第 4 章 :移動事象を表す複合動詞の意味制約
4 V2 主要部である移動事象を表す複合動詞の表示モデルと意味制約
4.4 V2 が移動様態動詞である場合
最後に、V2が移動様態動詞である場合の複合動詞における表示モデルとその意味制 約について考える。V2が移動様態動詞である場合も、主体移動事象と主体・客体移動 事象の二種類に分かれる。まず、主体移動事象の表示モデルについて、例文(24)を もとに考えていく。
(24) 彼は旧友を尋ね歩いた。
× V2「歩く」の事象的・語彙的意味
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V-[xi MOVE<MANNER >[Path y]]
V1「尋ねる」の語彙的意味
複合動詞「尋ね歩く」の主要部はV2である。これは「彼が歩く」という例があるよ うに、複合動詞全体が表す移動は、V1ではなく、V2によって実現されているからであ る。V2 が主要部であることから、「歩く」の有する事象的意味と語彙的意味が移動様 態事象の事象構造V-[ ]に代入される。これによって、複合動詞の項である「彼」は、
V2 から受け継がれる。また、「歩く」の語彙的意味としては、手足の動きを描写する 様態性を持つほか、「町のあちらこちらを歩く」があるように、移動事象の中間経路を 規定することが可能である。(24)の場合、「歩く」における「あちらこちらを歩く」
という語彙的意味が中段の事象構造におけるPathを規定することになる。一方、手足 の動きという様態の意味は上段の事象構造に代入されない。これは、手足の動きとい う様態成分が仮に中段のMANNERに代入された場合、後に述べるが、V1「尋ねる」の補 充先に対し、意味的な整合性が保つことができなくなり、移動様態の移動事象として 形成不可能となるためである。
(24)の下段部分では、V1「尋ねる」の語彙的意味が上段の事象構造における適切 な空所位置に代入されることを表す。まず、「旧友を尋ねる」があるように、V1 は複 合動詞の項を添加する。ただし、注意されたいのは、ここでのV1「尋ねる」が特殊な 意味を持つ。たとえば、「*(一か所に集めた)旧友たちを訪ね歩く」が言えないこと から分かるように、V1は〈あちらこちらにいる旧友を尋ねる〉という意味を表す必要 がある。そして、V1によって添加された「あちらこちらにいる旧友」という項は、複 合動詞が意味する中間経路として認められる。このことから、V1は中段の移動様態事 象におけるMANNER部分を補充するほか、複合動詞が意味する〈あちらこちらを歩く〉
のPathという中間経路も規定する。
さらに、ここで「尋ねる」が持つ語彙的意味が移動様態の事象構造のMANNER部分に 代入されることになると、V2「歩く」が持つ手足の動きという様態の意味と整合性を 保つことができなくなる。つまり、「旧友を尋ねる」の様態性と「手足の動く様」は関 係のない二つの異なる事象であり、同時に存在することができない。ここでは、移動 事象の成立において、V1による補充がV2「歩く」による手足の動きというMANNERへ の補充を排除しているように働いていると考えられる15。このような形成の仕方によっ て、複合動詞全体が、彼があちらこちらに行って、旧友を訪ねるというひとまとまり の移動様態事象が完成される16。ただし、(24)とは別に、V1 はV2 の様態を補充する
15 複合動詞の意味形成において、このような構成要素による語彙的意味の配分は、一種の
競合現象と理解される。V2は主要部であり、V1はV2の修飾成分と考えられる。複合動詞 の形成において、修飾成分のV1の補充先は限定されている。一方、主要部のV2の補充先 には選択性がある。複合動詞の意味形成においては、補充先が限定されたV1の意味が優先 される。これによって、V2「歩く」の事象構造には一般的に想起されやすい手足の様態性 という意味ではない「あちらこちらを歩く」という語彙的意味が添加されると考える。
16 陳・松本(2018:204)は、「(新宿の店を)飲み歩く」という例をあげ、複合動詞の形
69 こともある。これは次の(25)で示す17。
(25) ウサギが飛び跳ねた。
V2「跳ねる」の事象的・語彙的意味
V-[xi MOVE<MANNER>[Path ]]
V1「飛ぶ」の語彙的意味
(25)のV1「飛ぶ」は〈地面・床などをけり、からだが空中にあがるようにする〉
を表しており、V2「跳ねる」は〈勢いよく飛び上がる〉を表す。両者の様態性に整合 性がある。このことから、V1とV2はともに中段の事象構造におけるMANNER の部分に 語彙的意味を添加することが可能である。この現象は(24)と異なる。
さらに、V2が移動様態動詞の中で、少数であるが、主体移動・客体移動の事象も観 察されている。これは例文をもとに次の(26)で示す。
(26) 彼はノートパソコンを持ち歩いている。
V2「歩く」の事象的・語彙的意味
V-[x MOVE<MANNER WITH y>[Path ]]
V1「持つ」の語彙的意味
(26)は(24)と同様の事象構造を有するが、(26)では主体の「彼」が移動すると 同時に、客体と考えられる「パソコン」も移動する。この場合、MOVEの下付きになっ
ているMANNER WITH yにより、客体である「パソコン」の移動が表される。主体移動・
客体移動の事象は、そのほかに「少女はマッチを売り歩く」が例として挙げられる。
以上、V2が移動様態動詞の表示モデルを見てきた。ここで、複合動詞の表示モデル から、形成可能なものとそうでないものがある理由について考える。たとえば、複合 動詞「~飛ぶ」には「群れ飛ぶ」「乱れ飛ぶ」などがあげられる。そのいずれも、V1 がV2の様態を補充している。一方、「*走り飛ぶ」や「*歩き飛ぶ」のような複合動詞 は形成されない。これは、V1による様態補充がV2の表す移動様態の事象と相いれず、
複合動詞として形成されないためであると思われる。
最後に、事象構造の観点から、位置変化の移動事象を表す複合動詞の意味関係につ いて考える。V2が移動様態動詞の場合、複合動詞全体は「様態型」、「並列型」及び「付 帯状況型」と解釈される。移動様態事象は、ある移動物が何かしらの様態で移動する という事象的な意味を持つ。多くの場合では、V1 が V2 の様態を補充するという形で 複合動詞が形成される。ただし、補充の仕方によって、複合動詞の意味関係も変わっ てくる。たとえば、(24)のような補充の仕方であれば、V1とV2の意味関係が「様態 成において、V1に関わる「飲食の場所」というフレーム的な意味が、V2の経路と同定する ことから、経路項の性質が変容すると指摘している。確かに「*新宿の店を歩く」は非文で あるが、「新宿の店を一軒一軒歩く」の場合になると、その容認性が高まる。本論では、「歩 く」が持つ「新宿の店を一軒一軒歩く」という意味が移動様態の事象構造に語彙的意味を 添加し、それに「飲む」の様態性が移動事象のMANNER部分を指定することで、「飲み歩く」
の意味が生まれると考える。
17(25)は共主要部の複合動詞である。
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型」と解釈される。また、(25)であれば、「並列型」、(26)であれ、「付帯状況型」と 解釈されうる。