第3章 プロジェクトの内容および技術的側面の検討
2) 提案プロジェクトの内容
関係企業・取引先の経営安定化及びコスト上昇抑制につながり、ひいては AGC/ASC の経 営安定化につながる。
2. SPC の裨益(収益性等)
①インドネシアの公益にとっての重要度: ○
・SPC の裨益(収益性等)が高まれば、投融資を行うインドネシアの機関のリターン・収 益性が向上し、税収と雇用の拡大にも資する。
②AGC/ASC にとっての重要度: ○
・SPC の裨益(収益性等)が高まれば、PPU による発電事業の経営が安定化し、電力の長 期安定供給及び電気料金の安定化に資する。
3. ASC の裨益(経済性等)
①インドネシアの公益にとっての重要度: ○
・千人規模を雇用する ASC の裨益(収益性等)が高まれば、現地雇用の安定化・拡大、現 地政府の税収の拡大につながる。
②AGC/ASC にとっての重要度: ◎
・ASC の裨益(収益性等)が高まることが AGC/ASC にとって重要であることは、言をまた ない。
4. 日本の公的ファイナンスの活用
①インドネシアの公益にとっての重要度: ◎
・日本の公的ファイナンスが活用されることは、「エネルギー需給緩和型インフラ・シス テム普及等促進事業」の趣旨、及び電源開発への外資導入を歓迎するインドネシア政府 の方針に合致する。
②AGC/ASC にとっての重要度: ○
・AGC/ASC にとって、JBIC から低利融資を受けることができれば、経済的なメリットが大 きい。
5. 日本企業が有する優れた技術・ノウハウの活用 ①インドネシアの公益にとっての重要度: ◎
・日本企業が有する優れた技術・ノウハウを活用して電源開発を行うことは、短期的にイ ンドネシアの電力需給緩和に貢献するだけでなく、高品質なハードウェアや O&M を通じ た長期的な供給力の維持につながり、またこうした技術・ノウハウのインドネシアへの 技術移転にもつながる。
②AGC/ASC にとっての重要度: △
・AGC/ASC にとっては、グローバルな観点からのコスト・品質面も含めた最適な調達が重 要であり、必ずしも日本企業の技術・ノウハウの活用がベスト・ソリューションとは限 らない。
上表に示される通り、インドネシアの公益から見た重要度と、プロジェクト実施企業(AGC/ASC)か ら見た重要度は、自ずから異なる側面がある。
本 FS 調査では、インドネシアの公益から見た重要度に軸足を置きつつも、プロジェクト実施企業が インドネシアの電気料金高騰にあえいでいる現状に鑑み、その問題を喫緊かつ効率的・効果的に解決す ることが、日本の産業政策(=我が国製造業の国際競争力の強化、グローバル展開の円滑化)にも寄与 することから、ASC の裨益(特に経済性)も重視し、総合的な観点から、バランスの取れたソリューシ ョン(事業方式、技術方式)を提示することとする。
b) 事業方式
対象プロジェクトの事業方式として、提案時には、IPP として、発電能力 60 万 kW のうち 30 万 kW 相 当分を ASC 社現地工場に供給し、30 万 kW 相当分を PLN に売電することを計画していた。
しかしながらその後、エネルギー鉱物資源省(MEMR)へのヒアリングより、IPP は PLN への全量売電 が必須であることが判明し、IPP モデルは断念せざるを得なくなった。
その代わりに、エネルギー鉱物資源省へのヒアリングの際に、PPU(Public Power Utility)という 新電力法に基づく第3の(PLN、IPP に次ぐ)電気事業方式が可能であることが判明した。
PPU は、新電力法第9条のa(公共向け電力供給事業)の1種であり PLN のような公共向け電力供給 事業における民間の新規参入者である。
PPU 方式であれば、ASC は SPC 等の第3者から電気の小売供給を受けることができ、また SPC 等の発 電事業者は PLN に電気の一部または全部を売電できる。
PLN に一旦全量を売電し、再び買い戻す方式もあるが、一部売電の場合、SPC→PLN への売電料金は、
BtoB の交渉により決まる。また SPC→ASC の売電料金は、BtoB の交渉により決まり、地方政府の承認が 必要である。
なお SPC 等の第3者が PPU として需要家(ASC)に配電及び電力小売を行うには、新電力法第 10 条(3)
~(5)に基づき、「WU」(Wilayah(区域) Usaha(事業)=事業区域=Business Area)を得る必要があ る。WU の取得は、MEMR、PLN、地方政府(Cilegon 市)と事前に根回しをしておけば、最短2カ月で可 能である。
上記に基づき、最も有力と考えらえる事業モデルは以下の通りである。
①電気事業方式: PPU(Public Power Utility)
・根拠法令: 新電力法(第9条のa等)
②発電事業体: SPC
・発電電力の一部を、SPC から ASC に構内配線を通じて電気を小売供給 ・同時に、発電電力の一部を、SPC から PLN に売電
・AGC/ASC の出資比率: 検討中
(AGC/ASC が SPC の経営をできるだけコントロールできることが望ましいため、AGC/ASC が一 定の出資を行うことが望ましい。)
・他社の出資: 検討中
・JBIC のプロジェクトファイナンス: ヒアリングによれば、以下の条件が整えば可能。
・単なる投資利益のみが目的の投資ではなく、実業目的の投資であること
・発電プラントの O&M は、日本企業または日本企業が株式を保有する等によりコントロール・指導し得る企 業(ASC、または O&M の外注先企業)が行うことが必須。
・特にボイラ、タービン等の主機に日本企業の技術が多く関わっている方が好ましい。なお発電設備等の設 備は、必ずしも日本製である必要はない。
・発電プラントの事業体への出資比率は、日本企業が最低でも全体の 30%以上を占めていること。
・事業運営(の意思決定を含む)に、日本企業が積極的、かつ融資期間を超える長期にわたり継続的に関与 すること。
・SPC 等の採算性の高さも重要な要因。
・オフテイカー(=電気の購入者)が、長期にわたり安定的に電気を購入すること。電力需要家側の本業が
30 年間等の長期にわたり持続的であること。
c) 技術方式
技術方式として、提案時は USC・60 万 kW を想定していたが、前記した経緯により、調査対象プロジ ェクトの技術として、インドネシア産亜瀝青炭の使用を前提に、USC(超々臨界圧)だけでなく、SC(超 臨界圧)、Sub-C(亜臨界圧)、CFB(循環流動層)も含めた検討を行った。
この結果、最も有力と考えられるモデルを、以下に示す。
①規模(発電出力及び小売・売電容量)
・発電出力: 45/60 万 kW
・PPU(SPC)から ASC への小売: 27.5 万 kW
・PPU(SPC)から PLN への売電: 15/30 万 kW(発電プラントの所内消費:2.5 万 kW を除く)
図 3-9 電力システム構成
出典:調査団作成
②技術方式
USC(超々臨界圧)、SC(超臨界圧)、Sub-C(亜臨界圧)、CFB(循環流動層)は、それぞれ以下の特徴 を有する。
ASC
G 電力負荷
PLN の系統: 150kV
通常時
SW
:ON SW
:OFF
SW
:ON SW
:ON
ASC
G 電力負荷
PLN の系統: 150kV
定期点検及び非常時
SW
:OFF SW
:ON
SW
:OFF SW
:ON
バックアップ
PPU PPU
27.5
万kW 15
/30
万
kW
27.5
万kW 45/60万
kW
表 3-17 各技術方式の特徴
方式
実用機の単機出力
炭種への適用
性 日本メーカ 発電端熱効 率(HHV)
瀝青炭 使用
亜瀝青炭 使用
USC
(超々臨界圧) 60 万 kW~ 80 万 kW~
瀝青炭、亜瀝 青炭とも可能 だが、後者の 場合は出力下 限が高まる。
MHPS(三菱重工/
日立)、東芝、IHI
日 本 : 90 ~ 110 万 kW : 43% 、 70 万 kW : 42.5% 、 60 万 kW:42%
SC
(超臨界圧) 50 万 kW~ 60 万 kW~
瀝青炭、亜瀝 青炭とも可能 だが、後者の 場合は出力下 限が高まる。
MHPS(三菱重工/
日立)、東芝、IHI。
海外メーカ(特に 中国)とのコスト 競争あり。
日 本 : 50 万 kW:42.5%
Sub-C
(亜臨界圧)
20 万 kW 以 上が主
20 万 kW 以 上が主
瀝青炭、亜瀝 青炭とも可能
IHI は技術・コス トともに優れる。
そ の 他 各 種 メ ー カ、海外メーカ
日 本 : 20 万 kW:41%
CFB
(循環流動層)
IPP 用:15 万 kW 等、自 家発用:1.5
~7 万 kW
同左 幅広い炭種に 適用可能
住友重機械:信頼 性に優れる。コス ト 面 を 含 め る と 海 外 メ ー カ も あ る。
日 本 : 11 万 kW:37.5%
出典:各種資料を基に調査団作成
(備考)
・インドネシア産亜瀝青炭の使用を前提とすると、USC の場合、実用機(稼働中)の出力下限は 80 万 kW 程度(注:インドネシアでの計画は単機 100 万 kW のみ)であり、今回想定している 60 万 kW は 実用レベルではなく、実証レベルとなる。
・インドネシア産亜瀝青炭を使用した SC は、単機 60 万 kW が可能。ただし中国など海外メーカとの コスト競争がある。
・インドネシア産亜瀝青炭を使用した Sub-C、CFB は、今回想定している 40~60 万 kW が可能。
本 FS 調査では、これらの特徴を踏まえ、前記の評価基準からみて総合的に最適と考えられる技術方 式・仕様を提示した。
最も有力と考えられる技術方式と基本仕様は、以下の通りである。
【ケース1】
・技術方式: SC(超臨界圧)
・一般的に、主蒸気温度が 566℃以下を超臨界圧(SC)、566℃超を超々臨界圧(USC)と呼んでい る。本プラントの主蒸気温度は 566℃であるため、定義上は超臨界圧(SC)であるが、いわば USC に近い超臨界圧といえる。
・出力: 60 万 kW×1 基=計 60 万 kW
・PPU(SPC)から、30 万 kW を ASC に小売供給、残り 30 万 kW を PLN に売電
・ASC の電力負荷は基本的に 24 時間であり比較的安定しているため、PLN への売電量は、下記の 定期点検時を除いて安定しており、PLN にとって重要な電力供給源となる。
・定期点検時のバックアップ: PLN から 30 万 kW 相当(ASC の電力需要分)のバックアップを受け る。
【ケース2】
・技術方式: CFB(循環流動層)
・CFB はインドネシアの低発熱量の亜瀝青炭にも適用し得る。
・出力: 15 万 kW×3 基=計 45 万 kW
・PPU(SPC)から、30 万 kW を ASC に小売供給、15 万 kW を PLN に売電
・ASC の電力負荷は基本的に 24 時間であり比較的安定しているため、PLN への売電量は、下記の 定期点検時を除いて安定しており、PLN にとって重要な電力供給源となる。
・定期点検時のバックアップ: 定期点検時には 1 基(15 万 kW)のみ停止し、PLN への売電も停止し、
定期点検時の ASC の所内負荷(30 万 kW)は、残り 2 基(15 万 kW×2 基=30 万 kW)で賄う。