 私 [既然 ] 落とす 財布 (直訳 :私 は財 布を 落ち させ た。) (私は 財布 を落 とし た。) (16) ~( 18) では 、同 じ意 味を 表す ために は異 なっ た構 文を 使わ なけ れば ならな い。 ベ トナム 語の 表現 では 、そ れぞれ bắt、cho、làm( cho)、khiến(cho)の 使役を 表わす 動詞 が使 われて いる が、 日本 語で は「 ~よ うに いう」 や使 役表 現で はな い構 文や 他動 詞構文 が使 われ ている 。 こう して みる と、日本 語、そし てベ トナム 語に おけ る使 役文 とさ れる「 NP1 が NP2 に /を V さ せ る 」構 文 と 「 NP1 bắt、cho、để( cho)、làm( cho)、khiến(cho)NP2 V」構文と はそ れぞれ 重な る部 分と 重な らな い部 分が あると 言え よう 。つ まり 、両 言語 にお ける使 役構 文は 完全に 対応 して いる 訳で はな いと いう ことが 分か る。 以上 より 、解 き明 かし てい くべ き課 題は以 下の 二点 だと 言え る。 まず、 両言 語に おけ るい わゆ る使 役構 文とす る表 現の 形態 論上 、統 語論 上の 相違点 と類 似 点はど のよ うな もの であ ろう か。 それ から、 全体 とし て、 どの よう な体 系を なすも のと して 捉えら れて いる かと いう 点で ある 。 第二の 問題 は、 日本 語と ベト ナム 語、 それぞ れの 使役 表現 の意 味の 広が りが どのよ うな も のであ り、 そし て、 中心 点は どこ にあ るのか とい う問 題で ある 。両 言語 にお ける使 役表 現は 意味的 に対 応し 、共 通し つつ も、 どこ か深い 所で の微 妙な 違い が存 在す ると 予想さ れる 。ま た、日 本語 にお ける 「~ せる 、~ させ る」表 現は 、ベ トナ ム語 にお ける いく つかの 使役 動 詞 に対応 しは する もの の、 それ ぞれ には 意味の 微妙 な違 いが 潜ん でい るの では ないだ ろう か。
2. 研究目的
a. ベ ト ナ ム 人 の 日 本 語 学 習 者 が 使 役 文 の 用 法 の 誤 り を 犯 さ な い よ う 、 日 本 語 の 使 役 文 の 特 徴 を 明 ら か に す る 。 更 に 、 ベ ト ナ ム 語 の 使 役 文 の 特 徴 を 知 る こ と に よ っ て ベ ト ナ ム 人 日 本語学 習者 の使 役文 の誤 用の 原因 を把 握する 。 b. 日 本 語 に お け る 使 役 文 の ベ ト ナ ム 語 に 対 応 す る 適 切 な 表 現 を 探 す 。 日 本 語 の 使 役 文 を ベ トナム 語に 翻訳 する 際の 困難 を軽 減し 、より 良い 翻訳 の方 法を 探る 。 上に 述べ た目 的以 外に 、 ベ トナ ムで は日本 語に つい ての 情報 がま だ少 なく 、反対 に日 本で はベト ナム 語に つい ての 情報 がま だ不 足して いる ため 、本 稿の 成果 がベ トナ ムにお ける 日本 語教育 及び 日本 にお ける ベト ナム 語教 育の一 助と なる こと を望 んで いる 。ま た、ベ トナ ム語 日本語 相互 の対 照研 究及 びベ トナ ム語 の文学 作品 、日 本語 の文 学作 品の 相互 翻訳に 貢献 でき ること を期 待し てい る。
3. 研究方法
本研究 は以 下の 手順 にし たが って 進め る。 ① 先行研 究の 分析 方法 を確 認す る。 これま での 先行 研究 とそ のデ ータ を分 析し、 それ ぞれ の言 語に おけ る使 役文 の特徴 を確 認 し、相 違点 と類 似点 を抽 出す る。 ② 実例を 通し て、 両言 語に おけ る使 役文 を対照 比較 する 。 実際に 日本 語に 翻訳 され たベ トナ ム語 の小説 、及 び日 本語 の小 説を ベト ナム 語に翻 訳さ れ た小説 の例 文を 利用 して 分析 する 。 また、 筆者 自ら が例 文を 作成 し、 日本 語に訳 し、 容認 度を 確認 する 。 実 際の 翻訳作 業の 中 で応用 可能 な両 言語 にお ける 使役 文の 相違点 、類 似点 を抽 出し 、日 本語 の使 役文を ベト ナム 語に翻 訳す る際 の留 意点 を述 べ、 より 適切な 表現 を提 案す る。4. 研究の枠組み
本研究 では 、日 本語 にお ける 使役 表現 と、筆 者の 母語 であ るベ トナ ム語 にお ける使 役表 現 との対 照を 研究 対象 とす る。
本研究 は意 味事 象を 中心 に、 日本 語、 ベトナ ム語 の使 役を より 包括 的に 捉え るため に、 従 来の日 本語 にお ける「 ~さ せる 」使役構 文とベ トナ ム語 にお ける bắt、cho、để(cho)、làm( cho)、 khiến( cho) の 他 、 yêu cầu、 đề nghị、 sai、 buộc、 mời、 nhờ 等 の 使 役 の 意 味 を 表 す 動 詞 構 文 、 また一 部他 動詞 文及び làm+自 動詞 文、日本語 の「~ よう にい う」、「 ~て もら う」構文 も使 役 表現と して 取り 上げ るこ とに する 。 この観 点か らす れば 、本 研究 で取 り上 げる使 役表 現は 従来 の使 役表 現 よ り意 味範囲 が広 い という こと に留 意し なけ れば なら ない 。上記 の構 文は NP1 が NP2 に 働き かけ 、NP2 に 何ら かの動 作・ 作用 ある いは 状態 変化 をさ せると いう 意味 を表 す点 にお いて は一 致し、 共通 する 部分が ある ため 、本 研究 にお いて これ らの構 文を 扱う こと とす る。
5. 分析資料
本論で 用い られ る例 文は ベト ナム 語、 日本語 、英 語の もの があ り、 小説 から の実例 、先 行 研究か らの 例、 筆者 の内 省か らの 作例 の三種 類が ある 。論 述を でき るだ け簡 潔にす るの が本 論の方 針で ある ので 、直 接的 に関 係の ない要 素は 省略 した 上で 用い る場 合も あるこ とを 付記 してお く。6. 論文の構成
本論は 7 章 から 構成 され 、各 章は 以下 の通り とす る。 序章で は、 研究 の背 景、 目的 、研 究方 法等に つい て述 べる 。 第 1 章では 、日 本語 、ベ トナ ム語 にお ける使 役構 文に つい ての 先行 研究 に触 れた上 で、 使 役表現 を再 確認 する 。そ して 、ベ トナ ム語に おい て使 役構 文に 最も よく 使わ れてい る五 つの 使役動 詞の 用法 を紹 介す る。は、日 本語 とベ トナ ム語 にお ける 自動 詞・他 動詞 の違 い、 働き かけ を表 わす 他動詞 、働 きか けと状 態変 化の 結果 を表 わす 他動 詞、 働きか けと 位置 の変 化を 表わ す他 動詞、「 NP1 が NP2 を X」 構文 、そ して 、他 動詞 文の 無生 物主語 につ いて 述べ る。
第 3 章では 、日 本語 にお ける 「さ せる 」使役 表現 の特 徴と ベト ナム 語に おけ る bắt、cho、 để、 làm、 khiến の違 いに つい て触 れた 上で、 両言 語に おけ る使 役の 相違 点と 類似点 につ いて 考察す る。「さ せる 」と bắt、 cho、để( cho) 、 khiến(cho)、 làm ( cho) の 誘発、 強制 、許 可、放 任、 責任 の意 味を 持つ 共通 点を 論証す る。 また 、 「 させ る」と bắt、cho、để(cho)、 khiến( cho) 、 làm( cho) の 違 い で は 、 NP2 の 状 態 変 化 の 結 果 を 含 意 す る か 否 か や 、 使 役 者 が有生 物で 被使 役者 が無 生物 の場 合、特に 被 使役 者( NP2)が使 役者( NP1)の体の 一部 であ る場合 など につ いて 考察 する。また 、両 言語に おけ る 対 応す る他 動詞 のな い自 動詞の 使役 形、 対応す る他 動詞 がな い絶 対自 動詞 、そ して使 役者 が無 生物 で、 被使 役者 が有 性物の 場合 など の相違 点も 証明 する 。 第 4 章では 、ベ トナ ム語に おけ る使 役動 詞とそ れに 対応 する 日本 語の 表現 につ いて述 べる 。 ベトナ ム語 にお ける 使役 動詞 では 4 つ のグル ープ に分 ける 。使 役性 が非 常に 高い( 絶対 的) グルー プ:bắt buộc「強 引に 従わ せる」、ép buộc「 強引 に従 わせ る」、ra lệnh「 命令を 下す 」等 である 。使 役性 がや や高 いグ ルー プで は bắt「 ~さ せる」、sai「使 いに 出す」、bảo/biểu「言 いつけ る」、yêu cầu「 頼む」、使 役性 が 中間レ ベル のグ ルー プでは cho phép「 許可を 出す 」、cho 「~さ せる /~ 与え る」đề nghị「請 う」、khuyên「勧 める 」等であ る 。そ して 、使 役性 が低 い グルー プは nhờ「 ~て もら う」、 mời「 招く」、xúi giục「唆 す」 等で 、使 役性 が非常 に低 いグ ループ は xin「要 請す る」、 xin phép「 許可を 求め る」、 van「切 願す る」 等で ある。 それ ぞれ の動詞 は陳 述的 用法 とし ても 遂行 的用 法とし ても 使わ れる 。そ れぞ れの 動詞 は使わ れる 用法 によっ て 、日 本語 の「 ~て くだ さい」、「 ~ても らう 」、「~ よう に」等に 対応 す ること を示 す。 第 5 章では 、日本 語に おけ る「 ~よう にいう 」「~ ても らう」構文 に対 応す る ベトナ ム語 の 表現に つい て考 察す る。 まず、「~ ても らう」 の文 法的 特徴 、そ して、「~ ても らう」 と「 さ せる」 の相 違点 につ いて 述べ る。 ベト ナム語 にお いて 「~ ても らう 」に 対応 するの は、 一般 的に được「(利益 を)得る 」であ るが 、 他にも nhờ「頼 む」、 yêu cầu「要 求す る 」、đề nghị「 請 う」、để/ để cho「 ~さ せて おく 」、 mời「誘う 」等 も「 ~て もら う」 に対 応す るとい うこ とを 証明す る。 また 、「 ~よう にい う」 構文 につい ては 命令 の間 接化 の場 合や NP2 の動作 の実 現
を含意 しな い場 合に 用い るこ とを 考察 する。 日本 語の 「さ せる 」使 役構 文で は、 NP2 の 動作 の実現 を含 意す るも ので ある 。 NP1 の 働きか けは 終わ った が、 NP2 の動 作は まだ実 現し てい ないと いう 場合 には 用い られ ない 。こ のよう な場 合は 「~ よう にい う」 を用 いるこ とを 述べ る。
第 1 章 先行研究と本研究の位置づけ
序章で 日本 語と ベト ナム 語の 使役 の意 味と形 式、 そし て、 それ ぞれ の言 語に おける いわ ゆ る使役 が相 互に 対応 する 場合 と対 応し ない場 合に 簡単 に触 れた 。本 章で は、 日本語 、ベ トナ ム語に おけ る使 役に つい ての 概念 を紹 介する 。そ して 、そ れぞ れの 言語 での 使役は どの よう に扱わ れて いる のか につ いて 概観 し、 本研究 の位 置づ けを 行う 。さ らに 、ベ トナム 語に おけ る五つ の真 正使 役動 詞を 紹介 する 。1.1 日 本 語 の 使 役 に 関 す る 研 究
1.1.1 阪 田 ( 1980) の 主 張
阪田(1980)「せ る・さ せる 」によ って 表 される 形式 は 、一 般的 に使 役表 現と 呼 ばれて いる 。 使役と は、 本来 、相 手に ある 行為 を命 令また は要 求し 、そ うす るよ うに し向 ける意 を表 わす もので ある が、「 せる・させ る」の 用法 はそれ だけ には とど まら ない。主格 に 立つ人 が直 接関 わった 結果 だと 捉え られ る事 象か ら、 直接に は関 わっ てい ない のに 相手 に何 らかの 結果 をも たらし たと 捉え られ る事 象ま で広 く及 んでい ると 述べ てい る。 動作 性の 意味 を有す る動 詞の 中で、 人が 主格 に立 つ動 詞の 多く は使 役の形 式に なり うる 。一 方、 状態 性の 意味を 表す 「要 る・見 える ・聞 こえ る・ でき る」 や「 可能動 詞」 など は使 役の 形式 にな らな い。 阪田は 使役 を幾 つか の段 階に 分け た。 a. 相 手 に 命 令 ま た は 要 求 を し 、相 手 が そ の 命 令 や 要 求 に 応 じ た 行 動 を す る と い う 関 係 に あ る 事象を 命令 ・要 求を した 側の 視点 から 表現す る。 (1) 私はい つも 妹に 部屋 の掃 除を させ てい る。 (2) 父親は 子供 を遣 いに 行か せた 。 b.相 手 に 予 測・期 待 通 り の 反 応 が 現 れ る こ と を 意 図 し て 、あ る 行 為 を 行 い 、意 図 通 り の 結 果 になる とい う意 味を 表し てい る。(3) 気まず くな った ので 、面 白い こと を言 ってみ んな を笑 わせ た。 c. 元 来当 人 の 意志 だ け では 行 い 得な い こ と につ い て 、あ る 人 が許 可 を 与え た 結 果 、当 人の 意志通 りに それ が実 現さ れる 意味 を表 わす。「~ てや る」 などが 添え られ るこ とが多 くな る。 (4) 本人の 希望 を入 れて 、ア メリ カに 留学 させた 。 d. 本 来 黙 っ て 見 過 ご す 訳 に は い か な い 相 手 の 行 動 を あ え て 黙 認 し た り 、 放 任 し た り す る 意 味を表 す。「~ てお く」が 添え られ るこ とが多 い。 (5) あの男 、言 わせ てお けば 、き りが ない 。 e. 自 分自 身 し たこ と が 原因 と な って 、 そ う なる こ と を意 図 し ては い な かっ た の に 、あ る事 態(好 まし くない )を 引き 起こ す結果 になる とい う意 味を 表し てい る。「 ~て しまう 」で 文が 結ばれ るこ とが 多い 。 (6) 朝寝坊 をし て、 友達を 1 時間 も待 たせ てしま った 。 阪田は 、日 本語 にお ける 使役 文は 一般 的に有 情物 (意 思・ 感情 を有 する もの )が主 語に 立 つのが 伝統 であ り、 非情 物が 主語 にな るのは 、明 治以 後、 欧文 の影 響に よっ て一般 化し たと 指摘し た。 (7) 博士の 講演 は多 くの 聴衆 を感 動さ せた 。 (8) その事 故は 多く の人 に原 子力 に対 する 不安を 抱か せた 。 これら のよ うな 例文 は日 常の 話し 言葉 で耳に する こと はま れで ある 。 日本語 では 、こ のよ うな 文 は 因果 関係 を表わ す使 役構 文で ある 。日 本語 では このよ うな 表 現より 、原 因を 表わ す格 が「 で」 格を 取るも のが よく 使わ れる 。つ まり 、原 因を表 わす 使役 表現で は、 主語 が無 生物 の場 合、 因果 構文に 置き 換え るこ とが でき る。 この 点に関 して は第
1.1.2 高 見 ( 2009) の 主 張
一方、 高見 ( 2009) は使 役の 意味 を以 下のよ うに 分け てい る。 a. 「 強 制 」 使 役 : (9) 親は嫌 がる 子供 に苦 い薬 を飲 ませ た。 b. 「 説 得 」 使 役 : (10) 妻は、 お酒 は身 体に 悪い から と、 夫に 酒を止 めさ せた 。 c. 「 人 間 関 係 に 基 づ く 指 示 」 使 役 : (11) 母は、 子供 に夕 飯前 には 遊び から 帰ら せた。 d. 「 許 容 ・ 放 任 」 使 役 : (12) 母親は レス トラ ンで 子供 に希 望ど おり 、大好 きな ハン バー グを 食べ させ た。 e. 「 原 因 」 使 役 : (13) 子供が 誕生 日に 作っ てく れた 「腰 もみ 無料券 」が 、私 をと ても 喜ば せた 。 f. 「 責 任 」 使 役 : (14) 社長は 不景 気で 、会 社を 倒産 させ てし まった 。 高見は 細か く使 役の 意味 を分 類し た。 強制使 役、 説得 使役 、人 間関 係使 役の 例文か ら見 る と、一 般的 に使 役者 は被 使役 者に 言葉 により 指示 ・命 令・ 要求 など で働 きか け何か をさ せる意味を 表す 。こ れら の使 役表 現は 誘発 使役の 特徴 を持 って いる 。こ の点 につ いては 第 3 章で 言及す る。 また、 高見 は使 役に 語彙 的使 役と 迂言 的使役 が存 在す ると 主張 した 。そ の違 いは以 下の よ うであ る。 形 意味 他動詞 語彙的 使役 主 張 指 示 物 が 自 ら の 意 志 や 力 で 一 方 的 に引き 起こ す事 態を 表す 。 「―さ せる 」(お よび「―さす」) 使役 迂言的 使役 主 張 指 示 物 が 目 的 語 指 示 物 に 指 示 等 だ けして 、目 的語 指示 物が 自ら の意 志や 力 で引き 起こ す事 態を 表す 。 高見に よる と無 生物 は自 らの 意志 を持 たず、 その ため 自ら の意 志で 何ら かの ことを 行う こ とはな いの で 、他 動詞の 目的 語と して は用い られ るが 、「―さ す/ させ る」使 役の被 使役 者と しては 用い られ ない と述 べて いる 。 (15) a.皿を 割る 。 [他動 詞形 ] b.*皿 を 割 れ さ す / 割 れ さ せ る 。 [使 役 形 ]
1.1.3 寺 村( 1982) の 主 張
寺村( 1982)は 使役 表現 に関 する 様々 な観点 や議 論を 踏ま えて 、使 役構 文の 成立事 情と 本 質を次 のよ うに 捉え てい る。 ある も の ( X)の 動 作 ・作 用 が 本人 以 外の 存 在 ( Y)を 必 要 とす る も ので あ るか 否 かに 関わり なく 、あ る事 象が X を主 役と し て描か れる 場合 、「 X ガ( Y ヲ /ニ) ~ スル」 と いう描 き方 にな るが 、その事 象に つい ての当 事者 でな い 、つ まり第 三者 であ るもの( W) が、新 たに 舞台 の出来 事と 関わ りを も つ者と して 登場 し、そ れが 主役 とし て はじめ の事 象 がい わ ば 描き な お され る と き、 山 田 の いう 「 間 接作 用 」 の表 現 が 生ま れ る 。 W がそたよう にそ ので きご とが 起 っ て、そ の 結果が 彼に ふり かか る、と いう 表現 が 間接の 受身 の表現 であ る。この意 味で 、使 役表現 は、247 ペ ージ で視 覚化 して 見た 間接 受身の 表現 と、登 場人 物の 役の ふり かた にお いて 性格を 同じ くす るも のと 思わ れる 。 間接受 身 使 役 当事 者 当事 者 X( →Y、・ ・・ ) X( →Y、・ ・・ ) W 相 棒 二 死 ナ レ ル W 相 棒 ヲ 死 ナ セ ル (第三 者) 子供 ニ饅 頭を 食ベ ラレ ル (第三 者) 子供 にニ 饅頭 を食 ベサ レル W が 、自 分 自 身 は 事 態 の 中 の 行 為 者 で は な い が 、そ の 事 態 の 出 来 に「 責 任 が あ る 」と い うとき の中 味は いろ いろ ある。(寺 村 : 1982) 寺村に よる と、 使役 文の 主体 は「 W ガ 」であ るが 、そ の W が惹 き起 こし た 、ない しは そ の出来 事に 責任 があ る事 態の 中の 主体 X がと る助 動詞 は「 ニ」であ った り「 ヲ 」であっ たり する。 その 動詞 が自 動詞 であ れば どち らでも よく 、他 動詞 であ れば 「ニ 」を とると いわ れて いる 。また 、一般的 に「 X ニ ~さ せる 」は 任意・許 容的、「 X ヲ~ サセ ル」は 強制・命令 的と 言われ る。 いず れも 間違 いと はい えな いが、 大体 の傾 向が そう だ、 とい う程 度のこ とだ と思 うと寺 村は 述べ てい る。 寺村は 使役 表現 の構 文・ 意味 特徴 、述 語動詞 が使 役態 と呼 ばれ るた めの 形態 的特徴 を次 の 形を示 し、 説明 して いる 。 W ガ X ヲ ( Y ニ ・ ・ ・ ) V- aseru -ru 短 縮 形 V- as -u ニ sase sas 意味:「X が( Y ニ/ ヲ・・ ・) V す る 」事態 を、W が 惹き 起す 、あ るい はそ れを妨 げ得 るのに 妨げ ない 、あ るい はそ の発 生に 主観的 に責 任が ある と感 じて いる 。 寺村は 使役 を態 の一 つと して、「 使役 態 」と して 取り 上げ る。自発 態に 連な る ものと して 自
動詞が 続き 、そ れに 対応 する 他動 詞、 それに 連な る使 役態 、ま た受 身態 など の態全 体の 体系 の中で 、使 役の 本質 を考 察し た。 しか し上記 の図 のよ うに 、寺 村は 間接 受身 と使役 との 関係 を取り 上げ て説 明し ては いる が、 使役 と他動 詞の 関係 につ いて は 触 れら れて おらず 、こ の点 がまだ 十分 に明 らか にさ れて いな いと 思われ る。 日本 語に は、 使役 形で 表わ すもの の中 にも 実際に は他 動的 な用 法と して 捉え られ るもの もあ る。
1.1.4 柴 谷 ( 1978) の 主 張
柴谷( 1978)は 使役 の意 味に つい て「 誘発使 役」 と「 許容 使役 」と に分 け、 それぞ れ次 の ように 規定 して いる 。 誘発使 役状 況と は、あ る事 象が 使役 の 誘発が なけ れば 起こ らな かっ たが、 使 役の誘 発が あった ため に起 こっ たと いう 状況 を指 す。一方 許容 使役 状況 とは、 ある 事象 が起こ る状 況にあ って 、許容 者( 使役 者と形 態的 に同じ )は これを 妨ぐ こと がで きた の にそれ が控 えられ 、そ の結 果そ の事 象が 起こ った という 状況 を指 す。 日 本 語 で は ( 109・ ア ) に 観 察 で き る よ う に 、 使 役 構 文 の 補 文 が 自 動 詞 を 含 む 場 合 は 、 動作主 とし て働 く被 使役 者を「 に」 で でも「 を」で でも 表わ すこ とが 出来 る 。また 両方 の形が 誘発 使役 文と して も許 容使 役文 として も使 うこ とが 出来 る。( 柴谷 1978: 310) なお、 誘発 使役 にお ける 「を 使役 文」、「に使 役文 」の 違い につ いて は以 下の ように 述べ て いる。 誘発使 役に 於け る「 を」使 役と 「に」 使役の 基本 的な 違い は、前 者は 被使 役 者の意 志を 無 視 し た 表 現 で あ る が 、 後 者 は 使 役 者 の 意 志 を 尊 重 し た 表 現 で あ る と い う こ と で あ る 。 「を」 使役 文は、 強制 的に 強いら れた 状況と か、 使役者 が直 接手 を下 して 物 事を引 き起 こ し た 場 合 と か 、 そ れ に 使 役 者 が 権 威 者 で あ る 場 合 を 典 型 的 に 表 わ す 。 一 方 、「 に 」 使 役文は 、被 使役者 の意 志を 重ん じ、使 役者が それ にう った えて、 物事 を引 き 起こし たよ うな状 況を 典型 的に 表わ す。( 柴谷 1978: 311)許容使 役に 於け る「 を」使 役文 と「に 」使役 文の 違い は主 に許容 の違 いに あ る。許 容に は、承 諾を 与えて 積極 的に 許す とい う 場合と 、積 極的に 承諾 を与 えな いが、 ある物 事の 発生・ 進行 を妨 げる のを 控え ると いう 消極的 な許 容が ある 。(柴 谷 1978: 314) 使役を 誘発 使役 と許 容使 役の 二つ に分 けるこ の分 類は 、使 役に おけ る使 役者 の働き 方の 仕 方を把 握す るの に妥 当な もの だと 思わ れる。 本研 究は 、こ の考 え方 に基 づい て日本 語と ベト ナム語 にお ける 使役 文を 対照 比較 する ことを 試み るが 、ベ トナ ム語 の使 役の 分析に は更 なる 細分類 が必 要と なる 。
1.1.5 仁 田 ( 2009) の 主 張
仁田(2009)は、一般 的な 使役 は対 応す る能動 文に は含 まれ てい ない 人や 物を 主語と して 、 能動を 表わ す事 態の 成立 に影 響を 与え る主体 とし て表 現す ると して いる 。 そして 、使 役の タイ プに つい ては 使役 者が間 接的 に事 態の 成立 に関 わる もの 、直接 的に 関 わるも の、 事態 の成 立に は積 極的 に関 わらな いも のの 三つ のタ イプ があ ると 述べて いる 。 使役者 が間 接的 に事 態の 成立 に関 わる 使役に は、 能動 的使 役文 と受 容的 使役 文があ る。 (16) 警察官 が男 を止 まら せた。(能 動的 使役 文) (17) 申請者 を全 員入 国さ せた。(受 容的 使役 文) 使役者 が直 接的 に事 態の 成立 に関 わる 使役に は、 原因 的使 役と 能動 的使 役文 がある 。 (18) 鈴木の 突然 の訪 問が みん なを 驚か せた。(原因 的使 役文 ) (19) 私は車 を走 らせ た。(他動 的使 役) 使役者 が事 態の 成立 に積 極的 に関 わら ない使 役文 には 、有 責的 使役 文が ある 。 (20) 私は飼 い犬 を死 なせ た。( 有責 的使 役構 文) 「を」 使役 と「 に」 使役 につ いて 仁田 は、自 動詞 から 作ら れた 使役 文は 「を 」格を 取る ものが多 く、「を 」使 役は被 使役 者の 意志 に関わ りな く動 作を 働き かけ るの に対 して、「に 」使 役は被 使役 者の 意志 を尊 重し て動 作を 働きか ける 場合 に用 いら れる 、さ らに 他動詞 から 作ら れた動 詞は 「に 」格 で表 わさ れる と主 張した 。
1.1.6 先 行 研究の概 観
以上、 日本 語の 使役 を表 わす 「さ せる 」につ いて 、い くつ かの 代表 的な 観点 を紹介 した 。 それぞ れの 観点 から みる と、 使役 文を めぐる 問題 は以 下の よう にま とめ られ る。 一つは 使役 文の 分類 であ る。「さ せる 」使役文 は色 々な 意味 を持 って いる 。そ の分類 に関 し ては、 先に 見た よう に、 同じ では ない 。もう 一つ は「 に」 使役 文と 「を 」使 役文の 区別 にも 違いが ある 。最 後に 、使 役文 には 「他 動詞文 」「 ~て もら う」「 ~よ うに いう 」構文 も関 連し ている と考 えら れる が、 先行 研究 では それら の関 係に つい て詳 細に 検討 がな されて いな い。 これら の構 文は それ ぞれ 異な る構 文で あるが 、あ る使 役の 意味 を持 って いる 点で共 通し てい る。ベ トナ ム語 にお ける 使役 文と の対 照比較 によ って 、そ の共 通点 がよ り明 確に現 れる 。1.2 ベ ト ナ ム 語 の 使 役 に 関 す る 研 究
ベトナ ム語 にお ける 使役 構文 につ いて はまだ 深く 研究 され てい ない 。同 じベ トナム 語の 研 究者で も、発話 行為 構文( directive utterance)と使 役構文 (causative)の 区別 を 明瞭に 区別 しな い場合 もあ る。 ベト ナム 語の 動詞 、文 の構造 など の研 究の 中で は、 Nguyễn Kim Thản (1977), Nguyễn Thị Quy (1995), Diệp Quang Ban (2004)が 使 役 構 文 に つ い て 触 れ て い る 。1.2.1 Nguyễn Kim Thản の 主 張
Nguyễn Kim Thản( 1977)は ベ ト ナ ム 語 に お け る 動 詞 を 幾 つ か の グ ル ー プ に 分 け た 。使 役 動 詞グル ープ はそ の中 の一 つの グル ープ である 。ベ トナ ム語 にお ける 使役 動詞 は使役 者が 活動 をして 被使 役者 に何 かを 促す 、許 可を 出す、 助け る、 阻止 する 等を 表わ す。 使役動 詞の 構文
使役動 詞は 通常 二つ の目 的語 を取 る 。第一の 目的 語( NP2)は V1 の 対象 にな り、必ず 名詞 である 。言 い換 えれ ば、N2 は N1 の許 可や助 けを 受け たり 、促 進され たり す るか、ある いは N1 に 妨 げ ら れ る 。 第 二 の 目 的 語 は 基 本 的 に 動 詞 ( V2) で あ る 。 V2 は N2 の 行 為 あ る い は 動 作で、N1 の 促進 、許 可、助 けあ るい は 妨げた こと の結 果を 表す 。使役 構文 の 中で V2 は時 制 または ヴォ イス など を表 す機 能語 と結 合でき ない ため 普通 の動 詞の 役割 を果 たさず 、述 語動 詞では ない 。 使役動 詞の 中で 、も っと もよ く使 われ る 4 つの使 役動 詞は cho、để(cho)、 khiến(cho)、 làm( cho)で あ る 。こ の 四 つ の 使 役 動 詞 は 必 ず V2 を 取 る 。ま た 、cho、để ( cho)、khiến( cho)、 làm( cho)は V2 の 位 置 に は 動 詞 だ け で は な く 、( 1) の よ う に 形 容 詞 で も 可 能 で あ る 。
(1) Các anh đừng làm nhà tôi nó thẹn
あなた 方 ~しな いで させる 妻 彼女 恥ずか しい (妻を 恥ず かし くさ せな いで 下さ いよ。)
Nguyễn Kim Thản( 1977)に よ る と cho、để( cho)、khiến(cho)、làm(cho)は真正 使役 動 詞で、フラ ンス 語にお ける faire、laisser という 使役 動詞 と非 常に 近い と述 べた 。khiến(cho)、 làm( cho) は 動 詞 だ け で は な く 形 容 詞 と 結 合 す る こ と も 可 能 で あ る 。
「NP1 khiến NP2 V2」で は、 NP1 は無 生物( 陳述 名詞 句を 含め る) でも 有生 物でも 可能 で ある。
(2) Ý kiến của anh khiến ai cũng sửng sốt 意見 の あなた させる だれで も びっく りす る
(直訳 :あ なた の意 見は 皆を びっ くり させた 。) (あな たの 意見 を聞 いて 、皆 はび っく りした 。)
(3) Máy bay quân sự Nga rơi làm 9 người chết. 飛行機 軍事 ロシア 落ちる させる 9 人 死ぬ (ロシ アの 軍機 が落 ちて 、 9 人を 死な せた。)
一方、để と cho 使役構 文で は、 NP1 は 必ず有 生物 であ る。
(4) Thầy u để cho con ở nhà chơi với em con. 父母 させる 私 いる 家 遊ぶ と 妹 私 (お父 さん 、お 母さ ん、 私を 家に いさ せて、 妹と 遊ば せて くだ さい。) (5) Tôi cho thư ký về sớm. 私 させる 秘書 帰る 早く (私は 秘書 を早 く帰 らせ た。) また、 Nguyễn Kim Thản も làm と いう 使役動 詞は 、他 の使 役動 詞よ り他 動詞 化の役 割を 持 ってい ると 述べ てい る。この よう な場 合では 、làm 構文 は「 NP1 V NP2」であ る。以 下の 例文 は使役 動詞 + V2 で はなく 、一 つの 他動 詞にな ると いう こと であ る。 (6) Mày chỉ làm bận ông Chánh. お前 ただ させる 忙しい 長官様 (お前 は長 官様 を忙 しく させ るだ けで すよ、(何 も役 に立 たない よ。))
最後に Nguyễn Kim Thản は bắt buộc、 buộc「 ~さ せる 」と いう 使役 動詞 だけ は受身 の意 味 を表す と述 べて いる 。
(7) Chúng tôi bắt buộc phải tiếp tục chiến đấu. 我々 させる ~べき 続ける 戦う (我々 は戦 い続 けな けれ ばな らな いよ うにさ せら れた 。)
1.2.2 Nguyễn Thị Quy の 主 張
Nguyễn Thị Quy は 使 役 動 詞 を 用 い る 構 文 を 発 話 行 為 構 文 と 使 役 構 文 に 区 別 し た 。 発 話 行 為 構文に は以 下の 文法 的特 徴が 認め られ る。発話行 為構 文の 主な 動詞は mời「誘 う」、sai「命 ずる」、cho phép「許 可す る」、thỉnh cầu「依 頼する 」、 ra lệnh cho「命 令を 下す」、 giục「促 す」 など であ る。
発話行 為構 文は「 NP1 V1 NP2 V2[+ 意志]」であ る。上に 述べ た動 詞以 外に も、いく つか の動詞 が発 話行 為動 詞の 使役 動詞 とし て存在 する 。bảo「告 げる」、bắt「強 制 する」、bắt buộc 「強引 に従 わせ る」、buộc「 強要 する / ~させ る」、cầu「 祈願 する」、cầu xin「 請願す る」、cử 「指名 する 」、đòi「強 請る」、nài「 せ がむ」、 nài nỉ「 強請 する」、năn nỉ「 頼む、 願う 」、xin 「願う 、要 請す る」、 dặn「忠 告す る、 勧告す る」、 sai「 ~さ せる」、nhờ「頼 む」、 ra lệnh「命 令を出 す」、 khiến「~ させ る」、 yêu cầu「要求 する 」、 giục「促 す」、thúc giục「急か す/ 催促 する」、khuyên「勧 める」、cấm「 禁じ る 」、cho phép「許可 する 」、cho「 ~さ せ る」等で ある 。
使役構 文も 構文 的に は発 話行 為構 文と 同様で ある 。使 役構 文は 以下 のよ うな 構文で ある 。 使役構 文の 主な 動 詞 は、xô(ai)ngã「(誰か )を 倒す」、bẻ gẫy( cái gì)「( 何 か)を 折る 」、 giết chết ( con gì)「(誰 か )を殺 す 」, làm( cho ai)đau「( 誰か )を 痛が らせ る」、làm(cho cái gì) vỡ「(何 か) を割 る」、 buộc(ai) phải đi「(誰 か) を行 かせ る」等 であ る 。
Nguyễn Thị Quy に よ る と 、 発 話 行 為 構 文 と 使 役 構 文 は 構 文 的 に か な り 類 似 し て い る が ( い ずれも 「 NP1 V1 NP2 V2」構 文で ある )、内 容的 には 相違 点があ るの で、 構文 上完全 に一 致 するわ けで はな い。 以下 は発 話行 為構 文と使 役構 文の 7 つ の相 違点 であ る。
発話行 為構 文 使役構 文 1 「NP1 V1 NP2 V2」 構文 は許 すが
「NP1 V1 V2 NP2」 構文 は不 可能 (8)a .Tôi sai con đi
私 命じ る 子 供 行 く (私は 子供 が行 くよ うに 命じ た。) (8)b. * Tôi sai đi con
私 命令 する 行く 子 供 「NP1 V1 NP2 V2」構 文も「 NP1 V1 V2 NP2」 構文も 許さ れる 。 (9)a .Tôi làm bát vỡ 私 ( する )お 椀 割る (私は お椀 を割 った 。) (9)b .Tôi làm vỡ bát 私 ( する )割 るお 椀 (私は お椀 を割 った 。) 2 中心動 詞 V1 は「言 う」とい う意 味を 持 つ。 中心動 詞 V1 は 他動性 動詞 で「 言う 」 とい う意味 を持 たな い 。主 には khiến( cho)(~ させる )、làm(cho)(~ させ る)、bẻ( gãy) (折る )、đốt (cháy)( 燃す )、 đánh vỡ(割 る)等 であ る。 3 NP2 は NP1 か ら あ る こ と を す る よ う に 仕 向けら れ 、動 作・作用 を行 うこ とが で きる のは有 生物 だけ であ る。 NP2 は 有 生 物 で も 、 無 生 物 で も 容 認 で き る。 4 V2 は 必 ず [ + 意 図 的 ] 動 詞 で あ る 。 V2 は ど ん な 動 詞 で も 容 認 で き る 。 有意 志 又は 無 意志 動的 状 態的 5 発話 行 為構 文 で は NP1 の 行為 は 動作 を行 うこと では なく 、事柄の 発言 であ る 。その 発言の 内容 は NP2 が V2 を行 うこ と であ る。その 内容 は実 現し たこと では なく 、NP1 が NP2 にして もら った り、期待 した り する 使役者 は(積 極的 な場 合で も、消極 的 な場 合でも 良 い )現 実的 な結 果を 引き 起こ す。 V2 は そ の 結 果 を 表 わ す 。chẳng、không、chả 「~な い」 と結 合し て否 定形 を表 わす 。 (11) a *Nam bẻ cái que gãy đôi, nhưng nó
こと等 であ る 。従 って 肯定 の意 味を 表 わす 時、V2 の前に hãy「 ~く ださ い」、nên「~ べき 」を 用いる 。そし て、否定 の意 味 を表 わす時 には 、 chẳng、 không、 chả「~ な い」 ではな く、 禁止 の đừng、 chớ「 ~な い でく ださい 」が V2 の 前に 来る 。
(10) a.Nam bảo em đi chợ nhưng nó không đi.
(ナム は妹 に市 場に 行く よう に言 った が、 妹は行 かな かっ た。)
b. Nam bảo em đừng đi nhưng nó vẫn đi ( ナ ム さ ん は 弟 に 行 か な い よ う に 言 っ た が、そ れで も、 弟は 行っ てし まっ た。)
không gãy
( *ナ ム は 串 を 半 分 に 折 っ た が 、 串 は 折 れ なかっ た。)
b. *Nam bẻ cái que không gãy nhưng nó vẫn gãy. ( ナ ム さ ん は 串 を 折 れ な い よ う に 折 っ た が、そ うし ても 串は 折れ てし まっ た。) 6 V1 は bắt「 ~ さ せ る 」、ra lệnh「 ~ 命 令 を 出 す」の 場合 は NP2 と V2 の間 に、phải「~ なけれ ばな らな い 」以 外他 の要 素を 入 れる ことは でき ない 。 V1 は cho phép「 許 可を 出す」 の場 合は được しか NP2 と V2 の間 に入れ るこ とが でき ない 。 NP2 と V の 間 に 否 定 の 意 味 を 表 わ す không 「 ~ な い 」、chưa「 ま だ 」 又 は 対 象 を 表 わ す cho「ニ 格」を 入れ るこ とが 可能 であ る。 7 V2 の 主 語 は 文 全 体 の 補 語 で あ る 。 使役構 文では V2 の主 体( NP2)は V1 の主 語にな るこ とが 可能 であ る。言 い換 え れば 使役行 為の 主体 にな る。 しかし Nguyễn Thị Quy に よ ると 、使 役構文 であ るか 発話 行為 構文 であ るか の区別 がは っ きりで きな い場 合も ある 。場 合に よっ て両方 とも 理解 でき る場 合も ある 。
(12) a. Họ đá con chó trẹo cả hông. 彼ら 蹴る 犬 脱臼す る 程 腰 (12) a では 以下 の通 り二 つの意 味に 解釈で きる 。まず は「 彼ら は「犬 が腰 を脱臼 する 」ま で犬を 蹴っ た」 の意 味と、「彼 らは 犬を 蹴った ため 、自 分が 脱臼 した 」の 意味 である 。 (12) b. Họ đá cái xe trẹo cả hông. 彼ら 蹴る 車 脱臼す る 程 腰 (彼ら は車 を蹴 って 腰を 脱臼 した。) (12) a で は二 つの 意味 に解 釈で きる のに対 して 、( 12)b では 「彼 らは 犬を 蹴った ため 、自 分が脱 臼し た」 の一 つに しか 解釈 でき ない。 Nguyễn Thị Quy は 英 語 の 例 文 を 取 り 上 げ て 、 ベ ト ナ ム 語 と 比 較 し 、 そ し て 、 発 話 行 為 構 文 と使役 構文 を区 別し てい る。
(13) a. I told him to go. → Tôi bảo nó đi. b. I made him go. → Tôi làm cho nó đi.
c. I had him go. → Tôi làm cho nó đi./ Tôi bảo nó đi.
上の例 文か ら見 ると 、( 13)a は 発話 行 為構文 、( 13)b は 使役 構文 であ るのに 対して 、( 13) c は 使 役 構 文 で も 、発 話 行 為 構 文 で も 捉 え ら れ る 。( 13)a で は 、go の 前に to が必要 であ るの に対し て、( 13)b と(13)c は to を入 れるの は不 可能 であ る。こ れは、使役 構文と 発話 行為 構文を 区別 する 基準 の一 つで ある 。 発話行 為構 文と 使役 構文 を区 別す るた め、Nguyễn Thị Quy は以 下の 例文 を取 り上げ て、比 較した 。
(14) a. Tôi sai nó đi. 私 させる 彼 行く (私 は彼 を行 かせ た。)
b. Tôi bảo nó đi. 私 言う 彼 行く (私は 彼に 行く よう に言 った。) c. Tôi làm nó đi. 私 させる 彼 行く (私は 彼を 行か せた 。) 上の例 文は 同じ 「私 の働 きか けで 、彼 が行く 」事 象を 表わ す。 構文 上で はほ ぼ同じ であ る が、そ れぞ れの 意味 が異 なる 。そ れは 、発話 行為 構文 、 あ るい は使 役構 文か によっ て表 して いる意 味が 異な る。( 14)a と(14)b は発話 行為 構文 であ るの に対 して、( 14)c は使役 構文 である 。以 下に いく つか 相違 点を 挙げ る。 (14) a で は、 rằng、 là「 ~と 」を 入れ る事が 不可 能で ある 。( 14)b に rằng、 là「~ と」 と入れ ても 可能 であ るが 、文 全体 の意 味が変 わる 。rằng、là「 ~と 」を 入れ る と、( 14)b は「私 は彼 が行 くと 言っ た。」 とい う意 味にな る。
(14)a と(14)b の後に nhưng nó chưa đi「し かし 、彼 はまだ 行っ てい ない 。」と nhưng nó không đi「 しか し、 彼は行 かな かっ た。」とい う文 を入 れる こと が可 能で ある のに対 して (14)c には 入れ る事 が不 可能 である 。
(14)a では nó「彼 」と đi「 行く 」の 間に( 15) のよ うに 進行 形を 表わす đang「~ てい る」と過 去形 を表 わす đã「~ た 」と 未 来形を 表わす sẽ 等 のモ ダリ ティ を表 わ す言葉 を入 れるこ とが 許容 でき ない 。
(15) *Tôi sai nó đang /đã /sẽ đi 私 させる 彼 [進 行 形 ]/ [過 去 形 ]/ [未 来 形 ] 行く
(14)b では nó「彼 」と đi「 行く」の 間に đừng「 ~し ない で」を 入れ るこ と が可能 であ る。一 方、 この 現象 は同 じ発 話行 為構 文( 14)a では 、đừng「 ~し ない で」 を入れ るこ とが不 可能 であ る。 (14) b で は、 モダ リテ ィあ るいは 否 定を表 わす 言葉 を nó「彼 」と đi「行 く 」の間 に入 れると 、こ の構 文は 発話 行為 構文 では なく、 普通 の陳 述的 構文 にな る。 その 時の bảo は 単に「 言う 」の 意味 を表 す。 そし て、 rằng、 là「~ と」入 れる こと が可 能で あ る。 (14) c では、làm(使 役動 詞)と nó( 目的語)の間に cho を 入れ るこ とが 可 能であ る。 この現 象は làm、 khiến 使役 構文 では よ く見ら れる 。( 14)a、b で は、 この現 象はな い。 上に述 べた 相違 点か ら見 ると 、使 役講 文と発 話行 為構 文は 意味 上だ けで はな く構文 上で も 異なる と結 論づ けら れる 。
1.2.3 Diệp Quang Ban の主 張
Diệp Quang Ban (2004)は 、 使 役 構 文 で 用 い ら れ る 述 語 動 詞 は 使 役 的 な 動 詞 で あ り 、 文 の 主 語は発 動体 (使 役者 ) と して 、被 使役 者に命 令や 指示 を出 した り、 何ら かの ことを する よう に仕向 けた りす るこ とが 可能 であ ると 述べて いる 。目 的語 は使 役行 為や 命令 などを 受け る対 象で、 同時 に使 役行 為や 命令 の内 容と の関係 では 動作 の主 体で ある とい う。
使役構 文で よく 用い られ る使 役動 詞は bắt ép「 強制 する 」、cho phép「許 可す る」、đề nghị 「 請 う 」、 cấm「 禁 止 す る 」、 giục「 促 す 」、 khuyên「 勧 め る 」、 mời「 招 く 」、 sai「 命 ず る / 言 いつけ る」、 xin「 願う /要請 する 」、 yêu cầu「要 求す る」等 であ る。
(16) Giám đốc buộc nó nghỉ việc. 社長 させる 彼 辞める 仕事 (社長 は彼 に仕 事を 辞め させ た。)
Giám đốc 社長 buộc ~させ る Nó 彼 nghỉ việc 仕事を 辞め る 統語構 造 主語 述語 目的語 補語 表現意 味構 造 発動体 働きか け 仕向け る ⇒ 目的体 動作主 体 ⇒事柄 使役構 文で は、 描写 的な 要素 や量 を表 わす要 素が ある 場合 、 NP2 と V2 の位 置を交 換す る のは可 能で ある 。( 16)で は以 下の( 17)のよう に NP2 と V2 を置 き換 える こと が可能 であ る。
(17) Giám đốc buộc nghỉ việc người chưa thạo việc. 社長 させる 辞める 仕事 人 まだ 熟す 仕事 (社長 は仕 事に 慣れ ない 人を 辞め させ た。)
上に述 べた 使役 構文 では 、主 語は 発話 者(つ まり 第一 人称 )そ して 発話 する 時に命 令を 出 す場合 、そ の使 役構 文は 発話 行為 構文 になる と述 べて いる 。
(18) Tôi mời em Giáp đọc bài. 私 請う ~さん Giap 読む。
(Giap さん に教科 書の 文を 読ん でも ら います 。)
この文 は、先生 が教 室で学 生に 教科 書の 文を読 んで ほし い時 に直 接学 生に 話す 表現で ある 。 また、 ある 人が もう 一人 の人 に何 か頼 むとき にも 以下 のよ うな 表現 を用 いる ことが でき る。
(19) Tôi không ép anh phải làm điều đó. 私 ない 強要す る あなた しなけ れば なら ない こと その (私は あな たに その こと を強 要し はし ない。)
Diệp Quang Ban ( 2004)に よ る と 、ベ ト ナ ム 語 で は 使 役 構 文 に 非 常 に 近 い 構 文 も 存 在 す る 。 それは NP1 が 原因 とな って NP2 が 生じ るとい う原 因結 果を 表す 構文 であ る。以下 、こ れを 因 果関係 構文 と呼 ぶ。 この 構文 では 主語 は原因 、述 語は 結果 、両 者は 因果 関係 にある こと を表 す。 因果結 果構 文で は必 ず二 つの 出来 事が 表され る。 出来 事 ① は原 因を 表し 、出 来事 ② は結 果 を表わ す。 この 二つ の出 来事 が因 果関 係を表 わす ため には 、以 下の 条件 を満 たさな けれ ばな らない 原因を 表す 事態 ①は 必ず 結果 を表 す事 態 ②よ り先 に起 きる こと 。 事態① は事 態② が出 現す るま で効 果が あるこ と。 事態② が起 こる のに 、事 態 ① は必 要条 件 であ るこ と。 事態② が起 こる のに (具 体的 な場 合 ) 事態① 十分 条件 であ るこ と 。 原因を 表わ す主 語は 単一 の名 詞で も必 ずある 事態 を表 す、 ある いは 、主 語自 身が出 来し た 事態で ある 。も しく は間 接的 に事 態を 表す。 次の 例を 見て みよ う。 (20) a.Gió tắt đèn. 風 消す ランプ (直訳 :風 はラ ンプ を消 した。) (風で ライ トが 消え た。) b. Giáp tắt đèn. Giáp 消す ランプ (Giap は ラン プを 消し た。) (20)a での「 風」はた だ「 風」を意 味 する名 詞で はな く、出来 事( この 場合 は空気 の動 き) を表す 。「 風が 吹く 」とい う事 態が ある からこ そ、「ラ ンプ が消え る」 とい う事 態が引 き起 こ された 。つ まり 、( 20)a は 因果 関係 構 文と呼 ぶこ とが でき る文 であ る。
であ る。 この 構文 は 「 Giap さ んは ラ ン プを 消し た」 とい う 一つ の事 態し か表 わさ ない ので 、 原因関 係と は言 えな い。 (20)b に làm「 ~さ せる 」を入 れれ ば、因 果関 係を 表す 構文 にな る。 (20) c. Giáp làm tắt đèn. Giáp させる 消す ライト (Giap はラ イトを 消え させ た。) 直訳 (Giap は電 気を消 した 。) (20)c では 「 Giap は何 らか をし た」、 そして 、「 ラン プが 消えた 」二 つの 出来 事を表 す。 Diệp Quang Ban( 2004) に よ る と 、 マ ー ク さ れ る 因 果 関 係 構 文 で は 、 làm は 間 接 的 に NP2 に働き かけ てあ る結 果を 引き 起こ すと いう役 割を 持つ 。この làm は 二つ の目 的語を 必要 とす る。こ の定 義か ら見 ると 、使 役構 文の 定義に 近い 。し かし 、使 役構 文と の区 別は因 果関 係構 文では 、 làm、 khiến など の使 役動 詞の 後に cho「 与え る」 を取 るこ とが でき るが、 使役 構文 では使 役的 動詞 làm、 khiến、buộc、bắt 等の後 には 、cho を取 るこ とが できな い。
(21) a.Ông ấy bắt hai người kia nghỉ việc 彼 させる 二人 人 あの 辞める 仕事 (彼は あの 二人 に仕 事を 辞め させ た。)
b.*Ông ấy bắt cho hai người kia nghỉ việc 彼 させる 二人 人 あの 辞める 仕事 (彼は あの 二人 に仕 事を 辞め させ た。)
(21) b では 動詞 の後 に cho が来 るこ とが不 可能 なた め、 因果 関係 構文 では なく使 役文 だと Diệp Quang Ban は 主 張 し て い る 。
と述べ た。
(22) Giáp uốn cong cây sắt. Giáp 曲げる 曲がっ てい る 鉄棒 (Giap は 鉄棒 を曲 げた。)
(23) Giáp bẻ gãy thanh gỗ. Giáp 折る 折れて いる 木 (Giap は木 を折っ た。)
(22) では cây sắt「鉄 棒」は uốn「 曲 げる」 の目 的語 で、 NP1 の uốn「 曲げ る」動 作を 受け て、 結果 は「 曲が っ てい る」 状態 にな る。 cong「曲 がっ てい る」は uốn「 曲げ る」 の結 果で あ る。( 23)も同 様で giap は uốn「 折る 」という 動作 を行 って 、そ の動 作を 受け た結果 、木が折 れたこ とを 表わ す。 Diệp Quang Ban に よると (22)、( 23) は因 果関 係構 文で はなく 、他 動詞 構文で ある と主 張す る。
上の( 22)、(23)は 以下 の(24)、(25)に置 き換 える こと が出 来る 。
(24) Giáp uốn cây sắt cong.
Giáp 曲げる 鉄棒 曲がっ てい る (Giap は 鉄棒 を曲 げた。)
(25) Giáp bẻ thanh gỗ gãy.
Giáp 折る 木 折れて いる (Giap は木 を折っ た。)
1.2.4 先 行 研 究 の 問 題 点
はベト ナム 語に おけ る真 正使 役動 詞に ついて 述べ てい る。Nguyễn Thị Quy は 発話行 為構 文と 使役構 文の 区別 を述 べて いる 。そ して 、 Diệp Quang Ban は 使役 構文 、因 果関 係構文 、他 動詞 文など につ いて 述べ てい る。 いず れに せよ、 ベト ナム 語の いわ ゆる 使役 表現 をめぐ る問 題は 次のよ うに まと めら れる だろ う 。
Nguyễn Kim Thản は 、 使 役 構 文 と は 使 役 者 の 行 為 に よ り 被 使 役 者 に 何 か を 促 す 、 許 可 を 出 す、助 ける 、阻 止す る等 を表 わす とい う基本 的な 特徴 を述 べて いる 。ベ トナ ム語に おけ る使 役動詞 では 、 cho、để、 khiến(cho)、 làm( cho)の 4 つ の真 正使 役動 詞が よ く使わ れて いる と述べ てい る。 真正 使役 動詞 と他 の使 役動詞 を区 別す る根 拠に ついて Nguyễn Kim Thản は明 確に述 べて いな いが、 cho、để、 khiến (cho)、 làm(cho)は 他の 使役 動詞 よ り本動 詞の 意味 が弱く 、機 能語 とし ての役 割が 強く 感 じられ るた めで はな いか と思 われ る。khiến(cho)、làm (cho)は NP1 が NP2 に 何ら かの 行為 を行わ せる ので はな く、 NP1 は 原因 で 、NP2 は 間接 的 に NP1 の 行為 を受 けて 、あ る行 為ま た は状況 に至 る意 味を 表す のに 対し て、 cho、để は許 可 を出す 、あ るい は放 任の 意味 を表 す。 これ ら が、 日本 語の 「~ させ る」 に対 応する 度合 いが 最も高 い使 役動 詞 で ある こと は重 要な 示唆を 与え る。 すな わち 、こ れら が典 型的な 使役 動詞 である とい うこ とは 日本 語の 使役 構文 との対 照か らも 裏付 けら れる ので ある 。また、Nguyễn Kim Thản は làm の 用 法 に つ い て も 他 動 詞 化 の 役 割 と 使 役 を 表 す 役 割 が あ る と 論 じ た 。し かし、 1.3 節 で 見 る よ う に 、 使 役 は 他 動 詞 構 文 を プ ロ ト タ イ プ と す る 連 続 的 カ テ ゴ リ で あ る と 考 え られ、 その 一部 を取 り出 して 論じ ても 、ベト ナム 語の 使役 構文 とそ の周 辺と の関係 を明 らか にする こと はで きな い。 従っ て、 Nguyễn Kim Thản の研 究は 、ベ トナ ム語の 使役の 機能 を十 分に明 らか にし たと は言 えな い。
Nguyễn Thị Quy は い わ ゆ る 使 役 構 文 を 発 話 行 為 構 文 と 使 役 構 文 に 区 別 し て い る 。NguyễnThị Quy の 発 話 行 為 構 文 と 使 役 構 文 の 7 つ の 相 違 点 に 関 し て は 以 下 の よ う な 問 題 点 が あ る 。
まず 、第 一の 区別 では 発話 行為構 文は「 NP1 V1 NP2 V2」とい う語 順を 許す が 、「 NP1 V1 V2 NP2」 は 不 可 能 で あ る 。 一 方 使 役 構 文 で は 「 NP1 V1 NP2 V2」 構 文 も 、「 NP1 V1 V2 NP2」 構 文も存 在す ると 述べ てい る。し かし 、以 下のよ うな 例文 は Nguyễn Thị Quy の 基 準に合 わな い。
(26) a. Tôi làm anh ấy giận.
私 させる 彼 怒る
(私は 彼を 怒ら せた 。)
b. *Tôi làm giận anh ấy.
私 させる 怒る 彼
(私は 彼を 怒ら せた 。)
(27) a.Anh ấy làm mọi người cười.
彼 させる 皆 笑う
(彼は 皆を 笑わ せた 。)
b.*Anh ấy làm cười mọi người.
彼 させる 笑う 皆 (彼は 皆を 笑わ せた 。) つまり 、感 情動 詞の 場合 、 NP2 と V2 の位置 を交 換で きな い場 合 が ある ので ある。 次に第 2 の 相違 点で は、発 話行 為構 文 では中 心動 詞 V1 は 「言 う」 とい う意 味を持 つの に 対して 、使 役構 文で は V1 は 「言 う」 という 意味 を持 たな いと 述べ てい るが 、発話 行為 構文 の動詞 リス トの 中で は、「 言う 」の 意味 を表す 動詞 以外 に も khiến「~ させる 」、bắt「 ~無理 やりさ せる 、cưỡng bức「 ~強 制す る」、cho「 ~させ る/ 許可 を出 す」等 の使 役動詞 を取 り上 げてい る。上に 述べ た動 詞が「言 う」の 意味を 含意 する か否 かは 文脈 に依 存す る。例えば khiến の場合 は、 NP1 は何 らか のこ とを 言い 出して 、そ の結 果、 NP2 はあ る行 為を 行うと いう 解釈 も可能 であ るが 、 NP1 は何 も言 わず、 何らか の行 為を 行っ たた め、 その 結果 、 NP2 は V2 の 行動を 行う とい う解 釈の 仕方 もあ る。 しかも 、 NP1 が 「何 らか のこ とを 言う 」と言 って も、 直接 NP2 に命 令等 を出 すこ とで はな い 。