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インドネシアにおける各種開発リスク

ドキュメント内 報告書(和文) (ページ 73-79)

第 1 章 相手国・セクターの概要

1) インドネシアにおける各種開発リスク

急速な経済成長を続けるインドネシアにおいては、多くのビジネス・チャンスが存在する一方、様々 な開発リスクも存在する。

a) 国内政治・経済情勢

10 年間のユドヨノ政権の後を引き継いで、2014 年 10 月に就任した第 7 代大統領となったジョコ・ウ ィドド大統領(インドネシアの名門、ガジャマダ大学卒)は、家具輸出業で成功し、ソロ市長、ジャカ ルタ州知事で成果を上げてきた経歴を持ち、大統領選挙戦では政治改革や経済活性化などを公約に掲げ た庶民派である。しかし、国内外のメディアは経済に関しては苦戦を強いると報じている。6

現在、ジョコウィ大統領は、全国規模での港湾、鉄道、電力インフラ整備を進めるとし、特に 18,000 弱の島々からなる国家であるため海上物流インフラに注力し物流コストを低減させていく方針を示し た。さらに、ジャカルタ、スマラン、バンドン、スラバヤ(ジャワ島)メダン(スマトラ島)、マカッ サル(スラウェシ島)の 6 都市で地下鉄など大量輸送システムを導入することも発表した。投資のボト ルネックとなっている土地収用ついては、ジャカルタ州知事時代に反対住民と対話を繰り返して土地収 用問題を克服し、環状道路の整備に成功した経緯を引き合いに出して、大統領自身が積極的に関与して、

事態の打開を図る姿勢を示した。具体的には、外国投資に関する手続きが 1 カ所で済むワンストップサ ービスセンターや基本的なビジネスの許認可は 3 日間で判断する等のインフラ整備と投資環境改善策で ある。

2014 年 11 月、大統領は、早々に無駄の多い燃料補助金の削減を迅速に断行するなど、インドネシア の長年の課題といえるインフラ整備と投資環境改善の実現に向けて始動している。さらに、経常赤字を 構造的に解消するには、輸出指向の労働集約型製造業の育成にも取り組む必要がある。

一方、金融市場では、銀行の流動性逼迫とそれに起因する金利上昇が懸念材料や国内金融資産蓄積が 大きな課題である。また、経済活動の地域的偏在も供給サイドの大きなボトルネックである。これは、

生産・雇用・消費が国土面積の 7%にすぎないジャワ島、かつ、西部地域(ジャカルタ周辺部)だけに 集中していることである。投資家にとっては、ジャワ島は効率的な市場を構成していると言えるが、イ ンドネシアという広い国土全体への産業や雇用の拡大が政治的にも大きな課題である。

b) 為替リスク

インドネシアは、2000 年前後は、政治社会情勢が不安定化し、ルピアの為替相場は、ローラーコース ター状態となって大幅に変動した。しかし、ユドヨノ政権が発足した 2004 年以降は、社会情勢の安定 と投資家の信認回復を背景に、ルピア相場は安定している。2009 年のリーマンショックでもルピア為替 相場は一時的に下落したが、年末にはリーマンショック前の水準に回復した。このようにルピアの為替 相場は、リーマンショック直後を除けば最近 10 年間安定的に推移してきた。これは、アジア諸国は輸

6 米国 News Week 誌は、「ポスト中国」インドネシア経済の病魔と称して、次のようなコラムを掲載。

「97 年のアジア通貨危機で経済成長が止まり、インドネシア経済は補助金に依存してきたがコストがかさむ一方だ。2014 年第1四半期の成長率は 5.2%と4年振りの低い伸び。財政赤字のGDP比率は 3%に近づき、なかでも燃料補助金は現 在、政府支出の 16%近くを占めている。高い補助金は財政を圧迫し、インフラ整備などにしわ寄せがいく。国際機関は 燃料価格を引き上げてインフラ投資を増やすよう迫っているが、インドネシアでは1億人以上(総人口 2.5 億人)が1日 2ドル未満で生活している。補助金抑制のための燃料価格引き上げはこれまでも抗議デモや暴動を呼び、長期独裁政権を

出依存度の成長モデルであるがインドネシアは内需主導であること、前ユドヨノ政権下での政治・経済 情勢が安定したこと、石炭やパームオイルなどの輸出が急増し経常黒字が増加したためである。

ルピアは、ドルや円に対して価格変動が高く為替リスクが高いと言えるが、インドネシアの GDP の 7 割近くが内需に依存し、ASEAN 諸国に比べて欧米の景気変動の影響は比較的少ない。しかしながら、イ ンドネシアから海外への輸出入を考えると、ドルに対してはこの 4 年間で 35%安となり、ドル建ての輸 出条件は好転しているが、ドル建ての借入がある企業が大きな為替差損を被っており注意が必要である。

また、最近になって、2014 年 12 月、ルピアはアジア通貨危機以来 16 年振りの安値を示し、2014 年 4 月に付けた 2014 年最高値から約 11%下落し、原料を輸入に頼る日系製造企業はコスト増への対応を迫 られる。これは世界的なドル高に伴うもので、現地のエコノミズトは、13,000~15,000 Rp 台まで下が る可能性もあるとしながらも、米国の景気回復はインドネシアの輸出産業にとってはプラスになると楽 観的な見方もある。

c) 自然災害

インドネシアは日本と同様に環太平洋火山帯の上に位置しているため、地震、津波、火山噴火、洪水 などの自然災害が数多く発生しやすい地域である。JICA 報告書によれば、1999 年から 2008 年までの過 去 10 年間だけで、死者約 18 万人、被災者約 840 万人、経済被害約 100 億米ドルという甚大な被害が発 生している。インドネシアは、マグニチュード 4 以上の地震が年平均 400 回以上発生する地震多発地域 となっている。また、インドネシアには 129 の活火山が存在し、そのうちムラピ山(ジャワ島中央部)

をはじめとする 17 の火山が活発な活動をしている。更に、地震や火山噴火に伴う津波も頻繁に発生し、

1 年に 1 度の頻度でマグニチュード 7~8 クラスの地震が発生し、最近では 2012 年 4 月に北スマトラ西 方沖でマグニチュード 8.6 の地震が発生した。2004 年には同地域で発生したスマトラ沖大地震により、

死者・行方不明者約 30 万人という甚大な被害をもたらした。

また、インドネシアの一部の地域では、アジア・モンスーン地域に属し、雨期に非常に強い雨が降る ため、毎年、数多くの洪水、浸水被害が発生している。最近では 2013 年 1 月に発生した洪水により首 都ジャカルタをはじめ、複数の当局が非常事態宣言を発令する事態にまで発展した。7

d) 政策の変動

過去、石油輸出や石油関連産業で国の経済をけん引してきたインドネシアであるが、近年は製造業や サービス業を発展させ経済成長を維持している。インドネシア政府は、ジャワ、北スマトラ、スラウエ シ等に電機、自動車部品、繊維、農水産加工品などの製造業クラスター構想を掲げるなど積極的な産業 育成政策を打ち出している。前ユドヨノ大統領の経済施策は、積極的な自由貿易の推進と外国企業の誘 致であった。例えば、日本とは EPA(経済連携協定)を締結し、中国とは中国-ASEAN の FTA(自由貿 易協定)の締結を実現した。また、AFTA(ASEAN 自由貿易地域)では予定通りの域内関税削減を達成し ている。こうした経営環境の改善により、インドネシアで生産拠点設立や拠点拡張に乗り出す日系企業 が増加している。

2014 年 10 月に新大統領に就任したジョコウィ氏の登場は、過去のエリート主義が残るインドネシア 政治において革新的な出来事であった。彼の選挙活動を支えたのは、総勢 100 万人以上のボランティア による草の根の運動だった。ただ、新大統領の出身母体の闘争民主党は国会議席の2割弱を占めるにと

7 出典:JICA 各分野での日本のインドネシアに対する経済協力の紹介(防災分野)

どまっており、国会運営に苦戦するとの見方も強く、財政改革の先行きは予断を許さない情勢である。

しかし、インドネシアの課題である再分配システムの確立のためには、ジョコウィが大統領として成功 することが重要である。大統領の改革に対する既得権層の反発、道路や港湾をはじめとするインフラの 整備など課題は山積みであるが、新政権がインドネシアの政治文化に新たな一石を投じることは間違い ない。

e) 暴動等の反社会的行動

インドネシアでは、大規模な自爆テロ事件が 2002 年 10 月のバリ島爆弾テロ事件(外国人のディスコ 客を含む 202 名が死亡)が発生した後は大きな事件は発生していなかったが、2009 年 7 月、ジャカルタ 市内のホテル 2 箇所において同時爆弾テロが発生し、外国人 6 名を含む 9 名が死亡、多数の負傷者があ った。最近のインドネシアでのテロ発生は、インドネシア軍や警察の介入で大規模テロによる被害報告 はないが、小・中規模のデモやテロは発生しリスクは継続的に存在しテロへの警戒は必要である。

インドネシアを拠点とした国際テロ組織、ジャマ・イスラミア(Jemash Islamiya)は、9・11 同時多 発テロ組織のアル・カーイダ(Al Qacda)とのつながりが指摘され、現在もテロの脅威は変わらず存在 している。また、インドネシアでは、アチェ州やパプア州での分離独立運動が長年にわたってインドネ シアからの独立を目指す武装集団による暴動やテロの発生が懸念され、国際的なテロ組織の脅威だけで なく国内での独立運動のテロ脅威もある。

暴動については、1998 年のジャカルタの中華街が破壊されたジャカルタ暴動は、インドネシア経済が 依然として華僑資本に支配されていることを示す出来事であった。インドネシアは世界でも華人が最多 の国で、政府や社会の差別は次第に薄れつつあるとはいえるが、今なお脅威に直面しているのは間違い ない。しかしながら、以前は禁止されていた中国語のメディアが堂々と登場するようになり、2012 年秋 の選挙では首都ジャカルタの副知事に中国系インドネシア人が当選した。また、大臣にも中国系インド ネシア人が登用されるようになり、民主化は着実に根付いてきている。

最近では、2012 年に原油価格の高騰で燃料補助金が財政を圧迫し、政府は燃料価格の 33%引き上げ を発表して、8 万人以上が参加する暴力的なデモが起きたが、一日 500 Rp で雇用されたデモ参加者も多 く市民生活に大きな影響はない。8

ドキュメント内 報告書(和文) (ページ 73-79)