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第 4 章 :移動事象を表す複合動詞の意味制約

6 まとめ

以上、本章では、移動事象を表す複合動詞の特徴と表示モデル、及びその意味制約 を考えた。本章での内容を以下の通りにまとめる。

まず、複合動詞の表示モデルは移動事象の事象構造に基づいて表されている。V1と V2が複合動詞全体の有する移動事象に対し、事象的意味と語彙的意味をそれぞれ添加 することで複合動詞が形成される。この際に、項の同定と添加という働き以外に、事 象構造の空所位置に代入されるV1とV2の意味要素の整合性も重要になってくる。こ のような語形成モデルは、複合動詞全体の移動事象の成立に対し、V1 と V2 がどのよ うに整合的に働くのかという複合動詞が持つ全体性の観点に基づいている。そのため、

本論の表示モデルは、影山(2002、2013)で提案しているLCS2をベースにLCS1が代 入されるという考え方と異なる。

続いて、形成可能と形成不可能な複合動詞があるという問題は、移動事象のタイプ ごとに、V1 と V2 の有する語彙的意味が適切な移動事象を形成すことができるかどう かによると考える。ただし、たとえば、様々な国を回りながら、世に出ていない珍し いチョコレートを買うという仕事があるとする。このような移動事象を表現するため に、「#世界中でチョコレートを買い歩く」における「#買い歩く」のような複合動詞 があってもいいが、実際には「#買い歩く」という複合動詞は実際存在しない。これ は、石井(2007b:53)が述べたように、このような移動事象がわれわれの現実生活に おいて、まだ「社会化」されていないからである。そのため、仮に一時的に言語化し たとしても、定着はしにくいと考えられる。また、たとえば、「帰り着く」や「辿り着 く」という複合動詞があっても、類似する意味を持つV1を有する複合動詞の「#戻り

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着く」は見られない。このようなものは陳・松本(2018:138)が述べたように、ひと まとまりの複合動詞としてレキシコンに登録されていないからだと考える。

さらに、本章では、複合動詞におけるV1とV2の意味関係の問題が異なる事象構造 の在り方によって生じた解釈の結果であることを述べた。これは、たとえば、使役移 動の移動事象では、V1 と V2 の意味関係が「様態型」と解釈されず、移動様態の移動 事象では、V1 と V2 の意味関係が「手段型」と解釈されることがないということから 言えることである。

最後に、本章で述べた様々な移動事象に接頭辞化したもの、音便化したもの、及び 一語化したものを加え、石井(2007a)による分類とこれまで指摘されてきた複合動詞 の意味関係(影山1993、由本2005など)との対応を次の表3 に示す。表 3では、単 一動詞に見られない複雑な移動事象の存在と移動事象を表す複合動詞間の関係性も確 認される。

表3:移動事象を表す複合動詞の分類

表3では、移動事象を表す複合動詞が、タイプごとに独立して存在しているのでは なく、むしろ連続的であるということが分かる。これは、表3の太枠が示したように、

V2 が主要部である複合動詞の中で、主体移動を主事象とする移動事象の中に客体移 動もあるということである。逆に、客体移動を主事象とする移動事象の中で、主体移 動も観察される。また、V1 主要部である複合動詞の中で、活動動詞が主体・客体移 動のいずれにも現れていることから、移動事象間の連続性が見られる。

第2部の第5章と第 6章では、本章で提案した複合動詞の表示モデルをもとに、複 合動詞の生産性という問題について考えていく。これは、表1 を見て分かるように、

複合動詞の生産性は、動詞タイプによって異なり、必ずしも一致しているわけではな いからである。V2が使役移動動詞の場合、複合動詞が最も生産的であるが、移動様態 動詞の複合動詞が最も非生産的である。また、V2が有方向移動動詞の場合、単一動詞 としての移動様態動詞の数は少ないにもかかわらず、複合動詞としては多くの異なり 語数を有する。このような複合動詞の生産性に関わる問題を説明するために、事象構

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造における移動を表す意味述語、すなわち、Talmy が指摘している「経路」、「様態」、

「参照物」といった意味要素の重要性を考えてみたい。

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ドキュメント内 移動事象を表す語彙的複合動詞の語形成 (ページ 80-83)