182
5.1 はじめに 183
5.2 人身取引が有する健康の側面 185
5.3 ケアの提供における倫理および安全上の原則 188
5.4 人身取引被害者の視点を理解する:ケアに影響を及ぼす諸問題 190
5.5 特別な配慮 195
5.5.1 文化的対応能力 195
5.5.2 トラウマと記憶 197
5.5.3 性別とジェンダー 198
5.5.4 差別と伝統的な女性の役割 202
5.5.5 セクシュアル・ヘルスとリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖の健康) 203
5.5.6 性的マイノリティ 205
5.5.7 人身取引被害を受けた女性の子ども 206
5.6 子どもと青少年 206
5.6.1 人身取引の被害を受けた子どもと青少年のケア 207
5.6.2 子どもの発育・発達と虐待の影響 210
5.6.3 子どもに優しい環境 213
5.7 人身取引被害者のケアにおける精神保健面の配慮 213
5.7.1 精神病的状態 213
5.7.2 人身取引の文脈における心理的抑圧および虐待 214
5.7.3 精神作用物質の濫用および依存 215
5.7.4 支援団体のケアを受けている際に共通して見られるストレス源 215
5.8 HIV と AIDS 218
5.9 人身取引被害者に対する健康面での支援の医事法的側面 223
5.10 医療従事者と患者の関係 224
5.11 人身取引対策プロジェクトの構成要素としての医療事業の立案 226
5.12 人身取引の場面で生じやすい臨床病態のケース・マネジメント指針 227
5.12.1 性感染症(STI) 228
5.12.2 精神保健 229
5.12.3 衛生 235
5.12.4 結核 236
5.12.5 職業保健 236
5.12.6 ワクチンで予防可能な疾病 237
5.12.7 栄養不良、損傷、歯の状態の悪化、慢性障害 237
5.13 人身取引被害者のための医療プラン 238
5.14 支援プログラムの完了に向けた医療プラン 241
5.15 スタッフと医療 245
5.15.1 ストレス 245
5.15.2 スタッフ支援とストレス軽減のための措置 248
183
5.15.3 バーンアウトの認知と支援 250
5.15.4 血液媒介性病原体に感染する職業的リスク 251
5.15.5 スタッフ研修 251
5.16 医療サービスを提供する提携団体 252
5.17 医療情報システム・マネジメント 255
5.17.1 医療データとデータ・マネジメント 256
5.17.2 ケースファイル情報の安全確保および秘密保持に関する一般的指針 257
5.17.3 ケア提供団体間での情報の共有 258
5.17.4 医療記録にアクセスする人身取引被害者の権利 259
資料 1:ブダペスト宣言 266
資料 2:欧米で共通して用いられている心理支援療法の解説 269
5.1 はじめに
最近まで、人身取引との闘いにおける支援においてはおおむね、情報交換、刑 事上・司法上の協力、そして帰還・社会復帰のための支援に焦点が当てられて きた。しかしここ数年というもの、多くの議定書
1、宣言
2、調査を通じ、人身 取引が引き起こす深刻な健康上の懸念にも注意が喚起されている。これらの文 書で強調されているのは、医療ケアの最低基準を策定することの必要性ととも に、人身取引被害者の健康上のニーズおよび人身取引の影響を受けている地域 の公衆衛生上のニーズに具体的に則した専門的支援の必要性である。
人身取引被害者は、人身取引の目的が労働搾取であれ、性的搾取であれ、搾取 の形態にかかわらず、幅広い健康上のリスクにさらされている。拘禁された状 況で、身体的暴力、性的搾取、心理的虐待、劣悪な生活条件を経験するほか、
心身の健康やリプロダクティブ・ヘルスに長期的影響を及ぼしかねない疾病に 感染するおそれがある
3。
ブダペスト宣言(資料 1)では、これらの健康面での影響が認められ、「人身 取引が及ぼす健康上および公衆衛生上の懸念事項に更なる配慮をすること」と 言及されている。具体的には、人身取引被害者に対し、 「包括的かつ持続的な、
ジェンダー、年齢および文化的背景にふさわしい医療支援」が、「訓練を受け
184
た専門家によって、安全で配慮に満ちた環境において」提供されるべきことを 勧告している。そのため、IOMは精神保健面での対応に関する最低基準を策定 してきた
4。
健康を享受する権利
世界保健機関(WHO)によれば、 「健康とは単に病気でない、虚弱でないとい うのみならず、身体的、精神的そして社会的に完全に良好な状態を指す」。ま た、 「到達可能な最高水準の健康を享受することは、人種、宗教、政治的信念、
経済的または社会的状態により区別されることなくすべての人間が有する基本 的権利のひとつである」
5。
関連する人権文書においても、健康と人権との関係、また人身取引被害者が利 用可能な医療支援を受ける権利が強調されている
6,7,8,9。より具体的には、人身 取引議定書(2000年)において、人身取引が個人の健康に及ぼす影響が多面 的(すなわち身体的・心理的・社会的)なものであることが認められ、これに したがい、医療においても職域横断的な支援のアプローチがとられるよう提案 されている。
人身取引被害者は、健康を享受する権利を有する。適切な政策およびその実践 は、個人の権利を全面的に尊重し、差別を排すべきであり、しかるべき国際条 約その他の文書
10に掲げられた諸原則を反映するものでなければならない。
本章の概要
本章では、人身取引被害者を対象とした医療支援の提供に関する指針を示す。
ここで提供する情報は、標準的プロトコール(治療実施計画)、既存の調査研 究支援団体の実務内容、関連分野(移住者・難民の健康、女性に対する暴力、
児童虐待等)における医療介入方策に基づいたものである。
他章の内容と合わせて、参照してほしい。
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